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第1章
第17話:暗躍する男
『逮捕された鳳凰会のランス氏ですが、未だ犯行を一部否認しております。しかし証拠は出揃っており有罪は確実とのこと。さらに、この団体の職員並びに支援していた企業にロケット団関係者と疑われる人物が多数おり、警察は引き続き捜査を進めております……』
 セキチク空港の喫煙室で、キョウの一番弟子のジョージはぼんやりとテレビを眺めながら煙草を燻らせていた。見るからに凶悪そうな風貌は、他の利用者がその部屋に立ち入ることを遠慮させる。一人を満喫していると、自動ドアが開いて和装の男が入ってきた。その姿を見るなり、ジョージは慌てて煙草を灰皿にねじ込むと、深々と頭を下げる。
「おざっす」
 彼の目の前に、煙草の箱が差し出される。
「消すことないだろう」
 和装の男――キョウは煙草を一本咥えながら、まだ中身が殆ど減っていない箱を弟子に押し付けた。
「いいんすか」
「セブンスターだけど。お前なんだっけ?」
「ハイライトっすね。いや……でもありがたく。最近、高くって……」
「だよなぁ……。喫煙者は肩身が狭い。娘にも取り上げられるし」
 キョウが煙草に火を付けるより早く、男がすかさずライターを差し出す。彼は思わず苦笑した。
「キャバクラじゃないんだから……」
「や、死ぬほどお世話になったんで」
 頑なに引かないジョージに、キョウは渋々煙草を火に近づける。喫煙室に一本の煙が舞い上がった。
「すぐ釈放されたんだな」
 キョウは煙を吸いながら、弟子に尋ねた。彼はにやりと微笑む。ランスがジョージも共犯だと訴え任意同行させられたのだが、アリバイが完璧ですぐに釈放されたのだ。
「ええ、アリバイばっちりでしたからね。オジキ、さすがっす」
「俺さ……、何もしてないから」
 突き刺すような視線を向けられ、慌てて弟子は頭を下げた。
「あ、そうでしたね。オレも、無罪っすから。心機一転、イッシュで頑張らねーと!」
「しばらく戻ってくるなよ。ロケット団が壊滅するまでは」
「そっすね。……あの、オジキ」
 ジョージは師匠に向き直ると、背筋を伸ばし、両手を腿にぴたりとくっつけた。キョウは目線だけをそちらに動かす。
「お世話になりました。このご恩は、一生忘れません」
 ジョージは深くお辞儀した。その風貌からは全く想像もできない程の、きちんとした礼。それは彼を引き取ったとき、キョウが最初に教え込んだものだった。思い出しては何とも感慨深い気持ちになる。
「俺、そういうの弱いから辞めてくれよ」
 目を潤ませる気配もなく苦笑するキョウを見て、ジョージはぼんやりと思いを巡らせていた。
 
+++
 
 ジム大掃除――バッジ紛失の前夜。
 ジョージはジムの外でキョウを呼び出した。駐車場に車が入ってくる音を耳にした彼は、すぐに外に出て停まっているレクサスに乗り込んだ。
「おざっす。夜分すみません」
「盗聴器の件?」
 ドアを閉めるなり、キョウが前を向いたまま尋ねる。そして徐にドアポケットから煙草を取出し咥えると、すかさずジョージが火を付けた。
「……気付いてました?」
「昨日。耳のいいクロバットならすぐ気付く。そんなことウチの弟子なら皆知ってるから、外部だろうな」
 彼は煙草の煙を吐き出しながら、眉をしかめた。
「昨日の朝、電気屋がチェックに来たんンすけど、多分それッスよ。で、さっきオレに仕事依頼しに来ました」
「へえ」
「鳳凰会のランス、そいつが雇い主らしいです。でも仲介はロケット団くさくて。裏とってなくて予想ッスけど」
「ほう」
 キョウの瞳孔が僅かに開く。
「オジキを蹴落とそうとしてるみたいッス。ジムから重要書類を盗み出せと……」
「明後日、ジムリーダー会議だからか。……鳳凰会もゲスな真似するんだなぁ。まあバックにロケット団がいるんならそんなものか」
「これ、盗聴器と一緒に警察に突き出したら相手終わりじゃないッスか?」
 ジョージは嬉々としてキョウに尋ねる。尊敬する師匠を蹴落とそうとする者たちが許せなかった。
「盗聴だけじゃしょっぴけねぇよ。盗聴器が鳳凰会のモノって証拠もない。それに、お前みたいなのが訴えたところで返り討ちだ」
 淡々と反論され、ジョージは過去を悔やむように身体を丸める。
「……仕事してやったらいいんじゃないか?」
 その提案に、弟子は耳を疑った。
「バッジのマスター、あれ無くなったら俺は四天王取り消しだろうなぁ……」
 そう言いながら、キョウは革のキーケースをジョージの掌に乗せた。悪意に満ちた笑顔は、前科者のジョージでさえも背筋が凍りつくほどだった。
「オジキ……」
「お前がロケット団に目を付けられたのは、一番再犯の可能性が高い上に金で動かせそうだってことだよ。手を焼かされたし……今も時々苦情が来る」
「……すんません」
「だが結果、一番弟子になったと思ってるけどな。留守の対応も、スコアレポートの内容も良い。何より、買収を持ちかけられた話を俺にするんだから、もう問題ないと思ってる」
 と、嬉しそうに微笑む師匠に、ジョージは思わず目頭が熱くなった。窃盗と暴行の罪で服役し、刑期を終えてからジムに引き取られ、キョウには散々反発してきた。毎度返り討ちにされ幾度となく迷惑をかけても、彼はこうして飄々と自分を理解してくれるのだ。こんな屑のような自分に、家も仕事もくれる……。
「今の職場蹴って、イッシュでやれるなら……引き受けろ」キョウの目の色が変わる。
「……イッシュ?」
「そこなら、ロケット団も報復には来れない。意外と規模が小せえからな。仕事は俺が探してみる」
「分かりました。どうすればいいっすか」
 ジョージは覚悟を決めた様に深く頷いた。これは自分が師匠に恩返しをする最大のチャンスである。
「これは独り言なんだが。鳳凰会のリーダーを呼び出し、報酬と引き換えにバッジのマスター渡すだけでいいんじゃないか。バトル反対を掲げているんだ、奴らのポケモンはストレスで言うこと聞かなくなってるんだろうな。マスターがあればそれが改善できるって、教えてやれよ。ついでにロケット団の件も探って警察に流すと喜ぶはず」
 それから彼はランスを呼び出す場所、アリバイ工作の方法などを細かく指示した。上手くいけば、多少疑われたとしても無罪放免になる完璧なシナリオ。ジョージは思わず身震いした。そういえば、反発して再犯を犯しそうになったときも運よく抜けられたことがある。今思えば、他の弟子たちも何度かキョウに逆らって暴れたことがあるのに、法的に罰を受けることなく過ごせている――俺たちツイてる!なんて笑い飛ばしてはいたが。それは、本当に運だけなのだろうか?煙草を燻らす師匠の無表情な横顔は、恐ろしい寒気を覚えた。
 
 それは空港の喫煙室で並んで煙草を吸っている今も感じる。彼から離れることは、後ろ盾がなくなる不安とほんの少しの安心を覚えるのだ。
「ありがとうございました。イッシュ行ったら、速攻CS契約して試合見ますんで!」
 ジョージは喫煙室を出ると、もう一度キョウに丁寧に頭を下げた。
「頑張れよ」
 そう言いながら、彼は左手を丸めて彼の前に突き出した。ジョージは思わず目を丸くする。
「うお、オジキそういうのやるんだ」
「うるせえな、うちのチャンピオン様の受け売りだよ」
 二人で笑い飛ばしながら、拳を突き合わせる。
 保安検査場に向かう弟子を見送りながら、キョウは懐から一枚の写真を取り出した。ジョージがスコアレポートのファイルの間に挟んで彼に渡した写真だ。そこにはジムの傍の建物の陰で、盗聴をするランスの姿が写っている。彼はそれを無言で破って丸めると、近くのくず入れに投げ捨てた。弟子の姿が見えなくなったところで、キョウは身を翻し出口へと向かう。窓の外にはセキチクの穏やかな風景が広がっていた。
 
+++
 
 やや活気を取り戻しつつあるセキエイのショッピングモール。
 そのオープンカフェの片隅でワタルはコーヒーを飲んでいた。店員や客たちが、彼の姿を見つけて浮足立つ。気にしないふりをしていると、テーブルの反対側に大きな女優帽とサングラスをした女が腰を下ろした。
「こんなところで話すの?」
 女がサングラスを外して、柔らかな微笑みを浮かべる。元同僚のカンナであった。
「え、駄目かな」
 ワタルは慌てて周囲を見回した。この様子を目撃した誰もが、二人を恋人だと思い込んでしまうだろう。
「勘違いされそう。あなた今、パパラッチがすごいもの」
「そんな気はないんだが……。店変えようか」
「構わないわ。――あの、アイスコーヒーとフルーツパフェ」
 カンナが前を横切る店員を捕まえて注文をする。目を丸くしているワタルに苦笑した。
「食べないとやっていけないわー。元恋人が捕まっちゃって、こっちにも煽りが来てるの」
「……すまない」
 手元に影を落とすワタルを、カリンがぎこちない笑顔でフォローする。
「ううん、いいの。どんどんおかしくなってくランスをもう見ていられなかった。犯罪まで犯して……あの方法で、歯止めをかけて良かったと思ってる。セキエイも汚名を返上したしね」
 ランス逮捕の中継は全国にセンセーションを呼び、ワタルや四天王の評判を一気に跳ね上げさせた。鳳凰会は解散を余儀なくさせられており、毎日荒探しのニュースが飛び交っている。それは支援していたカンナにも飛び火していた。起用されたばかりのスポーツキャスターの仕事を失い、現在は実家のナナシマでひっそりと暮らしているらしい。
「ランスに捨てられてから、まだちょっと引きずってたの」
 カンナは少し陰のある表情で、苦しそうに告げる。
「でも、あの日ワタルに連絡を貰って……罪を犯しているって聞いたとき、決意したの。きっぱり忘れようって」
「……」
「ありがとう、あなたのお陰よ。まだ完全には回復できてないけど、すぐに調子を取り戻すわ」
「……」
 店員がフルーツパフェを運んでくるなり、カンナはそれを楽しそうにスマートフォンで撮影する。食事の写真を撮る癖は、昔と変わっていない。ワタルはぼんやりとあの日の出来事を回想する。
 
+++
 
 マツノに呼ばれ急いで部屋を出ようとしたとき、ノック音がした。ドアスコープで確認するなり、ワタルはすぐに扉を開ける。
「おはよう」
「キョウさん!どうして……」
 和装のキョウが口元だけ微笑む。左手の人差し指と親指で「少しだけ」と仕草をした。
「いや、今本部が大変なことになってて……」
 横をすり抜けようとするワタルを、彼は突き飛ばすように部屋の中へ引き戻した。体格は同じか彼の方がやや細いくらいなのに、力を抜かれるような威力にワタルは思わず動揺する。キョウは気にせずドアを閉めた。
「なんで……」
「それ、俺が原因なんだよ。こいつにバッジのマスターを盗られた」
 彼は一枚の写真をワタルに見せる。隠し撮りのようなアングルで、盗聴器をじっと聴き入っているランスの姿が写されていた。状況が呑み込めず、ワタルは目を白黒させる。
「ランス……!ちょ……、どういうことですか」
「もうすぐニュースになる。元ジムリーダーの四天王がバッジのマスターを紛失――そういうネタを鳳凰会がマスコミに流して、本部に問い合わせが殺到してる」
「……鳳凰会が!?事件をでっち上げるなんて……そんな」
 ワタルは絶句した。
「よりよってうちのジムに忍びこんで盗聴器を設置するなんて、あちらさんも勇気あるね」
 と、言いながらキョウはアルミホイルに包んだ盗聴器を見せた。先ほどの写真はこれを聴いていたのだろう。
「もしかして、イツキの件も?」
「おそらく」
 言われてみれば、ランスに見せられた動画ではプテラ救出のシーンはカットされていた。ただのポケモン保護団体と思っていたが、自分たちを陥れるためにここまでするのかと、ワタルは心底失望した。
「……バッジが無くなったのが発覚したのはいつですか?」
「ちょうど1週間前で、ジムの掃除中に発覚。翌日のジムリーダー会議で報告して、本部へは伏せて裏で調べてたが向こうから痺れを切らして公にされちまった」
「報告、遅いですよ……」
 ワタルは頭を抱えながらキョウを睨んだが、彼は反省する様子などまるでなく、愉快気に窓の外を眺めていた。この部屋は本部タワービルやスタジアムが一望できる。既に本部の玄関前には、鳳凰会や報道陣がちらほらと集まり始めていた。
「すまないね、ジムリーダーにも仲間がいるんじゃないかと思って。ロケット団も絡んでいるらしいし、昔サカキの件もあったから、またかと思って会議内だけの報告に留めて反応見てたんだが、杞憂だった」
 サカキ、と聞いてワタルは顔を上げる。だが今はそこを気にしている時ではない。すぐに思い直した。
「っていうかあなたオレに何をさせたいんですか?」
「あいつがバッジを持ってるから、報道陣の前で吊るし上げてほしい」
 ワタルは絶句した。
「証拠はあるんですか……?嘘だったら、どんでもないことに……」
「それは確実だ。裏も取ってる。ポケモンを戦わせずに無視されていたようだから、マスターを手にいれて浮かれてるようだな。……これは成功する。そうすればセキエイの汚名も返上して粘着する鳳凰会を潰すことができる」
「そこまでやる必要ありますか?わざわざ晒し者にしなくても、試合が始まればみんなきっとオレ達を見直してくれるはず……」
 頑なに拒否するワタルに、すかさずキョウがその襟を掴んで黙らせた。
「甘いんだよ」
 憤りを露わにした凍てつく瞳に、息が止まりそうになった。
「勝つだけじゃ、散々撒かれた不審の種は潰せない。上辺だけの信用を取り戻したって駄目なんだよ、本当にやましいことがなければ、それを大衆にアピールすべきだ。これはその絶好の機会だろ」
「確かに、そうだが……」
 脳裏に浮かぶ、カンナの顔。鳳凰会に反撃すれば、彼女に被害が及ぶことは確実だ。四天王脱退の際も散々迷惑をかけたというのに――万が一、ランスの件に関わっているのなら大変なことになるだろう。カンナに対する罪悪感と、セキエイの信用を取り戻したい正義感が葛藤する。どうすればうまく丸め込めるのか。ワタルがベッド際に腰を下ろして悩んでいると、ふいにキョウが問いかけた。
「……なあ、なんで戦わないんだ?」
 ワタルは思わず顔を上げる。
「君、悔しくないのか?根も葉もないバッシングを受けて……反論は基本的にノーコメント。相手はますます過激になるに決まってる。俺たちはボスの反撃を待って黙ってるけどな、いい加減鬱陶しい。カリンにも言われただろう?」
 
 ――みんなあなたのように打たれ強くない。このまま黙ってるつもり?
 拳を振り上げた、カリンの怒りに満ちた表情を思い出す。
 
「ま、君が行かないんだったら、俺が警察に届け出て夕方のニュースに間に合うよう鳳凰会をしょっぴいてもらうだけだ」
 キョウは写真や盗聴器を仕舞いながら部屋を去ろうとする――ワタルはすかさず立ち上がった。
「待ってくれ……!」
「娘が学校行ってる間に何とかしたいんだよ」
 彼は苛立ちながら振り返る。家族――ワタルは少し視点を変えた。自分たちがバトルで見返したとしても、家族や裏方のスタッフまではケアしきれないかもしれない。それを考えると、もう選択は一つしかない。
「……分かった。どの道、鳳凰会は終わりってことならば。チャンピオンとして、セキエイに挑む挑戦者を迎え撃つことにします」
「なるほどね。その意気だよ、俺達が見たいのは」
 キョウは満足そうに目を細めた。
「ただ、ランスの恋人が元四天王でオレの仲間なんです。彼女に連絡だけさせてください」
「……信用できるのか?告げ口されたら台無しなんだが」
「任せてください。オレを信じてくれ」
 そこには何の確証もない。だが威風堂々としたワタルの風格と、たぎるような熱意は必ず目的を成し遂げられる――そう確信させる。キョウにとって羨ましくなるほど勇ましい顔つきをしていた。
「分かった。バッジの件は上手く引き出させろよ?……あ、何ならプロを呼ぼうかな」
「??」
 彼はワタルに写真以外の証拠品やバッジの検査機を手渡し、詳細な事情を説明する。一通り話が終わると、時計を見て意外に時間がかかったことに仰天していた。
「じゃあ俺は総監に呼ばれてるんで、とりあえず怒られてくるわ」
「……ありがとう」礼を言いながら、ワタルは右手の拳を彼の前に突き出した。「健闘を祈ります!」
 心から応援するようなワタルの熱意に、フィストバンプが嫌いだったキョウも「え……、あ、はい」と、ぎこちなく左手の拳をそれに合わせ、そのまま部屋を出て行った。
 
+++
 
 そんなことを回想しているうちに、目の前にあったフルーツパフェは半分に減っていた。
「ところで、シバは元気?」
 カンナに尋ねられ、ワタルはふいに現実に引き戻される。
「……あ、ああ。いつもと変わらないよ。トレーニングばかりに励んでて……ちょっとは宣伝もしてくれればいんだが」
「相変わらずねぇ。恋人とかできないのかしら。……あ、カリンとか!」
 カンナはスプーンをワタルに向けながら、嬉しそうに話す。
「いや……。あの二人は……ちょっと、どうだろ」
 硬派なシバは、気ままで派手なカリンとよく衝突していた。それを思い出してワタルは苦笑する。
「もしかしてカリン狙ってるの?」
 カンナが目を輝かせながらワタルの顔を覗き込む。これほど恋愛話に食いつくとは思わず、彼は呆気にとられていた。
「それはないない。仕事と恋愛は別だよ。……って、あの子と親しいのか?」
「うん、3つ下なんだけど友達なの。すごく強いわよね〜。私も現役の頃、練習で負けることもあったわ……。ちょっと勝気だけど、ポケモンを大事にするいい子なのよ」
「分かるよ」
 うっとりと語るカンナにワタルも頷く。あのポケモンとの信頼関係は、正直自分とカイリュー以上かもしれない。
「美人だしねー。羨ましいくらいモテてたわ。……ワタル、あなた恋人いないんでしょ?」
 と、カンナがコンタクトを光らせながら迫ってきた。
「いないけどさ……、だからオレは!」
「あんないい女、ほっとくのは勿体ないわよ!今こそ仕事と恋愛の垣根を超えるべきよ。……それは言い過ぎかもしれないけど、あの子は紅一点だから守ってあげてね」
 彼女は柔和な微笑みを浮かべながら、可愛らしく首を傾ける。
「ああ、分かった」
「じゃ、私はこれで」
 パフェを食べ終えたカンナは伝票を手に取ろうとするが、すかさずワタルはそれを掴んでテーブルの下に隠した。
「大丈夫」
「ありがと!それじゃ、お言葉に甘えちゃうわ。……ほーんと、優しいわね。カリンいっちゃいなさいよお!」
 サングラスをかけたカンナが、口をすぼめながら大げさにポーズをとる。ワタルは苦笑しながら受け流した。ともあれ、彼女はきっとすぐ立ち直るだろう。ほっとしながらその後ろ姿を見送り、残りのコーヒーを飲み干した。

鈴志木 ( 2013/07/24(水) 10:28 )