ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者








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第2章 神話に残る3つの力
M-29 ついてきた幸運
(……う……身体が……重い……)

 ――次の日の朝、寝る前よりも部屋の中が幾分か明るくなった頃、ミラはずっしりとした何かの圧力に耐え兼ねて目を覚ました。
 どうも、身体の半分が重い。何かに押さえ付けられているというよりはのしかかられているといった風で、目を閉じていては何なのかよく分からない。

 ミラが眠い目を擦りながら横を向くと、そこにはエレッタが心置きなくもたれ掛かり、気持ち良さそうな顔をして寝ていた。少し離れて寝ていたはずなのだが、岩から外れてこちらに越境してきたらしい。

「……なるほど」

 ミラは少々呆れの混ざった声で呟くと、エレッタを起こさないように慎重にそこを立ち、倒れないように岩に寄り掛からせた。
 手際よくやったのが幸いしたのか単に眠りが深いだけなのか、エレッタは気付かずに眠り続けている。

(……そういえば)

 ミラは、小回りの効かなくなっていた指先が元通りに動かせるようになったことに気が付いた。身体もまだ完全に温まったとは言えないが、今は行動を束縛するような寒さはない。
 ミラはエレッタの取れかかったスカーフを巻き直すと、誰にも聞こえないように小さな声でそっと呟いた。

「……エレッタ……ありがと」


 それから少し経った頃、その辺に転がって寝ていたラムザが目を覚ました。正直、岩や氷の上に転がって眠る気は、ミラには分からない。冷たさの感覚は種族によってかなり異なるのだ。

「ふあ〜ぁ……ん、お前もう起きてたのか……結構早いのさ……」

 ラムザは起きているミラ、次に眠っているエレッタを見つけ、急にむっくりと起き上がった。その顔には悪戯のタネを見付けた時特有の、意地の悪い笑いが浮かんでいる。

「ん〜? まだあいつ起きてないのか。そろそろ起きて、出発するのさー!!」

 ラムザは息を吸い込むと、気持ち良さそうに眠っているエレッタの顔面目掛けてバブル光線をお見舞いする。
 ……その後この部屋には、少しの間黄色い火花が飛び散り、ラムザの断末魔のような悲鳴が響いていたという。
 その時ミラは、止めもせず静かに傍観していたことは言うまでもない。


「全く、昨日しっかり注意したはずなのに、何で忘れるかな……」

「仕方ないのだ、お前が早く起きないから!」

「ちょっと、それってあたしのせいってこと!?」

 三人は再び歩き始めたものの、二人はさっきからぎゃあぎゃあとうるさい。よくもあのラムザと対等に口喧嘩出来るものだと、ミラは呆れるを通り越してむしろ感心してしまう。

 と、その時だ。

「ひっ……ここ、ここ! 危ないから慎重に行くのさ!」

 ラムザがぱたりと口喧嘩を止め、二人に警告を促した。
 見上げてみると確かに天井には、細く尖った氷柱がびっしりとくっついている。これはこれでビジュアルは中々怖いが、落ちて来なければ大したものではない。

「でもただの氷柱でしょ? なら大丈夫大丈夫……」

 エレッタは先陣を切って、氷柱の下を歩いていった。が、すぐにミラがエレッタの手を急に掴み、氷柱がない場所へと無理矢理引き戻した。ラムザはその場から動かなかったようだ。

「っと! いきなりどうし……」

 エレッタの軽い抗議が終わらないうちに、目の前にいくつもの氷の槍が落ち、パリンと音がしてバラバラに砕けた。

「……な、何!?」

 それに驚いて前をよく見ると、天井の氷柱からは雫が引っ切りなしに垂れ落ちている。
 昨日の晴れの影響なのか、氷柱を支える氷が融けているらしい。これでは、いずれ氷柱が融け落ちてしまう。さっきエレッタの前に落ちたのは、天井から落ちた氷柱だったのだ。

「うっわ〜……これは、迂闊に通れないね……」

 エレッタが見る限り、氷柱地帯はかなり広く続いている。しかも、その至る所で氷柱が落ちてきたり、砕けたであろう氷が散らばっているのだ。
 エレッタとラムザがどうしたものかと考えていると、ミラがすっと前へ出た。

「どいて。わたしがなんとかする」

「へ? どうやって?」

 エレッタの問いにミラは何も言わず、答えとして辺りに大量の不思議な葉――マジカルリーフを作り出した。
 それをミラは、上手く操って天井の氷柱目掛けて放ち、それを一直線に続けていく。葉を根元にぶつけられた氷柱の大半は、元々脆くなっていたこともあってすぐに折れて落下し、粉々に砕ける。それが広範囲で一斉に起きたものだから、凄まじい音が洞窟の中に鳴り響いた。

「できた。これなら……いける」

 ミラが示した天井には、刈り取られたようにまっすぐ線が出来ていた。氷柱が折られて、そこだけ氷がなくなったのだ。

「うん! これなら通れそうだね! 道から外れなければ多分大丈夫……」

 エレッタは砕けた氷を眺めながら、時々天井を確認しつつ慎重に道を進んでいく。いくら氷を除去しても、道から外れてしまえば意味がない。こうしている間にも、道の外の氷柱は絶え間無く落ちてきているのだ。
 もしも、頭の上に落ちて来ようものなら……果たしてどうなるのかぐらい、エレッタにも分かる。

「……あれ?」

 一番前を進んでいたエレッタは、道の脇にとあるものを見つけた。思わず手にとって眺めてみると、意外と重い氷の欠片の中に何か入っているようだ。
 エレッタはしばらく無意識のうちに眺めていたらしい。気が付いた時には後ろには誰もいなかった。代わりに飛んできたのは、先に言ったと思われる二人の声。
「……エレッタ? 何してるの?」

「早くここを抜けるのさ! 早くー!」

「……あ、ごめん! 今行く!」

 エレッタがよそ見をしている間に、ミラとラムザに追い越されてしまったらしい。エレッタは氷を手頃な布で包み、バッグの奥底にしまって二人を追い掛けた。
 出口が、もう、すぐそこに見えている。

〜★〜

「……はっ! 今、何時!?」

 いつの間にか眠っていたらしいサファイアは、目の前の明るさに気付いて跳び起きた。目を覚ました時には、既に太陽が煌々と照っており、既に昼を過ぎていると思われる。
 いつもならばもう少し早く目覚めるはずなのだが、どうやらサファイアの身体は想像以上に弱っていたようだ。

(昨日あんなに寝てたはずなのに……じゃなくて! どどどどどうしよう!?)

 寝起きにも関わらず、高速でベッドから降りた、というよりむしろ転がり落ちたサファイアは、すぐに部屋の外へ出て……ぴたりと足を止める。

「おう、お目覚めか。随分ゆっくり寝てたんだな!」

「へー、サファイアでも寝坊することなんてあるんだ〜……」

「もしかして……結構リラックスしてたり?」

 その部屋では昨日のエンペルトとエレッタとミラが、テーブルについて呑気にもお茶をすすっていた。サファイアは脱力のあまり、ぽかんと口を開けてしばらくそこで固まることになる。

「にしても……あたし達も結構タイミング悪いよね。やっとクレバスから抜け出して、村に着いたと思ったらサファイアは寝てるって、ねぇ?」

 エレッタが、ミラに話を振る。どう考えても、サファイアに若干嫌味を言ってるようにしか思えない。ミラはサファイアをじっと見ながら、こくりと頷く。口には出さない分、他の意味が込められていそうで少し怖い。

「まあ、それは置いとくとして、サファイアにお土産があるんだ。ちょっと待って……あ、これこれ!」

 エレッタはバッグに手を突っ込み、何かを取りだしサファイアに渡した。布に包まれているのだが、強く握ると冷たい水が染み出してくる。サファイアは手が冷たくなるのを感じながら、折られた布を広げる。

 そこからころりと落ちたのはなんと、 乳白色の綺麗な丸石だった。この白いつややかな色といい、光といい……十二石のうちの一つ、"パール"に違いない。

「洞窟の中で見つけたんだ。見た瞬間、何かピンときて……!? ……サファイア?」

 エレッタの話を遮って、サファイアはエレッタにぴっとりとくっついた。しばらくは驚いていたエレッタも、サファイアの気持ちを感じ取り、開きかけた口を閉じる。

「ありがとう……二人とも……宝石の一つを見つけてくれて。そして何よりも、無事に帰ってきてくれて……本当に……よかった……」

 よくよく見ると、サファイアの目には一粒の雫が浮かんでいる。エレッタとミラは、ふわりとしたサファイアの手に触れ、無事であることを改めて示す。
 その場は寒い外とは裏腹に、静かで温かな空気が三人を包み込んでいた。


 サファイアが落ち着きを取り戻し、気を取り直したように丸く美しい"パール"を持ち、精神をそちらに集中させた。
 すると、期待したとおり……ぼそぼそと何かが聞こえてきた。

――男性の声と、少女らしき声がする。男性は老人のようで声がくぐもって聞き取りにくく、少女の方はどこかで聞いたような、懐かしい声だ。

「……では、……の欠片は……別々の方向へ散らばって行ったと……そう申すのじゃな?」

「はい。あの様では……どこに行ったか、全く見当がつかず……」

 その場に、暫しの沈黙が流れる。やがて老人は、重い口を開いた。

「……よし、サファイア。欠片を探してくるのだ」

「な!? で、ですが、私にはそんな力は……」

 老人の強い口調に、少女は恐れるかのように慌て出す。

「そなたには欠片の一つ……青の石があるであろう。その石――"サファイア"は、そなたなら扱える。そなたには他の者にはない、その強い力があるではないか。良いな、サファイア。全てのかけらを集め、元の形に戻すのじゃ。さもなくば……」

「……は、はい! 必ず欠片を元の状態に戻します!」

 少女の慌てた声がまだ終わらないうちに、それはだんだん小さくなって行き……やがて何も聞き取れなくなってしまった。
 諦めてサファイアが目を開けると、隣に同じく目を閉じて黙っているエレッタ、ミラの姿が映る。

「……あれ? 二人とも、何してるの?」

「……今の、サファイアの記憶……? 聞こえた……エレッタも?」

「うん……頭に響くように……確か、欠片がどうのって言ってたよね?」

 二人の会話に、サファイアは驚きを隠せなかった。今までの現象では、記憶を見たり聞いたりできたのはサファイアだけだったのに、今回は二人にも聞こえていた。これは一体どういうことなのか……
 それでも、サファイアが得た情報を一々話さなくてもいい分、良い効果であることは確かだろう。

 とりあえず三人は、今聞こえた声についてまとめてみた。

 ニンゲンだったであろうサファイアが、欠片――多分、この前飛び散ったのが見えた宝石の一部――"サファイア"を持っていたこと。
 残りはばらばらに飛び散り、放っておくと悪いこと……少なくともサファイアや老人にとって不利益になる現象が起こること。
 そして、サファイアはこの欠片を扱う大きな力を持ち、他の人にはその力はないこと、エトセトラ。

「う〜ん……サファイアがどういうニンゲンだったのかはまだ分からないかー」

「他の人にはない大きな力……そのことが知られているのなら、結構特殊な地位にいたり……?」

「……あと、不思議な力も持ってて……あーもう! 何もかも中途半端すぎるーっ!」

 エレッタは考えるのに疲れたようで、湧き上がる疑問を首を振って打ち消した。ミラもそんなエレッタの様子を見て、ため息を吐き考えるのをやめる。サファイアですら、いくら自分のこととはいえ、手がかりが掴めないのでは意味がないので追及を打ち切った。
 今回の考察の再開も、また新しい宝石を手に入れるまで待つしかないだろう。

「仕方ないね……今度別の宝石を集めれば、分かるかもしれない。だから、もう少し我慢しなきゃね」

「うん……所々だけ分かってるって、結構気持ち悪いけどね……」

 サファイアとエレッタがふっと困った笑みを零した瞬間、その雰囲気をぶち壊すように"来訪者"が三人のいる間に突っ込んできた。

「はあーあ……この村もなんだか暑いのさー! かき氷食べたい……あれ、お前達は」

 声から推測出来る通り、三人を見つけてきょとんとしているのは、やはりラムザだった。
 同じくきょとんとしているサファイアを尻目に、エレッタはラムザを冷たい目で見つめる。

「ん〜? チーム全員集合? なんか昨日崖から見たときと違って、弱そうなのさ……そうか! お前、もしや仮面を被っているな!?」

「……は?」

 ラムザは急にテンションを引き上げ、意味不明なことをつらつら述べると、サファイアをびっと指差す。まるで自分が正義のヒーローでサファイアが仮面を被った化け物、とでも言いたそうな顔だ。
 ちなみに化け物扱いはサファイアのみで、エレッタとミラは既に除外しているらしい。ラムザの言い分は、初めて三人一行を見た時と、後に一緒にいた二人との雰囲気に違いがあるだとか何とか。

「その仮面をひっぺがしてやる! 覚悟するのさー!」

「え、ええ!? ちょっと待っ……うひゃあ!?」

 ラムザはサファイアに飛び掛かり、サファイアは必死にそれをかわす。ラムザは素性の分からないサファイアを未だ"よそ者"としか見ていない。

「……にしても、なんで化け物扱い?」

「さあ……雪玉に埋もれて、たった一日でピンピンしてるから、とか?」

「あー、なるほど。確かに生命力は化け物級かもねー」

 目の前で繰り広げられている騒ぎから少し離れ、のんびりとくつろぐエレッタとミラ。とはいえ、目の前でチームのリーダーが子供に追い回されているのは、見ていてあまり気分がいいものではない。

「はぁ、しょーがないなぁ……ラムザ! そろそろやめないと、また電気飛ばすよ?」

 エレッタは頬袋に溜めた電気をバチバチと鳴らし、ラムザに警告をする。しかしそんな脅しにはもう慣れたのか、ラムザは全く聞く耳を持たなかった。

 結局そんなラムザはサファイアに向かって暴れ続けた挙句、単なる脅しでは済まないエレッタの電撃を食らって丸焦げになった。そしてその騒ぎを聞き付けたエンペルトによって、元々悪戯っ子の認識を得ていたラムザは客人の平穏のために家からつまみ出された、ということである。

すずらん ( 2012/11/24(土) 23:47 )