第一章 始まりの風が吹く
第五話 お誘い

「…くぁ…」


気持のいい朝に目が覚めた。久々に良い気分で起きれた


窓から差し込んでくる光のお陰か、眩しいが気分がいい

ベッドから起き上がり、大きく伸びをした


寝ぼけ眼で目を擦り、部屋の内部を見る………









…なんだこりゃ


ゴミだらけだった部屋がすっかり綺麗になっていた


夢じゃないかと目を再び擦る


「あ、おはよう!」


部屋の外からシアが現れた

氷タイプとは思えないほど暖かい笑みを浮かべて


「よ…よう」

恐る恐る声を掛け、ベッドから降りた


「朝御飯出来たんだけど、食べる?」


「あ…おう」

俺は頭を掻いて部屋の内部を見回した


「あ〜…あの…よく…ここまで綺麗になるもんだな…」


ホントに綺麗になっている

床に散乱していた本はちゃんと本棚に片付いてるし、ゴミも掃除されて塵一つ無し

文句なしといったところか


「うん。結構大変だったけど…」


確かに。あの凄まじい内部をここまで綺麗に掃除するのは苦行だったろう


そうこうしているうちに、俺の腹が鳴った

どうやら、腹の減りは我慢が出来ないようだ


「さ、行こう」


俺はシアを催促し、小さな食堂へと足を運んだ








台所まで歩いて十数秒とかかりはしないが、その間に俺は昨日の事を思い出していた

シアと出会った事、コマタナ達と戦った事………




俺について少し話した事



昨晩の夜、俺達はシアのロケットを取り戻してから家に戻り、夕飯を済ませてから少し話をした



詳しい不思議のダンジョンの事、俺が何故か波導が使えなくなっている事を



理由は俺にも分からない。そもそも子供の頃の記憶が曖昧だった。シアは少し困惑した表情を浮かべていたが、それでもよかった




俺は、子供の頃から波導が使えなくなっていた。さっきも言ったが、子供の頃の記憶が鮮明ではなく、生い立ちや両親の顔すら覚えちゃいない。その点ではシアと同じだ

努力と身体でそれを補い、今まで生きてきた

波導が使えない事になんの不便も感じていない


まぁ、本に出てくる俺と同じ種族の連中には憧れを抱いた事もあったが、考えないようにしている


かと言って気にしてないわけじゃない。コンプレックスみたいなもんだろうか

シアは黙って聞いてくれていた。親友であるムネハチ以外の町の住民には、変な顔をされた事もあった

その為か、黙って聞いてくれるというだけで嬉しかった


ありがとうと言いたかったが、何だか恥ずかしくて言う事が出来なかった


逃げてるのかもしれない。ありがとうと言う事だけに


そういえば、逃げっぱなしだったな。俺の人生……………………







「どうしたの?」


「え?」


不思議そうなシアの声で我に返った


「いや…何でもない。大丈夫」

「ほんとに?何か深刻そうな顔してたけど」


心配そうな顔で俺を見て来る。一人で考え込んでしまって、周りを忘れてしまう

悪い癖だ


「ああ。本当に大丈夫だよ…それより、早く食べよう」


俺の声で二匹とも席に着き、食事を始める


十数分ほど会話が続き、朝飯も終わりに近づいたころ、俺は話を切り出した


「なあ…お前、これからどうするんだ?」


生きていくのに最大の問題点。シアは身寄りも家も記憶すらもないのだ


「う…うーん…どうしよう…」


シアは身体の動きを止めて悩み始めた

そんな彼女に俺はすかさず言った


「行くあてもないんなら…俺と、トレジャー・ハンター…もとい、探検隊やってくれないか?」


シアが驚いたようにこちらを見る

突然の誘いに驚いているんだろう


「昨日のお前の戦いぶりを見て、充分な戦力になると思ったんだ。それに、お前の持ってたあの手帳。殆ど擦れて読めなかったけど、あれは凄い研究結果か何かに違いないさ。あれを持ってるってだけで、凄いってわかるんだ」


「い…いや、でも、私…」


シアは慌てて何か言おうとするが、口ごもる


「…それと、あのロケットとお前だ。あのコマタナ達が追ってたってことは、誰かに狙われてたってことだ。それに雇い主が居るとも言っていたしな。探検隊になれば、ギルドの傘にも隠れる事が出来る。更にだ。探検してれば、お前の記憶も取り戻せるかもしれないじゃないか」


俺は一気に心の中にしまっていた言葉を喋った。俺は、直感でシアには何か謎があると思ったのだ

もちろんシアを守ってやりたいという気持ちが強いが、彼女の謎を解いてみたいという考えもある



「どうだ?」

少し身を乗り出してシアに聞いた


シアは少し唸って答える


「探検隊ってのがよく分かんないけど…分かった。いいよ」


右も左も分からない記憶喪失の中で、藁でも掴んでおきたいと思ったのか悩んだ末に返答する

勿論、俺は藁なんかじゃなく、野太い丸太のつもりだが


シアルの答えに俺は目を輝かせ、椅子から勢いよく立ち上がる


「それじゃあ決まりだ!早速ギルドに行って登録し直しに行くぞ!」

「ま…待って!」


小走りに玄関まで歩くと、何が何だか分からないといった表情のシアが慌ててついてきた

俺は笑って玄関から外へと飛び出す




何故だか、シアといるととんでもない事が起きそうな予感がしていた

■筆者メッセージ
なんだか強引だな…

それがフィルの持ち味です


…ヘタクソナンジャナイモン


それにしても、そろそろ安定して書かないとな…
チャスバレー ( 2013/11/08(金) 22:48 )