01
同じ夢を見る。
あかく、包まれる景色の中に、兄弟たちが、飲み込まれてゆく。
たすけて。
あついよ、たすけて。
まだ幼い兄妹たちの叫びが、脳裏に焼きついてくる。
目の前で、炎に包まれた我が家が、崩れ落ちていく。
「……!」
その光景を最後に、私の目は覚めた。
冷や汗が、尋常じゃない。
だが、鼓動は全速力でかけた後のように早い。
「……」
気分を落ち着かせようと窓を開ける。
外は、闇夜だ。
雨でも降るのだろうか、星ひとつない曇天。
「また、同じ夢を見たのかい?」
背後から、あどけなさを残す声が聞こえる。
「……うん」
私は振り向かずに返事をした。
「そっか、なら、僕がまた、その念を吸い取ってあげるよ」
私の視界のはじに、黒というよりは藍色に近い角らしきものが写る。
彼は、カゲボウズと呼ばれるポケモンだ。
話によると、人の恨みや悲しみ、そういう暗い感情を吸い取ってエネルギーにしているという。
「……どう? 楽になった?」
ふわりと私の前にその姿を晒す。
山吹色の瞳は、夜目によく映え、いかにもゴーストタイプとでも言うようだ。
「うん……少し」
先ほどよりかはだいぶ落ち着いてきているのが分かる。
これも、カゲボウズの力なのだろうか。
「まだ、朝までは時間があるよ。もう一眠りしたらどうだい?」
その言葉に、わたしは首を横に振った。
「怖いのかい? ……まぁ、落ち着くまでゆっくりするのも悪くないか」
ほのかの微笑を浮かべる。
……はじめに言っておくが、カゲボウズは、私のポケモンではない。
「ねえ、どうして、あなたは私にこんなによくしてくれるの?」
何度もした質問を、私は投げかける。
「……気まぐれだよ」
そして、答えはいつものフレーズ。
「僕は、いいポケモンなんかじゃないからね。
見た目どおりの、陰気なポケモンさ、
恨み、ねたみ、嘆き、悲しみ、それらを糧にする、浅ましいポケモンだよ」
目を細め、かすかに笑うような表情を見せる。
「……そう」
何度も聞かされた、そのフレーズには、もうほとんど興味もわかなくなってしまった。
「……それよりも、君のほうこそ、治療のほうは、進んでいるのかい?」
カゲボウズが、言葉を返す。
「……そこそこ」
脳裏に、嫌な光景がよみがえる。
医者の妙に同情した表情。
連れ添いの友人の、少し見下したような目。
甘えているしょうこだ。
こんなことなら、お前も、一緒に死んでいたらよかったのに。
鋭く、汚いものでも見るかのような、視線。
どこよりも、冷たい。
私の世界が、凍っていく。
「……悪いことを聞いたね」
それを断ち切るかのように、カゲボウズは言葉を出した。
「ううん、いいの……」
そう、だれも、悪くなどないのだ。
すべては、私が弱いせい。
居場所がないのも、私のせい。
「強くならないと……変わらないと……」
呪文のように、小さく、言葉が流れる。
自ら言い聞かせていても、ポケモンみたいに、自己暗示はかからない。
クラスメイトのように、明るい性格なんて、想像できない。
部活で練習している男の子のように、うまくは体を動かせない。
「やらなくちゃ……何とかしなくちゃ……」
それでもやらなくては、変われない。
変わらないと、居場所はない。
「だめだよ」
考えを断ち切るように、カゲボウズの言葉が思考の中に入ってくる。
「それじゃあ、いつまでたっても、君は、変われないよ」
その言葉も、何回聞いたかな。
そして、後何回、その言葉を聞かないといけないのかな。
カゲボウズだけじゃない、私の周りにいる人に、
何回言わせれば、いいのかな。
「変わろうと思って、変われるほど、生き物は単純じゃない」
いつの間にか、私は窓を背にして、ひざを抱え込んでいた。
曇り空の夜風は、湿った風を窓から流してくる。
カゲボウズは、私の右肩あたりに揺らめいていた。
「……きっと、なにかきっかけがいるんだと思う」
それも聞いた。
けど、それは、ただの願望なのだと思う。
きっかけというあいまいな言葉で、それにすがらせたいだけ。
些細な物事ひとつで、変われるのならば、どんなにいいだろう。
それならきっと、私はとっくの昔に、変われているのだと思う。
それでも変われないのは……。
ちがう、そんなのはただの言い訳だ。
はじめだって、そうだったじゃないか。
みんな、優しく、慰めてくれたじゃないか。
それを……。
「責めすぎちゃいけないよ」
カゲボウズの声が、思考を遮る。
でも……。
「確かに、失敗したことを、反省することは重要だよ。
けど、それで、前に進めないんじゃ意味がない」
……うるさい。
その説教じみた言葉も、何度も聞いた。
「今、君に必要なものは、過去を忘れて、現実に向き合う勇気だよ」
「うるさいっ! 分かったような口利いて!」
カゲボウズのいる方向に、こぶしを振りかざす。
鈍い音が響いた。
そして、痛みが襲ってくる。
後に残らない、突発的な痛み。
「気を悪くしたなら、謝るよ」
ゴーストタイプの彼には物理は通じない。
分かっているのに、体が動いていた。
「……いいよ。本当のことだもんね」
頭の中で、分かっているからこそ、そういう行動をした、と思いたい。
「……ねぇ、よければ、だけど、君の過去を、聞かせてくれないかな」
カゲボウズは先ほどの行動を咎めることもなく、違う言葉を投げかけた。
「……怒ってないの?」
いくら通じないからとはいえ、殴られる恐怖は、誰にとっても恐ろしいもののはずだ。
「怒らないよ」
平然と言う。
それが理解できない。
「いま、君は、壁を殴って、きっと、痛かったよね。
それだけで十分なんじゃないかな」
何を言っているかわからなかった。
「その痛みがあるから、君は悪いと思えたんだよね?」
あぁ、そうか……。
「幽霊の僕には、実際の痛みなんて、分からないけどね」
後に付け足したその言葉は、やや自嘲気味に聞こえた。
「……けど、心の痛みなら。僕にも、わかるんだよ」
改めて、カゲボウズが私の前に現れる。
真摯なまなざしだった。
「暗い感情を糧にして生きるポケモンだからこそ、なのかな。
君のその気持ち、嫌になるほど、わかっちゃうんだ」
そういう割には、カゲボウズは嫌そうな顔はしていなかった。
「だからこそ、ね」
あまり言葉を並べるのは逆効果だというのも分かっているのか、
それ以上言うこともなかった。
「……ありがと」
小さく言葉を吐いた。
「礼を言われるようなことでもないよ。
所詮、僕は君の暗い影に惹かれてやってきたポケモンだからね。
君が、更正したら、僕はまた、彷徨うだけさ」
そうだ。
そう、ずっと、いるわけではない。
それがいいのが悪いのかは分からない。
「どう捉えてもいいよ。
けどね、どちらかというと、死んでほしくはないんだ。
どんな理由であれ、ね」
カゲボウズの視線は私のパジャマの袖に向けられていた。
「……だめかな?」
「……ううん」
わたしは首を横に振る。
それで気持ちが楽になるかなんて分からない。
けど、変われるチャンスなのだとしたら。
少しでも、前に進めるのなら。
それにもう一度すがりたい。
カゲボウズの山吹の眼が、優しく細まった。
「私には、兄妹がいたんだ」
私は改めて窓から外を眺めていた。
「もうすぐ、六年になるかな。
二人いたんだけど、二人とも、いっぺんに死んじゃった」
今でも鮮明に覚えている。
「……場所を移そう。
ここじゃあ、説明できないことも、あるからさ」
あかい。
あつい。
同じ部屋で、震えていた。
同じ部屋で、おびえていた。
それなのに、どうして私だけが助かったのだろう?
答えは簡単だ。
あの時、私が落とした人形を拾いに行ったからだ。
大事な大事な、人形。
もう、黒くすすだらけになってしまっていたけれど、あきらめきれずに、前に飛び出した。
その瞬間だった。
唯一火が回っていなかった場所に、屋根が崩れてきたのだ。
どうしていいかわからずに、すすだらけの人形を持ったまま震えていた。
あついよぉ……あついよぉ……。
耳に張り付いている声。
たすけて……たす……。
「……!」
おもわずみをちぢ込ませる。
「……ついたよ」
そしてたどり着いたのは、小さな倉庫。
あの時、わずかながら残った残骸。
私と、兄妹たちの思い出。
焼け跡から見つかった、思い出の燃えカス。
「ここに、何があるんだい?」
私は黙って、南京錠をはずす。
それ以上カゲボウズも何も言わなかった。
扉を開けると、ほこりっぽいにおいが立ち込めた。
長い間、あのときからあけていないから当然だろう。
「……」
入り口の台に置かれた、古ぼけたランプに、火をつける。
多少焦げ臭いにおいがしたが、明かりに問題はない。
「これは……ひな人形?」
明かりとともに出迎えたのは。ひな壇に飾られたひな人形たちだった。
「うん……」
どれもこれも、真新しい。
「……あれ、下においてあるのは、なんか、違うね」
カゲボウズは早くも見つけたらしい。
ひな壇からはじかれるように片隅に置かれてあるそれは、
ひな人形の主役である、親王妃(おひなさま)と、親王(お内裏さま)だった。
「……よく見ると、ひな壇の一番上にも、飾られてない。
……もしかして、これが、君の話したいものって言うのかい?」
首を縦に振る。
「半分は、そう、かな」
焼けたひな人形。
私が大事にしていた人形とは違うけど、これも、大事な人形には違いない。
「あの日はね、ちょうど、ひな祭りの日だったんだ。
そして、このひな人形が飾られていたの」
今飾られているのとは違う、三人官女や、五人囃子もいた。
「だけど、それも、火事によって全部燃えちゃったんだ。
その中で、唯一のこったのが、これなんだ」
それだけなら、まだ、偶然の範囲に思える。
「……なんか、あるのかい?」
表情から読み取ったのか、カゲボウズが尋ねる。
「うん……」
誰にも信じてもらえない話。
偶然だといえば、それで済ませられてしまう。
「この人形は、私の兄妹の骸の下から、見つかったんだ」
私には、これは偶然とは思えなかった。
「いまでも、偶然じゃないと思う、まるで、この人形が、
死んだ兄妹の生き写しみたいに思えて、仕方がない」
くだらないと思われるだろうか?
「いまでも、これを見ると、少し怖い。
あの時、一人だけ助かったわたしを、妬ましく思っているんじゃないかって。
あの時、何も出来なかった私を、恨んでいるんじゃないかって」
また、冷たい目で見られてしまうだろうか?
「……」
カゲボウズは、眉をひそめた真剣な表情で人形を見つめている。
「……やっぱり、変だよね」
ほこりを払い、空いた場所に座る。
「なんなんだろうね。やっぱり、私が思い込んでるだけなのかな?」
不思議と、これまでのような暗い気分ではなかった。
「……思い込み、か」
ポツリとカゲボウズがつぶやく。
「君が、そう思っているならば、そうなのかもしれないね」
その言葉を聴いたとたん、光があるのに、目の前が暗くなったように思えた。
「……」
震えが走る。
「どうしたの? 僕は、事実をいったまでだよ?」
カゲボウズの声が聞こえる。
「……」
そうなんだ。
私は、やっぱり……。
「悲しいかい?」
カゲボウズはなおも言葉をかけてくる。
「……人間っていうのは面倒な生き物だよね。
……それは、ポケモンも同じか。
中途半端な情報だけで、自分の中の真実を作り上げてしまう」
無表情で語る。
「生きることって、そんなに罪なことなの?
君が、兄妹たちを、踏みにじったりしたの?
……そんなことないよね」
何も言葉を出せなかった。
嘘を言われたことに対する憤り、
そして、先ほどの言葉が真実ではないという安堵、
入り混じった感情が胸を渦巻く。
「……本気で、その人形が生き写しだって、思うかい?」
言葉を再び出す。
「……」
私は答えなかった。
「そう、思い込みたいのかな?」
再びカゲボウズが言う。
その言葉は、今まで聞いてきた誰よりも、真摯な響きだった。
「……これから話すことは、多分、君からしたら、突拍子もない話だと思う。
けど、作り話じゃない、信じてくれるかい?」
カゲボウズが言う。
私は、黙って首を縦に振った。
「この人形には、君の兄弟たちの、心が詰まっている」
「……?」
一瞬意味が分からなかった。
「身も蓋もないことを言えば、怨念が宿っているってことかな」
その言葉に、わたしの体にまた冷や汗が滲んだ。
「なんだってそうだよ。物に心は宿らない。
けど、使い続けてきた、所有者の想いは、その物に宿るんだ」
淡々と話すカゲボウズ。
一方の私は、面食らったような感じで、黙って聞いているしかなかった。
「……きっと、君のところにいたかったんだろうね。
そうじゃないと、こんなものは、残らない」
優しく、眼が細められた。
「……まって、それなら……なんで、このひな人形に宿ったの?」
私は言葉を返す。
そもそもひな人形は、三月の短い間しか飾らないはずだ。
現に、私の家も、毎年、短い間だけ飾っている。
「……ひな人形の由来って、知っているかい?」
カゲボウズは語りだした。
「元はね、ひな人形は、紙の人型だったんだ。
自分の生年月日を書いて、自分の身に降りかかる災難を人型に移して、川に流す。
いわば、分身に近いものかな。
……本人は、死んじゃったけどね」
だから……?
「そのひな人形、見てみなよ」
カゲボウズに言われるがまま、私は人形を見た。
文字がかすれているが、服の中に、私と兄妹の名前が書かれていた。
「あ……」
思い出した。
初めてひな人形が家に来た当初、
この二体に、三人の名前を書いたのだ。
何で忘れていたのだろうか。
大切な兄妹との思い出のはずなのに……。
「それがあったから、この人形が残ったのか。
それまでは分からない。けど、この人形が君を見守るためにここにあるのは事実だよ。
……後は、君が、どう捉えるかしだい、だね」
気休め、なのかな。
何も根拠なんて、ないはずなのに、とても、心が温かい。
「……」
胸に手を押し当てる。
鼓動は規則正しく、落ち着く。
「……私、兄妹が死んでから、ひな人形を飾らなくなったんだ。
きっと、怖かったのかもしれない。新しいひな人形もろとも、
ずっと、この倉庫に眠らせてた」
もう一度、ひな人形を見る。
「……間違いだったんだね。逃げてただけだった。
誰にも話さず、ずっと、ふさぎこんだままだったんだ」
欲しかったのは何だろう?
優しさだったのだろうか?
それとも、居場所だったのだろうか?
簡単だった。
過去を振り返る勇気、それだけだった。
「ありがとう……カゲボウズ」
今度は真心をこめて。
「どういたしまして」
カゲボウズも、返事を返した。
「……空、晴れたね」
倉庫を後にし、庭で空を見上げる。
きれいな夜空だ。
「そうだね」
カゲボウズも、一言言葉を返した。
「ねぇ……カゲボウズは、どうして、私にあそこまでしてくれたの?」
この質問は、さっき私の部屋でした質問だった。
「また同じ質問をするのかい?」
カゲボウズは冗談っぽく笑う。
だが、私は笑わなかった。
「……なんだかさ、もう、会えない気がするんだ」
なんとなく、だ。
「……」
カゲボウズも黙る。
「カゲボウズは、暗い気持ちを糧にするんでしょ?
なら……もしかしたら、もう、私のところにはこないんだよね?」
その言葉に、少し間をおいて、カゲボウズは答えた。
「……何を言うかと思えば、いいことじゃないか。
それは、君が、更正したって言う証拠だよ?
むしろ、喜ぶべきなんじゃないかな?」
「いやなんだ」
カゲボウズの表情も、真顔に戻る。
「うまくいえない……けど、いやなんだ。
カゲボウズがいなくなってしまうのが」
なんなのだろう?
こみ上げてくるものが、抑えられない。
「カゲボウズってポケモンは、
暗い思念を吸い取った後、また、糧を求めて彷徨うのが性さ。
一箇所になんか、とどまれない」
あくまでも無表情に、カゲボウズはつぶやいた。
「……だったら、だったらなんで私のところには長くいたの?」
「……」
私の言葉に、カゲボウズは黙り込んだ。
「答えて」
「……わかったよ」
やがて、ため息をつくと、言葉を出した。
「これ、覚えているかい?」
カゲボウズの眼がひかり、空中に見覚えのある人形が浮かんだ。
「……!」
すすだらけの古ぼけた人形、多少痛みが目立つが、忘れようがない。
私が、大事にしていた人形だ。
「どうしてこれが……」
この人形は、兄妹が死んだ時に捨てたのだ。
何もかも忘れてしまおうと。
「簡単だよ。僕は、ジュペッタに進化しようとしてたのさ」
カゲボウズは進化するとジュペッタになる、
ジュペッタは人形を媒体としたポケモンだ。
「けど……惹かれてしまったんだよ。この人形に、ね」
またひとつカゲボウズはため息をつく。
「そして、この人形も、もう使えない」
その言葉とともに、人形がわたしの足元に落ちる。
「だって、持ち主が目の前にいるんだもの」
カゲボウズの表情は、言葉とは裏腹に、むしろうれしそうだった。
「また一から、僕は、探さないといけないな」
わざとらしく、言葉を言う。
「……いいの?」
私は信じられないとでもいうようにつぶやいた。
「……うん」
カゲボウズも、先ほどと切り替え、言葉を返した。
「この人形には、君の想いがたくさん詰まってた。
うれしいこと、悲しいこと、辛いこと全部。
それを、もう持ち主に会えずに、永遠と彷徨うなんて、悲しすぎるからね」
その言葉は、これからジュペッタに進化しようと思う彼には似合わなさそうな言葉だった。
「……誤解してほしくはないな」
表情から読み取ったのか、カゲボウズが継ぎ足す。
「僕たちは、暗い感情を糧にして生きている。
けど、人に危害は加えないし、むしろ、立ち直ってもらいたいんだよ。
ジュペッタも同じ、もし、それが未練あるものだったら、持ち主に返してあげたい。
それが本音だよ、少なくとも僕の、ね」
少し小さく、それでもはっきりと、カゲボウズは言い切った。
「……もし、私がたずねなくても、結局は人形を置いてったんだね」
顔が緩んでいるのが感じる。
「はじめて笑ったね」
カゲボウズがいう。
あぁ、これが笑顔か、久しく忘れていた気がするなぁ。
「ありがとね、本当に……」
今度は、私も認める、笑顔。
「ふふ……、どういたしまして」
カゲボウズも、めいいっぱい目を細めての、笑顔。
「それじゃあ、僕は、そろそろ行かなきゃ、ね」
明るみがかった空を見て、カゲボウズがつぶやく。
「そっか、……お別れだね」
私の片腕には、カゲボウズの届けてくれた人形が抱かれている。
……少し寂しい、けど、もう、辛くない。
「うん……さようなら」
白んだ空に、カゲボウズの姿が、飲み込まれていく。
できることなら、もう一度会いたいな。
けど、会わないほうが、幸せなのだ。
「バイバイ!」
片腕を振る。
大切なことを、思い出させてくれたポケモンに、精一杯の感謝を記して。
「……さようなら!」
最後も笑顔で、ね。