ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者








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第4章 試される絆の力
M-53 溶岩の地での決戦 前編
「そう……あなたが、全部実行していたんだね!? エスパータイプのポケモン達を……」

 サファイアはいつもは滅多に見せないような剣幕で目の前のハッサム、レイダーを睨みつける。しかしレイダーはそんなサファイアを無言で睨み返し、しばらく一触即発の硬直状態が続く。

「……一つだけ聞くよ。あなたの目的は一体何?」

「ふん、言うつもりはない。もっとも言ったところで、大抵のポケモンは理解出来ないがな」

 サファイアの質問を、レイダーはあっさりと切り捨てた。それを機に、サファイア達は戦闘態勢へと移行し、いつでも技を繰り出せるよう待機する。

(……二人とも、気をつけて。あいつは万能っぽいエスパーキラー……特にミラは、攻撃を出来るだけ食らわないようにね)

 レイダーに聞こえるか聞こえないか位の小さな声で、サファイアは後ろの二人に伝える。

「さて、ここで出くわしたということは……俺を追って来たんだな?」

「もちろん。あなたの噂はここまで届いている」

「そうか。ならば、お前達は俺を、俺はお前達を倒す。そうなることに異存はないんだな?」

 レイダーは自身の鋼鉄の羽を広げ、中の薄羽を使いさっと空中に浮かび上がる。それを合図に、各自とも技のエネルギーを一点に集め始める。


「「――"目覚めるパワー"!」」

 戦いが始まって最初に飛び交いぶつかったのは、サファイアとハッサム、お互いの放った目覚めるパワーだった。
 サファイアの青色の球体と、ハッサムの黄土色の球体が衝突し……双方ともしばらく押し合ったまま、砕けるように消滅した。

(目覚めるパワーを持ってるんだ……ミラ、レイダーのは何タイプ?)

(……おそらく、岩だと思う)

 黄土色の球体の威力は、サファイアのそれと拮抗していた。持ち技に岩タイプの目覚めるパワーを選んでいる辺り、当たれば致命的なダメージになりかねない炎タイプの技への対抗策はきっちりとっているらしい。たったこれだけのことでも、情報が少ないレイダーを知る良い材料となる。

「それなら……これはどう? 十万ボルト!」

 エレッタは既に溜めておいた火花をまとめ、強力な電気を放つ。レイダーはその電気の束をひょいっと飛んでかわし、そのままサファイア達の頭上高くへと移動する。

「"蜻蛉返り"」

 レイダーは少し下がると、相当の速さを持って一直線に地上の三人へと突っ込み始めた。あれをまともに食らうとまずい、そう見ただけで分かるほどの威力を持っている。

「来た……シャドーボール!」

 後ろの方で待機していたミラは、すかさず用意していた二つの小さなシャドーボールを上に投げ……サファイア達のすぐ上で二つをかち合わせ、大規模な爆発を起こした。

「……!」

 レイダーは突如発生した爆発の煙と流れ出す影のエネルギーに押され、技を解除し距離をとる。蜻蛉返りは遠くから突っ込む以上、相手を最後までしっかり目視出来なければかわされてしまう。このまま突っ込むのは危険と判断し、レイダーは再び空へ舞い上がった。

 やがて煙が晴れ、お互いの姿を確認するとエレッタとミラは二つの電気の束を放った。

「十万ボルト!」

「チャージビーム!」

 二本の光線はまっすぐにレイダーの方へと向かい、けれどもレイダーの持つ赤いハサミで片方ずつ受け止められてしまう。

「……"バレットパンチ"」

 レイダーはハサミに纏わり付いた電気を振り払う間もなく、ハサミを銀色に輝かせサファイア達に突進した。
 サファイアはその攻撃を守るで防ごうとするが……

(……速い!)

 バレットパンチは電光石火と同じく、目にも止まらぬ速さで突っ込んで来る技。レイダーの動きが早過ぎたのか、サファイアの反応が若干遅れてしまったか……不完全な緑の壁はこの弾丸の威力を抑えこそするものの、弾き返すには至らない。

「……くっ!」

 三人に当たるよう横に薙ぎ払うように繰り出されたバレットパンチを、サファイア達は食らってしまう。ただ威力を壁で抑えたのが幸いしたか、三人ともそこまで大きな怪我は負わずに済んだ。もっとも、ダメージは予想よりもずっと大きいけれど。

「そうだ……ハッサムの特性は"テクニシャン"……威力がそこそこ低い技の破壊力を底上げするんだっけ」

 いくらダメージを抑えたとはいえ、想像以上のダメージを受けたサファイアは苦々しく呟いた。

「そうだ。弱いと言われる技だろうと、俺の手にかかれば存分な火力を得る。威力が低くても油断しないことだな」

 再び距離をとったレイダーはハサミをサファイア達に突き付け、その目玉模様で威嚇するように見せ付けた。

「そう、それは便利な特性だね。しばらく"利用"させてもらうよ」

 ミラは的をレイダーのハサミに定め、再びチャージビームを繰り出した。レイダーはチャージビームを、また赤いハサミで受け止めようとする。

 しかし、今度のチャージビームは、そう簡単に防ぎ切ることの出来るものではなかった。ミラの放ったチャージビームは、見ただけでは殆ど区別がつかないが……先程とは桁違いの威力を誇っていたらしい。
 レイダーはハサミでそれを防ぐものの、光線のエネルギーに押され僅かに顔を顰めた。

「……何だ!? この威力……っ!」

 さっきは片手で簡単に防ぎ切ったチャージビームだが、今回は両手をもってしても受け止めることは出来なかった。電気の束を真正面から受け、残った火花を振り落としながらレイダーは飛ぶ高度を少し落とす。

「"トレース"させてもらったよ、テクニシャン」

 ぼそりと呟くように暴露されたミラの種明かしにより、サファイア達やレイダーはそのからくりを理解した。
 ミラはさっきのバレットパンチを受けた際に、ハッサムの特性テクニシャンをしっかりトレースしていたらしい。チャージビームもその恩恵に与ることが出来る上、先程放ったチャージビームの残った電気を使ってミラは自身の技を強化していた。ちなみに今放ったチャージビームでさえも、ミラはちゃっかりと利用し自身の強化を済ませている。

「なるほど。まさか俺の特性を利用するなんてな。厄介な……蜻蛉返り」

 レイダーは一旦地面に降りると、蜻蛉返りを繰り出した。さっきは上から実行したら止められたため、今度は横から突進して来たのだ。
 対するサファイアは、守るを発動させ三人を緑色の壁で包む。レイダーはその壁が貼られたことに間一髪気付き、身体をずらして壁にぶつからずに地面に降り立った。


(……サファイア、エレッタ)

 ミラはサファイアの守るが解除されないうちに、バッグから二つの種を取り出し、サファイアとエレッタに手渡した。

(これは?)

(猛撃の種。攻撃と特攻を上げる)

(え? 私達に? ミラが食べればいいんじゃないの?)

 ミラから渡された猛撃の種を、エレッタは疑問の表情で見つめている。自分やサファイアより、ミラの方がレイダーに与えられるダメージは大きいはずだと。

(ダメ。私は向こうに警戒されている)

(……なるほどね)

 エレッタとこの話を聞いていたサファイアは、ミラの言ったことの意味を理解してはっとなった。
 さっきレイダーと撃ち合って、はっきり分かる程のダメージを与えられたのはミラだけだ。そうなると、あちらはミラの動きを警戒するようになるのは目に見えている。現にレイダーは、ミラを『厄介』だと言っていた。
 バトルにおいて、厄介な技を使う相手を先に集中攻撃して倒すのが普通である。バトルに長けた大体のポケモンなら、無意識にでも標的が厄介な方へ行くものだ。
 つまり、サファイアとエレッタは今は多少狙撃率が低くなっているはず。そこを突いて大ダメージを与えれば、もしかすれば……何とかなるかも知れない。

 ただし、この方法は欠点がある。

(じゃあ……狙われやすいミラは、レイダーの攻撃をかわし切れる?)

(……一応、善処はする)

 万が一、囮役(と言うには少々抵抗があるが)のミラが倒された場合、この作戦は成立しなくなる。
 その懸念に、もしレイダーが私達に気付いたら……という不安を抱えたまま、緑の壁は消失し始める。

(もうタイムリミットだ! 行くよ、エレッタ!)

 猛撃の種を素早く口に含んだサファイアとエレッタは、別々の方向に駆け出した。その間、ミラはレイダーの気を引くためにマジカルリーフを舞わせ、いつでも迎撃出来るよう準備を整える。
 レイダーは狙い通りバレットパンチを繰り出し、まっすぐミラへと向かってきた。

「……来た!」

 ミラは舞う葉の内数枚を地面に叩き付け、小さな地割れを作る。それを合図にサファイアは地面から飛び出し、電光石火でレイダーに迫る。

「おっと……そう来たか」

 レイダーは突然のサファイアの登場にも慌てず、電光石火を受け止める。レイダーのテクニシャン補正のかかったバレットパンチと、サファイアの特性"適応力"と猛撃の種で強化された電光石火は、レイダーのもつ鋼タイプの力もありほぼ互角だった。
 サファイアはレイダーの勢いを止めると、そのハサミで弾き返される前に素早く地に降り立つ。

 拮抗していた力が無くなり、バランスを崩しかけたレイダーに追撃が飛んでくる。

「十万ボルト!」

「マジカルリーフ!」

 エレッタの十万ボルトはギリギリでかわされそうになったが、レイダーを追尾し纏わり付くマジカルリーフ間を伝い渡って、今度は標的にしっかり命中した。
 猛撃の種で強化された十万ボルトは、ダメージもそこそこ入る。麻痺の追加効果こそ出なかったものの、レイダーの気を引き、尚且つ動きを止めるのには十分だったようだ。

 電撃と葉の攻撃を振り飛ばしたレイダーは、突如背に違和感を覚える。
 激しく動かす羽に触れるふわりとした感触、振り落とされないようしっかりと捕まっている四つの足――
 たった今、サファイアが自分の背に乗っていることに気付くのに、大して時間はかからなかった。

 背中に乗られては、デリケートな羽や守りにくい首元を狙われる危険性がある……そして何よりも、自身の攻撃が届かない。相手を見据えることが絶対条件の技を多用するレイダーの、隠れた、しかし明確なウィークポイントだった。
 だからこそ自分の背にはいつも相棒が乗っていて、その弱点をカバーしていたのだが、その頼れる唯一の相棒は、今日ここには来ていない。

 振り落とそうと試みたものの、案の定しっかり捕まったサファイアは落ちる気配がない。攻撃を加えることを止め、灼熱の広場を飛ぶレイダーの背の上で……サファイアは丸い青色の球体を作り出す。

「食らえッ! トラップアイシクル!」

 サファイアは至近距離でこの技を放ち、同時に巻き込まれないよう背から飛び降りる。
 背中に冷たいエネルギーを食らいながらも、レイダーは降りたサファイアに攻撃を加えようとバレットパンチの構えをとった。

 だが、徐々に重くなる羽の感触に、思わずその構えを解いてしまう。そうしている間にも羽はみるみる凍り付き、氷柱が何本も形成され始めた。
 やがてその氷をどうにかする手段のないまま、すっかり凍ってしまった羽を動かせるはずもなくレイダーはゆっくりと地面に落ちていく。
 ここはマグマの流れ落ちる高温地帯、遅かれ早かれこの背の氷は自然に溶けるだろう。だが、氷がある程度溶けるまでは、レイダーは持ち前の飛行能力を失う。
 お得意の空中からの攻撃能力を封じられ、地面にトスッと降り立ったレイダーを――サファイア、エレッタ、ミラの三人は、逃がさないようにぐるりと囲んだ。

すずらん ( 2013/01/21(月) 00:18 )