ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者








小説トップ
第4章 試される絆の力
M-49 忍び寄る悪夢と 
 ――お前が、此処に来なければ。
 お前も、私達も、幸せに暮らすことが出来たのに。

 それなのに、どうして――

 くぐもって明瞭に聞き取ることは困難な声が、わたしのいる暗闇に響いてくる。
 不鮮明なはずのその声は、暗闇に囲まれて動くことが出来ないわたしにははっきりと届いた。

 その言葉に含まれた憎悪の強さに驚き、わたしは声の聞こえないところへ逃げようとするけれど――

「……っ……い、た……」

 走り出そうと一歩進んだところで、今まで微弱ながら感じていた――急に鋭さを増した痛みに抗えず、その場に蹲る。が、体勢を変えても痛みは弱まるどころか一層強さを増し、わたしを拘束する。加えて、時々腕にピリッと静電気のような痺れが走る。

 どうして、こんなに身体が痛むの? ついさっきまでの記憶を呼び出そうとしたものの、突如襲ってきた目眩に思考を一時中断せざるを得ない。

 ――消えてしまえ。もうこんなことを起こさないように、その力を――

 頭に直接響く、敵意以外に何も込められていない言葉の数々が降り注ぐ。聞きたくないと耳を塞いでも、直接語りかけるような声には無力でしかなかった。声の激しさに呼応するように、身体に纏わり付く痛みや電気も更にその牙を鋭く尖らせる。

 ――私達をこのような状態に仕向けたその技を、封印させてもらおう――

 ついに身を削り取るような感覚を起こさせるまでに強められた電撃は、感覚だけではなく意識さえもゆっくりと蝕んでいく。
 ここから逃げたい、もう聞きたくない……その意思に反して、電撃はわたしに残された意識の欠片を容易にすり潰した――

〜☆〜

 まだ昇りきったばかりの太陽が、部屋の窓から顔を覗かせる。固く閉ざしていたらしい目を開かせたのは、その柔らかく優しい光。
 気が付いて思わずベッドから飛び降り、太陽の光に照らされた窓辺へと力無く寄り掛かった。
 まだベッドには、サファイアとエレッタが眠っている。まだ二人とも起きていないことにほっと息を吐きつつ、ミラは――壁に手をついて身体を支える。

「……何で……? ……何で、今更……?」

 ふと呟いた言葉が、細かく震える。
 さっき見ていた空間は、三年前――"あの事件"が起きた直後によく見たものに酷似していた。

 最近、やっとこの夢を見なくなったばかりだと言うのに。どうして、追い打ちをかけるかのように、こんなタイミングで現れたのだろう?

 あの夢が伝えたいことは分かっている。
 暗い空間に響く、呪いのような言葉。
 身体に纏わり付く、徐々にその威力を強める電撃。
 それらは、全て同じものに関係しているから。しかも、よりによってミラが絶対に忘れることが出来ないものに。

「う……ん〜……」

 小刻みに震えながらもとりあえず落ち着くために太陽の光を浴びていた、その時。
 サファイアが、寝言のような何かを呟いた。サファイアの場合、これはそろそろ私は目覚めようとしているよ、という合図のようなものだ。

 今のままでは厄介なことになるのは明白である。ずっとこんな調子でいたら、絶対にサファイアは何があったか聞いてくる。サファイアもエレッタも、変な時に鋭い。その時……ミラは、サファイアにもエレッタにも、まだこのことを話す勇気は持っていない。

 何とか通常通り振る舞おうと考えて、ふと気付いた。

 ――通常通り、振る舞う? わたし、朝はいつも何をしていたんだっけ? もし今日が何も問題ない朝だったら、どういう行動をとった? ――

 いつも無意識に行動して過ごしていたせいで、これだという答えが出て来ない。結局本を読んでいたっけ、くらいの記憶は出て来たので、とりあえず適当に本を開いて何も考えずただ紙に載っている文字をぼーっと眺めることにする。

「ふわぁあ……もうこんな時間かー、おはよう……」

 サファイアが開けた目を擦りながらもぞもぞとベッドから抜け出し、ミラのもとに近付いて来る。
 まだ眠そうな目を半分ほど開けて……すぐに、その目は怪訝そうなものに変わる。

「……ミラ? どうしたの? なんか、朝から意識飛んでない?」

「え……どうして?」

 サファイアからの一言に、内心若干焦りながら質問を返すミラ。もしかして、ぎこちなさに疑問を持ったのか、それとも何かを感じたのか……いずれにしろ起きた直後の寝言の類とは考えにくい。
 やっぱりすぐに見抜かれちゃうかな、とぼんやり思っていると、心配そうなサファイアの声が聞こえた。

「だって、本逆さまに持ってるんだもん。開いてはいるけど読んでないの? それ」

「…………!」

 サファイアに言われて、初めて気が付いた。ふよふよと宙を漂っていた意識を取り戻してよく字面を見てみれば、確かに本を逆さまに持っているようでろくに文字が読めない。
 思わず開いていた本をバシッと閉じ、鞄に戻してサファイアの視線を逸らす。

「……ミラ? 本当に、大丈夫?」

「……」

 さすがにサファイアも怪しんでいるらしく、じっとミラの様子を観察している。
 ただ、こちらをじっと見つめたところでミラが何か言うわけではないことを知っているサファイアは、少しした後にミラから離れ、エレッタを起こしにかかっていった。ミラにとっては、そちらの方が有り難い。

 けれど。
 ミラ自身が気付かないうちに、いつの間にか忘れこそしないが薄れつつあったこの思い出はより鮮明になって呼び起こされていた。
 数日前にエレッタが話していた、自身の過去の話により。
 エレッタは、知っていることを全て話した後、『重荷が無くなった』という意味の言葉を笑いながら発していた。

 ――わたしが、このことをエレッタ達に話すとしたら、二人はどう思うだろうか?
 サファイアなら、エレッタの時と同じようにしばらく固まって、それからこちらの傷を塞ごうと何か言葉をかけてくるだろう。
 じゃあ、エレッタは――

「……ミーラー?? どうかしたの?」

 ポンポンと肩を叩かれて振り返ると、そこには正しくエレッタの姿があった。ミラがぼーっとしているのに気付いたのか、サファイアから知らされたのか。
 サファイアもまだ心配そうにこちらを再び見ているが、聞き出しはエレッタに任せたらしい。
 ミラにしてみれば、エレッタからこのことを聞かれることは大きなストレスになるのだけれど。

「ミラ……やっぱり何か考えてるでしょ」

「……別に」

 声に感情が流れ出さないよう、努めて淡泊に答える。
 それ以上は言っても無駄だと分かったのか、エレッタもサファイアも聞き出しを止めて自分のやることに戻っていった。

 今は、それでいい。

まだこのことを語る時ではないのだから。その時がいつ来るかは、本人にも分からないが。
 でも、もし時が来たら、このことをごまかすことなく二人に伝えることが出来るのか、それは自分自身のことながらまだ確証が持てなかった。

〜★〜

 探検に必要なアイテムを買うために階段を降りたサファイア達は、入口付近に探検隊がガヤガヤと集まっているのを見つけた。
 よく見るとガヤガヤの中心の掲示板には昨日まではなかった紙が貼ってある。が、探検隊の数が多く近付けないので、文字まではさすがに見えそうにない。

「あれ……あの紙何だろう?」

「やけにみんな騒がしいね……まあ、一旦街の施設に行ってからでもいいでしょ」

 エレッタは呑気に構えているが、確かに今こんなところでガヤガヤが静まるのをただ待っているのは時間の無駄だろう。重要なことであるならばまさか帰ってきたら撤去されてました、なんてことにもならないだろうと踏んで、ひとまずカクレオン達の店で買い物をしたり銀行にポケを預けたりして、それから見てみることにした。

 時間を改めて再度掲示板へ行ってみると、探検隊はもうどこかへ行ってしまったのか周りはシーンと静まり返っていた。紙はちゃんと変わらずそこに貼ってあったので、エレッタがそれをすらすらと読んでいく。

「これは親方様の文字だね。え〜と、なになに……『数日前の夜、霧の湖に住んでいるユクシーが、わずかな時間の内に姿を消しました』……!?」

「え!? ユクシーが!?」

 思わず身を乗り出したサファイアが、壁に張り出された文字を読み、エレッタの言葉を引き継ぎ読んでいく。
 この世界の共通文字である足型文字が苦手なのは相変わらずだが、もう大分慣れたようで。

「えっと、『ユクシーがいなくなった後の湖の地面に足跡等は無く、幾つかの炎が燃え残っていました』っと」

「炎……戦闘か何かでもあったのかな?」

「多分、そうだろうね。で、『今までの伝説とされているエスパータイプのポケモンが消えた原因は、とあるポケモンに襲われ連れ去られたからという見方が強まっている。目撃情報によるとその犯人は赤い身体で素早く動き回っていたといい、探検隊連盟の推測では空中戦にもある程度強くて攻撃にも長けるポケモンである可能性が高い。ただし単独犯でない可能性も否定できない。これ以上事態を悪化させないよう、もし不審なポケモンを見付けたらすぐに追い掛けるか周りの探検隊に知らせるように』……本当に?」

 たとえこの文章を穴が空くほど読んだって内容が変わるはずもないのに、サファイアはその文章を何度も読み返した。
 赤い身体、戦闘の跡の少ない地面に揺らめく残り火、火力もスピードもあってチームを組んでいる可能性まで――放っておいたら何をされるか分からない。ここに書いてある通りの万能戦士だったら、止められるポケモンも多くはないだろう。

「ユクシー……どこに行っちゃったんだろう……」

 今までに会ったことのある、しかも溺れた三人を助け、サファイアの過去に関する情報まで教えてくれたポケモンがいなくなってしまうことは、予想していたよりも辛いものだった。

「この赤いポケモン……今はどこで何をしているんだろうね?」

「……次に狙われるのが誰か分からない以上、待ち伏せして逮捕ってわけにもいかないだろうし……全部の探検隊が護衛みたいな感じで張り込んでたら大丈夫なのかな?」

「戦力が分散すると、きっと蹴散らされる。この手の作戦は、ピンポイントじゃないと……」

「だよねー……」

 狙われているポケモン達にしても、護衛がつくだけならまだしも何十もの探検隊がうじゃうじゃついて来ようものならむしろ迷惑だろうなとは容易に納得が行く。
 それにまだこの犯人とやらは名前どころか使う技も強さも、タイプや種族すら分かっていない。
 それを考えると迂闊にお尋ね者逮捕等という目的で探検隊を送り込むことも出来ないだろう。強さが未知数の敵を相手にするほど怖いことはないのだから。

「まあ……この文章を見る限り、まだ探検隊連盟からの詳しい対策や作戦連絡はないみたいだし」

「私達はいつも通り依頼をこなすしかないってことか……」

 サファイアはそう呟いた後、首を振って気持ちを切り替えた。
 いくらこのことを寂しく思っても、この件に今自分達が関わることは出来ない。ただ、今日もギルドに貼られている依頼をこなして、困っているポケモン達を助けるだけだ。

〜★〜

 暗い洞窟の奥に、小さなポケモンの姿が見える。
 所々ほつれのある黒色のマフラーを首に巻き付け、手には全体が赤く光り輝く槍が握られている。
 その目に映るのは、そのポケモン……ルクスの前に置かれた球体が出す、色鮮やかな光。

 赤い槍をその球体にかざすと、槍からは炎がゴウッと吹き出て球体を包んだ。
 やがて業火の包みを中から破って現れたのは、先程までよりもより一層美しく輝く球体だった。

 そしてルクスは、後ろでその成り行きを見守っていたレイダーを振り返り、険しい顔で告げる。

「……ダメだ……まだ足りない。あと、もう一人必要だ……」
 レイダーはその言葉にこくりと頷き、ルクスの隣に並んだ。

「仕方ない。地底の湖にでも行くとするか……その間、今回はお前はここで待っていろ」

「……でも……いや、分かった。十分気をつけて」

 ルクスは単独行動を止めようと口にしかけた言葉を飲み込む。レイダーはその言葉を聞いて、くるりと身体の向きを変え部屋から猛スピードで去っていった。
 残されたルクスが、ふと呟く。

「みんな、ごめんね……もう少し……もう少しだから……」

 球体の輝きが落ち着き、ルクスは口を閉じる。
 手に持った槍を手放すと、槍は瞬く間に赤い霧となって、宙に散って消えていった。


すずらん ( 2013/01/20(日) 23:32 )