第一章 始まりの風が吹く
第三話 戦闘勃発
―――――――――― 近くの森 入口


「…確かに、ここに入って行ったな?」


「うん…間違いない」


シアルとフィルトが頷き合う


彼らは、シアルのロケットを奪ったコマタナを追っていた

「よし…この森は、真っ直ぐ進むと崖があって、進む事が出来なくなってるんだ。険しくて、装備が無いと登れない」

「つまり、必ず行き止まりになってるってこと?」


フィルトが頷く


「ああ。多分。この道を辿れば、行き着くだろう」

「よし…!じゃあ行こう!」


フィルトが森の中へと突進しようとするシアルを慌てて止める


「あ…待て!」

「え?何?」


「この先は、不思議のダンジョンになってるんだ。注意しろよ?」

「不思議の…ダンジョン?」


フィルトが、そんなことも知らないのかというように目を丸くする

が、気を取り直して言った


「今はいい。とにかく、行きながら話そう」

「…うん」


二匹は、森の中へと駆け出した



――――――――――――――――――― 近くの森 1F




柔らかな木漏れ日が、走る二匹を照らした


「…で、本当に『不思議のダンジョン』って何なの?」


シアルが質問する。記憶をなくしているシアルにとっては、聞いたことも無い言葉だった


「…不思議のダンジョン、ってのは、入るごとに地形が変わる…特殊な場所の事を言うんだ」

「入るごとに地形が変わる?」

「ああ。だから、地図を作る事さえできない。中には、凶暴化したポケモンが居てだな…」


「ちょっと待って」


シアルが解説を遮り、走っていた足を止めて急ストップする

フィルトもそれに合わせた


「凶暴化…って…何?」


フィルトが怪訝な表情を見せた


「凶暴化ってのは…見境なく暴力をふるったりし始める事で…」

「違う違う!そうじゃなくて!どうしてポケモンが凶暴化してるってこと!」


フィルトがああ、という表情をして答えた

「昔、『星の停止』があった事は知ってるだろ?」

「…………………分からない」


シアルが首を振る


「そういや、記憶がなかったんだったけ…まあいいや。まあとにかくざっくり説明するとだな。『星の停止』という事件の影響で、不思議のダンジョンと呼ばれる地域が増加、その地域に居たポケモン達が暴れるようになってしまったんだ。連中、何故だか通常のポケモンを敵視しててな。危険なのさ」

「…それで?」

「で、全ての元凶である『星の停止』事件はある探検隊によって、見事解決。だが、一度は『星の停止』の影響によって減少した不思議のダンジョンも、凶暴化したポケモン達もまた増加してきている。どうして、かは分からないが」


「…」


「分かったか?」


「……なんとなく、しか」


フィルトは苦笑して、シアルを見る


「…長くなったな。この話は、やっぱり片付いてからにしよう」


「………そうだね」


二匹はまた走り出した………………………






――――――――――――――――――― 近くの森 3F


俺の家の近くの森。そこで、俺達はシアのロケットを奪った悪党を追っていた


「ハァ…ハァ…」


俺達はずっと走っていて、シアルがつらそうにしている。無理もない。起きたばっかりな上に、ずっと走りっぱなしなのだから


「少し休むか?」


「いや…いいよ」


シアは走りながら首を振った



…すると、


「シャァァァァァァァァァァッッッッッ!!!」


とてつもなく不快な叫び声が聞こえた


「…噂をすれば…だな!」


シアが立ち止まって不安そうに辺りを見回す

俺も立ち止まり、ゆっくりと視界の悪い森の中を、注意深く覗く


そして突如、上の木からスボミーとパラスが落ちて来る


「!」

「きゃ…きゃあ!」

シアが小さく悲鳴を上げ、仰け反る

「下がってろ!」


「え!?」


俺は素早く二匹の襲撃者に対して身構えた


「俺が倒すからさ!腕には自信があってな!シアはちょっとそこで待っててくれ!」


「で…でも、二匹もいるし…」

「心配無い!すぐ終わらせる!」


俺は、スボミーとパラスに向かって走った…………


―――――――――――――――――――


俺はまず、手近にいたスボミーから倒すことにした

スボミーは直線状に、体当たりを仕掛けて来た

俺は、身を翻して体当たりを避ける

的を大きく外したスボミーは危うく前に大きくこけそうになる

それを見逃ず、スボミーが振り返った瞬間を狙って、腰の回転を使わず、腕の瞬発力だけでパンチを放つ

これだけではあまり威力が無いが、非常に素早いパンチで充分なフェイントにはなる

スボミーは面喰って動きを止める


この隙をつき、オロオロしているパラスに『電光石火』を仕掛けた


「電光石火!」

ある程度間合いが取れた相手にも有効な電光石火は、油断していたパラスに大きくダメージを与えた

パラスは緑の草の茂ったその場に倒れ、気絶する


「っと…あと一匹…」

俺は振り返り、スボミーを睨む

ようやく体制を立て直したスボミーは、技である『すいとる』で、俺の体力を奪おうとしてきた

しかし俺は慌てずに、またフェイントパンチを顔面にお見舞いしてやった

スボミーはまたもや一歩後ずさって隙を作った


「これで終わりだ!『発勁』!」


うろたえたスボミーは、俺の放った発勁をまともに食らい、気絶する

俺は一度、この戦闘で集まってきはしないかと辺りを見回すが、誰も居ない事を確認し、シアルに呼びかけた


「おーいシア!もういいぞ!」


近くの茂みから、シアがゆっくり出てくる


「凄い…一気に二匹も」

「ちょろいもんよ」

俺は得意になって話しかけた


「でも…」

シアが何故か顔をしかめる


「何で、あの二匹の場所が分からなかったの?」

「…え?」


俺はいきなり質問されて、しばし黙る


「…ルカリオなら、襲ってくる敵の位置や数も、波導で分かったはずだけど…」


記憶喪失になってもこういう事は覚えてるのな?


「…それも、後…に、してくれないか?」


シアが俺の顔を見て、呟いた


「話したくないの?…ごめん。謝る。もう聞かない」


「いや、いいんだ…後で、1Fで話しかけた事もまとめて言ってやるさ。この際だし」


シアが困惑した表情でこちらを見た

…が、俺は先へ進むよう促し、二匹で一番奥へと向かって行った







――――――――――――――――――― 森の崖の下



大きな森の、広場のようなところに五匹のコマタナが居た


連中は、誰かを待っているかのようにウロウロしていた

一匹は崖に寄りかかって辺りを警戒し

四匹は切り株に乗っかっていた


「…早く来ねえのか先方はよ」

「いちいちそんな事言ったってしょうがねえだろうが」


一匹が愚痴った兄弟分を叱る


「でも…あいつらが来ちまうだろうが?」

愚痴ったコマタナが不安げな顔をして、ゆっくりと辺りを見回した


「バーカ。あんな奴らヘでもねえだろうが。しかもこの数だぜ?」


崖に寄りかかったコマタナは、心配性だなと笑い飛ばした


「だといいが…」



そう言い終わった瞬間、噂をすればなんとやらで、森の方からフィルトとシアルがやってくる


「あ…!」


「お…お前ら…もうこんなに早く…」


コマタナが驚愕する


「み…見つけた!」

シアルが荒い息をしながら叫んだ


「どうしてこんなに早く来た!?撒いたはずだ!」


ロケットを奪う係だったらしきコマタナが吠える


「残念だが…こいつには俺と言う素晴らしきガイド兼ボディ・ガードが居たもんでね」


フィルトが得意そうに一歩踏み出して言い放った


「仲間が居たとは…な?」


「あなた達も…ね。早く私のロケットを返して!!」


シアルが怒りながらコマタナ達に叫んだ


「へっ…やなこった!こいつは俺達の『雇い主』にたかーく勝手もらうんでね!!」


四匹のコマタナ達が立ち上がり、崖に寄りかかっていたコマタナがゆっくりとこちらに向かって来る


「雇い…主?」


シアルが表情を曇らせる


「どうやら、こいつらは誰かに雇われたってわけだ。所詮三下だな。さっさとぶちのめして雇い主が誰なのかを白状してもらおう」


五匹を相手に不敵に笑い、ゆっくりと歩み寄るフィルト


「なめんじゃねえぞてめえ…!やっちまうぞ!」

挑発した途端にコマタナ達はいきり立ち、今にも襲いかかるかの如く戦闘態勢をとる


「…フィル!私も戦う!」


いきなり、シアルが前に進み出てフィルトに並んだ


「無茶するな!気絶してて、今も怪我してるんだぞ!」


「大丈夫…!ロケットは私が取り返さなきゃいけない!それに、フィル一匹に五匹も任せておけない。私も戦わなくちゃ!」


シアルが笑って身構える


フィルトも苦笑し、ゆっくりとコマタナ達に向き直る


「くれぐれも、無茶だけはするなよ?」


「…多分、しちゃうかも」


シアルは少し考えてから言う

「…上等。 さあ、やろう!」




放置されていたコマタナ達は、腕の刃を整えながら叫んだ


「最後のあいさつは済んだか!?さあ、行くぞてめえらァッ!!」









五匹のコマタナと、フィルトとシアルの闘いが始まった




■筆者メッセージ
さあ、戦闘〜初のボス戦です

やっぱ戦闘描写って難しい…もっと練習しなきゃいけませんね
チャスバレー ( 2013/10/23(水) 00:29 )