第一章 始まりの風が吹く
第二話 記憶喪失 悪党ども


「…でだ」

ゴミ屋敷と言わざるを得ない部屋に、ルカリオとグレイシアが座っていた

「もう大丈夫なのか?」

「あ…うん」

グレイシアが曖昧に頷く。まだちょっと頭痛が残っていた

「そうか。よかった」

グレイシアの目の前のルカリオ…フィルトが満足そうに頷いた


「それにしても…」

フィルトは、助けた時から持っていた疑問を口にした

「何で川から流れて来たんだ?」

「え…あ…その…」

グレイシアが口ごもる

フィルトは首を傾げて話しかけた

「どうしたんだ?」


「その…何ていうか…」

「うん」


フィルトがグレイシアの顔を覗き込む

グレイシアは、視線を振り払うかのように床に目を落とした

そして、ゆっくりと口を開く



「その…分かんないの」



フィルトが驚いてグレイシアを見た


「分からない?」

「うん…思い出そうとすると頭が痛くなって…何も…分からないの」

フィルトが質問を投げかける

「何か、思い出せるような事は無いのか?」

「何も…」

「…名前もか?」

「…そうなの」


グレイシアがゆっくりと目線を再び床に戻した

どうやら、悩んでいるみたいだ。無理もない

記憶喪失か



「その…さ。このバッグ…見てみたんだけど。あんたが持ってた」

フィルトがグレイシアのバッグを見せた


グレイシアがこちらを向く


「え?」

「あんたが川から流れて来た時、大事そうに抱えてた。中、覗いたんだが…」


グレイシアが疑惑の視線をフィルトに向けた


「…勝手に?」

「あ、すまない。つい、好奇心でさ…」


溜め息をつくグレイシア


「…いいよ。どうせ、記憶が無いし…」


「あ…ああ。それで、中覗いて、こんなのがあった」


フィルトが、バッグを覗いたときに出て来たロケットを見せた


「これ…」

「裏に、あんたのかは分からないけど、名前が彫ってあった。シアル。シアルって」


グレイシアが右の前足で受け取って、裏も、表もじっくりと見る


「あんたの名前じゃないのか?」

「………………」


グレイシアが、ロケット全体を眺める。シアル、という名前には、確かに何か心に響くものがあった


「違うか?」


「うーん…分かんない」


グレイシアが首を振る


「そうか…」


そこからしばらく、沈黙が続いた



「とりあえず…さ。あんたの名前、シアルって呼んでいいか?…そうだな。略してシア。シアって呼んでいいかい?」

「え?」


グレイシアがフィルトの顔を見つめる

やや考えて、口を開いた


「いいけど…」


このさいだ。他人の名前でも、とりあえずなるままにしておいた方がいい





「よし…。でも、これからどうするんだ…?あんた…じゃなくて、シアル…シアはさ」


どうしよう


グレイシア…シアルは俯いて考え始めた


「…ま、いいさ」


フィルトが、ゆっくりと腰を上げて、シアルの顔を見る


「とりあえず、今日は泊ってってくれよ。もうすぐ、飯作るからさ」


「あ…ありがとう」


ペコリ、と頭を下げる姿を見て、フィルトが笑う


「…っと。言い忘れてた。俺の名前はフィルト。フィルって呼んでくれ」

「よろしく…フィル」


シアルもようやく警戒心の無い、安堵の笑みを返した


「そうだ。外の空気吸ってこいよ。気持がよくなると思う。それと、そのロケットも持ったままでさ。何か思い出すかもな」

「ありがとう」



シアルが、ロケットを持ったまま玄関から外へと出て行く様子を見届けてから、フィルトは踵を返して台所へ向かった




―――――――――――――――――――






…シアルは、玄関から出て、夕日を眺めていた。ロケットを前足で掴みながら


小高い丘の上から望める、焔のように燃える太陽は、無理にでも自分の心を落ち着かせてくれた。握っていたロケットが冷たい


「…これから、どうなっちゃうんだろう」


シアルが、夕日を見つめて呟いた


そして、そのまま夕日と向こうにそびえる高い山、麓の町、濃いグリーンの森を数分ほど眺めていた


「そろそろ家の中に戻ろう」


独り言をこぼして、家の中に戻ろうとした…その時




ガッ!!!!



誰かに体当たりされて、シアルが横に吹っ飛ぶ



「いたっ…!」


黒い影が、シアルの目の前に現れた。そして、取り落としたロケットを手にとった


「あ…それは…!」


「へ…貰うぜ?これ」


目の前には、一匹のコマタナが居た。腕に、派手な彩色の施された腕輪をはめている


「か…返して!!」


「嫌だ、ね!取り返したかったらさっさと取り返してみな!」


コマタナが、くるりと向きを変えて、森の方へと駆け出して行った


「ああ…!!」


シアルはどうにか立ち上がって、追いかけようとする


すると、


「どうした!?」


家の玄関から、フィルトが飛び出してきた


「…ロケットを…奪われて…!!」


シアルが呼吸を整えながら答えた


「何だって!?」


フィルトが、豆粒ほどの大きさに小さくなっていくコマタナを見つけた



あいつらか


「お願い…!あのロケットを取り返すのを手伝って!」

グレイシアが、真っ直ぐにフィルトの顔を見て頼み込んだ

「え…ええ!?」

「あのロケット…何か知らないけど、大事な物の気がするの…!お願い!」


フィルトはガリガリと自分のぼさぼさの頭を掻いてから、吹っ切れたように叫んだ


「ああ、もう!分かったよ!そうとなったら早く追おう!」


シアルが顔を輝かせる


「ありがとう…!」


「さっさと行こう。見失ったら『面倒なことになるから』」


フィルトが真剣な顔をして駆け出した


「…? あ、待って!」



二匹は、コマタナを追い始めた………

■筆者メッセージ
中途半端な終わり方っすね…

すいません…


それにしても、うまく書くコツってないもんか
チャスバレー ( 2013/10/19(土) 22:55 )