ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者








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第3章 強さと脆さを備えた者
M-45 闇に浮かぶ4つの瞳
 フィルス村――それは遠き昔から栄えてきた、聖林高山の中腹にある村。今では昔ほどの勢いはなく、伝統的な生活も姿を消しつつあるものの、未だ一部には昔の名残を残すものもあるという。

 と、ミラの持っていた本(何故そんな重いものがバッグに入っているのかは謎である)にはそう書いてあったのだが。

「この村って、そんなに古そうじゃないけど……建物だって新しいし」

 先程フィルス村に着き、少し村を見て回ったサファイアの最初の感想はそれだった。
 伝統的な生活は消えたとしたら、一体何が残っているのか知りたいものだ。
 建物は結構近代的な生活洋式に合わせたものに変わっていたし、道はきちんと整備されていて綺麗そのもの。加えてこの村にも、中心に天に向かってそびえ立つ塔がある。テルル村で見た、あの塔にそっくりだ。何か関連か交流でもあるのかもしれない。

「サファイア。あれじゃないの?」

「あ、本当だ。家が一回り大きいや」

 そんな思考を中断させたのは、同じく辺りを見物していたミラの声だった。
 今サファイア達は、村長の家探しの真っ最中。
 フィルス村に着いた時点でもう深夜であり、さすがにもう眠いのだがまず村長に手紙を届けなければいけない。
 けれども今は月明かりの乏しい暗闇、案内の足型文字なんて読めやしない。とりあえず一回り大きそうな家に住んでいるのがきっと村長だよなぁと予想して、さっきから皆が寝静まった村の中をふらふら歩き回っているのだ。

 その中で、他の住居よりも少し大きめの家が前に見える。
 きっと村長の家はここだ、違ってたらこの家の人ゴメンナサイと意を決して、サファイアは家の扉を軽くノックし、返事がないので押してみた。
 扉には鍵がかかっていなかったため、サファイアはすんなりと扉を開けることができた。鍵をかけていないということは、こういう場所では要するに誰でも自由に入っていいという意味だ。つまりそれは、まだこの家の住人が起きていることを意味している。 まあただの鍵のかけ忘れの可能性もあるが、そうではないことを願うことにする。

 静かに部屋の中を覗くと、身なりの良いヤドキングが熱心に何かの本を読んでいた。
 ヤドキングからは『読書の邪魔をするな』的なオーラがひしひしと伝わってきて声をかけるのが憚られるが、いつまでも突っ立っているわけにもいかないので恐る恐る声をかける。

「……こんばんは……。えっと、この村の村長さんですか?」

「……おや? 確かにそうじゃが、お主らは?」

 サファイアの声に気付き、ヤドキングがやっと顔を上げた。こちらの姿を認め、疑問の視線を向けて来る。

「探検隊ギルド"ふらわーぽっと"の者です。親方様からの手紙を届けに来ました。夜分遅くにすみません」

「……おお! そうか、待っておったぞ」

 意外とフレンドリーな性格だったようで、ヤドキングはにこにこと笑いながら本を閉じサファイア達を出迎えた。さっき本を読んでいた時のあのオーラはどこへ行ったのやら。口にこそ出さないが、サファイアは心の中でそう思う。
 ヤドキングに手紙を差し出すと、ヤドキングは受けとって紙を広げた。

「ふむ、確かにハーブの文字じゃな。ご苦労であった、今日はもう遅いしここで休んでいくとよい」

「あ、はい……」

「ちょうど奥の部屋に客人用の部屋があるからの。朝までゆっくりしていってくれ」

 そう言って、最後にヤドキングは付け加えた。

「……それと、今日はちと村の民が変に騒いでおった……万一のことも考えて、お主らのギルドに帰るまではこの部屋から出ないで下され。……くれぐれも、宜しくお願いしますぞ」

 しつこいぐらいに何回も念を押され、サファイア達は勢いに負けるように頷いた。
 どうせ今は深夜で眠たいし、どう考えたって外に出る理由なんてない。
 朝になったら、さっさと帰るつもりだから。それが、リーダーであるサファイアが選べる中での、最善の選択なのだ。

〜★〜

 村の奥にある村長の家、そしてさらにその家の奥に位置する客人用の部屋で――

 サファイア達三人が熟睡しているその部屋の窓に、誰かの影が映る。影は中の様子をしきりに伺い、時々動く。が、その姿の詳細は、月光を遮っているために輪郭のみしか映らない。
 その影は、すっと手を動かしたかと思うと……

「"サイコキネシス"」

 キィと音がすることもなく、鍵がかけてあったはずの窓が開く。
 影はすっと開いた窓から部屋に入り込み、中にゆらりと立つ。

 すると……その影の存在を始めからわかっていたかのように、端で眠っていたはずのエレッタの瞳が、ぱちりと開いた。
 影は睨みつけるように視線を当てるエレッタの反応を認め、ふっと笑みをこぼす。そして……

「……久し振りだな。この聖なるフィルス村にようこそ、"黒色の眷属"エレッタ――」

 冷たい声で、言い放った。

〜★〜

「マジカルリーフ!」

「うわあぁああ!? いったあぁーーっ!」

 すやすやと眠り込んでいたサファイアは、突然のマジカルリーフを首にモロに食らって悲鳴を上げる。しばらくはその痛みに転げ回っていたが、やがてふと気付いた。
 このマジカルリーフは、感触から言って絶対にミラが出したものだ。断言できる。マジカルリーフに限らず技というものは、その技を出した個々の特徴が出るものだ。
 けれど、ミラは寝坊すけエレッタに弱めの目覚ましマジカルリーフを浴びせることは多々あるものの、サファイアに攻撃してくることなど、普通だったらまず有り得ない。
 おまけに今のマジカルリーフは、本気ではないにしろかなり威力を高めたものだった。

「サファイア。早く起きて」

 マジカルリーフ直撃の痛みで転げ回っているサファイアを、ミラが押さえ付けて止める。
 そこでサファイアはふと我に返り、視界に入ったものをぐるりと見回す。

 如何にも古びた感じのコンクリート製の床。
 ヒビが入って今にも崩れそうな灰色の壁。
 明かりのない、光を遮る暗い天井。
そして、頑丈そうな鉄格子。

 ――鉄格子?

 なんで、こんなところに鉄格子が?
 いや、それ以前にここはどこ?
 どう考えたって、今まで寝ていたはずの村長の部屋ではない。
 そして、鉄格子があるということは……

「……ミラ。なんで、牢屋?」

「わたしが聞きたいよ、そんなの」

 ミラは今まで床に降ろしていた手をふっと上げ、手の平の上に小さな紫色の球を作り出す。
 戦闘では役立たないサイズのミニマムシャドーボールを、ミラはその辺の壁に投げ付けた。

 すると……シャドーボールはあのボロ壁に当たる直前に、突然現れたバリアに吸収された。
 バリアはすぐに見えなくなり、後にはやっぱりいつ崩れてもおかしくないようなボロ壁が残る。

「……ここ、技を吸収するバリアが張られてる。私とサファイアが、脱出出来ないように」

 特に慌ててもいない、平然と……というか、いつもの声でミラは告げる。
 どうしてそこでエレッタを省くんだ、普通三人まとめて一括りにするだろうと思い、サファイアは後ろを向いて。

「……あれ? エレッタは?」

 初めて、エレッタがこの場にいないことに気付く。

「だから、さっき言った。わたしが聞きたいって」

「……」

 その言葉に隠された意味があるような気がして、サファイアは思ったままのことを聞いてみた。

「ミラが起きた時は、既にここに運ばれてたの?」

「そう。調べても役立ちそうなものもないし、サファイアはずっと眠ったまま」

 当のサファイアに焦点を当てず、静かにそうこぼした。この反応は、つまり……?

「……ごめん。一人で寂しかった?」

「……別に」

 少々間を置いて、あっさりと突き放したミラ。それでも、長い間一緒にいれば、大体のことは分かる。自分だったらきっと即時ミラを揺り起こしただろうし、ミラだって結局自分を力ずくで起こしたのだ。そう行動させた感情の種類を、サファイアは分かっているつもりだ。

 ただあまりにもこんなことをつらつら考えすぎていると、察したミラからまたマジカルリーフが飛んでくる気がしたので一旦止める。今考えるべきなのはここからの脱出方法だけだ。

「ミラ、このバリア……技は全部吸収しちゃうの?」

「うん。でも、通常攻撃なら大丈夫。……わたしだと威力が低すぎて意味ないけど」

 一応ボロ壁はボロ壁でも、ちゃんと通常攻撃に耐えうるくらいの仕事はするようだ。そうでなければ牢屋失格なので、当たり前といえば当たり前だけども。

 ただ、何とか脱出口を見付けようと二人で手分けして壁の粗探しをした結果、ついにミラがサファイアを呼んだ。

「……ここかな。壊すとしたら」

 ミラが指したそこは、よく見ないと分からないが他の壁よりも明らかに亀裂の程度が酷いように見える。
 パッと見ただけでは崩し易そうな穴が見当たらなかったため、さっき探していた時には素通りしてしまったらしい。

「穴、開けられそう?」

「……どうかな」

 ミラはヒビが一番集中しているところに手を置き、力一杯押してみた。
 だが、マジカルリーフやシャドーボールなどの特殊技が強力な反面、ミラは腕力含む物理的な力がかなり低い。
 一向に崩れない壁のヒビを見かねて、サファイアはヒビに近付いた。

「私がやってみる。これで出来ないようなら……別の手を考えないとね」

 サファイアは軽く息を吸うと、体当たりにならないよう気をつけて壁にぶつかった。だがヒビ割れていようと壁は壁、パラパラと砂が降っただけであまり効果的なわけでもないようだ。
 数回やってみて、やっぱり無理かなと思い始めた時、ミラが何かを思い出したようにぽつりとこぼした。

「……あ、あった……」

 その言葉にぴくりと耳を動かし、反応するサファイア。

「……あった? 何があったの?」

 ミラはそれを説明せず、サファイアに一粒の種を渡した。探検をしている時たまに拾う、サファイアにとっては見慣れた種――"爆裂の種"だ。
 この種は冗談抜きで全ポケモンが火を吹いて敵を攻撃出来るほど辛いという。ちなみに投げて何かに当てると、その場で小さな粒が零れて小爆発を起こす。爆発を見るとこんなものを食べているのかと恐ろしくなるが、ミラとシェルヤ海食洞に閉じ込められた時を始めとしてこのアイテムに助けられたことは数え切れない。

「なるほどね。この種を投げて、上手く壁に当てればいいわけ?」

 ミラはこくりと頷いて、壁から離れた。そこから手招きされてサファイアも壁から離れ、狙いを定めて種を投げつけた。上手く行けば、サファイア達が通れるくらいの穴は開くはず――


 ――ドカアァァァン!!

 種が壁に当たった瞬間、サファイアの想定を遥かに超える凄まじい爆発が発生した。これは、爆裂の種で出せる小爆発というような生易しいものではない。
 投げたサファイアは唖然としながら、見事なまでにぽっかりと開いた壁の穴を指差した。

「……ミラ。何、これ」

「爆裂の種、改。この前から実験で作ってた」

「……ちょ。最近夜遅くまで起きてると思ったら、こんな危ない爆弾作ってたの!? 私危ないことはしないでって言ったよね!?」

「爆弾って……種を薬品に漬け込んだだけ。それより、今ので大黒柱まで壊れたみたい。崩れるよ」

「……へ?」

 そのミラの落ち着いた言葉とは対照的に、ぐらりと天井が揺れて壁が崩れ出した。我に返ったサファイアは、慌てて建物から抜け出す。ミラもそれに続いた直後、轟音と共に今までいたはずの牢屋は崩壊し、あっと言う間に無残にも瓦礫の山と化した。

「……ミラー! こんなに派手にやっちゃ、私達が逃げたのすぐにばれるよ!?」

 サファイアは冷や汗を浮かべながら言うも、ミラは顔色一つ変えずに平然と瓦礫を眺める。

「……いいの。今は騒ぎは大きい方がいい」

「何その危ない主張……」

「危なくない。普通のこと」

 もうサファイアは何も言えない。言葉に詰まったかと思うと、急に思い出したように呼びかける。

「それより! 今はエレッタを探さないと! ミラ、早く行こう!」

 ミラはくるりと一周辺りを確認し、頷く。サファイア達は誰かに見付からないように、人気のない方向へ走り始めた。
 この村のどこかにいるはずのエレッタを、見つけ出すために。

■筆者メッセージ
薬品はニトロかもしれないし違うかもしれない。
すずらん ( 2013/01/14(月) 23:54 )