第六話 行き倒れ
「まず、ギルドっていうのが分からないんだけど…」
フィルトとシアルは、フィルトの家から一キロ程離れた道を歩いている
このまま歩けば、市場に辿り着く
フィルトは先ほどの興奮状態から落ち着きを取り戻していた
「そういえば、探検隊の事は話してもギルドの事は昨日話してなかったな」
ギルドは、いわば探検隊をまとめる組織だ。大抵は実力のある探検家が経営する
ギルドを経営する探検家に弟子入りする事も、ギルドに別の探検家が滞在するのも可能
そうしたギルドを統括するのが『世界探検隊連盟』
『世界探検隊連盟』に、探検隊として登録しない限りは探検隊として認識されない。そのためにギルドの恩恵を受けられない。だから、探検
探検隊になろうとすれば、一度は手近なギルドか連盟本部に顔を出して必ず登録申請をしなければならないのだ
また、自分の探検隊の人数変更、チーム名変更をするときも登録申請をし直さなければならない。これはフリーでやる場合もギルドの下でやる場合も同じだ
その為にフィルトとシアルは町へと向かっていた
「ここで一番近いのは『ドラゴン・ナイツ』っていうギルドなんだが…」
きょろきょろと辺りを見回し、丘の上の木で出来た建物を見つける
周りの市場の古びた露店のテントとは違い、かなり真新しかった
「あった…早速行こうぜ」
「うん」
丘に向かって一歩踏み出した……………………………と同時に
「………………ん?」
フィルトの足に、何か暖かく柔らかい物を踏んだ感触が来た
フィルトとシアルはゆっくりと『踏んだ何か』に目を落とす
汚い物でも踏んでしまったのか
はたまたそれは幸運か…
だがどっちでもなかった
「う〜…………」
大きな大きなボーマンダの蒼い頭を思いっきり踏みつけていた
「「…………………」」
何でこんなところに?
ここ道のど真ん中だぞ…
そもそも何で行き倒れてるんだ…
そんな疑問をよそにボーマンダが声を掛けて来た
「うう…どなたか存じ上げませんが、助けてください…」
今にも消えてなくなってしまいそうな声が、ヨロヨロの倒れ伏したボーマンダの口から聞こえて来た
「だ…大丈夫?」
よく言えば優しい。悪く言えばお人好しなのか、シアルが声を掛ける
一方フィルトは『めんどくさいことになったな』というような顔で頭を掻いていた
「…お腹…お腹すいた…」
ボーマンダのお腹からは腹の虫が勢いよく鳴いていた
殆ど瀕死状態だ
「ええっ…と」
この町の地理を全く知らないシアルは助けを求めてフィルトを見た
フィルトはやれやれというようにボーマンダを担ぐ
「ふぐっ…くそっ、おもてえ…」
身体も大きく、かなりの体重のボーマンダを担ぎあげるのは至難の業だ
「あ…ありがとうございますぅ〜…」
「…大丈夫かな、このポケモン…」
このやりとりを見て、シアルはそう呟いた
………………………近くの食堂
「ぷっふぁ〜!!食った食った!」
小さな食堂の仲に居るのは、フィルトとシアル、そして行き倒れていたボーマンダ
ボーマンダは有り得ない速度でフィルトの食費を食い潰していた
現に、フィルト達の前のテーブルには大量の皿や椀が乗っていた
「おい…こんなに食うなんて聞いてねえぞ…」
「…うう…」
フィルトは呆れと怒りが半々、シアルは自分が招いてしまったのかと俯いている始末
「いや〜、本当に助かったよ!ありがとう!」
さっきまでの瀕死状態はどこへやら、一気に復活している
復活の種も食べていないのに
「…もう頼むなよ?家計費の半分くらい使ってるんだからな…」
フィルトがジロジロとボーマンダを睨む
そんなボーマンダは首を振って答えた
「いやいやいやいや!こんなによくしてもらったのにまだ頼むなんてありえないよ!」
ボーマンダは笑い、コップに入った水を飲み干した
フィルトは溜め息をつき、席を立ちあがった
「それじゃ…先急いでるんで…」
フィルトは勘定を済ませようと立ち上がる
が、ボーマンダにいきなり引き止められた
「ちょ…ちょっと待って!!」
何なんだよ…とフィルトはボーマンダに顔を向けた
さっさと登録を済ませてしまいたいのだが
「あのさ…お願い聞いてくれないかな?」
ボーマンダは神妙な顔になって呟いた
「…え?」
シアルはボーマンダの顔を見て真剣な顔になり、フィルトは『またか』とうんざりした表情に変わった
「なんなんだ…?」
「…こっから、ちょっと離れたところに、小高い山があるだろ?そこに、大切な物を落としてきてしまったんだ。…とってきてくれないかなあ?」
しばしの沈黙が漂い、やがてシアルが口を開いた
「いいですよ」
「ホント!?」
ボーマンダはシアルの回答に目を輝かせた
「ありがとう!『とっても大切な物』なんだ!山の中は一本道だし、ある場所はすぐに分かると思うよ!」
「おい…ちょっと待て」
意気揚々とするボーマンダとあっさり引き受けたシアルに対してフィルトは口を挟む
こめかみに心なしか血管が浮かんでいる
「何でそんな簡単に引き受けてんだよ…俺にちょっとは意見を聞くとかだな…」
「でも…困ってるし見過ごせないよ!」
口をとがらせるシアル
「いや…でもなあ…!」
フィルトとシアルはボーマンダを差し置いてあーだこーだと言い合いになってしまう
そんな二匹を上目に見つつ、ボーマンダは話を切り出した
「…引き受けてくれないんですか?」
ボーマンダの瞳がウルッと来ていた
フィルトはギクリと硬直する
「いいんです…どうせこんなによくしてもらいましたし…」
「フィル!」
シアルがフィルトに対して怒りの視線を向けた
そんな目でじっと見続けられたフィルトは遂に堪え兼ね、一声残して食堂を立ち去った
「あ〜…もう!分かったよ!行くよ!さっさと行ってさっさと持って帰ろう!行くぞシア!」
「うん!」
フィルトとシアルは再び駆け出し、ボーマンダの言う近くの山へと走り出す
「おたっしゃで〜……………」
ボーマンダは食堂に残り、二ヤリと笑ってフィルトとシアルを見送った
彼はゆっくりと食堂の壁にもたれ、呟いた
「さぁーてと…」
まだ自分の腹が充分に満たされていない事に気付き、大声で店内で叫ぶ
「店長!もう三品追加して!!」
たった今、もう注文しない事を約束したばかりの事だった