ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者








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第1章 探検隊エスターズ
M-09 海食洞での再会
「"十万ボルト"!」

「"電磁波"!」

 暗い海食洞の中に、元気なエレッタの声とバチバチと電気火花が散る音が響く。

 ここに住み、サファイア達に襲い掛かってくる敵ポケモンは、海の洞窟だけあって水タイプが多い。
 サファイアは水タイプに対して特に有効打はないため、電気タイプのエレッタが率先して次々と敵を沈めているのだ。

 いくらダンジョンとは言え、襲ってくるポケモンに情けは無用。
 容赦無く敵を痺れさせるエレッタからは、そんな思いが見て取れた。


「ふう、このダンジョンは昨日と違って敵が多いねぇ」

 通路を塞いでいたクラブをエレッタは電気技で沈め、サファイアのいる方に振り向いた。

「いつも、ダンジョンってこんな感じに敵が襲ってくるの?」

「そうだよ。スイレン峠やシェルヤ海食洞を始め……ダンジョンには、『時が壊れかけた』影響を受けて狂ったポケモン達がいつも襲ってくるんだ」

「……時が、壊れかけた……?」

 言葉の響きからして怪しいその単語は、サファイアは聞いたことがないもののはず。
 それなのに、どこかで聞いた気がするというより、その言葉は懐かしいような響きを伴い、サファイアの頭の中に居座った。

「七年前のこの世界で、時を司る塔が壊れた影響で星が時を止め、活動を停止する瀬戸際まで行ったことがあるんだ。星が停止すると、草も育たないし風も吹かない、太陽も昇らない暗闇の世界となってしまう……北方の英雄の探検隊によってなんとかそれは防がれたけど、時が壊れた影響はまだまだ濃く残っているんだよ。
さて、この話はもう切り上げて……階段が見えてきたよ! 早く降りよう!」

 エレッタは再びにこりと笑うと、洞窟の下へ降りる階段へ向かって走り出した。
 サファイアも今の話に懐かしいような妙な思いを感じつつ、エレッタの後を追って階段を降りた。

〜★〜

 階数を重ねるごとに、段々と敵ポケモンも強くなっていた。
 一応サファイア達もこまめに休憩を挟んでいるので、一気に痛手を負うことは少ないだろうが、体力だけを気にしていてもダンジョンは突破できない。

「……エレッタ……そんなに技連発して大丈夫?」

 十万ボルトと電磁波をガンガン繰り出すエレッタを見ていると、痺れないとは分かっていてもやはり心配になってしまう。

「大丈夫! ……って! サファイア! 後ろ!」

 エレッタの声にサファイアが後ろを振り向くと、まさに今、シェルダーが"水鉄砲"を繰り出そうとしているところだった。

「"守る"!」

 サファイアは冷静に技を出し、ドーム型の緑色の壁を身体の回りに出現させ水流を防いだ。
 因みに、守るはさっきダンジョン内に落ちていた技マシンを使って覚えたものである。

「サファイア、下がってて! 十万ボルト!」

 エレッタの体が黄色い電気に包まれ、一気にシェルダーに向かって……

 飛び出すことはなかった。

 一瞬、場が静まる。

「……エレッタ? どうしたの?」

 エレッタが溜めた電気は、シェルダーに放たれることはなくただエレッタの発する静電気を増やしただけで終わってしまった。

「……あ! ゴメン。十万ボルトのPP切れちゃったみたい」

「……何が連発して大丈夫だー!! どの口が言うっ!?」

 サファイアが盛大にこけたような音が場に響く。
 シェルダーはこの一連の会話を聞き、今がチャンスとばかりに水鉄砲を連射し始めた。

「はいはい、守……っ!?」

 サファイアは再び守るを繰り出すが、緑の壁は現れずに水流の直撃を受けてしまった。

「うわっ、冷た……」

「サファイア! 大丈夫?」

「大丈夫。そうか、守るは連続で出すと、失敗しやすいんだっけ……」

 サファイアは被った水を跳ね飛ばし、シェルダーとの距離をじりじりと縮めて行った。
 シェルダーも当然その動きを警戒したものの。

「電光石火!」

 サファイアは距離を詰めてからのいきなりの電光石火を繰り出した。
 シェルダーは殻にこもろうとしたが電光石火の直撃には間に合わず、シェルダーは目を回して気絶したようだ。

 サファイアはトレジャーバッグを漁り、中から液体の入った小ビンを取り出した。

「はい、ピーピーマックス。ちゃんとPPの残りは確認してよね」

「はーいはい、どーんと任せてよ!」

 エレッタは甘ったるいその液体を飲み干すと、元気回復と言わんばかりのスピードで辺りを見回した。
 またクラブが近付いているのを見つけ、バチバチと威勢の良い電気を放つ。

 サファイアはその様子を見て、少し苦笑した。

「全く、元気だねぇ、エレッタは……」


 それから、3回ほど階段を見つけて降りると、今までのようなフロアではなく、ただ広い大部屋に辿り着いた。
 辺りを見回しても、下に続く階段はない。おそらく奥地とはこの場所なのだろう。

「依頼主は、ここにいるはずなんだけどな……」

「誰もいないよねぇ……」

 フロア内には、沢山の岩が積み重なった山と水溜まりがあるだけで特に何もない。

「詳しく調べる?」

 サファイアの提案にエレッタは頷き、まずは一番大きい岩の山に向かった。

 岩の積み重なった山の上に乗り、エレッタはコンコンと岩を叩いた。
 すると、がさりと岩山の中で何かが動く気配がした。

「誰かいるみたい。依頼主かな?」

「かもね……すいません、あなたは……救助依頼を出した冒険者ですか?」

 この奥地にいるかもしれない他の誰かに聞こえないよう、サファイアは小さな声で岩山に問い掛けた。

 すると再びがさがさと音がして、岩と岩の間から白い毛が覗く。

「あ、探検隊のポケモンかい!? 助けにきてくれたんだね、感謝するよ! 崩落に巻き込まれて出られなくなってたから」

「ええ……でも岩山の中から、どう外に出るのですか?」

 まさかエスターズが岩をどかさないとダメなんじゃ、と思ったが、依頼主らしいポケモンはすぐにそれを否定した。

「探検隊ならバッジを持っているんだろう? それを岩山にかざしてくれれば十分だ」

「あ、うん。じゃあ……」

 サファイアは自分の探検隊バッジを掲げ、岩山にかざした。
 すると……バッジに淡い緑色の光が集まり、岩の隙間から山の中に入り込む。

 それから一瞬のうちに、岩山の中にいたポケモンの気配が消えた。
 バッジの光には、遭難者を一瞬で脱出させられると聞いていたが、改めて自分達でやってみると、すごい機能があるものだと感心する。


 サファイアは、自分達も帰ろうとバッジを掲げかけて……ふと、バッジを持った手を下に下ろした。

「……? サファイア? どうしたの?」

「いや……あっち見て……」

 サファイアは広場の奥を指差し、エレッタはその方向を見た。
 サファイアの指した方角には……

 どういうわけか、ラルトスが下を見ながら歩いていた。
 きょろきょろと何かを探しているようにも見えるが、サファイア達がいることには気付いていないらしい。

「あのラルトスは……昨日スイレン峠にいた子かな?」

「分からないけど……可能性はあるよね。何か落とし物でもしたのかな?」

 疑問に思ったサファイア達は、とりあえず接触をはかることにする。
 サファイアはあまりラルトスを驚かせないように、ゆっくり歩いて近付いて行く。


「……あ」

 ある程度までサファイアが近付いた時、ラルトスもこちらの存在に気付き、じっとこちらの様子を見る体勢に入った。
 警戒心は相変わらずだが、いきなり攻撃してきそうな様子でもないため、サファイア達はすたすたと近寄り、少し距離を置いて止まる。


「もしかして、昨日の……?」

 ラルトスはその場から動かずに、サファイア達をしっかり見ながらそう言った。
 サファイアとエレッタへのこの反応を見る限り、やはり昨日スイレン峠で出会ったラルトスに間違いなさそうだ。

「うん。また会ったね。ところで、何か探し物でもしてるの?」

「……別に」

 ラルトスはふいっとそっぽを向き、ぼそりとこう付け加える。

「数日前に、ここに赤い流れ星が落ちたのを見たから、異変が起こっていないか気になった。それだけ」

「「……流れ星!?」」

 サファイアとエレッタは同時にそう叫ぶ。
 前にサファイアが宝石に触れた時、流れ星の映像が見えたのを思い出した。
 ということは、流れ星が落ちたこの場所に、宝石がある可能性が高いと言うことかもしれない。

「ね、ねえ! ここら辺で綺麗な宝石みたいなものを見なかった!?」

「……宝石?」

 思わずサファイアはラルトスに飛び付くような剣幕で聞いた。
 ラルトスはそんなサファイアの様子に多少引きながらも、自身の白い手を開いた。

「これのこと? そこに落ちてたけど」

 ラルトスの手の上にあったものは、赤く輝く宝石だった。
 これは……確か、ルビーと呼ばれる宝石だったはずだ。

「わたしにはどういうものかよく分からないんだけど、要るの?」

「あ、うん! ありがと」

 ラルトスは近寄って手を伸ばし、サファイアの前足に宝石を置いた、その時。


 サファイアは突然何者かの気配を感じ取り、振り返ってその気配――とてつもなく危険で邪悪な――がする方向を見た。
 それはエレッタとラルトスも同じらしく、サファイアと同じ方向を凝視する。


 そんなサファイア達3人の前に立ち塞がったのは、巨大な赤いハサミを持った、クラブを巨大化させたようなポケモン、キングラーだった。この奥地に潜むダンジョンのボス、だろうか。

『ナワバリヘノ……シンニュウシャ……カエサナイ……』

 キングラーは目に狂気の色を宿し、サファイア達をじっと見下ろす。
 それから自身の縄張りからサファイア達を排除するために、無数の泡の塊、"バブル光線"を放ってきた。


「な、なにこれ!? じゅ、十万ボルト!」

 エレッタは強力な電気を放ち、泡を全て迎え撃った。
 電気と泡はぶつかり合い、お互いの技の効果を打ち消し合う。

「ふう、何とか……って、また!?」

 エレッタが技の使用を止めほっとしたのもつかの間、キングラーは再びバブル光線を放った。
 エレッタは再び十万ボルトで迎え撃つものの、さっきよりもバブル光線の威力は上がっており、次第にエレッタの電撃が押されてくる。

「う……強い……!」

 段々と近付いて来る無数の泡を前に、エレッタは思わず電撃に更なる力を入れる。
 それとほぼ同時に、横から不思議な色をした葉っぱが大量に飛んできて、バブル光線を一気に押し返した。
 電気と葉っぱは泡を完全に撃ち破り、キングラーに直撃する。

「え? 葉っぱ?」

 サファイアが隣を見ると、エレッタの反対側ではあのラルトスが、"マジカルリーフ"を作り出し、泡に向けて次々と飛ばしていたのだ。


『グッ!』

 効果は抜群である電気タイプと草タイプの技をもろに食らい、キングラーは苦しそうに顔を歪める。
 しかしこの攻撃は、キングラーの怒りに火をつけてしまったようだ。
 キングラーはサファイア達の頭上に何かのエネルギー球を作り出し、それを一気に巨大化させ、大きな岩を作り上げた。

『クラエッ! "岩石封ジ"!』
 岩石封じの岩はサファイア達を軽く押し潰せる大きさにまで成長し、いつ落下してもおかしくない。

 とっさにエレッタは、ラルトスの腕を掴んでこう言った。

「ねえ! さっきのマジカルリーフ、もう一回あの岩に向けて出して!」

「え? でも……」

「いいから! 早く!」

 ついに岩は巨大化を止め、ある一定の大きさに砕けると、サファイア達三人目掛けてガラガラと降ってきた。


「マジカルリーフ!」

 ラルトスはエレッタの作戦の意図を読み取れないまま、落ちて来る岩に向けて多数の葉を打ち上げた。
 その葉に、パチリとエレッタの黄色い電気が飛ばされ、岩にぶつかる直前で葉と電気がかち合った。


 ――瞬間、天井付近で大きな爆発が起こり、砕けた岩石封じの岩のみならずその爆風で洞窟天井の岩がガラガラと崩れ始める。

『グオオォオオオオ!』

 キングラーは落ちてくる岩を避けることができず、瞬く間に大岩の下敷きとなってしまった。
 だが、天井が崩れた影響は、サファイア達にも容赦なく降りかかる。

「おっと!」

 エレッタは落ちる岩を身軽に避け、爆風の影響を被らなかった位置まで後退する。
 同時に、ゴオオォと地響きのようなものが奥地の広場に発生した。


 その地響きが収まると同時に、グシャリと最後の大岩が地面に叩きつけられ、粉々に砕けてしまった。


「ふう、危なかった……大丈夫? サファイア」

 エレッタは後ろを振り返らないまま、後ろにいるはずのサファイアに話し掛けた。

 だが、いつまで経ってもエレッタの問いに対する返事は返ってこない。

「サファイア?」

 不思議に思ったエレッタは、後ろを振り返る。
 もしかして今の聞こえていなかったのかな、と思いながら。


 そんなエレッタの目に映ったのは、大規模に崩れたにも関わらず未だ抜け落ちない天井と、形成された岩山のみだった。

「……え?」

 エレッタが岩山の周りを確認しても、サファイアとあのラルトスの姿は見当たらない。
 ふとエレッタに、最悪の結果が頭をよぎる。

「まさか……サファイア……?」

 エレッタは岩に手をかけどかそうとするものの、大岩はエレッタの力ではびくともしない。
 ただ岩の上に辛うじて乗っていた小石が、コロリと落ちていくだけだった。


すずらん ( 2012/07/12(木) 23:39 )