第一章 始まりの風が吹く
第一話 邂逅
 
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…で、どうしよう

俺は、ソファーに寝かせているグレイシアを見つめる

俺に他のポケモンを助ける余裕なんて無いし…え?本を買う余裕はあるのかって?

いやあ…


そんなことはともかく


「ハァ……」


一度大きく溜め息を吐き、グレイシアを見つめる

そして

「ん…?これ…」

川からこのグレイシアを助け出した時、そいつが必死に抱えていた皮の袋を見つける

俺も気が動転していて、それどころじゃなかったからな


そして、誰しもが持つ疑問を口に出してしまった

「この中何が入ってるんだろ」


…いけないとはおもいつつ、皮のバッグと周りを見比べる


「………ま、いいか」




周りが気になって、まずソファーに寝かせたグレイシア、次に窓を覗き、そして勝
手に(ポケモン)のバッグを覗く


「凄いな…」


覗いてみて、思わず感嘆の呻きが出た

まず、バッグの横ポケットに入っていた手帳。小さいながら、びっしりと古今東西の歴史について記されている

それに、バッグの奥の方に入っていた古い本二冊。こちらも、小さな図書館程の量の知識量だった。

ただ、どちらも水に濡れていて、インクが擦れていて読めない状態だったが…

このグレイシア、相当な腕の考古学者か何かなのだろうか?

手帳と本を汚いフローリングの床を手で掃いて綺麗にし、置く


「他にはっ…と」


バッグを弄り、何かの金属に手が当たる


「……?」

『何かの金属質』を引き出すと、それは歪な形をしたロケットペンダントだった


「…『シアル』…か」

擦れかけてはいるが、何とか読める程度の文字で裏に刻まれた名前を読む。恐らく、このグレイシアの名前なんだろう

表には、金で出来た小さい細工が施され、確かに歪な形をしているが、誰が見ても高級品だった


俺は、バッグの中へとロケットを戻し、ベッドに座り込む


「…これからどうするか…」


そう呟いて、俺は、ここんとこ家の中の食糧(ライフ)が無くなりかけていることに気付いた。グレイシアはまだ起きそうにない


「メシでも買ってくるかな…っと」


俺は、バッグを肩にさげて家を出た







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俺の生まれ故郷であり、育った場所である、『カイトウ地方』。かなり広く、さらに探検のし甲斐のある場所が豊富で、何百もの探検家達が集っている

一つの巨大な大陸で出来、東は奥深いジャングルと多くの探検家が集う港町、南は草木の一本も生えぬ砂地が広がり、西は危険な火山地帯が、中央にまだ誰も登頂に成功した事のないと言われる、巨大な山がある

この山についてだが、土砂崩れなどが多く、ベテランの探検家でも行けるのはせいぜい半分程度だろう

危険すぎる山な上に、この大陸のどこからでも見える山の頂上は、常に雷雲で覆われており、行っても何もない…ということで、危険の意味を持つボイド山と名付けられている

この山の麓に、俺の家と、大きな町がある。俺が今から行こうとしているのは、その町だった



町の名前は『トレント町』


中央の大きな市場、探検家ギルドの集まりから、周りの住宅街から成るそこそこ大きな町だ


俺は今、中央の市場の広場に居る


「さて…何買うかな」

あのグレイシアが起きたら…うまいもん食わせてやりたいな

ささやかな想いと共に、市場を見物する。その時


「あっ、フィルトじゃんか!」

黄色い、とは言い過ぎだが、甲高い声が聞こえて来た。振り返ると、そこには屈託の無い笑顔を見せるマメパトが居た


「…ムネハチ?」

ムネハチ。俺の親友であり、所謂、情報屋という奴だ


「何だよ〜冷たいな反応だなぁ〜」

「何時も通りだろ…あれ?また忘れたのか?また。折角の友(ポケモン)のことを?」

『また忘れた』。こいつは極度の忘れん坊だ。まさに三歩歩いたら忘れてしまう。こんなので情報屋が務まるのか不思議だ

こいつにむやみに頼み事をするのは自殺行為に値する。だが、何故か何時も情報は正確だ…

「んだよ〜。そんな事ないって〜。そんな事を忘れる奴はどうかしてるって!」

「はっ!お前のことを言ってんのか?」

マジでこいつなら親友の存在すらでも忘れかねんからな

「…でさ?いいネタがあるんだけど…どうかなぁ?」

「ん…悪いな。今は忙しいんだ」

ムネハチが少々不満気な顔をする

「いや…特に理由はないんだけどさ。ホラ、あれだ。休養だよ休養」

こいつに♀のポケモンを家に連れ込んだ〜なんて話すと、とてつもなく厄介なことになる

なるべく黙っといた方がいい

「休養?一週間ほど砂漠を彷徨い歩いたやつが?」

「言うなよそんな事。あの時はまだ経験が足りてなかったんだ。ていうか何でそんな昔の事覚えてんだ。もっと大事なこと覚えとけよ」

「へっへ。僕はそういう事は覚えとくんだ。後で弱みを握る為にね」


ヤな奴


そう言い合って笑った。こいつとは、幼い頃からの仲だった。何度も世話になったし、世話を掛けさせられた

口では変な事を言ったりするが、根は良い奴だ


俺達は喋ったり、物を買ったりしながら、探検隊のギルドが集まる広場へと足を進めた

そして、広場の中央の小高い丘に、何やら大きな木で出来た建物が見えた。あれも、探検隊ギルドの一つだ


「…そういえば、最近、『ドラゴン・ナイツ』が大きくなり始めたな」


俺は、丘の上のギルドを眺めて言う


「なんだっけそれ?」


案の定忘れてやがった


「ここらで最大の探検隊ギルドじゃないか。ボーマンダとフライゴンがギルド長を務めてるって言う…」

「あ、そうか。でも、君には関係ないじゃんか」


確かにそうだ。ここらで最大の探検隊ギルドがあったとしても、フリーでやってる俺には関係ない


『ドラゴン・ナイツ』

数年前に出来たまだ新興だが、言った通り、ここらじゃ最大のギルドだ。規模や脈の広さなら、『プクリンのギルド』に匹敵してる

幾多の探検隊達を抱え、二匹のドラゴンタイプ、ボーマンダとフライゴンがやっている

お尋ね者たちは、こいつらがいるからここいらの店には手出しできない。ここらの守り神と言ったところか


俺達はギルドを眺めているうち、もう日が暮れかけている事に気付いた。オレンジ色に燃えた太陽が、燃え尽きかけている


「…じゃ、そろそろ俺、帰るからな。数日間は俺の存在を忘れるなよ?」

「おっけー!約束するよ!」

「約束する事か?普通」

呆れて、肩を竦めると、ムネハチは笑って翼を振って、飛び立って行った


「さてと…もうそろそろアイツも起きてる頃かな?」


俺は、ゆっくりと街道を歩いて家路についた



















――――――――――――――――――― 舞台は変わり












ハッ…ハッ…ハッ…誰か…!…誰か…!





見つけたぞ…!!


…しねぇぇぇぇぇ…!!



う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
















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「…っう……!!」


私は、汚れたベッドの中で目を覚ました


…とても目覚めが悪かった。何か、とてつもなく悪い夢を見た気がする


何だかとても頭がズキズキする。目の前に、グレイシアの青い前両足がある


「…ここは?」


そこらじゅうに物や本が散乱していて、とてもじゃないが、(ポケモン)が住める場所じゃなかった。でも、居心地がいい


「…何があったんだっけ?」


自分の中で自問自答する


「…思い出せない…」


呟いて、辺りを見回した


窓に、夕焼けが映る


「…ここは一体何処なんだろう…?誰かの家みたいだけど…」


眠っていたソファーから降りて、この家の玄関を本能的に察知して、玄関のドアに近付く


「とにかく、外の空気吸ってこよう…」


ドアノブに右前足をかけた


そして




ガチャリ




「…!?」


扉が勝手に開いた。私は、開いたドアに向かって前のめりに倒れかかった


「「あ」」


すると、開いたドアの前には、ぼさぼさの毛並みで、紅いスカーフを巻いたルカリオが立っていた。彼は、まじまじとこちらの顔を覗いてくる


「「………………」」


しばしの間、沈黙が漂う


「…なあ」


「はひっ!?」


何故だか、見も知らぬポケモンを前に、素っ頓狂な声が出る


「…中入ってくれないか?」

「あ…ごめん」




そして、私は自分を助けてくれた、一匹のルカリオと出会った







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…フィルトの家の近くの森


茂みの中に、複数の影がうつる


「…どうだ?見つかったか?」

ドスの効いた声が、茂みの中で響く

「ハイ。多分、『アレ』も一緒でしょう」

「そうか…」

声の主が、ゆっくりと腰を上げる

「行くぞ。…抵抗する場合は、やむなし。だ。分かってるな?」

「イエッサ」



二つの影が忍び寄った

■筆者メッセージ
はぁ、文章うまくならねえかな…

第二話です。もっと更新スピード上げるか…
チャスバレー ( 2013/10/12(土) 13:47 )