ポケダン救助隊物語

小説トップ
PROLOGUE そよ風の中での出会い
PROLOGUE そよ風の中での出会い
*このはなしは、ポケモン不思議のダンジョン 救助隊シリーズを原作としています

・会話部分変更あり、オリジナル要素あり。

・ゲーム中のネタばれ要素あり。

 そういうのがいやな方は、バックしてください。


----
PROLOGUE そよ風の中での出会い
 


 ここは、どこだろう?

 ゆめのなかなのかな?

 酷くあたまがぼんやりする。
 長く眠りすぎたときになる、酷く気だるい感覚。
 何も考えたくない。


 あ、風が気持ちいい。


 かすかな緑のにおいと、穏やかなそよ風。

 なんとなく、心が落ち着く。


「……ねぇ」

 あれ? だれかがよんでいる。

 だれだろう?




「ねぇ、おきてよ、おきてってばぁ! ……あぁどうしよう、しんじゃってるのかなぁ。
 だとすればどこに相談すればいいんだろう……。でもそんなことすればひょっとして僕がやったんじゃないかって……」

 なんだか変なことをつぶやいている。

 いったいだれなんだろう?
 ぼくはゆっくりと目を開けた。




 目の前には黄色と茶色のギザギザ模様。
 そして、先っぽが黒い、長い耳。

「……ピ……カチュウ?」

 かすれてその声はうまく出せなかったと思う。
「ひゃあぁっ!? ご、ごめんなさい! ごめんなさい! もう見捨てようなんてかんがえないですからおそわないでくださいぃっ!」
 そんな声でも、目の前の主はオーバーなほど驚いていた。

「……ふっ、あははは……」
 思わずふきだしてしまったぼく、しばらくしてようやくピカチュウはこちらを振り返った。

 そして笑っているぼくを見ると恥ずかしさからか黄色い顔がほんのり赤らんだ。

「あ……あの……、その……」
 
「……ぁ、ごめん、つい……」
 はっとわれにかえる。
 みるとわずかにピカチュウは涙目になっていた。
 あまりにも突然の出来事で、ぼく自身もよく整理がついていなかったのかもしれない。

「そ、その……気がついたようでよかったよ。君、ずっと倒れたままだったんだよ?」
 表情が少しゆがんでいる。
「な、なにはともあれ、おきてくれてよかったよ」
 きっと、内心は心臓が激しく打っているに違いない。
 笑顔が妙にぎこちなくて、また笑ってしまうそうだった。
「そ、そうだ、君、なまえはなんていうの? ここらへんじゃあ見ない顔だけど?」

「……名前」
 あれ?
 ふつうなら、名前なんてすぐに出てくるはずなのに、口に出ない。
「……ぁ、ま、まず僕からだよね、僕はラーナ、よろしくね」
 精一杯の笑顔を作ってラーナは自己紹介をした。
「ふぇ? ということは……メスなの?」
 第一印象では、おくびょうなオスとしてしか見えなかった。
 それも、一人称が僕、といってしまっているせいかもしれない。
「そ、そんなこといわないでよ……」
「わっ! な、なかないで! ごめん! あやまるからさ!」
 デリカシーのない発言だったと思う。
 やっぱり気にしていたんだろう。
 見る見るうちにラーナの瞳から涙がたまり、あふれ出した。
「わかってるよ、こんなのメスらしくないって。でも、これが僕なんだ」
 耳をだらんと倒し、ため息をつく。
「……で、結局なんて呼べばいいのかな?」
 ちょっと悲しそうな表情を残しつつ、ラーナはたずねる。
 第一印象、悪いイメージがついてしまったかもしれない。
「えと……」
 唐突に話題を返されてしまったせいではない。
 混乱していたわけでもない。

「……僕は、誰だったんだろう」

 次の瞬間には、その言葉がひとりでについて出ていた。

「……え? なにいってるの?」
 さすがにその答えにはラーナは首を傾げざるをえなかった。
「……ごめん、本当にわからないんだ。僕は、誰なんだろう?」
 記憶が抜け落ちてしまったかのように、自分に関することが思い出せない。
「誰って……、ロコンとしか僕はいえないよ……」
 苦しそうに笑いながらラーナはいった。
「……」
 言われて後ろを向けば、毛並みのよい七本の尻尾。
 くるりと形のよいラインを描くそれは、さわり心地もよく、ふわりとしている。
 そして、仰向けになり自分の体を確認してみる。
 赤茶色のつやのある体毛に覆われた体は、からだのラインを隠しているが、それでも太った印象は与えないものだ。
「た、確かにロコンだ……」
 言葉にして、初めて実感がわく。
 その様子をラーナは珍しいものでも見るような目で見ていた。
「も、もしかして、記憶喪失?」
「あ、それかも」
「……」
 ラーナの表情が驚きと呆れを含んだ表情になる。
 言葉には出さずとも、
 お気楽過ぎるんじゃないか?
 と表情に出ていた。
「と、とりあえず僕の名前は……メイでどうかな?」
 もちろん今考えた名前だ。
「ぷっ……それメスの名前だよ? いいの?」
 今度はラーナが笑う。
「べっ、別にいいんだよ。さっきはラーナのこと笑っちゃったし……」
 考えた名前が笑われたのが気に入らなかったのか、
 それとも本当にラーナのことを気にしていたのかわからないが、
 変な意地を張ってしまったと思う。
「……じゃあ、メイだね。よろしく」
 若干照れくさそうに、僕の片前足を両手でつかみ、顔をみる。
「……よろしく」
 いきなりの出来事でちょっと戸惑ったのかもしれない。
 返事がちょっと遅れる。

「えへへ……、仲良くしようね」
 まだまだ照れくさいのか、ちょっとだけ顔を赤らめている。
 ……でもちょっと違うように思えるのは、気のせいではないだろう。
 ……友達って、こんな風に接するものじゃ、ないよね……?

 そんな中考えをめぐらせていると、異変が起こる。

「……? じ、地震?」
 細かな振動が大地に走る。
 それはだんだん大きくなり、木に生い茂る木の葉を少しずつ散らせて行く。

 場所がよかったから心配することはないが、移動しなければならない状態だと、危なかったかもしれない。
 四足の自分でさえ、歩くとなると少し怖く思えたからだ。

 やがて、振動は収まりを見せる。

「……収まったね。ラーナ、大丈夫?」
「うん、いつものことだから」
「え……?」
 驚いた表情をする僕に対し、ラーナは少し苦笑いした表情で答える。
「そうだったね、記憶喪失だったんだよね。
ここ最近、自然災害が多くなってきてるんだ。
なぜかはよくわからないんだけどね」
「へぇ……」
 メイはただただ返事を返すしか出来なかった。

「だれかぁー! たすけてー!」

「っ!?」
 突然、遠くのほうからだれかの声が聞こえた。
「な、なに?」
 ラーナが少しだけおびえたようなこえをあげる。

 こえの方向を向くと、ひらひらと白い羽をはためかせ、何かがこちらに向かってきていた。

「あれは……バタフリー?」
 次第に近づいてくるシルエットを見て、メイはそのポケモンの種族を理解した。
「あっ……! フリーネおばさん!」
 ラーナもやっとその正体を理解したようだ。
「知り合いなの?」
「うん……でもとりあえず今は事情を聞きに行こう!」
 ろくな反応を返さず、ラーナはそのフリーネのところへ走り出してしまった。
「えっ? あっ! ちょ、ちょっとっ!」
 何も考えないまま、メイはその場に流されるしかなかった。
 ラーナについて、遅れて走り出す。

「フリーネおばさん! どうしたの?」
 慌てふためいているフリーネに、声をかけるラーナ。
「あっ! ラーナちゃん! あ、あの、あのね!」
「落ち着いて! フリーネおばさん!」
 相当あわてているせいか、支離滅裂になっている。
「そ、その……! うちのフィーレちゃんが……その割れて、消えちゃって……!」
「おばさん! お願いだから落ち着いて!」
 先ほどとは全く違い、驚くほどの大声でラーナが叫んだ。
「あ……う……ご、ごめんなさい……」
 それでようやく落ち着いたのようだ。
「で、どうしたの?」
 さっきよりもずっとトーンを落とし、問いかける。
 その表情は先ほど見せた情けない姿とは似ても似つかなかった。
「その……、うちのフィーレちゃんが、ほらあなに落ちちゃったのよぉ!」
 言葉を投げ捨てるようにフリーネはいった。
「なんだって!?」
 ラーナも驚く、
 もちろん蚊帳の外であるメイも例外ではない。
「急に地面が割れて、その中にフィーレちゃんが落ちちゃったのよ!」
 きっとさっきの地震のせいだ。
 心の中でメイはそう思った。
「自力で脱出なんて、幼いあの子じゃあとてもじゃないけど出来ないし……、
助けに行ったらほかのポケモンたちが襲ってくるし……」
「え!? 襲ってくるだって!? ポケモンたちが!?」
「さっきの地震で混乱してたり、われを忘れているのよ! きっと!」
 そういうフリーネ自身もかなり憔悴しているように見える。
「私のちからじゃあ襲ってくるポケモンたちにはとてもじゃないけどかなわないし……
このままじゃあ……、あぁっ! もうどうしたらいいの!?」
 そういうとヒステリーを起こしたように激しく頭を抱え込んでしまった。
「僕たちが助けに行くよ」
「え?」
「は?」
 その突然の答えに、素っ頓狂な声を二匹はあげてしまった。
「いいよね? メイ……」
 そういってラーナはメイの尻尾をつかんだ。
「ひゃっ!? ちょ……ちょっと!?」
「さ、いこ! メイ!」
 半ば強引に引っ張られる。

「ちょっ……! ちょっとおぉっ!」

 そのままフリーネが見えなくなるところまで後ろ向きの形で引っ張られることとなった。

「ラーナ! 一体どういうつもりなんだよ!」
 当然メイは怒る。
「……ごめんね、フリーネおばさんを安心させてあげたかったんだ」
 予想以上にラーナはしょげた表情をしていた。
「一匹よりも、二匹の方がきっと安心させてあげられるのは確かだったからさ、
本当にごめんね」
「……いや、いいよ。怒鳴ってごめん」
 ラーナなりの精一杯の気遣いと勇気だったのだろう。
 逆にこっちが悪い気がしてしまった。
「……じゃ、ここでお別れだね」
「え?」
「ごめんね、変な騒動につき合わせちゃってさ。
とりあえず、どっかいいすみか見つけられるといいね」
 そういって鼓舞するように体を震わせると、洞窟の中に入ろうとする。
「ちょっ! ちょっと待ってよ! 一匹で行くつもりなの!?」
 先ほどの話を聞き、不安になったメイは、ラーナを引き止めた。
「うん……怖いけど、僕に出来ることなら、早く助けてあげたいからね」
 やはり怖いのを押し殺しているのか、笑顔も少し力なく見えた。
「それじゃ、またあおうね、メイ」
「あ……!」
 そのまま、ラーナは洞窟の中に入っていってしまった。


「いっちゃった……」
 はじめの印象はおくびょうなイメージだったけど案外しっかりした性格なのかもしれない。

 それなら、大丈夫なのかな。

 ラーナの心配よりも、自分の心配をしたほうがいいのだろう。

「よし……とりあえず、さっきのおばさんに話を聞いてみようかな……」
 とがめられるのかもしれないけど、それが今後のためにいい方法かもしれない。

 メイは先ほど来た道をもどることにした。


「……あれ、いない」

 先ほどよりも、ずいぶん戻ったはずだが、フリーネの姿は見あたらなかった。

 もうどこかに移動してしまったのだろうか?

 とにかく、探すしかない。


「……ん?」
 ふと来た方向を見返すと、見覚えのある姿があった。

「う……ん……」
 ラーナが突っ伏して倒れていた。

「あれ……?」
 別の方向からまた聞き覚えのある声が聞こえた。

「あ、フリーネさん」
 ひらひらとこちらへとんで来るところだった。

「……あら……? この子……大丈夫?」
 心配そうに顔を覗き込む。
「もし……? もしもし?」
「う……はっ!」
 問いかけに対し、ようやく目を覚ましたようだ。
「あぁよかった! 気がついて!」
 安どの表情を見せる。
「あれ……ここは?」
 記憶が混乱しているのか、ラーナは変なことを口走った。
「もりのなかよ。たぶん……倒されて、もどされちゃったんじゃないかしら?」
「そう……なんだ」
 ラーナの表情が曇る。
「倒された? 戻された? どういうこと?」
 不可解な言葉に、思わず言葉をつく。
「あのね、不思議のダンジョンっていってね。
僕もよくわからないんだけど、入るたびに、地形が変わるんだ。
ちょうどフィーレちゃんが落ちたところも、不思議のダンジョンになってたんだね。
そこで、倒されちゃうと……」
 そこで、ラーナは首元を探ると、ちいさなバッジを取り出した。
「これをもってるポケモンに限るんだけど、ダンジョンの入り口に戻されちゃうんだ。
……用は、行方不明にならないための措置、かな」
「なるほど……」
 ラーナがここに戻された理由も理解した。
「ごめんなさい……情けないな」
 苦笑いを見せるラーナ。
「いいのよ……私が無理させちゃったのね」
 こんな状況だというのに、フリーネはラーナを気遣ってくれた。

「……ラーナ、今度は僕も手伝うよ」
「えっ?」
「一匹じゃあダメでも、二匹なら、大丈夫かもしれないよね?」
 正直根拠はない。
 けど、ラーナの姿を見ると、たすけたいと思った。
 ただそれだけだ。
「……ありがと」
 ラーナにはじめてあったときのような笑みが戻る。
「よし、そうと決まれば、急ごう!」
 メイは先陣を切って先ほどのダンジョンへ歩き出した。

「気をつけてね! 私も、助けを呼んでくるからね〜!」
 後ろからフリーネの掛け声が聞こえた。



 中は思ったよりも広くなく、狭い通路と、小部屋がつながっている形だった。
「とりあえず、下へ進んでいけば、出会えると思うんだ」
「とりあえず!?」
 ラーナの言葉に思わず反応してしまう。
「うん、そこまで広くもないし、すぐに同じ場所に出られるよね。
だから、しらみつぶしにすれば、いずれであえると思うんだ」
「そ。そうなんだ……」
 間違ってはいないが、明確な確信があって入ったわけではなかったのか……。
 そう思いながらふとラーナをみつめる。

「って! ラーナ! 後ろ!」
「ふぇ?」
 振り返ったラーナの目の前には、鋭い形相をしたポッポが襲い掛かってくるところだった。

「あぶない!」
 とっさにラーナに体当たりをする。
「きゃあっ!?」
 予想しない動きに、ラーナは再び情けない声をあげる。

「ぐあっ!」
 ポッポの攻撃は、メイのわき腹にヒットした。
「こっ……のぉっ!」
 体勢を立て直し、ラーナは襲ってきたポッポに向かい、[でんきショック]を放つ。

「……!」
 攻撃動作の後で、回避もままならない。
 声もあげず、ポッポは気絶した。

「よくわからないけど、ボーっとしてたらだめだよ?」
 たいしたことはなかったとはいえ、攻撃を受けたわき腹は地味に痛む。
 背後でまともに受けてたら馬鹿にできないダメージだったかもしれない。
「ご、ごめん……」
「ま、倒してくれたから貸し借りなしだよ」
 しょげるラーナを、できる限りねぎらった。
「う、うん、ありがとう」
 ラーナは多少おどおどしながらも、感謝を述べた。
「……ところでさ、技って、僕にも使えるのかな?」
 先ほどの光景を見て、疑問に感じたことを話す。
「え? ……あ、そっか、記憶喪失だもんね、メイ」
 一瞬わけがわからない表情をしたが、すぐに表情は真剣になる。
「使えるはずだよ、たぶん、感覚さえ取り戻せばすぐに使えると思うんだけど……」
 そうこたえるラーナの表情はどうも自信なさげだった。
「……うん、ありがと、考えてみるよ」
 そう答え、話を切り上げる。
 もしかしたら、ポケモンにとって、わざというものは、無意識に使えるものなのかもしれない。

 だったら、僕にも、そのうち使えるのだろう。

 今はそう思うしかない。

「しかし、見つからないね、フィーレ、だっけ? その子……」
 落ちたという洞窟に入ってそれほど時間はたっていないが、
 ここはそれほど広くもない。見つかってもいいはずだ。
「そうだね……そろそろ見えてもいいはずなんだけどなぁ」
 ラーナも同意した。

「……ん?」
 そのとき、ラーナの耳がピクリと動く。
「どうしたの?」
「なんか……聞こえる」
 ラーナは不思議そうに顔をしかめていた。
「なんというか、すごく……不気味」
「んん?」
 あいにく僕はそれほど耳はよくないようだ。
 ラーナの言うその音は聞こえていない。
「ねぇ、その方向へ、いってみないかな?」
「えぇっ!?」
 その言葉にラーナは酷く驚く。
「手がかりがないんならさ、いろいろ試すほか、ないんじゃないかな?」
「う……うん……」
 本当に嫌そうな表情で頷いた。

 怖がるもの無理もないことなのかもしれない。

「方向だけ教えてよ。僕が一匹で見てくるからさ」
 極力、怖がらせることはしたくない。
「え……えぇ!? それは嫌だよ! 僕も行くよ!」
 逆効果だったようだ。
「あ……う、うんわかった」
 ラーナはメイの尻尾を強く握り、体を小さくしながら必死にラーナについてくる。

 しばらくもたたないうちに、メイにも聞こえてきた。

「……はね、……で」

 話し声?

「もっと行ってみよう」
「……うん」

「えへへ……そうなんだ」
「そうだよぉ。君はどうだい?」

 ……この声、子供じゃないか?

「ラーナ、子供の声だよ、これ……」
「うん……」
 そこはラーナも理解していたらしい。
「でもね、とても……とても嫌な感じがするの」
 よりいっそう、ラーナの握る力が強まる。
「ラーナ……」

「……話、合いそうだね、僕たち」
「……だね」

「でも、でもね、メイと一緒なら、僕、がんばるよ」
「メイ……」
 どう返事をすればいいかわからない。
 だけど、精一杯のことはしてあげるつもりだ。
 さっきラーナを守ったように。

「……!」
「……ぁ!」
 その光景を見て、ラーナは息をのんだ。
「ラーナ、あれってもしかして……!」
「うん……キャタピー、フィーレちゃんだと思う……」
 そういう表情はとてつもなく不安げだった。
「よかった、無事だったんだ。早く迎えに行こう」
 ラーナの不安の原因がわからない。
 気休めかもしれないが、わざと明るく、振舞った。

「で、さっきから、そこにいるのは、だれなの?」
「……!」
 どうやら気づかれてしまったらしい。

 二匹は、フィーレたちのとこへ、乗り出した。

 そこには、キャタピーのほかに、先ほどの話し相手らしいポケモンがいた。
「……君は?」
 メイは問いかける。
 ラーナは相変わらず、不安げにメイの尻尾をつかんだままでいた。
「僕はヒノだよ。そういう君たちは、だれなの?」
 まるでフィーレを囲うようにそのポケモンは不気味にうごめく。
「僕はメイ、彼女はラーナって言うんだ。
その子、フィーレを連れ戻して欲しいって、フリーネさんから頼まれて、ここにきたんだ」
 簡単に事情を説明する。
「ふーん……そうなんだ」
 ヒノは少しつまらなそうな顔をする。
「さ、フィーレ、一緒に帰ろうか」
 メイは軽く微笑みながら、フィーレに語りかけた。
「……嫌だ」
「……え?」
 よりいっそう、ラーナが尻尾を強く握り締めるのを感じた。
「かえらないよ、僕、ヒノとずっと、あそぶんだ」
 一、二歩あとずさる。
 それほど不気味に感じた。
「メ、メイ……!」
「うん……心配しないで」
 誰が見ても、間違いなく、彼は正気ではない……。
「帰らないって、いってるよ?」
 ヒノの表情は、まるで勝ち誇ったようだった。

「メイ……どうしよう……」
 ラーナが不安げに問いかけてくる。

 一体どうしてフィーレはあんなふうになってしまったのだろう……。

 考えるまでもなく、メイはなんとなく感じていた。

 こいつがやったんだ。

「あそぼう? フィーレ」
 ヒノはあやしげに、ゆらゆらとフィーネをとりまく。
「あそぶ? ヒノ、僕とあそぶ?」

「フィーレ! 正気に戻るんだ!」
「メ、メイ?」
 いきなり叫んだせいで周囲の視線が集まる。
「びっくりしたなぁ……フィーネは正気だよね? フィーレ」
 ヒノはくるくると回りながら依然不気味な笑みを絶やさない。
「……うん、フィーレは、正気、フィーレは、正気だよぉ?」
「フリーネが、母さんが心配してるんだぞ! さっさと戻るんだ!」
 子供に向けるような言葉じゃないのかもしれない。
 けど、そうでもしないと聞きそうにもない。
「……なんなの? さっきからさぁ。フィーレは、ヒノと遊んでるんだよ?」
 だんだんヒノの言葉もとげが出てくる。
「ほんとかな? 君が何かしてるように、僕は見えるんだけどな?」
「えっ!? ちょ、メイ?」
 いきなりのこちらの言動に、ラーナは心配そうに言葉をかける。
「なにもしてないよ! 僕はただ……フィーレと遊んでるだけだいっ!」
 根拠はない、だが、言葉からして、何かしているのは確信できた。
「ラーナ……どうおもう?」
「え……?」
「ヒノの種族は、精神を、操作できる技は、使えるのか?」
「え……? え……!?」
「ラーナ!」
 完全に動揺しきっている。
 記憶がないせいで、相手のポケモンのことがよくわからない。
 だが、場の雰囲気で、よくわかった。
 子供といえど、こいつが何かしたのは間違いない。
「えと……タマタマは……たしか、[さいみんじゅつ]が使えるはずだよ!」
「それだ!」
「でっ、でも! そもそも[さいみんじゅつ]は相手を眠らせる効果しかないよ!?」
「でも要するにエスパーに精通しているってことだろ? それだけわかれば十分だ!」
 メイはヒノを見据える。
「なんだよ……、何でそんな目で見るんだよ……!」
 ヒノの様子がおかしい。
「僕はただ……ただ……!」
「……一体どうしてこんなことを?」
 メイは問いかける。
「うるさいっ!」
「っ!? うわわっ!」
 しかし、それも空しく、ヒノは完全に逆上してしまったようだ。
「フィーレは、僕の友達だ! 誰にも邪魔させない!」
 ヒノはフィーレを取り巻くのをやめ、一箇所に集まる。
「た、たたかうしかないの?」
 ラーナは震えながら問いかける。
「それしか、ないね、倒して術を解かせるんだ!」

「僕は六匹いるんだ! 大人が二匹いたってそうかんたんに負けないぞ!」
 身構えるメイたちに、ヒノが飛び掛る。

「ラーナ! 固まって迎え撃とう!」
 飛び掛るヒノを、見据えながらメイは叫んだ。
「う、うん!」
 何もしなければ、やられることを覚悟してか、ラーナもすぐに答えた。

「うらあぁっ!」
 ヒノはそれぞれの口を大きく開けて、かみつこうとしてくる。

 まだ幼いせいなのか、そこらの戦法に関しては単純だ。

 落ち着けば、対処は、できる!
「……!」
 七本ある尻尾を振りかざし、とびかかるヒノたちをなぎ払う。

 硬さはない分、ダメージもないに等しいが、それでも十分な働きをしてくれる。
「うわあぁっ! くるな! くるな!」
「っ!? ラーナ!?」
 ラーナの声に、振り返る。

 ラーナは飛び掛るヒノたちに噛み付かれながらも、必死に一匹一匹振り払っていた。
「ラーナ! どうして[でんきショック]を使わないんだ!?」
「だって……!」
 半べそをかきながら、ラーナはなおも同じように振り払い続ける。
「やられたらたすけられないんだぞ!?」
「……!」
 何か言いたげに、こちらを見る。

 だが、言葉を返さない。

 ラーナは、ラーナで、思うことがあるのだろう、でも……。

「……っ! メイ! 後ろ!」
「っ!? し、しま……!」
 考える余裕を持つほど、こっちはまだ安定してはいなかった。
「ぐ……!」
 額に思いっきりヒノの一匹が直撃する。

 重さはないとは言え、足元がふらついた。

 視界が揺れる。

「さっさとやられてよ! フィーレを待たせてるんだから!」
 ヒノはなおもヒステリックに叫ぶ。

「なんで、そこまでこだわるんだ?」
 揺れる視界で、ヒノを捉えながら、メイは問いかけた。

 気休めかもしれない。
 だが、受けたダメージを少しでも和らげるための作戦だった。
「こだわりなんかじゃない! フィーレは僕の友達だからだ!」

 ……わからない。

 どうしてそうこだわるんだ?

「泣いてる僕を心配してくれる友達なんだ!」
「……!」
「だから……僕は……!」
 視界が安定してくる。
「いやだ……! また一匹は……嫌だ!」
 そこには小さい体を震わせているタマタマがいた。
「だから……邪魔なんてさせない! 帰れ!」
 再びヒノは襲い掛かる。

 不意打ちのダメージは引いた。

 ……こっちだって負けるわけにはいかない。

「……」
 飛び掛るだけの単純な攻撃だ。
 ヒノの言葉もわかる。

 だが、肝心のフィーレの意志はどうだ?

 あんなことをされたままで、納得できるわけはない。

 なら、ここは、ヒノに引いてもらうしかない。

「……せいっ!」
「……!」
 とびあがり、思いっきり尻尾を真上から叩きつける。
 先ほどとは違い、これなら重力と地面でダメージは跳ね上がるはずだ。

 読みどおり、ヒノは苦しみの声をあげ、悶える。

「こ……このぉっ!」

 それに逆上したのか、残りのヒノたちが、こちらに一斉に飛び掛ってきた。
「……!」
「メイッ!」
 ラーナの叫びが聞こえる。

 だけど……!

 打開策は……ないか?

 襲い掛かってくるヒノたち、

 その光景のさなか、ある言葉が浮かんだ。

「使えるはずだよ、たぶん、感覚さえ取り戻せばすぐに使えると思うんだけど……」

 ラーナの言葉だ。

 技が使えれば……!

 口の中に、パサパサした感触がする。
 よくわからない、だけど!
「……ばぁっ!」
 勢いに任せ、それをおもいっきり吐き出した。

「……! うわぁぁっ!?」

 赤く光る粉。

 それはまともにヒノたちに直撃した。
「あついっ! あついいぃっ!」
 ごろごろと転がりながら、ヒノは悶える。

 そして、そのうちに動きは鈍くなり、最後には動かなくなってしまった。

「……やった、のか?」
 ヒノに近づく、
 ところどころ、焼けた後が目立つが、気絶しているだけのようだ。

「メイィッ!」
「うわっ!?」
 ボーっとしている最中に、ラーナが飛びついてきた。
 完全に意識になかったせいで、受身も取れず、そのまま地面に押し倒される。
「怖かった! 怖かったよおぉっ!」
 まるで子供のように泣きじゃくる。

 確かに、思い返すと、あの光景は異様で、恐怖感をそそられたような気がする。

 でも、ヒノには、悪気はなかったのだろうな。

 そう思い、気絶しているヒノを再度みつめた。

「ラーナ……そろそろどいてくれないかな。前足が痛い」
 一行に退く気配のないラーナに、言葉をかける。
「っ! ご、ごめん……つい……」
 素直にラーナは退いた。

 ラーナも、内心はずっとおびえていたのだろう。

 僕自身も、怖かったことは事実だ。

「フィーレは、どこにいるのかな?」
 でも、もう終わったことだ。
 メイは話を切り上げ、本来の目的へうつす。

「……あ、いた!」
 ラーナは周りを見渡し、フィーレを見つけだした。

「……ヒノくん、……ヒノくん?」
 そこには、気絶しているヒノの一匹を、一心に揺り動かし、
 声をかけているキャタピーの姿があった。

「メイ……」
 不安そうに声をかけてくるラーナ。

 だけど、真実は言わないといけない。
「フィーレちゃん、だね?」
 メイは言葉をかける。
「……うん」
 フィーネは言葉を返した。

 どうやら催眠は解けたらしい。
「お母さんが心配しているよ?」
 まずは、そこからだ。
「え? あ……うん……」
 一瞬びっくりしたような顔をしたが、
 自身がどういう立場だったかを理解したらしく、すぐに頷いた。
「でも……」
 心配そうにヒノをみつめる。

「……ねぇ、教えてくれないかな。ヒノと君は、どういう関係なんだ?」
 メイはたずねた。

「友達……です」
 フィーレはすこし不安そうに答える。
「……詳しく教えてくれないかな」
 受け答えから見て、ただの友達というわけではなさそうだった。

「……ここに落ちたとき、ヒノくんは泣いていたんです」
 すこし間をおいて、フィーレは言葉を出した。
「僕も、落ちたときは怖かったです、けど、それ以上に、ヒノは、
すごく……なんというか、悲しそうに見えました」
 ヒノを見つめ、フィーレは言葉を続けた。
「話を聞いたら、ヒノくんは、ずっと、一匹だったそうです。
お母さんも、お父さんもいなくて、ずっとずっと、一匹で生きてきたそうです……」
「そんな過去が……」
 メイはその事実に言葉を漏らす。
「だから、僕は、ヒノくんと、友達になることにしました。
ヒノくんも、それに、とても喜んでくれました」
 そこまではいい。
 フィーレはそういいたげだった。
「そこまではよかったんです……。
僕は、お母さんのことを思い出して、帰ろうとしたんです。
そしたら、ヒノくんが……引き止めるんです。
帰らないで! って……」
 そこからだろう、問題は。
「そのときのヒノくん、とても怖かったです。
まるで、別人のようでした……」
 その場面を思い出してか、フィーレのからだは小さく震えていた。
「そして、そこからの記憶がないんです。
全然覚えてなくて……気がついたら今の状態でした」
 そこから先が、操られていたということだろう。

「メイ……」
 真実を伝えるべきだろう。
 そのことを見出してか、ラーナは心配そうに視線をこちらに向けた。
「フィーレちゃん、そのとき君は、ヒノくんに操られたんだ」
「……え?」
 フィーレの表情が、一気に凍りついた。
「でもね、誤解しないで欲しい。
ヒノくんに、悪気は全くなかったとおもう……。
きっと、寂しかったんだ」
 メイはヒノをみつめる。
「寂しかった?」
「うん……、ずっと一匹だって言ってたよね。
そして、君がはじめての友達だった。
きっと、一緒に居た時間は、すごく楽しかったんじゃないかな?
それが、終わってしまうのが嫌で、君を引き止めてしまったんだと思う」
 本当の気持ちまではわからない、だけど、メイにはそう思えた。
「だからさ、この先も、ヒノくんと、友達でいて欲しいんだ」
「……!」
「急に今までと一緒にしろって言っても無理かもしれない、けど、
ヒノくんをさ、また一匹にしてほしくも、ないんだ」
 フィーレは、少し複雑な表情をした。
「大丈夫だよ。きっと、ヒノくんもわかってくれる」
 根拠はない、だけど、そう伝えた。

「う……うん……」
 そのとき、タイミングよくヒノが意識を取り戻した。
「ヒノくん!」
 真っ先に声をあげたのは、フィーレだった。
「あ……フィーレ……」
 ばつが悪そうに、ヒノは言葉を出す。
「よかった……どこも、痛くない?」
「うん……」
 きっと、わかってくれる、そう信じてメイは言葉をかけない。
「ヒノくん、いまから、一緒にお母さんに挨拶にいこうよ!」
「……え?」
「そしたらさ、もしかしたら、もっと長い時間遊べるかもしれないよ?」
 ヒノは一瞬うれしそうな顔をしたが、すぐに顔を曇らせた。
「で、でも……僕は……」
 その言葉で、メイは理解した。

 やっぱり、ヒノ自身も、悪いことだって、理解していたんだ。

 けど、一匹が嫌で、こんなことをしてしまったんだ。
「もういいんだよ。ヒノくんが悪いってわかっているんなら、それで、僕はもういいよ」
「フィーレ……」
 ヒノの顔が崩れる。
「ごめんね……! ありがとう……!」
「ヒノくん……!」

「この様子だと、もう心配いらないみたいだね」
 ラーナが後ろから声をかけてきた。
「……そうだね」
 メイも笑顔で答える。
「落ち着いたら上まで送ろう。フリーネおばさんも心配してるみたいだしね」
 ラーナの表情は、もう曇りのない笑顔だった。
「うん」
 メイも精一杯の笑顔で答えた。




「お母さん!」
 地上に出て、すぐ、フィーレが声をあげた。
「あぁっ! フィーレちゃん! 無事だったのね!」
 フリーネもすぐに駆け寄ってくる。

 周囲には、フリーネが呼んだのか、むしタイプのポケモンが2匹いた。

「よかったね、こんなにも喜んでくれて、うれしいよ」
 ラーナが親子の光景を見て、言葉を漏らす。
「そうだね」
 その言葉に、メイも自然と笑顔になっていた。

「お母さん、友達のヒノだよ。落ちたとき、たすけてくれたんだ。
だから、メイさんたちが助けに来てくれるまで、僕は無事だったんだよ」
「……え?」
 ヒノは驚いたような表情をする。
「……覚えてるんだよ。必死になって、襲ってくるポケモンたちを追い払ってたこと」
「あ……」
「ありがとね、ヒノちゃん」
 フリーネは優しい笑みでヒノをみつめた。
 それに対してヒノは顔を赤くして、黙り込むだけだった。

 そうか、あんな反応をしたのは、僕たちだけではなかったということなんだね。

 言葉には出せない。

 真実は、時期を待って、ヒノか、フィーレが言うほうが正しい。

 僕たちの役目は、ここまでだ。

「ラーナちゃん、ほんとに、ありがとね」
 フリーネが改めてお礼を言う。
「いいよいいよ、お礼なんて、僕たちがやりたいようにやっただけのことだから」
 照れ隠しなのか、それとも本心なのか、いずれにしても冗談のように聞こえる。
「僕からも、改めてありがとうございます。
とっても、かっこよかったです!」
「あはは、そういってくれると、うれしいよ」
 ラーナの表情は、終始緩みっぱなしだ。
 フィーレの視線は、なんだか憧れのように取れる。
 それをみつめると、メイも、なんだか気恥ずかしく思えてしまった。

 照れるのも、分かるかもなぁ。

 でも、こういうのも、悪くないよね。

 ヒーローみたいでさ。

「あの……、できれば、そこのお方、お名前を……」
「え? あ、別に名乗るほどのポケモンでもないですよ」
 苦笑しながら、そう返す。
「ここまできてそれはないよ、メイ」
 ラーナが不服そうに言った。
「う……」
「メイさんとおっしゃるのですね。ありがとうございました」
 改めて礼を言う。
「お礼といってはなんですけど、これを受け取ってもらえますか?」
 そういって、フリーネはひとつの袋を差し出してきた。

 覚えてる。
 これは、先ほどフリーネがよんだと思われるポケモンが渡したものだ。

 ……必要ないものだからこっちに渡したという考えはやめておこう。

「これ……いいんですか?」
 ラーナは中身を確認して言葉を出した。
「ええ、こんなことしか出来ませんけど」
「ありがとう!」
 一緒に頭を下げる。

 悪い気分ではないよ。

 役に立てたなら、それでいいしね。




「……メイはさ、これからどうするの?」
 フリーネたちと別れ、しばらくしたころ、ラーナがたずねてきた。
「……」

 そういえば、ないな。

「……ないんだね」
 表情から読み取ったのか、ラーナがいった。
「なんとかするよ」
 できる限り明るい口調で言う。
「……」
 ラーナはそれでも心配そうにこちらをみつめる。
「これ以上、迷惑もかけられないよ、いろいろありがとう」
 そう、かけられない。
 メイはラーナに背を向ける。
「まって!」
 それをラーナはすぐに引き止めた。

「あ、あのさ……いくとこないならさ、ちょっとおいでよ」
 出来すぎた展開だ。

 思わず耳を疑いそうになる。

 だけど、これは聞き間違いではなかった。
「いいの? 僕、オスだよ?」
 根本的なところから質問をする。
「それがどうしたの?」
「……」
 思った以上に何も考えてはいなかった。

「見ず知らずの僕を泊めたりしたら、夜、どうなってもしらないよ?」
 そうやって意地悪な笑みを見せる。
「そんなことするポケモンじゃないでしょ、メイは」
 ……即答されてしまった。

 うれしいはずなのに、なぜかふに落ちない。
「いいからいくよ!」
 痺れを切らしたのか、ラーナはメイの尻尾をつかむ。

「わかった! わかったから! 尻尾引っ張んないで!?」
 抵抗も空しいまま、メイはそのままラーナに引っ張られていった。


「……ついたよ」
 ラーナが唐突に尻尾を離す。
「……ひどいなぁ。いたた……」
 後ろ向きで歩くような格好になったので、体のあちこちが痛む。
「あんなこというからだよ……」
 ラーナが小声でつぶやいた。

 やっぱり気にしてたのね。

「そんなことよりさ、みてよ」
 声を切り替え、ラーナは前を指差した。

「……おぉ」
 思わず声をあげる。
 目の前には立派とは言いがたいがそれなりの大きさを誇る家が建っていた。

 それに、なんとも言いがたい居心地の良さが、そこからは漂っていた。

「……そのようすだと気に入ってくれたみたいだね。よかったよ」
 ラーナはうれしそうな表情をする。
「あ、でも……」
 まだ住めると決まっているわけじゃない。

 ただで住まわせてもらえるなんて、虫のいいはなしは……。

「……うん、いいよ! メイの家は、今日からここだよ!」
 ……夢でも見ているのだろうか?
「ありがとう」
 その一言しか、言葉が浮かばない。

「ふふ、こんなに喜んでくれるだけで僕もうれしいよ
……僕ね、知ってのとおり、困っているポケモンを見ると、ついついほっとけないんだ」
 自覚しているせいか、その表情は微笑んでいながらも、少し自嘲が混じっているように見えた。
「できることなら、力になりたい、一匹でも多く、悲しむポケモンを減らしたい、そう思うんだ」
 そうか、だから、僕のことを、ほっとけなかったんだね。
「それでね、僕、救助隊を造りたいと思ってたんだ」
 ラーナの表情が真剣になる。
「メイ、お願い、僕と一緒に救助隊を、作らない?
メイとなら、僕、うまくやれそうな気がするんだ!」
 ラーナは手を差し出した。
「……」
「……え?」
 二つ返事で手を握り返してくれると思っていたのだろうか。
 メイはすこし考え込むような顔で差し出された手をみつめていた。
「メイ?」
 ラーナがすこし心配そうな声音で言う。
「……ごめん、すぐには答えられないよ」
 
 ここまでやってもらって、断るのは、失礼なのかもしれない。

 でも、どうしてもぬぐえないものがあった。

「なんで? どうして?」
 やはり断られるとは思っていなかったのだろう。
 半泣きのような表情でこちらを見てくる。

「メイならきっと一流の救助隊員になれるよ!
だからお願い! 一緒に救助隊作ろう?」
「……ごめん」
「そんな……!」
「一日だけ、時間をくれないかな。そうしたらちゃんと答えるよ」
 そういうと逃げるように住処の中に入る。

「あっ……!」
 ラーナは声をあげたが追いかけようとはしなかった。



「……ふぅ」
 わるいこと、したかな。

 棲家は割りと広く、一匹で済むには少しだけもったいないような気もする。

 一番奥には寝床があり、そばにはのどが渇いたときの水のみばらしきものがあった。

「……横になろう」
 とりあえず、状況をゆっくり整理したい。

 寝床に、転がりながら、今まで、
 といっても今日のことしかわからないが、思い出す。

 まず、僕は、本名がわからない。

 今はメイと名乗っているけど、これはラーナとの会話の中で考えた名前だ。

 そして、僕がどんなポケモンか、

 これが、どういう方向に傾くかによって、

 これからどうするかも変わってくる。

 もし、僕が、悪いポケモンだったら、

 ラーナに、迷惑をかけてしまう。

 ……それだけは、いやなんだよなぁ。


 意識が淀んでくる。


 ……あした、ラーナには悪いけど、ここを出よう。

 自分がはっきりしない限り、あんまり、甘えてもいられないよね。


 そのまま、メイは眠りに落ちていった。
BACK | INDEX | NEXT

■筆者メッセージ
プロローグはタイトルが流れるところまでです。

はい、原作沿いといいながら結構違う部分があります。

まず、主人公が人間であることすら忘れてます。
これはまたいずれわかってきます。

あと、タマタマは原作では出てきません。

原作沿いとはありますが、また違う部分が出てくるかもしれません。
更新は不定期になると思いますが、
気が向いたときにでも見に来てくれるとうれしいです。
風見鶏 ( 2014/06/01(日) 00:03 )