E-03 67話ボツネタ
「……訓練所」
「え?」
「レイシアの、訓練所なら……何かコツが掴めるかも。どちらにせよ部屋の中で練習は危ないよ」
「……すいませんねぇ、危険行動で」
ミラの言う通り、この部屋には本棚やらガラスの器具やらがあって、技の練習場としてはなかなか危ない。特にまだすぴすぴ眠っているエレッタは、万が一のことがあっても咄嗟には逃げられないだろう。
「……じゃあ、さ。ちょっくら訓練所に行ってくるから、ミラはまだ休んでて」
「……え? サファイアだけで大丈夫?」
「起きたばっかしのミラに特訓まで手伝わせるのは気が引けるから……今日もちゃんと探検に出るし」
あくまでここで待っていろ、エレッタが起きる頃には戻ってくると言い張るサファイアを見て、ミラはあることを思い付いた。
すたすたと机まで移動して上に置いてあった小瓶を取り、サファイアに手渡す。
「……ミラ、これは?」
「精神興奮剤……簡単に言えば、やる気を上げる薬みたいなもの。テンションが高ければ、特訓の効果も高まると思う」
「へ〜……そんなの調合してたんだ……」
サファイアは前足にちょこんと乗っかっている瓶を持ち上げた。中に入っている量からして、どうやら使い切りタイプらしい。
「ありがとう、有効活用させてもらうよ。じゃ、行ってきまーす」
サファイアはミラにニッコリ笑い、小瓶を持って部屋を出て行った。
「……さて」
ミラはそれをしっかり見届けると、机の上のさっきよりも大分大きい瓶の中からとある種を取り出した。
ちなみに今のミラの研究テーマは、“爆裂の種の再改良”という若干危ないものである。
〜★〜
それから30分ほど経って、部屋のドアが弱くノックされる。
そこからドアを開けて入ってきたのは、疲れているわけでもなさそうなのに、何故かふらふら千鳥足状態のサファイアだった。
「……あ、お帰り……特訓、どうだった?」
「もーバッヒリ……まもるのかへのひゅうとくもできたひ、なんももんにゃいなひだけど……ほめん、ひょっとねかへて……」
まるで呂律の回っていないサファイアは、ボフッとベッドにダイブすると瞬く間に眠りの世界に落ちてしまった。
(……ちっ、ちょっと薬の効果が強すぎたか)
なんて物騒なことを考えているのはもちろんミラである。
実はあの薬は試作段階だった。主成分のとある実には精神興奮作用もあるが、それが切れるとまるで酒にでも酔ったかのような症状が現れるのだ。
いつもミラが調合しているような軽い麻痺薬等の場合、大抵ミラ自身が飲んで後で効力を微調整する(そのため、倒れた状態で起きたばかりのサファイアに発見されることが稀にある)のだが、今回はサファイアに実験台になってもらったのだ。
ミラは中途半端な位置で眠り込んだサファイアをしっかりベッドの中央にずらすと、最早薬学台と化した机に向かって薬品類を弄り始めた。
「……待って〜……黄色グミー……」
エレッタの寝言など、ミラには聞こえていない。
――その後、ミラが作ったこの薬は改良が重ねられ、酔ったような副作用もない安全な精神興奮薬になったという――