ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者








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第3章 強さと脆さを備えた者
M-40 ピンク風船の騒動
〜★〜

 皆からその存在を忘れられた暗い洞窟の奥で、ろうそくの炎が細々と燃えている。時々揺らめいて消えそうになるのに、近くにいるポケモンは気にもとめず、地図を広げている。

「……あとは、霧の湖、とか……」

「ああ。もうちょっと様子を見てから出発するぞ。あんまり悠長に待ってるわけにもいかないが」

 地図を畳み、大きい方のポケモンはそれを荷物にしまう。
 小さい方のポケモンは、その様子を見ながらふと呟いた。

「霧の湖にいるユクシーなら、分かってくれるかも知れない。けど……」

「ああ。出来るだけ穏便に、だろう? そんなの無理だ」

 相方の素っ気ない反応に、小さいポケモンはため息をつく。

「……まあいいや。世間に広めずとも、いずれは皆も知ることになるだろうからね……」

 ろうそくの炎をじっと見つめ、小さいポケモンは誰ともなく呟く。

「もっとも、皆が気付いた時には、既に手遅れかもしれないけど」

〜★☆〜

 コンコン、と少々強めに扉が叩かれる音が部屋の中に響く。その音で、ふわふわと温かいまどろみから引き起こされ……わたしは、気が付けば目を擦っていた。
 視界に最初に飛び込んできたのは、ギルドの部屋の中にある作業台、そしてその上に置かれた、諸々の実験器具。この器具は私物で、実験は趣味。探検隊生活が軌道に乗ってきたからちょっと前に再開したところ。

 そういえば、確かサファイアとエレッタが眠った後、わたしはちょっと……様子見のつもりでビーカーの中身を覗いて、上手くいったことを確認してから新たに材料を追加して、様子を見て、それで……

 …………。

 ……要するに、いつの間にか寝落ちしていた、と。
 そんな眠気の中でも、火ぐらいは無意識にしっかり消していたらしい。そのこと一息ついてから、あの音のことを思い出す。

 そういえば、誰か外にいるのかな? 外からは朝日の光が射し込み始めたばっかりで、とてもじゃないけど来客訪問に適した時間じゃない。
 サファイアとエレッタは、気持ち良さそうにベッドで眠っている。あれがたかがノックの音で目覚めるとも思えないし、少なくともジグザグマ寝入り……じゃないよね、多分。

 出かかった欠伸を噛み殺し、部屋のドアを開けてみたらば。

「や、朝早いね〜。まさかこの時間に起きているとは思わなかったよ」

 マロンがニコニコ爽やかな笑顔で浮いていた。
 ノックをした張本人は、どうやらマロンらしい。ふよふよと羽を動かして浮かびながら、まるで眠気を感じていないかのように話している。
 だけど、サファイアやエレッタならともかく、わたしは『朝早くからご苦労様』なんて社交辞令のような言葉を吐くつもりは毛頭ない。
 第一、いくら用があったとしてもこの時間の訪問は流石に常識外れだと思う。急用の依頼ならともかく、マロンの様子から見てもそれはないみたいだし。

「……何の用?」

 少々不機嫌であるかのような声を混ぜ、マロンに問う。

「ちょっとね、エスターズに任せたいことがあって」

「任せたいこと?」

 マロンはわたしの不機嫌など気にも止めていない様子で、ひたすらにこやかに話を続ける。

「んー、単刀直入に言うと、迷子の面倒を見ていてほしいってこと」


「……は?」

 意図せず、声が思いっきり不機嫌になった。

 迷子の、面倒?
 何の冗談を。

「何かね、夜にギルド入口の扉を閉めようとしたら、入口にちょこんと座ってたんだよ。どこから来たのか聞いても分かんないの一点張りだし、さすがに放置するわけにもいかないしさ」

 マロンの言葉に、わたしは最大級のため息をつく。全く、朝っぱらから人の部屋に押しかけてきて、何を言うかと思えば。

「悪いけど、断る」

 この手の依頼は、ばっさりと切り捨てる。だいたい迷子がギルドに来たとして、何でわたし達が面倒を見なきゃならないの? 探検隊ってベビーシッターじゃないんだけど。
 それに、わたしは……小さい子供はあんまり好きじゃないし。

「わー! ストップストップ! ちょい待った! これは今はエスターズにしか頼めない話なんだよ!」

「……どうして?」

 閉めようとしたドアにするりと身体を滑り込ませ、阻止するマロン。顔は笑っていたが、結構真剣な話題であることはすぐに分かった。

〜☆〜

 こんな時間から探検隊の部屋に押しかけるのは迷惑かな? と思いつつ、気が付けば部屋のドアが並ぶ廊下に来ていた。
 とりあえず、ギルドの入口にいた小さな子供を預かってくれそうな探検隊のドアをノックし、返事が帰ってこないということを何回か繰り返した後。

 もっと遅い時間に来ればよかったと後悔しながら、ダメ元で再度トライしてみたら、エスターズのメンバーであるミラが出て来てくれた。

 エスターズは十日ぐらい前に昇格試験に合格して、なかなか高いランクの依頼や強いお尋ね者の逮捕をソツなくこなしている。ただ外見が未進化の小さな女の子達そのものだから、まず初見じゃ見破れないだろうね。見た目に騙されるお尋ね者も多いんじゃないかな?

 ミラは……あー、やっぱちょっと不機嫌そう。まあこんな時間に訪ねれば、無理もないか。

 そんなミラに、ここに来た理由を伝えてみる。ギルド入口に小さな子供がいたのは、本当のこと。放っておく訳にもいかず、かと言って親方様はちびっ子の面倒を見る気はサラサラ無いようだし、僕やギルドの探検隊サポートメンバーは忙しいし、どこかの探検隊に預けるしかないんだよなー。

「わー! ストップストップ! ちょい待った! これは今はエスターズにしか頼めない話なんだよ!」

 しかし、あっさりと断って門前払いしようとしたミラ。冷たいなぁ……じゃなくて、慌ててドアに身体を滑り込ませて閉じられなくする。ガコッと強めに挟まれて手が少々痛んだけど、この際仕方無い。

「……どうして?」

 そう完全に不機嫌全開で返されると、僕も困るんだけど。とりあえず嘘が混じらないように気をつけて、効果的っぽい言葉を繋げてみることにする。

「僕達忙しいから、その……できればちょっと余裕のある高ランク探検隊に預けたいんだけど、その子、女の子でさ。つまり、えっと……同性がいる探検隊じゃないと、ちょっと、ね……」

 反応が悪いとは言え、向こうはチーム内でも鋭く頭がいいミラだ。むさ苦しいオスの集団に預けるのは避けたい気持ちくらいは絶対に察しているはず。

 ミラはやはりそれに気付いてくれたようで、けれどやはり自分達が預かるのは嫌なようで。

「同性がいる高ランク探検隊? それなら"スカディ"とか"アンデルス"とか"エクトロン"とか"リフシーアとか、他にもいろいろあるでしょ?」

 主立ったチームの名前をつらつらと述べ、嫌そうにミラはこちらを睨んでくる。ってかよく知ってるね。
 本当は、さっきはそこまで考えていなかったけど……咄嗟に情報を寄せ集める。

「"スカディ"は今依頼を受けてて昨日から不在。"アンデルス"は女の子いるにはいるけど、ちょっと性格キツイからなぁ……で、"エクトロン"は最近リーダーとその子がくっついて、これが超ラブラブらしくてさ。預けたところで蚊帳の外確定。"リフシーア"は……現在行方不明。依頼を受けずに探検に出かけて、3日くらい帰ってないんだよ」

「ライヨウコンビは?」

「ライヨウ……? ああ、アルビスのこと? それなら親方様がリフシーアの捜索に行かせたよ。だから、適任が君達しかいなくてさ」

 一応、これは事実。まあ、アルビスに任せておけば捜索だって問題無いし、今はこっちの方が重荷なのだ。まあ、ぶっちゃけて言うと適任が他にいないわけじゃないけど、エスターズに預ければひとまず安心だからね。多分。

 と、その時。

「うおわっ!?」

 何かが背中にぶつかってきたと思ったら……受け身をとる間もなく、思い切り前のめりに倒れてしまった。咄嗟にミラはドアを押さえる力を弱め、後ろにひょいっと飛んで下敷きを逃れたようだが。

「まーろ! あーそーぼー!」

 僕の背中に華麗にクリティカルヒットをかましてくれた張本人は、倒れた僕の上をげしげしとジャンプしている。
 ピンク色の丸い身体に大きな赤い目を持つ、ププリンという種族だ。

「え、まさか、この子……!?」

「あー、うん。名前は多分ラクシィ、だと思う。違ってたらゴメン」

「た、多分って……」

 僕は起き上がって、ぴょんぴょん跳びはねるラクシィをキャッチする。
 頭を撫でて落ち着かせた時、突然いい考えが思い浮かんだ。例えるなら、頭の上で豆電球がピコーンと光ったような、そんな感じ。

「ごめんねラクシィ。僕はそろそろやらなくちゃいけないことがあるから遊べないんだ。だけど代わりに、このお姉ちゃんが遊んでくれるからね〜」

「ちょっ!? マロン! 一体何を……!?」

 咄嗟の思い付き(悪巧み?)に、当然ミラは慌てて抗議の声を上げるけど、僕の知ったことじゃないね。

「この子はミラお姉ちゃんって言うんだ。たっぷり遊んでもらうんだよ!」

「うん、わかった! みー、あそぼーっ!」

「や、だからわたしは……っ!?」

 ラクシィは僕の手からするりと抜け出し、ミラのいる方向へとジャンプ! ミラはやっぱり元気良く向かって来るラクシィを放置する訳にもいかなかったらしい。上手く勢いを殺しながらキャッチしている間に、僕は素早くドアの外へと逃げる。

「じゃ、よろしく頼むよ〜!」

 それだけ言い残して、ドアを閉めてすたこらさっさと飛んでいく。逃げるが勝ちとはまさにこのことだ。ドアを閉める直前に、何やらミラの声が聞こえた気がしたけど、聞こえなかったことにしておこう。

 それにしても。
 今回の押し付け、いや交渉中、終始ミラは小声で話していたよなぁ。もしかしたら、まだ寝ているらしいサファイア達を気遣ってのことかな? それに、メンバー2人が側にいるといつもすましてるけど、この手の押し付けには少々弱いところがあるらしい。
 ミラにもこんな一面があったのか……これは将来利用できるかもしれないし、頭の片隅にでも入れておくことにしよう。

〜☆〜

 マロンに強引に押し付けられたピンク風船の扱いに、わたしは正直戸惑っていた。
 ラクシィというこのププリンは、部屋の中を物珍しそうに眺めている。そのうち跳びはね始めてもおかしくない。

「えっと……ラクシィ、ちょっと動かないで待ってて」

「ん!」

 分かっているかどうかは分からないけれど、ラクシィは元気良く頷いた。このままマロンに返却する訳にもいかないし、仕方ないので部屋を片付けることにした。
 別にラクシィが跳びはねてエレッタを踏み起こそうと構わないけれど、もし実験器具にぶつかられたら困る。……いや、ガラスが割れるのもそうだけど、液体が混ざって有毒ガス発生でもしたらいろいろと困るし。
 カチャカチャと手っ取り早く器具を仕舞い、危険が無い状態にしておいた。
 ついでにサファイアとエレッタの様子をちらっと見てみたものの、二人は幸せそうにぐっすり眠っている。

 ……困ったな。子供の遊びなんて全然知らないのに。
 わたしが小さかった頃は……趣味で薬品(時々毒薬)の調合をするか、チルムと近くのダンジョン――今はもう行きたくないけど――に入るか……とても遊びと言えるようなものじゃないし、ましてや小さな女の子が喜ぶ物など分かるはずもない。
 ……二人が目覚めるまで、この部屋は生き地獄になるのかな……ヘルプミー。結構切実に。

 はあ、と軽く息を吐いてラクシィのいる方を向く。そこには、大人しく待っているラクシィが……

 いなかった。

「……あれ?」

 首を傾げ、ふと何かの気配を感じて横を向く。すると、そこにはいつの間に移動したのやら、ラクシィの姿が。
 きっとベッドの方を向いている間にこっちに来たんだろう、なんて悠長に考えることは出来なかった。

 何故なら。

「みーね、これなーに?」

 ラクシィの手の先に、とある小さなマリンブルー色の石があったから。実験器具に気を取られ、仕舞い忘れていたらしい。わたしとしたことがなんたる不覚、なんて言ってる場合じゃないッ!

「あ、その石は……っ!」

 それを止める間もなく、ラクシィの小さな手はその丸い石の表面に触れてしまう。
 そして……

 ピカリと、石が強く光った。

「――っ!」

 気が付いたら、咄嗟に身体が動いていた。一体何をしてるんだろうと考えるヒマもなく、石に触れたラクシィと彼女を包み込むように庇ったわたしは吹き飛ばされて……部屋の中央にあった、テーブルの柱にぶつかった。
 ガゴンと派手な音を立てテーブルが倒れ、その上オマケとばかりに椅子が転倒連鎖を起こして背もたれが頭の上に落ちてくる。
 当然、今のわたしにそれを避ける術はもちろんない。

「……いっ……」

「あ! みーね、だいじょぶ?」

 その声に閉じていた目を開けて、ラクシィの様子を確認する。テーブルの惨事を全てわたしが引き受けたこともあって、どうやら無傷で済んだみたい。それに反比例するように、わたしは少し動くだけでも痛いんだけど。

 心配そうにわたしを見るラクシィをどかして何とか立ち上がり、テーブルと椅子を元通りにしたところで背後から声がかかった。

「ミラ、今の音……何かあったの? それにその子……誰?」

 サファイアがベッドから下りて、こっちに近付いてきた。今の派手な音で起きたのかな? まあ、それでもすやすやと眠っているエレッタはどうかと思うけど。

 首を傾げるサファイアに大体の事情を説明し、ラクシィを預かってもらった。サファイアは小さい子が好きなようで、やたらと喜んで接している。
 それを見ると、自然と痛みが消えていくような気がするのは……気のせいかな? その光景は一見ほほえましいように見えるのに、それでもやっぱりその光景は直視できずに、わたしは机の上に置いたままだった石を拾いながら、いつものように視線を逸らしていた。

■筆者メッセージ
今から英単語の一時間漬けしてきますてへぺろ
すずらん ( 2013/01/08(火) 23:48 )