ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者








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第5章 明らかになる真実
M-70 森の底から
 小さな器を熱していた火を、中の液体が沸騰する直前に素早く止める。
 それに白い粉を加えて混ぜ、液体から浮かび上がった小さな固形物をこし取って、ろ過した液体を小さな器に移すと……ミラはその器をアルフィンに手渡した。

 アルフィンはそれを苦しそうに眠るミミロルに飲ませ、頭に乗っかっている冷えタオルを取り替えた。
 それから20分もすると――今まで何を飲ませても静まらなかったミミロルの荒い呼吸が、すっと穏やかなものになっていった。
 しばらくその場を支配していた張り詰めた空気が、緩むのが分かる。

「……これなら……しばらくは症状を抑えられるでしょう」

 ずっと口を閉ざし黙々と薬を調合していたミラが、ミミロップに言う。
 ミミロップの顔が、ぱっと笑みを浮かべたものに変わった。

「あ、ありがとうございます! 何とお礼を申し上げれば……」

「いえ……この薬はあくまで一時的なもの……効果が切れると、また症状は出ます。出来るだけ早く、シロリマソウの特効薬を飲ませないと」

 ミラは医療室の窓のカーテンを開け、水鏡の森の方面をぼんやりと眺めた。ミミロップとアルフィンも、その方角を見て少々心配そうに言った。

「あの方々は、今頃どの辺りにいらっしゃるのでしょうか……」

「時間的に考えて……おそらくは……8F辺りでしょう。まだまだ時間がかかりそうですね」

〜★〜

 その頃のサファイア達はと言うと。

「電光石火!」

「10万ボルト!」

 水鏡の森にて襲って来るポケモン達を軽く追い払い、快進撃を続けていた。
 階段を見つけ、戦闘もそこそこに切り上げて階段へ突っ走る。そして――中継地点前の、10Fへ。

「ねえサファイア、前のフーディンは確か中継地点の直前に居座ってたんだよね?」

 襲ってきたサンドをアイアンテールで弾き飛ばし、エレッタは思い出したようにサファイアに尋ねてきた。

「……あ、そうか。この階に例の強敵がいるかもしれないってことか……道草しないでさっさと抜けないとね」

 近くにいた敵を全滅させ、サファイア達は周りを警戒しながら歩いている。もうここの野生ポケモンなど普通ならば軽くあしらえるが、それでも場違いの敵となると話は別だ。

 と、その時。

 警戒を続けていたサファイア達の隣から――

 点在する小さな沼の中から、何かが勢いよく飛び出してきた。


「うわああぁ!?」

 予想外の奇襲(?)に、思わずサファイアもエレッタも並んで後ずさる。
 もしかしたら、例のチート敵かもしれない……そう思って飛び出したポケモンを見た瞬間、サファイアとエレッタは気の抜けたような声を出した。

「へ?」

「……コイキング?」

 そう、いきなり横から飛び出してきたオレンジ色で魚型のポケモン――コイキングは、サファイア達に攻撃を加えることはしなかった。
 むしろ勢い余って地面に落ちてしまい、哀れにも水を求めてびちびちと跳ね回る。

「…………コイキングなんて、このダンジョンには住み着いてなかったはずだけど……」

「……倒す?」

「倒すか」

 コイキングは跳ねるのを止めない。体当たりやじたばたを繰り出してくるよりましなのだろうが、道のど真ん中で跳ねられているものだから道を塞がれていて非常に鬱陶しい。

 悪く思わないでね、と願いつつ、サファイアはコイキングに電光石火を食らわせる。回避行動をとらないコイキングは、吹っ飛ばされて沼にザブンと波を立てて落ちた。
 その際に近くにいたせいで水を被ったのは気に入らないが、これでこの道を通れる。そう安心しながら、サファイアはエレッタを招き寄せた。

 ところが。

 あのコイキングが、再びサファイア達の道を塞ぐように飛び出してきた。地面に落ちたコイキングはやっぱりびちびちと跳ねる、跳ねる、跳ねる。
 何も、起こらない。

「しっつこいねぇ……ええい、もう電撃浴びせちゃえ!」

 2度も進撃の邪魔をされ流石に苛立ったエレッタは、頬袋に電気を溜め始める。10万ボルトで一気に痺れさせるつもりなのだろう。

 しかし――

 あとちょっとで電撃放出、という時に……
 コイキングの身体が、突然青白い光に包まれた。

 光に包まれたコイキングは、跳ねるのを止めてじっとする。
 そうしているうちに、コイキングの身体がぐぐっと伸び始め……全長は、サファイアやエレッタの背丈はおろか、そこらのちょっと高い木をもゆうに超える高さとなった。
 そして、光に包まれた変化も終わり、森の静かな空気を震わす咆哮と共にそのポケモンを包んでいた青白い光は消える。その中から姿を現したポケモンは――

「……ギャラドス!?」

 コイキングの進化系である、凶悪ポケモンギャラドスが……サファイア達にこれでもかとばかりに怒りの視線を注いでいた。


 ギャラドスから前フリ無しで繰り出された"ハイドロポンプ"を、サファイア達は間一髪横に跳んで避けた。
 ハイドロポンプの直撃を受けた太い木が、メシャリと嫌な音を立てて豪快に倒れる。

 ない。
 これは、ない。

 サファイアとエレッタはお互い顔を見合わせ、無意識に頷いていた。

「……逃げよっか、エレッタ」

「……おふこーす」

 それから1秒も経たないうちに、サファイア達は弾かれたように全速力で来た道を戻り始める。それを追うギャラドス。鋭い咆哮によってびりびりと空気が震えているのが分かる。
 逃げる途中で元からここに住むポケモン達を見かけたが、ギャラドスに叩きのめされるのを恐れてサファイア達に向かって来ることはないのがせめてもの救いだろう。

 背後に巨大なエネルギーの塊を感じて、上に大きく跳躍する。
 次の瞬間、真下の地面に迫ってきたのは――大量の水。ギャラドスの"アクアテール"で出された水の竜巻の一部だった。
 今の一撃で地面は大きくえぐれ、根をやられたのか木が丸ごと倒れる音が響く。だが、後ろを向いているヒマなどあるはずもない。

 そんな果てしないデンジャラス鬼ごっこも、暫しの間――いや、再開されるかは分からないが――中断を挟むこととなった。
 サファイア達が、行き止まりに追い詰められたためだ。

 ギャラドスは尾に大量の竜巻状の水を纏うと、それをサファイア達に向かって思い切りぶつけてきた。

「ま、守る!」

 サファイアは普通の守るではなく、今朝習得したばかりの"盾"を繰り出しアクアテールを遮断しようと試みた。
 盾なのだから、どう足掻いても全方位からの攻撃を防ぐことは出来ない。現に今も、横や後ろは隙だらけだ。だがその分、盾そのものへの衝撃には物凄く強い。
 あの太い木をへし折った威力を持つアクアテールを、サファイアは辛くも完璧にシャットアウトした。これが通常の守るだったら、また一瞬で破られて瀕死に陥っていただろう。

 とりあえずアクアテールを防いでほっとしたサファイアの頬を……電撃が掠めた。
 見ると、エレッタはサファイアが守るを使っている間に"電磁波"を繰り出していたようで――

 電磁波にしては、何かおかしい。
 エレッタが使う普通の電磁波は、敵に纏わり付かせるために電撃にしては火花の飛散や電撃の分岐が少ない。それなのに、今の電撃は盛大に火花が飛び散り、かなり太い。サファイアの頬を掠ったものは、この火花だったようだ。
 不審に思ってエレッタを見ると――エレッタの目は焦点が合っておらず、ほぼ闇雲に電磁波(仮)を撃っているような状態だった。サファイアが名を呼んでも、全く反応しない。

 一方で、エレッタの電磁波(仮)を食らったギャラドスはと言うと……エレッタの使う電磁波は受けると麻痺と毒に同時にかかる技なのだが、ギャラドスは麻痺を受けてはいなかった。その代わりに……

(混乱、してる……?)

 サファイアの予想通り、ギャラドスは急に身体をくねらせ舞ったり、木に絡み付いたり、"10万ボルト"をサファイア達から遠く離れた場所に撃ったりと、早い話が混乱しているのだ。
 エレッタの電磁波(仮)を受けて、何故ギャラドスが麻痺ではなく混乱になったのか――そんなことを悠長に考えている場合ではない。

「エレッタ! エレッターー! 今のうちにさっさと逃げるよ!」

「……はっ」

 エレッタの目の焦点が元に戻った。やっぱり今までは半分意識が飛んでいたらしい。
 意味不明な行動をとっているギャラドスを見て、『説明プリーズ』と訴えてくるエレッタの視線をガン無視し、サファイアはとにかく階段を目指して袋小路から脱出した。勿論エレッタも遅れてそれに続く。

 袋小路の奥からギャラドスの唸り声が響いてきた。
 どうも混乱が解けたようで、木の枝が当たるのも構わず追ってくる。その巨体がバキバキと枝を続けざまに折り、逃げるサファイア達の姿をその目に捉える。

 ――デンジャラス鬼ごっこ、再開。

 サファイアはギャラドスから放たれたハイドロポンプを守るの盾でしっかりと受け止めた。やはりこの威力だと、食らったら即オダブツだろう。
 ハイドロポンプをサファイアが何とかしている間に、エレッタはサファイアのトレジャーバッグからあの薬瓶を取り出し……中の青く染まった種を、強く握りしめる。

「よーし、飛んでけーーっ!」

 守るが解除されるのと同時に、エレッタはミラから貰った種をギャラドスに投げ付ける。
 種はギャラドスの胴体に当たり、脆くなっていたのか砕けて中の小さな粒種が派手に飛び散った。

 弾け飛んだ小さな粒々はギャラドスに付着し、そこから麻痺毒の成分を出すらしい。
 粒々がくっついたギャラドスは身体をくねらせて痺れと痛みに呻き始める。胴体を木にこすりつけて粒を取ろうとしているが、痺れた身体でそんな器用なことが出来るはずもない。

「ナイス、エレッタ! さて、階段を早く見付けて逃げようよ!」

 サファイア達は敵ポケモンが出て来ないうちにと、この階だけでどっと疲れた身体を動かして階段を探し回った。
 ――ちなみにギャラドスが麻痺の症状から解放されたのは、サファイア達が階段を探し当てた大分後のことだったという。


 いつ麻痺が解けるか分からないとギャラドスを警戒していたサファイア達は、階段に転がり込むようにして中継地点へ辿り着いた。
 日はまだ高い。昇格試験を受けていた頃、ここまで辿り着くだけでへろへろになり、2日かかって最奥部まで行ったのが嘘のようだ。

 どうせなら、このままさっさとシロリマソウを見付けて帰りたい、そんな気持ちもあった。
 しかし、今は――お互いに、聞きたいことがあった。

「エレッタ、聞きたいことが……」

「サファイア、1つ聞いていい?」

 出だしが、被った。
 同時に喋り始めた2人は小さく笑うと、まずはエレッタの方からサファイアに問う。

「サファイア。あたしはさっき、袋小路に追い詰められていた時……ギャラドスに、何かしたの?」

すずらん ( 2013/05/07(火) 23:49 )