第一章 始まりの風が吹く
第七話 人違いは不幸を招く

「…ここかあ」


シアは俺の横で、小高い山を見上げてそう言った

俺達は先ほど食堂で出会ったボーマンダに頼み込まれ、ボーマンダの『ある物』を取って来るはめになっていた


それにしても、その『ある物』ってのがなんなのかよく分りもしないのに、シアがホイホイ引き受けちまって…

が、始まった物は何を言ってもしょうがない


「さあて、ちゃっちゃと終わらそうぜ。な?」

「…うんっ!」


シアは頷いてから返事をする。そして山の中へと走り出し、俺もそれに続いた



…全く、記憶喪失だってのに、どうしてここまで元気良くなれるんだか…




裏の山 1F



「おっと…畜生!」



フィルトの鉄拳が
イシツブテの顔面にぶち当たる


どうやら、この山も不思議のダンジョン化してきているようで、凶暴化したポケモン達がいきなり襲いかかってきた


入っていきなり襲いかかってきた一匹目、イシツブテは体当たりでフィルトに攻撃したが、かわされてしまう

フィルトがかわした直後、イシツブテに向かってパンチを叩き込んだところだった


「歓迎パーティーにしてはきっついなあ!?」


「…だれも歓迎してないと思うけどね…」


シアルは溜め息をつき、身構える

まだ慣れてはいないとはいえ、凶暴化した野生のポケモンよりかは強く、相性的にも不利だったにもかかわらずにコマタナを倒したのだ

やらなくてはやられてしまう


シアルはそう思い、戦うつもりでいた


「(…ええっと…口から氷を出すイメージを…)」




そして、フィルトに気を取られているイシツブテに向かって『氷のつぶて』を放つ

握り拳程の大きさの氷塊をまともに受けたイシツブテは数メートル程吹っ飛び、力尽きる

イシツブテを倒すと、ほっとする暇もなく後ろから二ドリーノが体当たりを食らわせようとしてくる

イシツブテを倒した事を確認したフィルトは、瞬時に標的を切り替える

そして二ドリーノに向かって発勁を繰り出す

効果はいま一つ…だが、急所に当たったようでその場に深々と気絶する


「フゥ…終わったか?」

「そうみたいだね…」

二人で掛け合い、登山道へと向かう、フィルトとシアル


優しいそよ風が彼らを包み込んだ


こういう優しい風は、移動していながらも、一時の休息を与えてくれる






しかし、山の山腹では、怪しい暗雲が立ち込めていた………………








裏の山 5F



小高い山の山腹、どれくらい登ってきたのだろう?

私もフィルもかなり疲労していた

フィルは疲労と苛立ちの為に、ブツブツと愚痴をこぼしている


「あー…畜生…食堂で飯食っといた方がよかった…」

「そうだね…リンゴも持ってきてなかったから…」


フィルトの家の中には、リンゴや見た事の無い果物等が沢山あったのだが、『登録したらすぐ帰る』という事で、お金以外何も持たずにやって来たのだ


その上、食事代や予備のお金も、全て食堂で使い切ってしまった


「くそっ…あのボーマンダのせいだ…どこの誰だ?あんな育て方したのは!」


ガリガリと頭を掻いて、フィルはどこにもぶつけようの無い怒りの言葉をぶちまけた


「しょうがないよ…お腹すいてたみたいだしさ…って、私のお金じゃないんだけどね…ま、困ってる人は助けるのが道理でしょ?」


私が見つめると、フィルは困ったように顔を背けた


「でもよぉ…いくらなんでもあれは食いすぎだと思うんだよな…実際」

「…ははは。確かに」


私達は、ダンジョンでの疲労と緊張を忘れ、しばし笑って歩いていた



だけど、その時私達の笑い声は何者かの声によって遮られる



「待て待てーぃ!!」


「「!?」」


何だか時代錯誤的な掛け声が聞こえて来たのだ



「お前ら、契約書を取りに来たんだな!?」


シュタッ、と前方の岩山からシードラが現れる


水も無いのに、どうやって生活できるのか、不思議だ


「おいおい。一体何の話…………」


フィルは何の事かと慌てて弁解しようとするが、シードラにはもはやそんな事は聞こえていなかった


「うるせえー!!!また前みたいにうやむやにしようったって、そうはいかねえぞ!?今回は助っ人を連れて来たんだぜ!」



同じ岩山から、今度は二匹のスピアーが現れた

二匹ともこちらを鋭い赤い目で睨みつけている

完全に戦闘態勢だ


「……こいつぁ、戦うしかねえってことだよなぁ…人違いだぜッ!」

「なんなのよぅ!」


私達も半分呆れながら身構える


相手は三匹だ。こちらは二匹だけど、何とかするしかない



「今日こそ年貢の納め時だ!かかれーぃ!!」




雄叫びを上げ、双方闘いの場へと移った

■筆者メッセージ
やれやれ…今週忙しくて執筆が難しく、文字数も少ないですな…


しっかし、そんなことは言い訳にはなりませんぬ。次回は人違いによって起こった戦闘です

やっちゃりますか
チャスバレー ( 2013/12/03(火) 20:52 )