第九話 ギルド入門…?
今、俺達は探検隊としての再登録をしに、とある新興探検隊ギルド『ドラゴンナイツ』へと赴いていた
だが、ギルドに着いた途端、意外な奴に出会った…
「何でここに!?」
シアが目の前のボーマンダに向けて疑惑の声を上げる
多少の怒りがこもっているのは言うまでもなく
「い…いや…」
ボーマンダが何か言いたげだが、俺はそんな弁解の余地を与えない
「どーしてお前みたいなのがギルドの一番偉いポケモンが座るべき場所に居るんだよ…」
隣でぽかーんとしていたフライゴンも我に返り、いきなり話に割り込んでくる
「あなたまさかまた借金作って…!」
「い…いやいやいやいやいや!もうそんな事しないよ!絶対!」
睨みつけるフライゴンにたじろぐボーマンダ
そんなにっくきこいつに俺は更に追撃を掛ける
「ああ、借金の書類とかは全部金融さんに渡しといたから」
プッツンという音と共に、フライゴンの何かヤバい部分が切れたような音がした
「まったくあなたはぁぁぁ!!!だいたい今まで何度も何度もギルド長としての威厳も自覚を持てとあれ程…!」
「あー、もー!分かった分かったってばぁー!!」
巨体ではあるが、なるほど。威厳なんて何処にもない二匹を見ていると、何だか虚しくなってきてしまった
俺達二匹は、この空騒ぎが収まるのを十数分に渡って待ち続けたのであった…
「え…え〜、ゴホン。初めまして。私がこのギルドの長を務めます、フライゴンの『フウル』と申します」
先程の騒ぎが一段落着いた後、重厚な机を挟んでフライゴンとボーマンダ、そして俺達は自己紹介を始めていた
探検隊の確認と言う奴だ
フウル…と名乗った♀の几帳面そうなフライゴンは丁寧にそう名乗った
まさに組織のトップって感じだ
…さっきの騒ぎでの取り乱した様子を除けば
「そんで…俺がボーマンダの『ルート』だ。よろしくな」
俺達を騙したあげく、俺の金をすっからかんにした♂のボーマンダは、ルートと名乗る…こいつも実はこのギルドのトップの一匹らしいが、何故こんなのがなれたのか不思議でならない
何処か自由奔放的な部分がありそうだ
フウルは何かと苦労していそうだが、これじゃ当たり前だ
「フィルトとシアルだ。よろしく」
「よ…よろしく」
シアはおどおどとしながら、頭をゆっくりと下げる
フウルは慣れた手つきで書類を持ち上げ、俺達に話しかける
「…それじゃあ、シアル…ね。分かりました。再登録をしておきます」
フウルが書類に新たな項目を書き加え、
俺は終わった、終わったというようにゆっくりと立ち上がって身体の各部分を伸ばし始める
「っとぉ…じゃ、帰りますか…行こうぜ、シア」
「うん」
俺達がギルド長室を出ようとすると、ボーマンダのルートが呼びかけて来た
「ちょ…ちょっと待て!」
「何だ?借金の返済ならもうやらねーぞ?」
「それはそうだね」
何でギルドの一番のお偉いさんなのに借金しているかは、よく分からんかったが
次の瞬間、ルートは思い切ったように俺達に頼み込んできた
何だか必死な様子だ…また何だかお願いされそうな予感がする
「そこの二匹…頼むから…俺達のギルドに弟子入りしてくれ!」
ほら来た…というか今度は弟子入りだ
「
は…はぁ!?何でまたいきなり…」
「わ…私からもお願い!」
「え!?」
真面目そうだと思っていたフウル…も頼み込んできた
シアも俺も驚きだ
ルートと同種のポケモンだったとは
「い…いや!違う違う!ルートとは全く違うから!」
俺の考えを読んだかのように答えを返してきた
うわあお
「で…でも、入って欲しいのって何で?結構繁盛してるってフィルが言ってたよ?」
シアが疑問を投げかける
確かにギルドなら、経験豊富なフリーの探検家は取り入れたいだろうが、俺はまだまだ未熟といったところなのだ
しかも、ここは繁盛している。俺や見ず知らずのシアを入れたいなんて、有り得ない事だ
そんな俺の考えを読んだかの如く、フウルが申し訳なさそうに言った
「え〜っ…と、実は…ここ、そこまで繁盛してないんだ」
何だと?
「噂で知られてる程…というか、本当は全然弟子入りしてくれるポケモンも依頼も無いんだよ…」
成程。表向きは成功しているように見えて実は資本も人材も全く無いと
最近は依頼を完遂しても、踏み倒されたり、なんて事があるからな。名声が手に入っても、金が手に入らないなんてのはよくあることだ
給料が無ければギルドのポケモンも抜けていく
…はぁ
だから俺達でも取り敢えず誘っておきたいというわけか
だが、そうはいかないぜ。何故なら俺たちゃあんたの相棒の無茶苦茶に付き合わされたんだ
ギルドに弟子入りしたりや傘下に入ったところで、なんのメリットも無さそうだしな
…だが、シアにはそんな悪徳な考えは全くないようだ
「うん。分かった。入ろう」
「ほ…ホントっ!?」
「本当か!?」
俺の意見も聞いてくれよ
「おい!ちょっと待て!どうしていきなりそんな話になるんだ!」
「だって、困ってるんでしょ?放っておけないよ」
…チクショウ…
「よーし決まりだ!ルカリオのフィルトに…えーと、グレイシアのシアル!我らがドラゴンナイツへようこそ!」
俺はチラリとフウルの方を見たが、彼女は申し訳なさそうに苦笑しながらこちらを一瞥しただけだった
…もうどうにでもなれだ。フリーでやってた頃より自由が制限されるが、危険度は少なくなるだろうしな
「…簡単に弟子入りするって言ったけど、まずは何をすればいいの?」
基本的な事以外、記憶の無いシアには当然探検隊の依頼についてなんかは知らなかった
が、探検隊の基本については俺が教えたからいいだろうが、ギルドについての詳しい事はまだ分からない
「そんな面倒臭い事は後だ!まずは俺達のギルドの仲間を紹介するぜ!」
弟子入りする、と言った事で急に気合が入ったルートは部屋を飛び出してしまった
そんなたった今自分達の入ったギルドの一番のお偉いさんを不安げに見つめながら、俺達はルートの後へと付いて行った
「皆!注目〜!」
ロビーに集まっていたポケモン達が一斉にこちらを振り向いた
「この二匹が…俺達のギルドに新しく弟子入りしてくれるという連中だ!実戦経験も豊富らしいが、まだまだ素人!皆、見てやってくれ!」
ルートはどこぞの保護者のように俺達を紹介した
ギルドの連中は慣れっこなのか、ルートには無反応で俺達にのみ興味を示していた
「詳しい自己紹介なんかは明日行おう!では…解散!」
ざわざわとざわめきつつ、ギルドのロビーに居たポケモン達が散って行く
俺達はそれを眺めていたが、フウルが話しかけて来た事で注意をギルド長達に戻した
「あなた達の寝床なんだけど、急にだから用意できてないから、今日は一旦家で待機しておいて。明日、ここのロビーに来て」
「うん。分かった」
シアは嬉しそうにそう言った
シアは元気でいいな…俺は疲れたぜ
それから俺達は、一応の挨拶をしてから俺の家へと戻って行った
俺の家に帰りつくと、俺は真っ先にベッドに倒れこんだ
「だ…大丈夫?」
「体力的にも…精神的にもヤバそうだ…」
溜め息をついて頭をガシガシと掻き、俺はゆっくりとベッドに身体を預ける
ギルドに弟子入りするって事は、ギルドに直接泊まり込むという事だ。こんなベッドでも、会えなくなると寂しくなってしまう
「ごめんね…勝手に決めちゃって」
シアが俺に詫びて来た
恐らくギルドでの事だろうが、俺は別に気にしてない
「いいよ…もう済んだ事だしな。それより、明日から大変そうだ。さっさと寝ようぜ?」
シアと一緒に居ると、何だか大変な事が起りそうな気がするからだ。冒険者として身体が疼いてくる
その為なのか、身体も心も
「…うん!」
疲れも忘れてしまったような気がした