ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者








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第6章 世界樹と彼女の役目
M-82 守護者と世界の掟
 ――長い、沈黙。

 衝撃の発言をしたハーブも、それを聞いたサファイアも、部外者が入らないように扉を押さえるマロンまでも。休日の静かなフロールタウンとは違った、重苦しい空気が漂う。

「……私が、この世界から、消える?」

 それでもいち早く沈黙状態から脱したのは、サファイア。何とか絞り出したようなその声は、所々掠れていた。

「……ええ。もっと詳しく言うならば、"魂"が消滅する。言い方を変えるなら、"世界"に"殺される"」

「え、あ……ど、どういうことですか!?」

 物騒な言葉を並べ立てられ、半分パニックになりながらハーブに詰め寄る。そんなサファイアに、ハーブはどこから話したものか、と思案した。

「この世界は、遥か昔はポケモンとニンゲンが共存していた。そして、ニンゲンとポケモンの争いによって、世界は二つに分けられた。ここまでは、いい?」

 この話は、サファイアも神話で聞いたことがある。このレベルだと大体のポケモンが知っているため、ハーブもサファイアの反応を特に気にすることはない。

「次に、ニンゲンやポケモンは、互いに別の世界では生きられない。これは、どう?」

 この情報となると、知っているポケモンは一気に減る。しかし、どこかで聞いたことのあるような話に、サファイアは必死に思い出そうとして。

 ――『別世界の存在が入り込もうものなら、そいつはすぐに始末されるな』

「あっ! た、確か……聞いたことがあります! えっと……」

 エメラルドを回収に行った際に告げられた、ドンカラスのレオの言葉を思い出す。更に、この話にはまだ続きがあった。

 ――『世界に適合しない者は"黒の力"により異物と見なされ、いずれ消滅……まあ存在が消える以上死ぬようなものか――することになるのさ』

「あ……」

 芋づる式に思い出したレオの言葉を思い出し、再びサファイアは言葉を失う。同時に、そんな大事なことをレオ自身の力の情報にかき消され、すっかり忘れていた自分に不甲斐なさすら感じる。
 そんなサファイアの様子から、何かしら知っているらしいと判断したハーブは説明を続けていく。

「普通のニンゲンがポケモンの世界に入ると、世界には"異物"と見なされる。そういうニンゲンは、黒の力によって消される。これはポケモンがニンゲンの世界に入った時も同じ。それが、昔からの決まりなの」

 ハーブが並べていく言葉は、レオが告げた内容とほぼ同じ。守護者の妹であるハーブの口から語られることで、その内容は信憑性をぐっと高める。
 それを聞いていよいよ混乱してきたサファイアは、それでも抜け道はないかと働かない思考を無理矢理回らせる。

「じゃあ……星の停止を食い止めた探検隊のリーダーは、ニンゲンだったという噂は……」

 サファイアが出したのは、大陸の英雄の噂。その探検隊のリーダーは、暗黒の未来を変えるために過去に来る途中、ニンゲンからポケモンになった、と言われている。
 そこに何かヒントがないかと聞くサファイアに、ハーブはゆっくりと首を振った。

「その噂は本当らしいけど、ほぼ例外と考えていいわ。どうも時間を渡るときに事故があったようで、魂ごとニンゲンからポケモンに変質したみたい。どうして未来にニンゲンがいたかはまだ分かってないけど……」

 つまり、ニンゲンの魂からポケモンの魂への変質が起こらない限り、黒の力は分け隔てなく襲い掛かる。それが、珠玉の守護者その人であったとしても。

「魂の、変質……?」

「ニンゲンからポケモン、またはその逆になる時に起こることよ。魂の変質が起こればほとんどの記憶は消去されて、どうやっても記憶を思い出すことは出来なくなる。けど……」

 ハーブはサファイアに視線を合わせ、小さくため息をつく。ハーブと言えど、こういった問題に対しては無力でしかない。
 例えニンゲンがポケモンの体になっても、魂もポケモンに変質していれば全く問題ない。が、サファイアはそうではない。

「サファイアの場合は、カケラを集めて"記憶を取り戻して"いる。これは、魂の変質が起こっていないことの証拠」

 サファイアは宝石に触れると、記憶を"思い出す"。これは、サファイアの体はポケモンでも、魂はニンゲンのままであることのこの上ない証明となる。

「今までは、守護者を助けようとする宝石の力が、黒の力を押しのけていた。けど、珠玉がサファイアの手元から離れれば、世界の掟からサファイアを守ってくれるものは、なくなる」

「じゃあ、私が消えずに生き残るには……」

「珠玉をポケモンの世界に置いた上で、珠玉の側から片時も離れないようにするしかないわ。正直に言って、かなり難しいけど」

 ハーブが示した、唯一サファイアが生き残るための道は、ずっと珠玉の側に留まり続けること。
 もちろん安置しなければならない場所は決まっているため、そこからサファイアは離れることが出来なくなる。

「あそこはかなり特殊な場所だし、暮らすには退屈過ぎる。探検活動なんて論外だし、エレッタやミラにも会えなくなると思っていい」

「……そんなの、消えるのと……殆ど変わらないじゃないですか……」

 結局どちらに転んでも、今の生活は続けられない。その上二人に会えなくなるのならば、何のために生きているのか分からない。
 今まで探検活動を存分に楽しんでいたこともあって、それ以外の生き方などサファイアには想像出来なかった。

「……ごめんね。こればっかりは、私にもどうすることも出来ない。解決策も探してみたけど、まだ見つかっていないの」

 申し訳なさそうに謝るハーブに、サファイアは首を振る。こんな事態になったのは、ハーブのせいではないのだ。

「……少し、考えさせて下さい。神殿から帰る時には、ちゃんと決めてきますから……」

 一回大きく深呼吸をしたサファイアは、俯かせていた顔を上げる。
 その顔は普通によく見る表情ではあるが、ハーブやマロンから見れば今の話に混乱しているのは簡単に読み取れる。
 くるりと身体の向きを反転させたサファイアは、親方部屋を出ていく。

「……サファイア……」

 そんなサファイアを、残された二人は複雑な面持ちで見送るしかなかった。

〜★〜

 サファイアを待っていたエレッタの質問を軽く受け流し、出来るだけいつも通りを装うサファイアを加えた三人は"ヘルメス神殿"に向かう。
 幸い神殿までの距離は短く、辿り着くまでに大して時間はかからない。ただ山に囲まれた地にひっそりと建てられているので、普通に通過する分にはまず気付かれないだろう。

 ふらわーぽっとから歩き続けて昼になった頃、サファイア達はヘルメス神殿に到着した。
 白を基調とした、なかなか大きい神殿の入口には重そうな扉があり、サファイア達の背丈では届かないような位置に取っ手がついている。
 このままでは扉を開けられそうもないので、中に入るには管理人に頼む形になるのだろう。

「で、肝心の管理人とやらはどこよ」

「さあ……? 今はいないのかな?」

 扉の前には、今のところ誰もいない。手分けして探した方がいいかも、とサファイアが思った矢先に、ミラが何かに気付く。

「サファイア、エレッタ! 上!」

 そうミラが言い終わる前に、三人の立つ場所が突然影に覆われる。
 サファイア達が上を見上げると――ドラゴンの姿をした大きなポケモンが、太陽の光を遮りながらこちらに向かって飛んでくるところだった。

 山吹色の身体と比較すると小さな翼を持つそのポケモン――カイリューはサファイア達のすぐそばに降り立つ。勢いを殺さずに降りたせいか、ズドンと地響きが発生して地面が揺れる。
 振動に弱いエレッタが思わず文句を言いかけたが、すんでのところでそれを飲み込む。こちらを見下ろすカイリューの目つきが、非常に怖かったからだ。

「ここに何の用で来た? 用がないなら今すぐ帰ってもらおう」

 威圧感つきで放たれる声は、既に敵意バリバリだった。
 ハーブの言った通り頑固そうだな、と思ったサファイアは、大人しく貰った許可証をカイリューに渡す。
 許可証を受けとったカイリューは封を開き、睨みつけるように文章を読む。そこに書かれた簡潔な文章を読み終わると、首を振って手軽を封筒に戻す。

「……あいつの話していた探検隊か。仕方ない、入れ」

「あ、あいつって……」

「ハーブのことだ。あいつがベイリーフの時からどうも腐れ縁で……」

 一つ特大のため息をつき、この話は終わりとばかりにカイリューはサファイア達に視線を戻した。

「私はカイム。ここの管理人だ。今回の目的は、神殿に置いてある"鍵"か?」

「あ、はい。親方様からはそう言われています」

 再びの睨みつけるような視線にたじろぐサファイア。それでもハーブに言われたことを思い出し、努めていつも通りに答える。
 カイムはその答えを聞いて扉の方へ歩いて行き、取っ手に手をかけて押し込む。ギギギと軋むような音を建てて、やはり重かったらしい扉はゆっくりと開いた。

「一つ、忠告をしておこう」

 扉を開け終えたカイムは振り返り、サファイア達を再び見下ろした。

「鍵は、神殿の一番奥の部屋の祭壇に置いてある。その部屋に入るには、神殿のどこかにある宝玉を部屋の扉に嵌め込めばいい。そうすれば扉は開く」

 ハーブが持ち帰るように指示した鍵は、やはりすぐに取ってこれるようなものではないらしい。

「宝玉の場所は、"頭上に赤の光を頂く者"が持っている。ただし、神殿内には防犯用に幾つものダミーの宝玉がある。それらには気をつけるんだな」

「じゃあ、偽物を嵌め込んだら……どうなるの?」

 軽い質問のつもりで聞いたエレッタに、カイムの口角が持ち上がる。

「当然、お仕置きタイムの始まりだ。私はここに待機しているから、帰りたくなったら扉を叩け」

 必要最低限のことだけを伝え、カイムは神殿の扉の横に控える。その姿は神殿の門番そのものだ。

「……さて、ここまで来たからには引けないね。ダミーに引っ掛からないように気をつけよう」

 お仕置きタイムの内容が気になる三人ではあったが、引っ掛からなければいい話だ。
 サファイアを先頭に、三人は神殿の内部へと足を踏み入れた。

すずらん ( 2014/03/17(月) 23:58 )