P9 すれ違い
「だああああああああぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!!!」
全力疾走というものはなんというか、学生といえば全力疾走みたいな。
そんなイメージがあるのは俺だけだろうか。
皆さんこんにちは、リーオだ。
今回はリシル視点じゃなく、俺視点で進めていく!
文句はあるか? 無いな。
たとえあっても受け付けない!
「じゃ、ねーーーだろおおおおおぉぉぉおぉ!!!」
今の状況を説明するとだな・・・
走ってます!
学園モノには付き物のアレ、寝坊だ!
時間割の準備もして無いし、朝メシもくってない!
「ぬああああああああぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」
ドゴォ!!
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
あん?
なんかぶつかったけど、まぁいいや。
ぬあああああ! 急げえええぇぇぇ!!
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「リシルが遅刻!?」
朝のHRが終わるなり近づいてきたヴァーリの発言に、俺は驚愕の声をあげた。
「え、ええ。家からの連絡は来ていないので遅れてくるだろうとエイル先生が言っていました」
「リシルが遅刻・・・・・・ねぇ・・・」
リシルと言えば真面目の代名詞が付くいい子ちゃんヤローだ。
そのリシルが・・・・・・
ちなみに俺はスライディングで滑り込み、ギリ遅刻だった。
こういうとき・・・なんだ、なんて言うんだろうか。
「そういやヴァーリ、お前なんで学校に入学したんだよ。前から気になってたんだが」
俺の質問にヴァーリは困った顔で頭をかいた。
「えっと・・・・・・まず、天界では地上の民は凶暴で、危険だと教えられていたんです」
「ふんふん」
「でも僕は、地上の民と接してみたくて、地上に降りた。皆やさしくて、皆笑顔で、なにより楽しそうだったんです。だから僕は地上のことを知りたかった。そこに、あなたちが現れたんです。僕は、この地上での生活をもっと充実したものに、楽しいものにしていきたいんですよ」
「な、なるほど?」
なんだか、頭が混乱する。
だって、俺にとって周りの人は皆やさしいモンで、それが不思議だと思ったことはない。
・・・・・・ま、いいや
「リーオ! ヴァーリくん! 1時間目理科室だよ!」
「あ、はい!」
「わかったよフィーネ、すぐ行く!」
そういや今日の理科は電解の実験だったっけか。
リシル楽しみにしてたよな・・・
「リーオさん、行きましょう」
「ああ、わかった」
理科の教科書とノートを求めて鞄をあさる俺は、しばらくして「げ」と呟いた。
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包帯に身を包み、ミイラのような出で立ちのリシルが教室のドアを開けたのは、3時間目の数学が始まってまもなくのことだった。
リシルはぶすっとした表情で数学を担当するゴーリキーのヴラウ先生におそらく遅刻の理由等をごにょごにょと話し、俺の脇を通り抜けて自分の席に着いた。
クラス中の全員がリシルの格好に呆然とする中、ヴラウ先生は再開するぞーと一言。
「このように多角形の外角の和は必ず360度になり・・・・・・」
数学の授業と、その次の社会の授業。
俺は背中に殺気のこもった視線をずっと感じていた。
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「遅刻の理由?」
「そうだよ〜、リシルくんが遅刻なんてめずらしいよ〜?」
昼休み。
ポカポカと暖かい日差しが差し込み、さらに昼メシ後ということで満腹なため睡魔の活動が活発な時間帯だ。
机に突っ伏してじっとしていた俺は、その体制のまま後ろのリシルとフィーネの対話に耳を澄ます。
「今朝は寝坊しちまったんだ。昨晩はちょっと寝るの遅くてな。んで朝全力で疾走してたら曲がり角でとある奴に激突。そのまま数メートル吹っ飛んだ。んで病院行ってから来たんで遅れた」
「とある奴って?」
「そこで寝たふりしてるやつ」
ぎくぅッ!!
俺が機械的にギギギ・・・と振り向くと、リシルの双眸は俺をまっすぐ射抜くようにこっちに向いていた。
一応、まさか・・・とは思っていた。
朝俺が誰かに衝突して、リシルが包帯ぐるぐる巻きで登校してきて。
全部パズルのようにカチリとはまってしまうのだ。
「だ、大丈夫かー? リシルー・・・・・・」
「だいじょばねぇよ、お前のせいで遅刻アンドこんな目にあっちまったじゃねぇか」
「あ・・・えと・・・・・・あ、あはは・・・」
ケンカ腰というか、あきらかに怒っているリシルの口調に、俺はどぎまぎとした態度しか取れない。
「あははじゃねぇよ、笑いごとで済むと思ってんのか? あ?」
「え・・・っとぉ・・・」
まずい、これはひじょーにまずい。
ガチで怒ってる、早々に謝っとかねえと・・・・・・
「大体よ、おめーは周りが見えてないただの単純バカなんだよ。自覚してんのか?」
ピクッ
「俺たちがいろいろやってる間にもグースカ寝息を立てやがってさ、うるせぇんだよまったく」
・・・・・・ブッツン
「おめーはホントにいつも・・・」
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!」
乱暴に立ち上がり、俺は力任せに叫んだ。
椅子が反動で倒れる。
「黙れよこのトカゲもどきがぁ!! 黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!! 俺がぶつかったのは謝る! それでもお前は言いすぎなんだよ!!」
俺は息を荒げ、澄ました顔で俺を見つめるリシルを睨む。
これだけ大声で叫んでも、モヤモヤした気持ちは一向に晴れない。
リシルは表情一つ変えずにゆっくりと立ち上がった。
「テメー・・・・・・ざけんなよ・・・」
睨み合う。
昔から怒った時のリシルの表情は恐ろしいものだったが、俺も負けてはいない。
お互い一歩も下がらずにピクリとも動かない状態が続いたが、やがてリシルは一つ舌打ちを残して教室をフラフラと出て行った。
「少し、言い過ぎじゃない?」
いつもののんびりとした口調ではなく、まじめな口調でティアルは俺にそう言った。
確かにそうだったのかもしれない。
けど、あいつだって・・・・・・
「知らねぇよ」
俺は結局素直になれないままそう言って椅子を戻し、再び机に突っ伏す。
ティアルの心配そうな眼差しも、俺に届くことはなかった。
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ケンカ・・・
友達が少なかった私は絶交を恐れて、ケンカはあまりしませんでしたな。
ホッホッホ、今回の話はいかがだったでしょうか。
まぁお察しの通り、次回はこの話の続きになります。
幼馴染であり、大親友である2人。
果たして絆を再びつなぎなおすことはできるのでしょうか・・・・・・