第七話 人違いは不幸を招く
「…ここかあ」
シアは俺の横で、小高い山を見上げてそう言った
俺達は先ほど食堂で出会ったボーマンダに頼み込まれ、ボーマンダの『ある物』を取って来るはめになっていた
それにしても、その『ある物』ってのがなんなのかよく分りもしないのに、シアがホイホイ引き受けちまって…
が、始まった物は何を言ってもしょうがない
「さあて、ちゃっちゃと終わらそうぜ。な?」
「…うんっ!」
シアは頷いてから返事をする。そして山の中へと走り出し、俺もそれに続いた
…全く、記憶喪失だってのに、どうしてここまで元気良くなれるんだか…
裏の山 1F
「おっと…畜生!」
フィルトの鉄拳が
イシツブテの顔面にぶち当たる
どうやら、この山も不思議のダンジョン化してきているようで、凶暴化したポケモン達がいきなり襲いかかってきた
入っていきなり襲いかかってきた一匹目、イシツブテは体当たりでフィルトに攻撃したが、かわされてしまう
フィルトがかわした直後、イシツブテに向かってパンチを叩き込んだところだった
「歓迎パーティーにしてはきっついなあ!?」
「…だれも歓迎してないと思うけどね…」
シアルは溜め息をつき、身構える
まだ慣れてはいないとはいえ、凶暴化した野生のポケモンよりかは強く、相性的にも不利だったにもかかわらずにコマタナを倒したのだ
やらなくてはやられてしまう
シアルはそう思い、戦うつもりでいた
「(…ええっと…口から氷を出すイメージを…)」
そして、フィルトに気を取られているイシツブテに向かって『氷のつぶて』を放つ
握り拳程の大きさの氷塊をまともに受けたイシツブテは数メートル程吹っ飛び、力尽きる
イシツブテを倒すと、ほっとする暇もなく後ろから二ドリーノが体当たりを食らわせようとしてくる
イシツブテを倒した事を確認したフィルトは、瞬時に標的を切り替える
そして二ドリーノに向かって発勁を繰り出す
効果はいま一つ…だが、急所に当たったようでその場に深々と気絶する
「フゥ…終わったか?」
「そうみたいだね…」
二人で掛け合い、登山道へと向かう、フィルトとシアル
優しいそよ風が彼らを包み込んだ
こういう優しい風は、移動していながらも、一時の休息を与えてくれる
しかし、山の山腹では、怪しい暗雲が立ち込めていた………………
裏の山 5F
小高い山の山腹、どれくらい登ってきたのだろう?
私もフィルもかなり疲労していた
フィルは疲労と苛立ちの為に、ブツブツと愚痴をこぼしている
「あー…畜生…食堂で飯食っといた方がよかった…」
「そうだね…リンゴも持ってきてなかったから…」
フィルトの家の中には、リンゴや見た事の無い果物等が沢山あったのだが、『登録したらすぐ帰る』という事で、お金以外何も持たずにやって来たのだ
その上、食事代や予備のお金も、全て食堂で使い切ってしまった
「くそっ…あのボーマンダのせいだ…どこの誰だ?あんな育て方したのは!」
ガリガリと頭を掻いて、フィルはどこにもぶつけようの無い怒りの言葉をぶちまけた
「しょうがないよ…お腹すいてたみたいだしさ…って、私のお金じゃないんだけどね…ま、困ってる人は助けるのが道理でしょ?」
私が見つめると、フィルは困ったように顔を背けた
「でもよぉ…いくらなんでもあれは食いすぎだと思うんだよな…実際」
「…ははは。確かに」
私達は、ダンジョンでの疲労と緊張を忘れ、しばし笑って歩いていた
だけど、その時私達の笑い声は何者かの声によって遮られる
「待て待てーぃ!!」
「「!?」」
何だか時代錯誤的な掛け声が聞こえて来たのだ
「お前ら、契約書を取りに来たんだな!?」
シュタッ、と前方の岩山からシードラが現れる
水も無いのに、どうやって生活できるのか、不思議だ
「おいおい。一体何の話…………」
フィルは何の事かと慌てて弁解しようとするが、シードラにはもはやそんな事は聞こえていなかった
「うるせえー!!!また前みたいにうやむやにしようったって、そうはいかねえぞ!?今回は助っ人を連れて来たんだぜ!」
同じ岩山から、今度は二匹のスピアーが現れた
二匹ともこちらを鋭い赤い目で睨みつけている
完全に戦闘態勢だ
「……こいつぁ、戦うしかねえってことだよなぁ…人違いだぜッ!」
「なんなのよぅ!」
私達も半分呆れながら身構える
相手は三匹だ。こちらは二匹だけど、何とかするしかない
「今日こそ年貢の納め時だ!かかれーぃ!!」
雄叫びを上げ、双方闘いの場へと移った