ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者








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第2章 神話に残る3つの力
M-20 高原の砦
 探検を早めに切り上げて訓練、の繰り返しだった七日間もあっという間に過ぎ、ついにフィールドワーク出発日になった。
 サファイア達は前日にオレンの実やリンゴ等の探検用道具を多めに揃え、待ち合わせ場所である広場に向かった。今回の目的は、街に何らかの脅威を及ぼすモノの排除。最悪、戦闘になる可能性もある。

「あ、来たね、エスターズ!」

 広場の中心では、既にライルとヨウナが待っていた。

「おはよう! もしかして結構待った?」

「そうでもないよ。これでも来たばっかだし」

 サファイア達はそれなりに早く待ち合わせ場所に着いたはずなのだが、アルビスの方がどうも早かったらしい。それにしても二人とも今日は絶好調なのか元気が有り余るのか、さっきからウズウズしている。

「そうそう。出発前に一つ。私達はあなた達についていくわ。だから先頭はサファイアでお願いね」

「え……!?」

 サファイアにとって、これはまさかの発言だった。先頭というなかなか危ない位置につくのはサファイアということらしい。確かに、隊列の中で一番危険なポジションはしんがりだとも聞くし、戦闘をアルビスにばかり頼りすぎるのもまずいだろう。

「心配しなくても大丈夫! 道はちゃんと教えるし、道中の敵もそんなに強くないって! じゃ、行こう!」

 ライルがサファイア達を急かす。確かにアルビスと一緒にいれば、わざとらしくもごちゃごちゃとやかましいイルマスの奴らとも、突っ掛かってくることはないだろう。

「そうだね……よし、出発進行ー!」

 サファイア達は出発前の最終確認を済ませると、フロールタウンをぞろぞろと出ていく。 若干三名のテンションが高いせいでまるで遠足のようだが、これはれっきとした探検活動である。


 テルル村は、『砦の高原』というダンジョンを抜けた先にあるという。ヨウナの情報だと、このダンジョンは十三階層。抜けてすぐに村の入口があるそうだ。

(そういえば、ダンジョンとか村のこととか、フィールドワーク先のことについて何も調べて来なかったな……)

 ヨウナの説明を聞きながら、サファイアは少し後悔していた。ふらわーぽっとには、あの膨大な資料室がある。探そうと思えば、自分でも何らかの情報を見つけることくらいは出来たはずなのに。
 そう思ったサファイアの足元に、"葉っぱカッター"が数枚突き刺さった。それに驚いて、思わずサファイアは変なステップを踏んで後ろに下がる。

「うあ! 敵が……!?」

「サファイア、今ぼーっとしてなかった?」

 後ろのエレッタの声と同時に、前の二人に向かって葉っぱカッターがまた飛んできた。しかも、今度はかなり広範囲に、まんべんなく飛ばしてきている。

「これは避けられないね……アイアンテール!」

 エレッタはサファイアの前に出ると、体の割に意外と大きい尻尾を鋼の様に変え、こちらに飛んで来た葉っぱを弾き返した。

「今度はこっちの番だよ! "目覚めるパワー"!」

 サファイアの周りに光の粒が幾つか出来たかと思うと、それらは一斉に葉っぱカッターが放たれた方向へ走った。前にある茂みに邪魔され相手の姿は見えないものの、光は次第に青みを帯びて大きくなり、前の茂みをも突っ切った。
 ちなみにサファイアの目覚めるパワーのタイプは『氷』。茂みの向こうを確認してみると、葉っぱカッターを飛ばした犯人であろうウツドン達がまとめて倒れていた。

「結構敵が強くなってきたよね」

「うん。幾ら今回はメンバーが多いからって、気を抜かずに行かなくちゃ」

 一息ついて、サファイアとエレッタは戦闘音のする後方を向いて、様子をみることにする。

 一方、サファイア達がウツドンと戦っていた頃、更に後ろにいた三人はその数倍の数の敵を相手にしていた。

「竜の波動ー!」

「火炎放射!」

「チャージビーム!」

 三人の技の威力はいずれも敵を倒すには申し分ないようで、分担して効率よく敵を倒していた。
 しかし、今戦っている敵の数に加え、戦闘の音を聞き付け続々と助太刀に入ってくる敵を全て倒すとなると、あっという間にPPはなくなってしまう。

「うっわ、また新しい敵が乱入してきたよ……しつこいなぁ、全く」

「だったら、威力の高い技を相手に見せて、違いを見せれば早いかしら?」

 ライルとヨウナはそう決めると、すぐにそれぞれ特定のポケモンに狙いを定めた。

「君個人に恨みはないけど、ちょっとごめんなさいっと! "流星群"!」

「じゃ、私も。"大文字"!」

 ライルが渾身の力を込めて放ったオレンジ色の球体は分かれて雨のように降り注ぎ、ヨウナの口から溢れ出る程の炎は狙ったポケモンどころか近くに陣取っていたポケモン達にまで影響を及ぼした。もちろん、こんな大技を受けてここの敵が倒れないはずはない。

『ギャアァ!』

『……ギッ』

 それを見ていた敵は狙い通り技を放った二人に恐れをなし、さっさと散り散りになって逃げていく。どいつもこいつも、逃げる速さだけは妙に速い。

「やっと逃げてくれたか……って!? まだいた!?」

 一息着いたライル目掛け、あの技にも怯まなかったウツドンが迫ってくる。
 少々のダメージを覚悟で接近戦に持ち込もうとしたライルだったが、ウツドンは技を出す前に背後からシャドーボールを受け、目を回しぽてっと落ちた。

「ミラ、ナイス!」

「……それはどうも」

 シャドーボールを放ったミラはこれ以上敵が出てこないことを確認し、戦闘を終えて待っていたサファイア達に合図を送った。

「ヨウナ、僕達も行こう。サファイア達、先へ行っちゃうよ?」

 ライルがサファイア達を見ながら固まっているヨウナを前に押すと、ヨウナはごにょごにょ何か呟きながら歩くのを再開する。

「……面白い……シルバーランクとはいっても、なかなかの実力ね、エスターズ……」


 この比較的長いダンジョンも十階を越えると、道も段々と険しくなってきた。これでは高原というより下草の生えた山に近い気がする。

「本当に道が急だね……こんな交通不便そうなところに、村なんてあるの?」

 エレッタが道の険しさにぼそりと文句を言うと、それを聞いていたライルが答えてくれた。

「テルル村は、昔から険しい高原の頂上にあって……こんなに険しいと、登ってくるのも大変だし、天然の要塞みたいなもんだから外敵が攻め込むのも難しかったんだ。だから、テルル村は昔の生活様式がそのまま残ってるんだって。このダンジョンが砦の高原って名前なのも、高原が新しいものをことごとく寄せつけなかったからって言われているんだ」

「昔の生活が、そのまま……?」

 エレッタはいつの間にかライルの話を惹かれるように聞いていた。
 エレッタの故郷も、ある村だったが……そういえば、昔の生活様式はあまり残っていなかった気がする。所変われば文化も変わるということか。

「生活がそのままってことは、文明も変わらず残ってるってこと?」

 さっきの話を聞いていたのだろう、今度はミラが珍しく自分から会話に入って来る。それと同時にヨウナが会話に参入し、ライルの代わりに説明し始めた。

「ええ。確か、独自の文化や信仰を持っているらしいわ。なんでも未来が見える占い師? がいるとかいないとか……」

「占い師……?」

 ミラはぼそりと呟いたきり黙ってしまい、最後に敵を倒したばかりのサファイアが会話に入る。

「でも、今は何か異変が起きてるんでしょ?どんな異変なの?」

 サファイアの質問には、今度は二人とも答えられなかった。

「それは分からないんだ。異変が起きてることだけ伝わってきて……さっき言った通り、あの村は他の場所から隔離されているんだ。だから通信手段もあまりなくて、情報が入ってこないんだ。それを調査するのが、今回のフィールドワークの目的だよ」

「そう……あ、階段が見えてきたよ!」

 急な坂道を登った所に、このダンジョン最後の階段があった。
 テルル村まで、もう少し。

〜★〜

 サファイア達は、やっとテルル村に到着した。確かに、ダンジョンを抜けてすぐの所に村の入口がある。
 だが、それにしてはやけにひっそりとしている。誰かいる気配はするのだが、あって然るべき村の生活音が聞こえてこない。

「なんかさ、寂しい村だね。何で? 写真で見たのとちょっと違うみたいだし」

「さあ……僕達にも分からないけど。おかしいなぁ、あの写真はつい最近のもののはずなのに」

 さすがのライル達にもこれは分からないらしい。写真で見た時は、なかなか繁栄していそうな村だったのに。
 しかし辺りをよく見ると、子供の遊び道具やら散らばっていたり足跡が所々にあったりで、ついさっきまでここに誰かいましたという証拠が結構ある。
 それにしてもこれはまるで、災害に襲われて村人全員が一斉避難をしてしまったような……家の中に皆篭っているのだろうか。

「誰か、助けてーっ!」

 と、サファイア達が仮定したまさにその時、誰かの悲鳴が聞こえてきた。

「……今の! 誰かが村の奥にいるみたい!」

「助けてって聞こえ……は、早く行かなくちゃ!」

 探検隊一行五人はアルビス二人を先頭に、声のした方向へ急いで走って行った。異変とはもしかして、今の悲鳴と何か関係があるのかもしれない。

「あ、あれは……見て!」

 ライルの声に、全員が足を止めた。

「あれは確か、あのフロールタウンでも噂の……時空の渦!?」

 そう、村の一番奥と思われるこの場所で、今噂の種にもなっている黒い渦が発生していた。
 そして、その近くには小さな角材にしがみついているポケモン、メリープの姿が……

「う……誰……か……っ!」

 渦は全く消える気配を見せず、それどころかメリープを小さな角材ごと吸い込もうとしている。
 少しずつ、少しずつ、周りに散らばっている小さな石や道具を引き込みながら……

「え!? ど、どうしよう!? 助けなきゃ!」

「でも、あんな所に飛び込んだら……」

 ライルとヨウナは本物の時空の渦を見るのはこれが初めてらしい。こうしてうろたえている間にも、メリープはいつ渦に引き込まれてもおかしくない。

「そこ、どいて」

 その言葉に思わず二人が体を引くと、声を上げた張本人ことミラはじりじりと渦に近づいて行く。メリープが吸い込まれる前に素早く渦の状態を確認したミラは、サファイアの方を振り向いた。

「これなら……何とかなるかも。サファイア、スタンバイ、よろしく」

「え? スタンバ……ああ、そういうことね、了解」

 このやりとりを見ていたライル達は、二人が実行しようとしていることに気付き慌てて制止する。

「ちょっと、サファイア、ミラ!? 何をするつもりなの!? 時空の渦には、攻撃を加えちゃいけないって親方様が……」

 ヨウナの言葉が終わらないうちに、ミラの手から小さなシャドーボールが三つ、渦の中心目掛け放たれた。

「っ!」

 渦の中に投げ込まれたシャドーボールは中心で小爆発を続けざまに起こし、その勢いで近くにいたメリープを吹き飛ばした。

「サファイア!」

「分かってる! 電光石火!」

 サファイアはミラの指示を聞くまでもなく勢いよく地面を蹴ると、素早く空中に跳び上がりメリープを上手くキャッチした。そのままサファイアはライル達のいる場所へ戻り、とりあえずメリープを落ち着かせる。

「君、大丈夫?」

「う、うん……大丈夫……あの、ありがとう……」

 メリープは、目に涙を溜めながら、それでもしっかりと頷いた。引き込まれている間に枝などでついたでのあろうかすり傷ならあるが、それ以外には特に目立った怪我はなさそうだ。

「それじゃ、今度こそ渦の掃除を……」

 ミラは慎重に渦に近づくと、何やら渦の観察を開始した。あらゆる方向から渦を見て、ぶつぶつと呟きを零している。

「エネルギーの流れは異常、成分は北向かい。後は……」

 十分距離をとっているとはいえ、相手は物やポケモンを吸い込む不思議な渦。端から見れば相当危険な作業である。いやそれ以前に、ミラの言っている言葉の意味がさっぱり分からない。

「ミラ……? あのさ、何してるの?」

「事前準備」

 ミラはライルの問いをさらっとかわすと、後ろにいるメリープの方へと向き直る。

「この渦、邪魔だよね?」

「え、あ、え……えーと、じゃ、邪魔?」

 いきなり言われて戸惑うメリープ。そんなことを聞かれたって、答えは決まっているはずなのに。ふと浮かんだそんな考えを、サファイアは心の中に留めておいた。

「この渦、消すの? 放っとくの?」

「あぅ……け、消して……」

 その声に応え、ミラがまた渦をじっと見つめ、距離を調整し始めた……その時だった。

「……? 何……っ!?」

 一瞬だけ渦を巻く速度が遅くなったかと思うと、突然渦に吹き込む風が強く吹き荒れ始めた。急いで全員その場から離れたから良かったものの、最終的に風の力により渦は先程の倍くらいに膨張してしまう。風もさっきより強くなっていて、これでは迂闊に近づけない。

「ミラ! これって一体!?」

「多分、説明するより見た方が早い!」

 サファイア達がミラの制止するままに渦巻きを静観していると、突然渦の中心が逆回転を始め、盛り上がる。まるで、そこに穴を開けて、何かが出てくる前兆のような動きだ。

『……グオ……ア…………オオォン!』

 やがて風を取り込む渦の中から、地の底から響くような雄叫びを発し、青色のドラゴンポケモン――ガバイトが沸くように出て来た。
 しかし、普通のポケモンとはどこか様子が違う。爛々と光る二つの目に、理性の色がない。何らかの巨大な力に操られているという印象で、言葉を一切発しないまま、ゆっくりとこちらに近づいてきた。時折両腕の爪を振り上げ、こちらを威嚇している。

「な……何!? あのポケモンは!?」

「あ、あれは……確か、リークさん、だ……」

 不意に、サファイア達に守られているメリープが、悲しそうにそう呟いた。

すずらん ( 2012/09/15(土) 23:57 )