ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者 - 第1章 探検隊エスターズ
M-16 定まらない狙い
 エスターズが世界樹の森 奥地で頑張っている、ちょうどその頃だった。

「親方様。また新しい情報が届きましたよ」

 探検隊ギルドのふらわーぽっとの一室で、ハーブとマロンが話している。マロンの声は、若干沈んでいるようにも聞こえる。

「何についての話?」

「最近この近辺で多発している、"時空の渦"のことで、とある研究団の調査により、多少の性質等が分かったようです」

 ハーブはそれを聞くとすぐに紙とペンを蔓の鞭で掴んで取り出し、マロンに話すよう指示した。

「"あの状態"の時空の渦は、世界のバランスが不安定な時ほど発生確率が高くなり、周りにあるモノやポケモンを無差別に吸い込もうとします。ただ、暫く放っておくとやがて消えることがほとんどのようです」

「じゃあ、放置しておけば大丈夫ってわけ?」

「恐らくは。もっとも、放置している間は被害の拡大は必至ですが」

「……そう……やっぱり」

 ハーブはペンを持っている蔓を動かすのを止め、またマロンの方に向き直って聞いた。

「普通のポケモン達が意図的に消すことは?」
 
 ハーブの質問を最後まで聞く前に、マロンはこの問いに対して静かに首を振った。

「無理でしょう。攻撃を加えると、大体は巨大化し、被害もより大きくなってしまうそうです。実際、近距離で攻撃を加えた何人もの調査団メンバーが、巨大化した渦に呑まれたそうですよ」

 ハーブはため息をつき、ペンを放り投げて言った。

「分かったわ。手を加えずに、遠くに避難すればいいのよね?」

「今はそうするしかありません。探検隊にもそう伝えた方がよろしいかと。しかし、親方様」

 マロンは湿っぽい声から一転、今度は疑問をたっぷり含む声でハーブに尋ねる。

「親方様は昔、僕に"時空の渦を消す"力のことを話してくれましたよね? あの力の保持者は、この近辺にはいないのですか?」

 ハーブはこの問いに関し少し考え込み、ふと何かを閃いたのか蔓をポンと叩いた。

「あー、そういえば……一人、弟子の中にいるかも」

〜★〜

「また来たー!? 本当にしつこい奴らだね!!」

 世界樹の森 奥地にて、エレッタの言う奴ら……エスターズ目掛けて執拗に追い掛けてくるバタフリーの大群から逃げつつ、よくそんな体力があると呆れ気味のエレッタ。
 そのエレッタに、サファイアとミラはやはり逃げながら揃って冷たい視線を向ける。

 もとはと言えば、エレッタがお得意の十万ボルトを敵に放った際、流れ弾ならぬ流れ電気がバタフリーの群れの一部に直撃したのが原因だった。
 今の時期のバタフリーの群れは子供のキャタピーやトランセルがわんさかいるせいで、親は相当気性が荒くなっている。子供を襲う可能性のある敵は、全力で叩き潰す気らしい。
 現に今サファイア達は敵認識されてからずっと追いかけ回され、広いフロアが災いしこのフロアで五回目のvsバタフリー戦になろうとしているのだ。

「しょうがないよね……十万ボルト!」

 エレッタの強力な電気が放出されると、電撃が当たったバタフリーは大抵倒れる。ただ、数が数なのでやはり一回の攻撃ではすべてのバタフリーは倒せない。

 しかもバタフリーは、エスターズに向かって一斉に"痺れ粉"を撒いてきた。どうやら逃げ回る三人を止めて集中攻撃する作戦に移ったらしい。

「……"神秘の守り"!」

 が、ミラが黄色い粉よりも早く、エレッタ達三人の周りに青く薄いバリアを作り出し、バリアに触れた痺れ粉が弾かれ落ちていく。これがある限り、振り撒かれた粉が当たっても、麻痺状態になることはない。

 そして。

「電光石火!」

 後ろで控えていたサファイアが、すかさず反撃を加える。
 電光石火が当たって地面に落とされたバタフリーは目を回し、まだ残っているバタフリーが怯んでいる隙に、三人はさっさとその場から逃げ出す。

 結局、エスターズが階段を上ったのは、もう二回程バタフリーを適度に沈めて怯ませてからだった。
 正直、ここまで執念深く追い回されるとは思わず、上のフロアについたときは全員が既にへとへとになっていたのだった。

 そんなプチ事件を乗り越え、ついにサファイア達は世界樹の森の最奥部に辿り着いた。

「うわぁ……すごい……」

 思わずサファイアは風景の美しさに見とれてしまった。ダンジョンの中は光が遮られて暗かったのに、ここだけは少し光が差し込み、中心に堂々と立つ木の荘厳さがよくわかる。
 その木は一目見ただけで、すぐに世界樹だと分かった。ほかの木とは風格が明らかに違うのだ。

「あれ……世界樹に、実がついてるよ?」

 声を上げたエレッタに倣ってサファイア達が上の方の枝を見上げると、確かに見るからに美味しそうな赤い実が幾つかなっている。

「あれがジュースの材料?」

「そうかもね……三つくらい、貰っていこうか?」

 エレッタが木に登ろうと、世界樹の幹に手をかけた、その時。

 いきなり世界樹の生い茂った葉の中から、大量の"毒針"が雨のように降ってきた。

「え!? うわ! 危なっ!」

 それを間一髪で回避するエレッタ。毒針は、エレッタがもといた場所に深々と突き刺さった。

「……なんで、上から毒針が?」

「まあ、状況を考えれば……」

「答えは……1つしかないよね?」

 サファイア達の言葉で、エレッタも気付いたらしい。木に向かって、大声で呼び掛けた。

「なるほどね。ここで妨害しようとするなんて……さっさと出てきてよ! イルマスの"せんぱい"方!」

 三人が立てた予想はやはり正しかった。
 イール、クロン、ガルトは世界樹の枝の隙間から顔を出すと、エスターズの前に立ちはだかるように飛び降りた。

「なるほどな。既に予想はついてたってことか……」

「へっ、まんざらバカでもなさそうだな」

 イルマスの挑発にもエスターズは乗らず、サファイアが一歩前に出る。

「そこをどいて。私達、悪いけど横槍に構ってるほど暇じゃないんだ」

 三人は、じりじりとイルマスに詰め寄った。いつの間にか、サファイア達は横一列に並んでおり、完全に戦闘態勢をとっている。

「この状態で、おめおめ逃げる奴がいたら見てみたいよな? その言葉をこのチームに言ったこと、後悔するんだな!」

 その言葉を合図に、向こうの三人は、サファイア達に襲い掛かってきた。


 イルマスの三人は、それぞれ1vs1の戦闘をする気らしい。
 クロンはエレッタに向かい、ガルトはミラに、そしてイールの標的は……サファイア。

「"シザークロス"!」

「守る!」

 サファイアの緑の壁は、交差しエネルギーを纏った刃をしっかり受け止めた。
 しかし、イールは何を思ってか、サファイアの緑の壁に執拗に攻撃を加える。さすがにまだヒビは入らないが、壁を維持している限り、サファイアは攻撃を出しにくい。
 つまり、守るの効果が時間切れを迎えて壊れるのを狙っているのだろう。シザークロスの衝撃は壁の表面を伝い、上方へと逃げていく。

「穴を掘る!」

 サファイアは技と技の切れ目を狙って守るを解除し、地中に穴を掘り隠れる。
 イールはシザークロスを止め、地中からサファイアが出てくるのをじっと待つ。サファイアは振動を起こさないよう慎重に、土を掘り進める。

 双方の緊張が最高潮に高まった所で、イールの足元に微かなひび割れが出始めた。

(馬鹿め! ダンジョンの雑魚ならいざ知らず、ひび割れを俺が見逃すと思うな!)

 イールはそれを見てにやりと笑うと、シザークロスを地面に叩きつけた。地面には陥没が出来、サファイアがそこにいようものなら今頃自分が掘った隙間に挟まれているだろう。

「フン、大口叩いてた割にはやけにあっさ……り……」

 イールの勝ち誇った声は、そこで途切れた。
 地面の陥没があっという間に崩れ、中から緑の壁――守るを使いながらサファイアが飛び出したからだ。

「おい! 守るを使いながら動くなんてそんなのありかよ!?」

「状況判断が甘いね! 守るを使いながら動くのは疲れるけど、出来ないわけじゃない! 電光石火!」

 サファイアは勢いよく地面から飛び出し守るを解除すると、落下に転じた瞬間に電光石火で加速する。
 さすがのイールでも上からの電光石火から逃れることは出来ず、サファイアの攻撃を食らう。しかしまだ体力は残っているらしく、すぐに体勢を整え立ち上がった。


「電磁波!」

 クロンの死角に回り込んでに先に攻撃を仕掛けたのは、元からちょろちょろと素早いエレッタだった。弱い電撃はクロンに当たり、その場でクロンは痺れ出す。

「フン、電気タイプの王道って訳か……だが、それぐらいで俺を止められると思ったか!」

 クロンは麻痺しているにも関わらず、意外にも素早く"火炎放射"を打ち出してくる。

「麻痺してるくせに、意外と速いんだね……十万ボルト!」

 火炎放射への対抗として、エレッタは十万ボルトで迎え撃った。双方の技の威力に大差はないらしく、二つの技は互いに押し合って動かない。
 と、少しした後、何故かクロンの炎の軌道が、ほんの少しだけ左にずれた。

「今だっ!」

 エレッタは今まで様子見のつもりだった十万ボルトの威力を更に上げ、ついに火炎放射を撃ち破った。
 電撃はいくらか火炎に弱められたものの、クロンに当たったのだ。

「くっ! くそ、なんだこれ……」

 クロンが何やらぶつぶつと呟いている。自分が麻痺しているということは分かっているはずなのに、何かが納得いかないようだ。

「『ただの麻痺』ならよかったんだけどね! 十万ボルト!」

「おっと、そう来るか」

 エレッタの十万ボルトが迫っていることを知ったクロンは、すぐに身体に電気を溜め込み……腕から"十万ボルト"を撃つ。電撃と電撃は絡み合って爆発を引き起こし、辺りに爆風と煙をもたらす。

「へぇ、炎タイプなのに十万ボルトが使えるんだ」

「へっ、電撃は電気タイプだけの特権じゃないってこと、忘れんなよ」


「"クラブハンマー"!」

 シザリガーの水を纏ったハサミをミラはギリギリまで引き付け、振り下ろされる直前に横へ跳んで回避する。
 さっきから、この二人はずっとこんな調子だった。ミラは様子見として神秘の守りを使っただけで、後はガルトの技をかわし続けている。

「ったく、かわしてばっかで戦う気があんのかどうか……だがそれもいつまで続くのか、見物だな」

「別に、わたしは戦う気なんて元からないんだけど……」

 ガルトはバブル光線とクラブハンマーを使い分け、執拗にミラを追い回す。が、どうもバブル光線は狙いを定めているとは思えず、クラブハンマーはやたらとストレートに狙って来る。この差は一体何なのか。

「"バブル光線"!」

 ガルトは、ミラに大して狙いもつけずに幾つもの泡を放った。咄嗟に避けたミラがいた場所に泡は届き、その場で泡特有の爆発を起こす。泡の一部は、世界樹の下にまで広がっていた。

 ミラがバブル光線の爆発から離れ、ガルトが再びハサミを振り上げた時……隣でエレッタと戦っているはずのクロンから、軌道がズレた火炎放射がミラの頭上を掠めた。
 予測の出来なかった攻撃と、火炎が放つ熱に一瞬怯んで身を竦めたミラに向けて、ガルトはまたもハサミを振り下ろす。

「クラブハンマー!」

「……シャドーボール!」

 向かい来る上からのクラブハンマーを避けるのはまずいと判断したミラは、一瞬でシャドーボールを作り上げ、クラブハンマーにぶつける。
 シャドーボールはクラブハンマーのエネルギーを相殺し、僅かに押されたガルトのハサミの隙をついてミラはある程度の距離をとる。

(ゴールドランクの探検隊が、これくらいの威力で相殺されるってことは……手加減してる? それとも……イルマス、一体何を企んでるの……?)


 そんな攻防が続く中、キリがないと思ったサファイアは近くに来たエレッタとミラを呼び寄せ、守るのバリアの中で作戦会議を始めた。

「エレッタ、ミラ! 何か、あいつらを追い払う手段とか、痛手を与えられる技とか……そういうの、何かない?」

「痛手?」

「えー……あったっけ、そんなの?」

 初めから無茶振りを覚悟で聞いたサファイアだったが、二人の曖昧な返事を聞いて困ったようにバリアの外を見た。
 そこには一箇所に固まった三人を取り囲み、バリアの解除をじっと待っているイール、クロン、ガルトの姿がある。

 このままだと本当にどうしようもないとサファイアが溜息をついた瞬間、エレッタとミラが同時に声を上げた。

「……ってそういえば、あるじゃん」
「……あ、あった」

「……え?」

 今の話の流れからして、この状況を打開する何かだろうか。
 倒すところまではいかなくても、多少のダメージを与えればいい。この2人に、そんな手段があるというなら。

「えーと……それ、お願い、出来る?」

「まあね。ただ、ちょっと準備に時間がかかるから、もうしばらく守る張ってて」

「……同じく。ちょっと待ってて」

 二人はサファイアにそう告げると、目を閉じて技のエネルギーを溜め始めた。
 最初は何の変化もなかったが、次第に片方伸ばされたエレッタの手の上には電気の塊が形づくられ、祈るように手を合わせたミラの周りには、緑の光が幾つも浮かんでくる。いつも二人が使う技と似ているが、最も違うところは、膨大なエネルギーを溜め込んでいること。
 イルマスもバリアの中で何かしている二人を警戒しているようだが、バリアのがある限り手出しはできない。

 やがて、2人の持つエネルギーの塊が淡い光を放ち始め……

「サファイア、もういいよ! 守るを解除して!」

「後、そこから動かないで」

 言われた通り守るを解除し、サファイアは動かずその場に留まる。下手に動くと二人のエネルギー体の巻き添えをくらいそうで、ある意味動けなかったという方が正しい。

「よーし、発射! "テトラサンダー"!」

「"スコップリーフ"!」

 聞いたことのない技の名前を二人が叫ぶと同時に、エネルギー体の出す光がより一層輝きを増し、出した本人たちの制御を離れた。

■筆者メッセージ
麻痺の状態異常になっても行動できるゲームって案外少ないような……麻痺=行動不能が多いような気がします。
ついでに言えば、眠らされたあとに攻撃を受けても目覚めないゲームも結構珍しいですね。
すずらん ( 2012/09/05(水) 23:08 )