第四話 連戦
第四話 連戦
「うりゃあ!!」
いきなり、一番前に居たコマタナが襲いかかってきた
「っと!!」
フィルトがコマタナの不意打ちを避ける
軽々と避けて、すぐさま反撃の構えを見せるフィルトにコマタナは微笑を浮かべた
「あんたなかなかやるな!だが、タイプの相性で勝てると思ったら大間違いだ!」
他の二匹のコマタナがフィルトの周りに集まってくる。合計三匹だ
が、フィルトは余裕を見せて鼻を鳴らし、人間で言うボクシングの構えを取った
「そりゃどうも…」
一方シアルは………
「(どうしよう…)」
戦うと言ったきりおどおどしていた。戦闘の経験以前に、それまでの記憶が全然無いからだ
自分は技は何が使えたか…そんな事を思い出している中途、背後から忍び寄るコマタナに気付かなかった
「へへへ…!おら『不意打ち』!」
「きゃっ…!?」
背後からコマタナがお得意の不意打ちを仕掛けてくる
シアルは間一髪で避けるが、コマタナの腕の刃で足を切ってしまう
「うう…!」
「シアル!」
「ははっ!避け方がど素人だ!」
更にコマタナが追撃してくる
「『追い打ち』!」
「くっ!」
腕の刃による斬撃を避け、姿勢を低くする
「た、『体当たり』!」
シアルがコマタナに勢いよくぶつかった
「うぐぅっ!?」
ストレートに体当たりを食らったコマタナは少しよろめく
「て…めえ!」
今度は突進しながら闇雲に刃を振り回してきた
「え…!えっ…と…『氷のつぶて』!」
技名を叫び、技をイメージして口を開くと、シアルの口から子供の握り拳程の大きさの氷が放たれた
コマタナは効果的には今一つではあるが、顔面に食らって動きが止まる
「うっ…ぐお!」
「『体当たり』!!!」
コマタナが怯んだところにシアルが渾身の体当たりを食らわせる
「う…うぎゃあ!」
まともに食らったコマタナは吹っ飛んで地面に倒れる
「や…やった!」
シアルの顔に安堵が浮かんだ…が、油断は出来ない
すぐさま警戒態勢を取った。すぐにもう一匹のコマタナが襲ってくる
警戒しつつ、シアルは横目でフィルトの様子を窺った
フィルトはすでに一匹、楽々とコマタナを仕留めていた
やはりタイプの相性もあるのだろうか
「『発勁』!!」
そしてフィルトは真正面に居たコマタナに向けて『発勁』を繰り出した
「うっ…ぐあ!」
発勁は普通の打撃技と違って、骨の内側に向けて衝撃を放つため、全身に威力を保ったまま効果的にダメージを与える事が出来る
並大抵のポケモンでは、痺れて数十秒はまともに動けなくなるだろう
案の定、食らったコマタナは痺れて動けなくなった
「な…なめんな!」
もう一匹のコマタナが襲いかかった。フィルトは身を捻って避ける
「甘いぜ!?」
「う…!」
一回距離を取り、充分に距離を取ってからフィルトは『電光石火』を放った
「『電光石火』!」
「う…うあ!!」
素早い拳を腹に深々と貰ったコマタナは膝をついて動かなくなる
仕留めた事を確認したフィルトはシアルの方を向いた
「シア!」
「フィル!」
シアルがフィルトの声に気を取られる
その隙に、残ったコマタナがシアルに向けて攻撃を仕掛けてきていた
「うらあ!『不意打ち』だ!俺の事を忘れんなぁっ!」
「うっ…?!」
シアルは咄嗟の事で身構えるのが遅すぎた
…が、フィルトはいち早くコマタナの攻撃を察知し、シアルに不意打ちを放つコマタナに向けて、ストレートパンチを食らわせていた
「俺の事も忘れてるぜ?」
「かっ…は!」
拳が側頭部にめり込み、シアルに攻撃する前にコマタナはその場に倒れこんだ
「あ…ありがとう。フィル」
救ってくれたフィルトにシアルは礼を言う
「いや…いいんだ」
フィルトは少し笑ってシアルを立たせた
「やるなあ。シア。手負いなのに」
「い…いや……フィルトに助けてもらったし…」
照れるシアル
そんなシアルを見て、フィルトは笑った
「さて…と。残りは」
フィルトは、痺れて上手く動けなくなっているコマタナに目線を向ける
「ひ…ひい!」
フィルトがゆっくりとコマタナに近づく
「あ…あの…何でもしますから…」
今にもコマタナは泣きそうだった
コマタナを見て、フィルトは口元を歪めて言った
「んじゃ、こいつのロケット返してくれ」
「そ…そこに…」
コマタナが切り株の横を指差した。フィルトは切り株の根元を探し、ロケットを見つける
「ほらっ。シア」
フィルトがシアルのロケットを投げてシアルに渡す。シアルはそれをキャッチし、ロケットを見つめた後、フィルトとコマタナを見た
「さてと…」
そして再びフィルトは視線をコマタナに戻した
「お前らの雇い主ってのは誰なんだ?」
フィルトがゆっくりと尋問した
「し…知りません…ここで待ってろって言われただけなんで…本当に知らないんです…」
フィルトは、「そうかい」とだけ言ってシアルを見た
「どうする?シアル」
聞かれたシアルはコマタナを見て、少し考えてから言った
「離してあげて。もう…ロケットは取り戻したし、それでいいの」
「…そうか」
フィルトは目を閉じて立ち上がる
コマタナはがくがくと身体全体を恐怖に揺らしながら、フィルトの行動一つ一つを見る
「おい」
「ひっ!?」
フィルトに再び殴られるのではと思ったコマタナは意味の無い防御態勢を取った
が、フィルトは微笑を浮かべて言った
「もう行っていいぞ?痺れもとれただろ……………でも、二度とこんな事するな。分かったな?」
「は…はあ…」
フィルトは静かに恫喝し、シアルに向かって歩いた
そしてシアルに帰るよう促す
「さ、行こうぜ…帰って家に話す事が山ほどあるからな」
「う…うん」
シアルは倒れているコマタナ達を尻目に、前足にロケットを握りしめながら、闘いの跡から帰り道へとついた
「…………………………………………」
一方、放置されたコマタナは、行ってもいいと言われたまま何も出来ずにその場に座り込んだ
遠くなって行くシアルとフィルトを見ながら
「………………何なんだあいつら………………………」
コマタナは誰ともなしに呟き、疲労とダメージでその場に突っ伏した
「ガクッ………………………」