E-04 プロテアの食事情
これは、司祭から話を聞いた後の話。
せっかく苦労して(?)プロテアに来たのだからということで、サファイア達はミラにプロテアを案内してもらっていた。
ミラは当初、案内役など嫌だと主張していたが、サファイアとエレッタは交互にミラが折れるまでおねだりし続けた結果、『住宅街には立ち寄らない』ということを条件に渋々承知させたのだ。
そして、プロテアは広かった。よくよく考えれば乱立していそうな研究所や薬屋は、その殆どがあの3つの塔の中に集約されているのだ。だから公園などの広いスペースが取りやすいらしい。
そんなことをしていたので、プロテアを出ようかという頃にはもう日が沈むか沈まないか、つまり日没寸前になってしまっていたのだ。
どうせ帰りはバッジ一つでテレポートで終了なのだから、特に害はないと言えばないのだが……。
「ねえミラー、せっかくここまで来たんだし、何か美味しいもの食べたーい」
「あ、それ賛成。いくら科学都市だって、名物料理の1つや2つプロテアにもあるでしょ?」
どうもあちこち歩き回ってエネルギー切れを起こしたらしく、サファイアもエレッタもぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。
しまいには日が沈む前に店を見付けないと奢れだの何だのと言い出したので、ミラは適当に視界に入った料理店へと入って行った。
エレッタはともかく、サファイアまでこうも騒ぐのだから食べ物というのは恐ろしい。
食べ物の怨みは怖いとはよく言ったものだと思うが、別に怨みを買わずとも食べ物というのは十分怖いもの、とこっそり思ったミラであった。
料理店に入った3人は、同じ料理を注文し、出て来た料理の美味しさに舌を巻いた。
それは、プロテア名物のホワイトシチューだ。見た目はギルドのシチューと同じだが、ミラ曰く疲れた科学者達の栄養補給筆頭メニューらしい。
高カロリー、若干の糖分、豊富なビタミン。もちろん味も上々、加えてすぐに食べられ、プロテアの商品の例に漏れず値段も控え目。まさに多忙な科学者達のための栄養食だ。
ちなみに。
「ミラ、このシチューってずいぶんいろんな食材が入ってるよね。何を使っているか分かる?」
色とりどりの野菜が気になったサファイアは、シチューを吹き冷ますミラに軽い気持ちで聞く。
「……確か、この料理で代表的なものは……リンゴ、オレン、ラムの実。それにモレンの実を薄くスライスして……あ、後はソクマキツルの球根が1皿につき丸ごと2つ分位入ってるかな、スライスされて」
ソクマキツルの、球根。
サファイアが思わずスプーンを皿の上に落とすのと同時に、ガンッと机が揺れた。エレッタがずっこけて、机に頭をぶつけたのだ。
「ちょ……ソクマキツルの球根て……あのおぞましい球根ダンスを披露するあれ!?」
「球根ダンスって……ああいう植物だし、栄養価は高いし……」
「確かに滋養強壮とは聞いたけどぉ! まさか球根……2つ、も……」
サファイアはスプーンでシチューを掬ってじっと見つめた。
よく見ると、シチュー中にはの色とりどりの果物ブロックに混じって、白いスライス野菜がひょっこり顔を出している。
サファイアもエレッタもそうやって同じ恰好でフリーズしている。端から見るとかなり奇妙な光景である。
「…………」
「……サファイア、エレッタ? ……食べないならわたしが食べるけど」
「うぇ!? いや、食べます食べます……」
ミラがきょとんとする中、あのうにうに球根ダンスを頭に浮かべながらサファイア達はシチューを次々と口に運んでいく。何か悔しいが、はっきり言って美味しいから反応に困る。
――やっぱりこの街は複雑怪奇という言葉が良く似合う、と後にサファイアとエレッタはチームの部屋で語り合ったのだった。