ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者








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第4章 試される絆の力
M-54 溶岩の地での決戦 後編
〜☆〜

 最初は様子見のつもりで、少し手加減をしていたはずだった。
 しかしその手加減がいけなかったのだろうか? 今自分の羽は、凍らされて動かせなくなっていた。
 大ダメージとは行かずとも、そこそこのダメージを与えてきた小さなラルトスに、無意識のうちに的を絞ってしまっていたらしい。

 例えばここがモンスターハウスであったなら? 普通、仲間を回復したり、こちらに大きなダメージを与えてきた相手を優先的に潰し、後は蹴散らすなり力を見せ付け敵を怯えさせて散らすなり、とにかく厄介な敵を倒したら後はどうにでもなった。その経験が、無意識に行動に出ていたようだ。
 今考えれば、このマニュアル通りの行動は、同じ境遇である探検隊には見切られ嵌められる可能性が高かった。
 相手は連携や意志疎通がしやすい三人チーム。しかもダンジョン共通の時の乱れの影響を受けたポケモンと違い、れっきとした探検隊の仲良し組だったようだ。こちらを倒すことしか頭にない、モンスターハウスの烏合の衆とは全く対処法が異なることは、少し考えれば分かるはずだった。
 だが、結局はこれでいいのかもしれない。こちら側の準備は、着々と進んでいるのだから。
 ここは自分の嫌いなマグマの流れる地。この場で戦う以上、その準備も早く整うだろう。

〜☆〜

 飛行手段を無くしたレイダーを、サファイア達はしっかり取り囲んだ。レイダーの軽い舌打ちをサファイアは聞き逃さず、強い声で言い放つ。

「これでしばらくは空からの攻撃手段は無くなるね。まあ、良かったんじゃない? 氷柱が身体に刺さらずに済んでるんだし」

 サファイアのこの言葉は、半分は本当で半分はハッタリだった。
 氷柱がどのように生じるかは、殆どはサファイアの意思により決まる。その気になれば凍らせた相手に食い込ませることや氷柱の中に閉じ込めることくらいは出来る。
 が、レイダー鋼鉄の身体を貫く程の強度はこの氷柱は持っていない。サファイアはそもそもこの氷攻撃を動きをフリーズさせることにしか使わないと決めている。

「ふん、確かになかなか考えられた策だ。だが、問題はこの後俺をどうやって倒すか……出来るのか?」

 レイダーのこの問いに、サファイア達は技を出す準備で答える。レイダーはいつ攻撃が来ても、なるべくそのダメージを抑えつつ利用するために、目覚めるパワーの構えをとった。

「目覚めるパワー!」

「十万ボルト!」

「シャドーボール!」

 三人の息がピッタリ合った攻撃は、勿論その中心にいるレイダーに当たり、体力を容赦なく削っていく。それでも、レイダーは慌てることなく目覚めるパワーを繰り出し、急所に当たりそうなエネルギーだけを相殺する。
 その為もあってか、三つの攻撃を食らっても体力にはまだ多少の余裕があるらしく、すぐに地を蹴りバレットパンチを繰り出してきた。だが今度は空からの奇襲ではない分、まだ見切りやすくかわしやすい。

「十万ボルト!」

 エレッタはレイダーのバレットパンチに対抗して、十万ボルトを放った。その電気は真っ直ぐではなく、いつもより電気の広がり幅が大きい放射状に放たれ、こちらに突進してくるレイダーを止める柵のような役割を果たした。
 麻痺させられては厄介だと本能的に感じ取ったのだろう、レイダーはバレットパンチを中断し大きくその場から飛び退いた。

(……)

(へへ、さっきからあいつあたし達に一回しか攻撃を当ててないね)

(確かにね〜……何でだろう?)

 もしかしたらコテンパンに叩きのめされるかもしれないといった予想と大きく違い、あまりダメージを受けていないことにエレッタは余裕を感じていた。一方のミラは、何故あのレイダーが自分達になかなか攻撃して来ないのか疑問に思っているらしい。
 ここは、虫・鋼タイプであるレイダーにはかなり辛いはずの、溶岩が流れ落ちている場所。その熱さにやられているのだろう、レイダーは少々肩で息をし始めている。
 羽を動かすことを許さない氷が、流れる溶岩の発する熱で溶け始め、ポトリ、ポトリと次々に落ちていく。

「アイアンテール!」

 エレッタはレイダーの身体に、鋼鉄の尻尾を叩き込むために走り寄った。エレッタがレイダーに飛び掛かった時……レイダーはくるりと身体の向きを変え、氷で覆われた羽でアイアンテールを受け止める。

「っとと!?」

 ここまで来てしまうと今更技を止めることは出来ず、エレッタは氷塊を少しだけ尻尾で削ってしまった。その一瞬エレッタが感じた動揺、それをレイダーは見逃さず、すぐに元に向き直り……

「蜻蛉返り!」

 離れるのが遅れたエレッタに、勢いよくタックルした。受け身をとる隙もなかったエレッタは大きく吹っ飛ばされたものの、持ち前のバランス能力を駆使して地面に落ちる前に体勢を戻す。
 くるりと空中で一回転し、エレッタはサファイアとミラの後ろにストッと降り立った。

(エレッタ! 大丈夫!?)

(何とかね。ただ……あの氷、かなり水っぽくなってた。そろそろ限界かも)

(……うわ)

 サファイアが氷の様子をよく見てみると、確かに氷は徐々に融け落ちるスピードを速めている。

「早く、何とかしなきゃ! 目覚めるパワー!」

「十万ボルト!」

「マジカルリーフ!」

 氷が融ける前に決着をつけようと、三人は一斉に攻撃を繰り出す。三種類のエネルギーはレイダーに向かう途中でぶつかって一つに混ざり合い、電気に包まれた氷の葉となった技は、かわそうとはせずバレットパンチで受け身を取るレイダーに直撃し、強力な爆風と大量の白煙を生み出した。


「ふぅ、こんなもんかなぁ……」

 立ち上る白煙を見て、サファイアは呟く。これ以上戦闘が長引くと、もしかしたら厄介なことになるかもしれないと思っていた。長期戦を得意としない三人は、この攻撃でなるべくレイダーを倒してしまいたかった。

 しかし。

「……サファイア! まだ来る!」

 ミラの鋭い声を受け、サファイアは多少緩んでいた緊張感を再び呼び戻した。爆発が収まり、薄くなった白煙の中から――未だ立っている、レイダーのシルエットが写し出されたからだ。

「……ウオォ……」

「……へっ!?」

 やがて煙が完全に晴れ、雄叫びのような声と共に姿を現したのは……緑色のオーラをその傷だらけの赤い身体に纏い、しかし倒れる様子を見せない、レイダーの姿だった。

「ウオオオォ!!」

「な、何!?」

 突然雰囲気を変えた敵の姿に、三人の注意は釘付けになってしまう。やがてレイダーの緑のオーラは、雄叫びと共に増幅が止まり……変わりに、一層鋭くなったように思える二つの瞳が、サファイア達を射るかのように捕らえている。

(……あ! そういうことか……)

(ミラ、これどういうことか分かる?)

 思い出したようにミラが何か声を上げた。サファイアが聞くと、ミラはレイダーから目を逸らさないまま話した。

(ハッサムの特性は、二つ。"テクニシャン"の他にもう一つある。それ…"虫の知らせ"。体力が減ると、虫タイプの技の威力が高まるの)

(ってことは……あの緑色のオーラは、虫の知らせ発動のサインってこと?)

(そう。そしてレイダーはさっきまで攻撃を一方的に受け続け、虫の知らせを発動させた……となると、この特性が発動した今、切り札を出してくる可能性が高い!)

 説明を聞き、レイダーの様子を注意深く伺うサファイア達の前で……レイダーは、今まで使って来なかったはずの技を繰り出した。

「……"高速移動"!」

 レイダーは緑色のオーラを出しながらその場で突然高く跳び上がり、空中でぐるぐると縦に宙返りをしてみせた。
 サファイアの仕掛けた、羽を凍り付かせて拘束していたはずの氷塊が……溶岩の熱と今の回転の圧力に耐えられず、ついにバラバラと砕け散る。粉々になった氷の粒は、一瞬だけ散り広がってマグマの赤い光を眩しく反射してきらりと光り……しかし熱にあっけなく溶かされ、間もなくシュゥと音を立てて消滅した。
 一方のレイダーは滞空能力を取り戻し、高速移動によってサファイア達の周りを素早く動き回る。

(……どうしよう……姿を捕らえられない!)

(大丈夫! 電磁波!)

(マジカルリーフ!)

 速過ぎてレイダーがどこにいるのかも分からないサファイアに対し、ミラはホーミング機能のついた葉を飛ばし、エレッタがそれに電磁波を絡める。先程のように葉はレイダーを追跡するかのように飛び、しかしレイダーが飛び回りながら放った目覚めるパワーに簡単に相殺された。

「――え」

 そして、三人が気付いた時には、レイダーはサファイアのすぐ目の前に迫っていた。気付いた時には、もう逃げるだけの時間は残されていなかった。

「痛っ!」

「うあぅ!?」

 レイダーはそのスピードのまま深紅のハサミを伸ばし、並ぶように立っていたサファイアとミラをそれぞれハサミで掴んで再び上昇する。
 さっきの蜻蛉返りで後ろに飛ばされ、その場から動かなかったエレッタだけが地上に取り残され、しかしエレッタにはただそれを眺めることしか許されない。十万ボルトを出そうものならサファイアとミラは無事では済まないし、かといって他の技は素早く動くレイダーには命中しそうもなかった。

 レイダーは自身のハサミの中で、苦しそうに息を吸う二人の様子を見、落ち着いてこう告げた。

「ふん、これだけでずいぶん苦しそうだな……今楽にしてやるよ」

 そう言って、サファイアとミラを掴んでいたハサミを開き、天井近くから二人を離した。
 それと時をほぼ同じくして、レイダーはハサミを銀色に光らせ、周りに二つの鎌鼬(かまいたち)を発生させる。
 それはやがて"シザークロス"のように十字に交差した光の刃の形をとり、僅かに緑色を含んだその銀色の刃をレイダーはサファイアとミラに向けて打ち出す。

「……"サイクロンシーザ"!」


 ハサミから解放され落下しているサファイアは、レイダーがそれぞれのハサミに大量の虫タイプのエネルギーを溜め込んでいることに気付いた。

「守る!」

 サファイアはとっさに緑色の壁を、自身と近くにいるミラを囲むように張り、ストッと地面に着地する。それとほぼ同時に、レイダーはハサミから交差した刃を二つ、サファイアとミラに飛ばしてきた。

 大丈夫だと思っていた。守るを使っている限り、大抵の攻撃は完璧に防げていたから。
 それなのに、レイダーが出してきた銀緑色の計四枚の刃は、守るの壁と少しの間ぶつかった後、それを嘲笑うかのように壁をいとも簡単に突き破ってしまう。

「――なっ!?」

 そう驚く暇もなく、刃はサファイアとミラを容赦なく切りつけ、サファイアが張った壁を完全に崩してしまった。刃が地面に達したのか、岩が割れるメキメキという轟音と共に白煙が立ち上る。
 少し離れていたエレッタからは、もうサファイアとミラの姿は全く見えなくなってしまった。

 ――さっき二人を空へ連れ去ったのは、それで直接ダメージを与えるわけでも自分の力を示すためでもなかった。
 空中に連れ去って回避行動を不可能にし、この大技を確実に標的に当てるための準備行動だったのだ。

 やがて煙が晴れ、エレッタの目に二人の姿が映る。しかしそれは姿が見えた安堵に変わることはなく、むしろ二人への心配の気持ちを増幅させてしまう。

 ――二人とも、傷をその身に無数に受け、地面に力無く横たわっていた。

「……っ! サファイア! ミラ!」

 小さな声で喋ることも忘れ、思わずエレッタは二人のもとへ駆け出した。しかし、そんなエレッタの行く先を塞ぐようにして、ハサミを銀色に光らせたレイダーが目の前に降り立つ。

「うぐぁっ……!」

 レイダーは急ブレーキをかけたばかりで無防備なエレッタを、バレットパンチで殴りつけた。今度は威力を弱めてくれるサファイアの壁もなく、弾かれるように飛ばされたエレッタは、近くにあった大岩に派手にぶつかって止まる。
 一瞬、くらりと意識が揺らぐような感覚に襲われるものの、何とかそれだけは押さえ込んだ。
 しかしエレッタが負ったダメージに苦しんでいる間に、レイダーはまたも銀色にハサミを輝かせ、エレッタに突進しようとした。

「……!」

 ――避けなきゃ!

 そう感じたエレッタは、とっさに上へ高く跳び、レイダーのバレットパンチを間一髪かわす。
 そして、攻撃を空振りしたレイダーに……突如、青色と紫色の球体が打ち込まれた。

「くっ!」

 レイダーは不意打ちで飛んできた二つの球体を避けられず、受け身も取れないままそれを食らった。威力が弱かったため倒れこそしなかったが、若干ふらついている辺りもう体力があまり持たないことを物語る。

「……え……?」

 今の球体は、見覚えがある。今まで何度も見てきた、絶対に忘れはしないもの。サファイアの"目覚めるパワー"と、ミラの"シャドーボール"だった。

 何故!? とエレッタが振り返ると、そこには確かにサファイアとミラが倒れている。
 しかし、うっすらと開けられた二人の目は……戦意を喪失した光の灯らない目ではなかった。

「サファイア……ミラ……」

 さっきの守るで何とかダメージを抑え込み、必死に堪えてでも戦っている。もう、体力的には限界のはずなのに。

 そんな二人の気持ちを感じ取ったエレッタは……つい二人に向かって、目を合わせてしまった。
 つまりそれは、レイダーに背を向けることに他ならない。

「……っ! エレッタ、避けて!」

 突如、サファイアがエレッタに向かって短く叫んだ。一瞬見せたサファイアの必死さに、思わずエレッタは右へと軽く跳ぶ。
 そんなエレッタの目の前を、二本の銀色の光線が低空飛行でまっすぐに飛んで行った。

「……え?」

 銀色の光線……いや、レイダーから投げられた二本の"銀の針"は、目に留まらないスピードでまっすぐ飛び――吸い付けられるように、サファイアとミラに突き刺さる。

「あ……! 二人、と、も……!」

 今までですら立ち上がれない程のダメージを負っていたサファイア達が、この銀の針を受けて無事で済む訳がない。サファイアもミラもは身体に銀の針を突き立てられ、あっさりとその意識と瞳の光を手放してしまう。

 その一部始終を見て呆然とするエレッタの目に……こちらに向かって来るレイダーの姿が飛び込む。
 時間がいつもよりゆっくりと流れる感覚に捕われ、しかしエレッタの足は根でも生えたかのように動かない。
 ――もう……ダメだ――

「……助けて……――っ!」

 ふとそう思った時、何がなんだか分からないうちに口から言葉が飛び出したような気がした。しかしエレッタ自身にそのことを気にしている余裕はなく、ただ来るはずの衝撃に備え……身体を思わず小さく丸めることしか出来なかった。

すずらん ( 2013/01/21(月) 00:24 )