ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者








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第1章 探検隊エスターズ
M-05 スイレン峠
 フロールタウンの中心にある探検隊ギルド、ふらわーぽっと。その周りを取り囲むように、街には様々な施設が立ち並んでいた。

「うわぁ……ここは本格的な探検隊の拠点みたいなものなんだね」
「そうみたい。お店や倉庫みたいな施設がたくさんあるからね」

 そんな施設の中でも、特に賑わっていて目を引くのはカクレオンの店、ガルーラの倉庫、ヨルノズクの銀行……などなど。
 もっと街の奥へ行くと、"ダイヤモンドランク以上通行可"と書いてあるゲートがあり、その奥にも施設がまばらに建っているようだ。ゲートには門番らしい強面のグラエナが居座っているため、何も用がなければなるべくあそこに近づきたくはない。

「いろんな施設があるんだね。じゃ、まずは、みんなに挨拶して行かない?」
「はーい!」

 サファイアはエレッタと並んで、街のカクレオンの店へ向かう。その店の店主、通常色とピンク色という不思議なコンビのカクレオン達は二人が近寄って来るのを見つけ、先に声をかけた。

「いらっしゃいませ〜! ……おや? あなた方は初めての方ですか?」
「うん、初めまして。あたし達、さっきギルド"ふらわーぽっと"に弟子入りしてきたの。あたしはエレッタ、こっちのイーブイはサファイアって言うんだ。これからよろしくね!」

 エレッタが咄嗟に前に出て、カクレオンに挨拶を返した。
 どうやらこのカクレオン達兄弟であり、二人で店を経営しているらしい。カクレオン達の話によると、兄は消耗品やスカーフの販売、色がピンク色の弟カクレオン(技マシンの素晴らしさに感動して色が変わってしまったとは本人談)は不思議玉という青い球体の他に、技マシンやどこかのダンジョンで使えるという鍵などの少し高めのものを主に売っているそうだ。

「探検に行くときは、ここで道具を揃えていって下さい。準備不足でダンジョンの中で倒れたら、そのまま死んでしまうこともあるんですから!」
「あ、はい、分かった、気をつけとくよ……」

 兄カクレオンが鼻息荒く探検の注意事項を述べてくれたので、サファイア達は少し引き気味に礼を言い、探検には必需品とされている"あなぬけの玉"やオレンの実などを結成おめでとうサービスとやらで譲ってもらい、カクレオン達に感謝しながらフロールタウンの奥へ向かった。


 そろそろ太陽が沈むかどうか、という時間帯に。

「……はあぁぁぁ……疲れたぁ……」

 サファイアとエレッタはギルドの部屋に戻ると、一直線にベッドの上にダイブしてぐったりとのめりこんだ。
 が、無理もない。ついさっきまで、サファイア達はたっぷりと倉庫番のガルーラの長話に付き合わされていたからだ。
 正直勘弁してほしいとも思ったが、探検に関する予備知識や過去にあった探検上のミス・対策等を延々と語られ、聞いておいた方がいいと判断してしまったのだ。
 いい加減に頭がクラクラし出した時、他の探検隊のポケモン達が倉庫を利用している間に、サファイア達はそそくさと逃げ去って、今に至る。

 二人がまだ軽くげっそりしていた時に、部屋の扉を軽くノックする音が聞こえてきた。

「誰だろう? 副親方の……えーと、マロンかな?」

 エレッタが当たりをつけながら扉を開けると、入ってきたのは予想通りのリンゴ等を抱えたマロンだった。

「やっぱりか……その手に持っているのは何?」
「これかい? さっき、親方様からいろいろダンジョンで使う道具の説明をするように言われたから、解説にね。ちょっと長くなるけど、聞いてくれる?」

 サファイアとエレッタは同時にうわぁ、と言いたげな表情を慌てて消した。一瞬勘弁してくれと思ったが、これは探検隊をやっていく上で重要な話だ。さっきの役に立つのかどうか分からない長話とは訳が違う。
 ということで、渋々二人はベッドから降り、マロンの前に並んだ。その間にマロンは持っていたものを机に置き、順に説明していく。

「いい? じゃ、始めるよ。まずはリンゴ。ダンジョン探検ってのはお腹が空くから、適当に何か食べておかないと空腹で倒れちゃうから気をつけて。そして、この瓶詰の"ピーピーマックス"は、技を出せる回数……PPっていうのを回復させる。ものすんごく甘いから、必要な時以外に飲みたい味じゃないけど……そしてこれは穴抜けの玉。ダンジョンの最奥部とか依頼達成直後以外はバッジの脱出機能が作動しないから、途中で抜けたくなったらこれを使えばいいよ。あとは……」

 マロンは一呼吸着くと、荷物の中からスカーフを二つ取り出した。

「これは親方様からのプレゼント。防御スカーフとスペシャルリボン。装備すると防御力や技の威力が高まるけど、持ってるだけじゃダメだからね。これで説明はおしまい。夕飯は冷蔵庫に入ってるから、適当に出して食べてて。それじゃ、明日の試験頑張ってね!」

 マロンは説明を終えると、道具を机の上に置いたままさっさと部屋から出て行った。明日の試験で早速使えということらしい。
 特に何もすることがなくなった二人はマロンの言う通り冷蔵庫に保存されていたリンゴを食べると、明日早速来るという試験に備え早めに寝ることにしたのだった。

「……サファイア、明日から、頑張ろうね……」
「うん。おやすみ」

 良い感じに眠くなっていたサファイアとエレッタは、同時に藁のベッドに潜り込んだ。


 夕方には賑わっていた探検隊ギルドも静まる深夜に、サファイアの閉じていた目が開いた。
 今までどのくらい眠っていたのかは分からないが、寝始めた時にはまだ地平線に接していた月は、既に空高く昇っている。

「……エレッタ? まだ起きてる? いや、もう寝てるよね」

 すやすやと寝息を立てるエレッタの様子を見て、サファイアは上げていた顔を再びベッドに埋め、ふと思う。もしあの時エレッタと出会うことが出来なければ、自分はこうして記憶も戻らないまま、延々とどこかをさ迷う羽目になっていただろう、と。
 聞こえてはいないと知りつつも、サファイアは小さな声で囁いた。

「こんな何者かも分からない私を助けてくれて、ありがとう、エレッタ……」

 サファイアの意識はそのまま夢の中に転げ落ち、夜の暗闇へと消えていく。
 窓から差し込む月の光が、サファイアとエレッタの身体をぼんやりと照らしていた。

〜★〜

 次の日の朝、マロンに言われた通りに、サファイア達はランクアップ試験のことを聞くため親方部屋へ向かい、ハーブの前に並んだ。

「おはよー。じゃあ、さっそく試験依頼の説明をするから」

 挨拶もそこそこに、試験の話を切り出したハーブ。どうやらまだ眠いようで、声にも多少眠気が混じっている。

「試験は、ここから東のダンジョン"スイレン峠"に行って、奥地の木からカゴの実を三つ取って来ること。無事に帰ってこれたら試験は成功、めでたく見習いからノーマルにランクアップ。カゴの実を手に入れたら、バッジを掲げれば戻ってこれるわ。それじゃ、頑張ってね……ぐぅ」

 そう言い終わるが早いか、ハーブはいきなり立ったまま眠りだした。その速さといったら、技の"眠る"を使いました、と言った方が自然である。

「親方様? あれ、もしかして寝てる?」
「寝てるでしょ、これは。でも、今って立ったまま寝るような状況じゃないよね?」
「ああ……親方様は朝が苦手でさ。机の上にある枕もこれが理由で、いつもこうだから特に気にしなくてもいいよ。それじゃ、スイレン峠に行ってらっしゃい」

 サファイア達が軽く引いていると、マロンが苦笑しながら付け足した。副親方がそう言うのなら本当に気にするほどのことでもないのだろうと、サファイア達はこれ以上何も言わずにスイレン峠へと向かった。

〜★〜

 見習いの依頼の通りに、サファイア達はスイレン峠と呼ばれる"ダンジョン"内を進んでいた。ダンジョンという言葉の意味を知らないサファイアは、探検中にエレッタにダンジョンについて詳しく聞いた。
 エレッタの説明によれば、ダンジョン――正式には"不思議のダンジョン"と呼ばれる空間は、昔この星に巨大な隕石が近付いた影響で自然災害が多発するようになった頃に、一気に各地に大量発生したとのことだ。
 ダンジョンは幾つかの階に分かれており、毎回壁や通路の位置が変わる階層を一方通行の階段を使って進んでいく。そしてダンジョンの中には基本的に理性が大きく削られたポケモンが生息し、侵入者を見かけると倒そうと寄ってくる。深い場所まで潜れば、強い敵も増える。
 一方で床には時々罠がある他に様々な道具が落ちていて、この貴重な道具を狙ってダンジョンに潜るポケモン達が後を絶たない。
 腕に自信があるポケモンでも、敵に倒されることがある。そんなポケモンからの救助要請を受けたり、ダンジョンの調査を任されるのが、"探検隊"の主な任務だ、ということを。

 エレッタの話をスイレン峠に当て嵌めると、おかしな点がある。敵ポケモンが、全く姿を現さないからだ。それこそ、不自然という言葉がぴったり当てはまるほどに。
 一応ポケモンの姿は見かけるが、こちらを見た瞬間に逃走し、寄ってこない。不審に思ったサファイアが、ご機嫌なのかスキップで進むエレッタに尋ねる。

「変だね……ここってダンジョンなんでしょ? ダンジョンって狂ったように私達を襲うポケモンがいっぱいいるって聞いたけど、そのポケモン達がこっちに来ないし」
「確かに……でも、運が良かったんじゃない? カゴの木があるスイレン峠の頂上は、次の階でしょ? 早く回収して、ギルドに帰ろうよ!」
「う、うん……」

 元気なエレッタにぐいぐいと引っ張られ、サファイアは曖昧に頷く。
 だが、ろくにイーブイとしての技も使えない、それどころか自分がどんな技を使えるのかも分からない状態のまま、敵ポケモンと対峙したらかなり危ない。ダンジョンで力尽きれば、そのまま敵に殺されることもザラだと聞いている。
 エレッタの実力は初日のライチュウ戦である程度知っているが、エレッタだけではどうにもならないことだってあるだろう。しかも、今のサファイアは戦闘能力に関しては完全に足手まといなのだ。
 もしかしたら、エレッタとの実力差はいつまでも埋まらないかもしれない……そう思いながら、サファイアは、見つけた上階段をゆっくり上った。


 スイレン峠の奥地――穏やかな風が吹くこの小さな山の上で、一人のポケモンが崖の側に立ち、山下の景色を見下ろしていた。
 白い身体に赤いツノを持ち、赤色の目は緑の帽子のようなもので半分隠れている。種族名で言うのなら、ラルトスと呼ばれるポケモンだ。

「……やっぱり、ちょっと、違う」

 ラルトスは、崖淵をうろうろし、やがて山の下の一点……海の近くを見つめる。

(エネルギーの発信地は、ここじゃない。なら、もしかしてシェルヤ海食洞に……?)

 ラルトスは誰に話し掛けるのでもなくただ考える。持っていた鞄から簡単な地図を出すと、小さな山、スイレン峠の位置にバツ印を付けた。その地図には、他にも幾つかのバツ印が並んでいる。

「……! 誰か来る……?」

 その直後、ラルトスは誰かが近付いて来ることに気付き、奥地入口の方向を向く。ぽつぽつと話し声が聞こえたので、とりあえず近くの太い木の影に隠れた。
 こちらに向かって来る者が、自身の存在に気付かないように。近付いて来るポケモンが誰なのか分からない以上、警戒するに越したことはない、と。


「あ、あれがカゴの実だよ! あの木になってる青い実だね」
「へー、結構あるんだね。これなら三つくらい取って行っても、特に影響はなさそうかな」

 ちょうどその頃、エレッタとサファイアは何事もなくスイレン峠の奥地に辿り着いた。
 エレッタ曰く、崖の近くにある比較的小さめの木――青く片方が尖った実をたくさんつけている木が、カゴの木らしい。
 エレッタはその木を確認すると喜んでそちらに一直線に向かい、サファイアもその後を追い掛ける。

 これで依頼が達成できる。
 そう思って油断していたせいか、二人は地面に横たわっていた"モノ"の存在に、気付くことは出来なかった。

■筆者メッセージ
初めまして。このスペースに何か書いた記憶がないのでおそらく初めましてだと思います、すずらんです。
ストーリーはとりあえず81話分ストックがあるのでガンガン更新したいところなのですが、細かい修正箇所がたくさんあるので気長にお待ちください。
なお、この小説の中では探検隊バッジに『誰かが倒されたらギルドに即強制送還』なんて素晴らしい機能はありません。チーム全滅したら下手すると死にます。そんな感じの探検ですが、どうかお付き合いくださいませ。

ちなみに、用語の一部を大幅に変える予定なので、前々から読んでくださっていた方には若干「?」なところもあるかと思いますが、スト―リーはほとんど変わらないのでご安心を。
これからもよろしくお願いします。
すずらん ( 2014/02/23(日) 00:16 )