ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者








小説トップ
第5章 明らかになる真実
M-67 早朝の特訓
 サファイア達3人はフロールタウンでチルムと別れ、ふらわーぽっとに全員揃って帰ってくることが出来た。
 が、操り技の所為で体調が思うように回復しないミラに気を使って、少しの間エスターズの救助探検活動は縮小されていた。

 そして、そんな日々にもやがて終わりが来て、エスターズがいつものように依頼をこなし始めた、とある日の朝――


「……ふわ……もう朝、かな……」

 僅かに窓から差し込んだ朝日に促されるようにして、ミラは目を開けベッドから降りた。
 もうすっかり体調も回復し、いつも通りの生活に戻っている。
 今日も、ミラが横のベッドを見ると、まだまだぐっすり眠り込んだエレッタとサファイアがいるはずで……

「…………?」

 何故か、サファイアの姿が見当たらない。
 もしかして、もう起きているのだろうか? その予想はすぐに的中することになる。

「ああミラ、おはよう! 今日もいい天気だね……っと!」

「……サファイア?」

 ベッドの反対側から、すっかり目覚めたと思われるサファイアが声をかけてきたのだ。
 が、そのサファイアは何故か緑のバリアに包まれている。
 早い話が、サファイアは“守る”を使っていたのだ。ちなみにここはれっきとした室内である。誰かが侵入してきたような形跡もない。

「……サファイア、何してるの……?」

「守るの練習。あー、ダメだこりゃ」

 サファイアはバリアに流し込んでいた力を抜き、守るを解除する。支える力がなくなったバリアはすぐにパキパキと砕け散り、光の粒となって消えていった。

「守るを? ……どうして朝から……」

「強くなりたいから」

 ミラの質問にすっぱりと答え、サファイアはPPマックスを一気に飲み干す。その近くにはもう1本空のPPマックスの瓶が転がっていた。

「……強く?」

「うん。この前、火の球新山で戦ってる時思ったんだ。……私は、エレッタみたいに僅かな隙間を縫う機敏な動きは出来ないし、ミラみたいに爆発的な火力を持つわけでもない」

 サファイアは空の瓶を律儀に立て並べ、ミラの目を見ながら説明する。

「……だから、私は隙を見計らって攻撃や2人のサポートをしつつ、いざという時は守るを使って皆の壁になろうと思ったんだ……でも」

 サファイアは一度そこで言葉を切り、小さなため息をついた。

「私の“守る”は、これまでに何度も破られた。いざという時身を守るための技のはずなのに、そんなんじゃ2人をサポートするなんてとても出来ない……」

 サファイアは、ずっと気にしていた。
 レイダーと戦ったあの時は2回、そしてフーディンのサイコカッターを受けた時にも……サファイアの守るは、いとも簡単に破られた。
 サファイアの戦法は、エレッタとミラの戦い方を真似たものではなく、2人に足りないものを補う、守りを主体とした攻撃。
 この技が機能しないのでは、そんな攻め方も全く意味がない。

「言うほど、脆いの? その壁」

「じゃ、試してみてよ。ミラの強めのシャドーボールを受けて、バリアがどうなるのかを」

 ミラはやや遅れて頷くと、手に黒紫の球体を作り出した。
 強めという注文がある為かゆっくりとエネルギーを溜め込んでいるようだが、レイダーと戦ったあの時に比べ、目視でも分かるくらいに威力が上がっているのが見て取れた。やっぱり、ミラもあの時より強くなっているのだ。

「シャドーボール!」

「守る!」

 サファイアはミラから飛んできた濃密なシャドーボールを、バリアを出して受け止める。
 しばらく2つの技は拮抗していたが、やがてシャドーボールはサファイアのバリアを突き破り、完全にバリアを破壊しないうちにサファイアに衝突した。

 壊れかけたとは言えバリアはシャドーボールの爆風を抑え、爆発音もほとんどシャットアウトした。
 もちろんノーマルタイプのサファイアにとって、どれだけ大規模なシャドーボールの爆発が起ころうと痛くも痒くもない。ただちょっと風圧で吹き飛ばされそうになるくらいで、爆発自体は軽く押された程度の衝撃しか感じないのだ。
 当然、こんなものを他のタイプのポケモンが食らえばひとたまりもないだろう。

「サファイア……」

「ね? こういうこと。だから、守るの強度をどうすれば高められるのか……いろいろ試してるところだったんだ。でもなかなか上手くいかなくて……」

 サファイアは再び重いため息をつく。ミラはサファイアと眠っているエレッタの様子を見て、あることを思い付いた。

「……訓練所」

「え?」

「レイシアの、訓練所なら……何かコツが掴めるかも。どちらにせよ部屋の中で練習は危ないよ」

「……すいませんねぇ、危険行動で」

 ミラの言う通り、この部屋には本棚やらガラスの器具やらがあって、技の練習場としてはなかなか危ない。特にまだすぴすぴ眠っているエレッタは、万が一のことがあっても咄嗟には逃げられないだろう。

「じゃ、PPマックスの補給がてら行きますか。その訓練所へ」

 サファイアはエレッタへの書き置きを机に乗せると、ミラを連れて部屋を出ていった。

「……ムニャ……黄色グミはもう食べ飽きたよ……くかー……」

 エレッタの寝坊は今日も健在である。

〜★〜

 カクレオンの店でPPマックスを補給し、サファイア達は訓練所の中へ入った。
 ここに来るのはずいぶんと久し振りだが、やっぱり予想以上に整理整頓されているのは変わっていない。

「あら、久し振り〜。今日はどうしたの?」

 ここの責任者レイシアは、サファイア達の姿を見付けてふわふわと寄ってきた。ちなみにこの訓練場、設備はいいがフロールタウンの外れにあって印象が薄いためか、結構利用ポケモンは少ない。こんな日の出を迎えたばかりの時間なら尚更だ。

「ちょっと“守る”の強化をしたくて……こういう場合って、どんな風に練習すればいいの?」

「そうねえ、“守る”だと……攻撃技をバリアで受け止めてやる練習が、実際に戦ってる感じに近くていいかもしれないわ。練習をするのはサファイア?」

「うん。ミラは何か手伝えることがあれば手伝ってもらうつもり」

「なら話は早いわ。じゃあ、ミラはサファイアに何らかの技で攻撃して、サファイアはバリアでシャットアウトする……それを繰り返すのが一番手っ取り早いかもね」

 レイシアはサファイアの質問にいとも簡単に答え、サファイア達を適当な位置につかせた。その距離およそ10メートル弱、くらいだろうか。

「じゃ、ミラ。ここから何かサファイアに技を放ってみて。ダンジョンの敵にいつも放つくらいの威力でね」

「はあ……じゃ、遠慮なく。シャドーボール」

 ミラはさっきよりも一回り小さいシャドーボールを作り、サファイアに投げ飛ばす。

「じゃ、サファイアは守って! こっちは全力で!」

 レイシアの声が聞こえるのが早いか、サファイアは緑色のバリアを作ってシャドーボールを弾き飛ばした。このくらいであればバリアが壊れることはないようだ。

「これくらいならいいのかしら……ミラ、何か違う技を出してみて。出来れば全方位から攻撃できるような技を」

 ミラはその言葉通り、今度はマジカルリーフを飛ばした。葉の量はいつもより多めで、前からだけではなく上からも雨のように降ってくる。
 サファイアは守るを継続し、サファイアを囲むように襲い掛かったマジカルリーフを防ぎきった。
 ここでタイムリミットが来てバリアが薄くなったので、一旦守るを解除し技を中断する。

 レイシアは今のサファイア達を見て、小さく唸りながら考え出した。

「これは……別にバリアに脆い部分があるわけじゃない、強度もそれなりにある、でも強い技には力負けしちゃうってことね……だったらどうすれば……」

 しばらく何かの呪文のようにぶつくさと呟き続けていたが、やがて何とか結論に達したのだろう、レイシアはサファイア達の方を振り返って言った。

「……そうね、これが一番いいわ。どう? サファイアとミラでバトルしてみる気はないかしら?」


「「 え? 」」

 サファイアとミラの声が見事にハモった。そりゃそうだ、いきなりこんなことを言われて戸惑わないわけがない。

「私の考察だと、多分サファイアの守るは質はいいけど、ぶっちゃけ技の威力に押されて砕けちゃうのよね。だから、地力をつけつつ攻撃力が十分なミラ相手にどう立ち回るか……とりあえずやってみれば勉強にはなると思うのだけど」

「……はあ……」

 サファイアは半分上の空でレイシアに返事をしながら、頭の中で悶々と考え始めた。

 言いたいことは、分かる。

 “守る”が失敗する原因が自分の経験不足か力不足から来るものだとすれば、確かに強力な技を使うミラのようなポケモンとは相性が悪い。
 だったら、実際に戦ってみて、どうしたら上手く立ち回れるか学べ、ということらしい。
 そしてそれはミラにとっても、状態異常以外の搦め手を使う敵への対処法を学べるというメリットがある。

「でも……」

「そんなに深刻な顔しなくても大丈夫よ〜。傷付いてもオレンの実はたんまりあるし、どっちかが明らかに疲れたようならそこで私がストップかけるから」

 レイシアは賛成派、ミラは見た感じどちらでもよい派らしい。ということは、この話はサファイアの選択次第だということだ。

「……じゃあ……ミラ、手伝い頼める?」

「……頼むも何も、わたしは最初からそのつもりで来てる」

「あ、そっか。それなら……やってみようか!」

 サファイアはレイシアにジャッジを頼む。これで、決まった。

「じゃあ、サファイアはこっち、ミラはここに移動して。私はコインを投げるから、それが地面についた瞬間に戦闘開始。で、どっちかが目に見えて疲れたらそこで終了。それでいいかしら?」

「うん……あ、ミラ。一応言うけど“ウィルベリシアル”は使わないでね? 私も“レイクルセイド”は使わないから」

「……分かってる」

 3人が所定の場所につき、サファイアとミラは戦闘前の大体の流れを予想している。

(ミラは攻撃特化型……普通に戦ったんじゃ技の威力で押し負けるよね……どうしようかな……)

(サファイアは……バランス型? 穴を掘るや電光石火で後ろに回り込まれると厄介だから……)

「じゃ、始めるわよ。準備はいい?」

 レイシアのこの言葉により、サファイアとミラは頭のスイッチを切り替えた。作戦タイム、終了。ここからは、練習試合とは言え敵同士。手加減は、なし。

 レイシアがサイコキネシスで金色の1ポケ硬貨を持ち上げ、ひょいと放り投げる。

 ――コインの端がフィールドの隅に当たるのとサファイアが地面を駆け出したのは、殆ど同時だった。



すずらん ( 2013/03/29(金) 23:48 )