ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者








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第4章 試される絆の力
M-58 聖なる光に願いを込めて
 サファイアはレオの姿が消えてから、我に返ったのか足元に落ちた緑色の宝石を手にとり力をこめた。
 するとやはり宝石はきらりと光り、サファイアの頭の中にまた複数の声が響いた――


『ありがとうございますサファイア様! もうこれまでと思っておりましたが……』

『いえ、私は当然のことをしたまでです。皆さんに助けられて私も生きていられるのですから、困った時はお互い様です』

 二つの高い声が、交互に聞こえて来る。
 一つは今まで何回か聞いてきた、あのニンゲン界のサファイアの声。
 もう一つは歓喜に満ちた声で、サファイアに感謝しているような……?

『もう少しすれば、残りの方々も直に目を覚ますでしょう。まだまだあの7年前の事件の影響は残っていますから、十分気をつけてくださいね』

『はい!』

 こんなやりとりはそこで途切れ、サファイアの頭にまた別の声が響いた。
 これもまた、サファイアに感謝しているような声で、嬉しそうに話している。
 それがしばらく続いた後声はぱったりと止み、サファイアは閉じていた目を開いた。
 前足を伸ばして緑色の宝石を持つと、宝石が出していた淡い光はすうっと消え、ただの綺麗な石に戻ったようだ。

「何か聞こえた? サファイア」

 サファイアが目を開けたのに気付いたエレッタは、単刀直入に話題を振ってきた。何故か今回は、エレッタ達には声は聞こえなかったらしい。

「うん。何か……嬉しそうだったというか、私にお礼を言ってたな……私が何をしたかは思い出せないけど」

 サファイアは今の内容を思い出し、重要な部分をかい摘まんで説明した。

「なるほど……ってことは、ニンゲン時代のサファイアって人々から好かれてたんじゃないの?」

「……好かれてた?」

 エレッタの導き出したその答えに、サファイアは首を傾げた。
 さっきガーネットに触れた時に聞こえた声に関しては、どう考えてもそうは思えないのだが。

「サファイアって、結構――珠玉の守護者、だっけ? 要職に就いてたんでしょ? それだったら普通は敬われるのはともかく、そんな朗らかに接さないと思うんだけど……ね? ミラ」

 エレッタがミラに話を振ると、ミラもこくこくと頷いた。サファイアはその『好かれてた』という言葉が未だに納得できていないのか、エレッタに疑問の視線を向けている。

「だから、サファイアがいた集落のニンゲン達は、サファイアを慕っていたんじゃないの?」

「……そうなの?」

「……誰かに、それも大勢に慕われるってすごいことだよ?」

 エレッタはサファイアの様子を伺いながら、どうにかしてこの沈んだ空気を壊そうと努力している。今がきっと絶好のチャンスだろうと踏んだのだ。

「……うん、そうだよね……」

 サファイアは少し悲しそうな声を混せながらも、肯定の言葉を発した。

 ――そうか……
 嫌われてたり憎まれたりすることと、慕われるのは一緒なんだ。
 心を持つもの同士が出会う以上、感情が動くのは当然のこと。それが好意に動くか、嫌悪に傾くかは分からない。
 だから、好かれることもあれば、嫌われることだってある。どちらか一方のみに絞ることなど、きっと出来ない。
 聞こえてきた二種類の……対極の声は、それを象徴するものだ。
 だったら、それでいい。
 負の感情を相手に持たせないことは、至難の技。もしかしたら、どう頑張ろうと無理な話なのかもしれない。
 でも、たとえそうであろうとも、敵意を持たずに接してくれる人を増やすことくらいは出来るはず。
 だったら――

 サファイアはそう思って、黙ってバッグからあの宝石箱を取り出し、ペリドットを中に入れようとし……そこで、気付く。
 宝石箱の中にあったパールとルビー、そしてサファイアの手中にあるペリドットが、揃って強い光を放ち始めたことに。

「これは、もしかして……」

 サファイアはパールとルビーを箱から取り出し、三つの宝石を互いに押し付け合うように握る。
 そして宝石を手から離すと、それは落ちるのではなく空に浮かび……カッと火の玉のような眩しい光を放った。
 光がなくなり、やがてゆっくりと落下し出した『もの』をサファイアはしっかりと捕まえる。

「サファイア、それは何?」

 エレッタの興味津々なその質問にサファイアは答えず、代わりにエレッタの手に『もの』を握らせる。
 それは、綺麗な正八面体の形をとった深紅の結晶だった。

「……やっと、手に入れた。飛び散った珠玉の欠片、紅雲の結晶だよ」

 サファイアの声は先程の沈んだものとは違う、しっかりと明るい響きを持っていた。


「あ、そうか。これが……」

 エレッタはその赤い結晶をまじまじと見つめ、サファイアに慎重に手渡した。するとまた結晶は赤い光を発し、サファイアの身体をうっすらと包む。

「ん……あれ? 何だろう……あとちょっとで、何か思い出せそう……息を吸って、吐く……?」

 サファイアはそう呟き、目を閉じて深呼吸のように深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
 すると、サファイアの口元に何やら白く輝く光の球が現れ、それは時を経るにつれ段々と大きくなっていく。

「あれ? あの光、何か優しいというか、温かい感じがする……」

 サファイアの様子を見守るエレッタとミラは、サファイアが作り出した球が攻撃技のような激しい光ではなく、柔らかく穏やかな光を放っていることに気付く。
 球はやがてサファイアの顔ほどの大きさになり、より一層輝きを増す。
 するとサファイアは顔を上げ、白色の球を三人の真上へと放り投げた。

「えっと……猛る勇者に光を? れ、"レイクルセイド"!!」

 サファイアがそう叫ぶと同時に白色の球は細かい光の粒子を振り撒きながら弾け飛び、粒子はサファイア達三人に降りかかる。
 その光に包まれた三人は、身体の底から力が溢れ出す様な、不思議な感覚に捕われた。

「あれ? ……何だこれ……? 身体が軽くなった気がするけど……?」

「サファイア、これは……?」

 エレッタとミラは、頻りに自分の身体を見回しながらサファイアに聞いた。猛撃の種を食べた時に力が湧くような、不思議な感覚にとらわれているらしい。

「……思い出したんだ。私がニンゲンの時に使っていた、癒しの力……この能力で、傷付いた人々を助けていたんだよ」

「なるほどね。確かにサファイアは、戦うよりも守るほうが得意そうだしね!」

 エレッタが言ったその言葉に含まれた意味を理解して、サファイアはにっこりと微笑みながら頷き、今度こそ紅雲の結晶を宝石箱の中にしまった。

 これで、集まった結晶は二つ。
 霧の湖で手に入れた黄雲の結晶と今の紅雲の結晶は、どちらも三つの宝石が合体したものだった。とすれば、この結晶は全部で四つある可能性が極めて高く、もしかしたら全て集めればまた元の珠玉に戻るかもしれない。

 そうと分かれば、話は早い。

「よーし、残りの宝石四つも早く集めよう! そのためには依頼を受けて、依頼主に話を聞かなくちゃ……」

「じゃ、明日からはまた活動再開だね。今日はまだ探検に出ないほうがいいし」

 そう、レイダーとの戦いから今朝まで、サファイアとミラは治療中でずっと眠らされていた。
 今日は外出するなとティレンに言われているし、身体が軽くなっているとはいえ今から探検に向かうのは時間的にも得策ではないことくらいは分かっている。

「まあ今日はギルドに帰ってゆっくりしていようか。最近忙しく走り回ってたり色々あったりしたけど、ようやく一息つけそうだよ」

 サファイアを先頭に、三人はギルド近くの林を歩き出した。エレッタとミラはサファイアがまた明るい笑顔を取り戻したのに気付き、これ以上は余計な口を挟まなかった。

 ……サファイアは、もうこのことでは悩まないだろう。
 信頼してくれる仲間がいるならば、逃げ出すようなことはしないはずだ。


 その日の深夜、ギルドも店も全て閉まり静寂に覆われたフロールタウンに、一人のポケモンが立っていた。
 そのポケモンは月明かりに照らされたふらわーぽっとを仰ぎ見て、呟くような独り言を零す。

「……そう、こんなところにいたんだね。いつの間にか、大事な仲間まで見付けたみたいで……」

 フロールタウンに夜風が吹き抜け、傍の葉をガサガサと揺らす。
 そのポケモンは微動だにせず、ただギルドの窓に細々と灯った光を見ていた。

「……なのに、あの子はいつまで黙っているつもりなの? ……私も、こんな強行手段に出たくなどないけれど……もう、タイムリミットだよ、ミラ」

 風に飛ばされて木の葉が舞い、ポケモンに向かうものの……木の葉はまるで彼女の存在を恐れているかのように、突然ポケモンを避けて風に流されていく。
 やがて月にかかっていた雲が晴れ、明かりはそのポケモンをも照らす。先程よりも明るくなったふらわーぽっと前の広場に、ぼんやりとそのポケモン"サーナイト"の姿が浮かび上がった。

〜★〜

 これは、サファイアがレオと会ってから数日後の朝のこと。ついに三人は、しばらくフロールタウン内でしばしば後を付けられていたことを感知することは出来なかった――

「さて、買い物終了! 今日はどこのダンジョンの依頼があるんだろうね?」

 カクレオンの店で買い物を手っ取り早く済ませ、サファイア達三人は揃ってギルドに帰ろうと、階段を上ろうとした……その時だった。

「……!?」

「うわわわわ!? な、何だこれ!?」

 三人は突然襲い掛かった何かの力に拘束され、身動きできないまま空中へと浮かべられる。

「これは、この感じは……"サイコキネシス"!? 一体誰が!?」

 サファイアは空中で辺りを見回すものの、張本人らしきポケモンは見当たらない。助けを求めようにも運悪く今この光景を見ているポケモンは皆無らしく、近くには誰もいない。

 と、サファイアがあれこれ考えている間に、急に身体を引っ張られる感覚と共に三人はギルド前の林の中へ放り投げられ、いつの間にかサイコキネシスの解除も相まって地面にベシャリとぶつかった。
 本能的に身体を丸めていたサファイアが顔を上げると、目の前には丈夫そうな大木が。……木に当たらなかっただけ幸いだったのだろうか。

「いったぁ……何なの一体……」

 サファイアは怪我がないことを確認して警戒しながら立ち上がると、エレッタとミラも同じ状況下にいるのを確かめる。

「この近く、誰かの気配は感じられないよ……? サイコキネシスを使ってきたんだし、近くにいると思うんだけど……」

 エレッタは困惑したように木の間を見つめるが、ポケモンの姿も気配も捉えられないという。それはミラも同じだ。

「い、一回この林から出ようか……広場に出れば何か分かるかもしれないし」

 サファイアは気味が悪いと心の中でぼやきながら、この見通しの悪い林から出ようと歩き出した。
 すると。

「うわぉっ!?」

 足を踏み出したサファイアのすぐ前に、大きめのポケモンがストンと降り立つ。度肝を抜かれたサファイアは三歩程後退り、慌ててエレッタ達の元に戻ってきた。

 上から下りてきたのは、サーナイトと呼ばれる種族だ。上からということは、枝の上にでもいたのだろうか。それにしては気配が全くなかった。というより、対面している今でも気配が感じられない。
 だがサーナイトはエスパータイプ、きっとサイコキネシスをかけた張本人はこのポケモンなのだろう。

 サーナイトはサファイアの警戒をよそに、ニコニコと楽しそうに笑みを浮かべている。まさか、この警戒に気付いていない訳はあるまい。 もしかしたらお尋ね者だろうか? 一瞬サファイアは思うが、すぐにその考えにバツ印をつける。お尋ね者がこんな探検隊のたまり場にまでのこのこやってくる利益がないし、明らかに探検隊だと分かるサファイア達を攻撃しようともせず、ただニコニコ笑っているだけと言うのはおかしすぎる。

 サファイアやエレッタの様々な探りを余所に、ミラは信じられないと言うような声を上げた。

「……!? まさか……母、上……!?」

 ミラから飛び出したこの発言によって、場の空気は一瞬にして凍りついた。

■筆者メッセージ
4章の前半戦終了。
さあ、後半戦の始まりだ!
すずらん ( 2013/01/27(日) 00:00 )