ポケモン不思議のダンジョン 星の探検隊 12の光に導かれし者








小説トップ
第1章 探検隊エスターズ
M-10 奥地の下には何がある?
 先程の爆発でガラガラと岩が崩れ、地面にピシリと小さなヒビが入る。

「……あ、まずっ……!」

 サファイアは隣のラルトスと共に、天井の岩が落ちない場所へ移動しようとした。
 が、二人が影響のない場所へ辿り着く前に、地面が少しずつ崩れ落ち、ついに床に大きな亀裂が走る。

「止まって!」

 隣から聞こえてきた強い声に、サファイアは思わず足を止める。
 その瞬間、ついに足元の岩床に亀裂が入り……サファイアを乗せたまま、下へと崩れ落ちた。

「うわあぁ!?」

 その下に吸い込まれるような気持ちの悪さを感じて、サファイアは思わず目を閉じ……

(……うっ!? この、感覚……!?)

 一瞬、どこかで感じたような感覚に襲われたのだった。

(高いところから落ちている……もしかして、私は……記憶を失う前にも……!?)

 そう思った瞬間、突然近くでまた大きな爆発が起きた。
 サファイアは爆風に巻き込まれて飛ばされ、ひんやりとした地面に叩き付けられる。

「うく……痛……」

 サファイアが地面に身体をつけたまま目を開けると、隣ではあのラルトスがサファイアと同じように地面に倒れ、今まで自分達がいたであろう地点は……大きな岩が次々に落ち、巨大な岩山が形成された。

「……!!」

「うう……何とか……なった……?」

 それとほぼ時を同じくして、ラルトスが周りの様子を確認しながら立ち上がった。

「い、今のは!?」

「"シャドーボール"で爆発を起こしただけ。失敗していれば、わたし達は今頃あの岩山の中」

「え、嘘、怖……じゃなくて! ありがとう……」

 ――もしこのラルトスが爆発を起こさなかったら、今頃私達は――

 これ以上は考えないことにして、サファイアは若干震えながらも立ち上がった。


「それにしても……ここ、どこなの?」

「ダンジョン下の空洞……? 奥地の下にこんな空間があったなんて……」

 サファイアもラルトスも首を傾げ、辺りをきょろきょろと見回した。
 場の雰囲気は、先程までいたはずの海食洞と殆ど変わらない。
 ダンジョンならばあるはずの下に続く階段や敵ポケモン達が、全く見当たらない。
 もしかしたら、ダンジョンの下にいつの間にか形成されていた、閉ざされた空間かもしれない。

「最初から爆発を起こすつもりだったんなら、先に言ってくれても……ここから、どうやって帰ろう? 穴抜けの玉があれば脱出できるかな?」

「さあ? でも、ここで脱出したら、さっきのピチューは置いて行かれる。バッジを使うにしろ、近くにいなければ同じこと」

「え」

 サファイアはラルトスに言われ、今更ながらエレッタがいないことに気が付いた。
 もしかしたら素早いエレッタは、あの崩落から逃れられたのかもしれない。そうだと思いたい。


「じゃあさ、ここから脱出するには、まず私達が奥地へ戻ってエレ……ピチューと合流するか、向こうがこっちに来るのを待つしかないってこと?」

「そう。けど、ここだと穴抜けの玉が効果を発揮するかどうか分からない。わたし達が奥地に戻った方が、より確実」

「となると、まずは上へ繋がる道を探さなきゃ……多分、長くかかっちゃうけど」

 サファイアがそう言うと、ラルトスはこくりと無言で頷きすたすたと奥へ歩き出した。

「あ! ちょっと待って! 私達、重要なものを忘れてるよ」

「重要なもの?」

 ラルトスは振り返り、その赤い目でじっとサファイアを見つめた。まだその目から、サファイアへの警戒の色は消えていない。

「"自己紹介"だよ」

 ラルトスはサファイアを見たまま、はっとしたような表情に変わる。
 サファイアはそんなラルトスに、にっこりと笑って手を伸ばした。

「私は見たまんま、イーブイのサファイア。だからさ、あなたの名前も教えてよ。"一緒に"行動するのに、お互い名前を知らないって不便過ぎるでしょ?」

 サファイアはその表情を変えないまま、柔らかな声で言う。
 ラルトスはそのサファイアの手から視線を逸らし……

「わたしは、ミラ。しばらくの間、よろしく」

 小さく呟くように、そう告げた。

〜★〜

 サファイアとこのラルトス……ミラは、落ちた空間の構造を手分けして丁寧に調べた。
 この空間にはやはり上へ行けるような階段はない。が、普通のダンジョンの部屋と同じように壁で囲まれてはいたものの、別の場所へ繋がっていそうな通路を1本だけ見つけた。

「これは……ここを通って行けば、まだ他にある海食洞の下に出来た空間に行けるのかな?」

「保障はしない。けど、可能性はある」

 その通路は、一歩踏み出してみるとどこか不気味で、足に冷たい水滴が時々落ちてくる。
 光はどこからか差し込んでくるので何とか先は見通せるものの、目を凝らして見る限り、曲がり角がなくただ一本道が続いているようだ。

「まあ、いいか。こっちに行くしか……」

 サファイアとミラが床に生えているコケに足を滑らせないよう気をつけながら、慎重に歩みを進めると……


 ……ァイア……
 ……イア……!


 暗い通路に、小さな叫び声が響いた。
 その叫びにサファイアは思わず足を止め、はっとしたように後ろを見る。

「サファイア?」

「ん? あ、いや……今、ピチュー……エレッタの声が聞こえたような気がしたから」

 だが例え振り返っても、エレッタがあの岩で埋まった崩落地点から降りてこられるとは考えにくい。
 ならば、今は合流するとしたらサファイア達が見つけた1本道に望みを繋ぐほかに、手立てはなさそうだ。

〜★〜

 あのキングラーやサファイア達が突然いなくなった奥地の広場は、いやに静かだった。
 すぐ近くに海があるせいか、聞こえて来るのは波が岩に乗り上げる音と、時々天井から落ちる水滴が落ちる音だけだ。
 もしかしたら、岩山の下敷きになっても返事をしてくれるかもしれない……そう思って、上に残されたエレッタは岩山の下に向かって大声を張り上げた。

「サファイア! サファイアーー!!」

 精一杯の音量でエレッタは呼び掛けるものの、返事は一向に返ってこない。
 岩の隙間から、こだまのように反射して帰ってきたエレッタの叫び声が空しく響くだけだ。


 …………。
 こだま?


 岩の隙間から反射して響くというのは、一体どういうことなのだろう。
 ただごつい岩が固まっているだけの山からは、普通返ってくることはない。

 それに、今エレッタは気付いたが、さっきの崩落はかなり激しいものだった割に、積み上げられた岩の数が少ないように見える。

 これらの現象が意味するものとは――


「(そっか!)」

 エレッタの頭の上の豆電球が、ピカリと光った。
 さっきは逃げるのに必死でそれとは分からなかったけれど、さっきの天井の岩が落ちると同時に、地面も崩落したのだろう。あの時の地響きは、地面の崩落により引き起こされたものだった。
 そしてサファイア達は崩落に巻き込まれ、下に落ちた。声が響いて上に戻ってくるのだから、そこは広めの空間である可能性は高い。

「(まさか、奥地の更に下にも空間が……? でも、今はそれに賭けるしかない!)」

 何とか下の空間へ行けそうな穴か抜け道を探して、エレッタは奥地の広場を端から端まで歩き出した。

 ――ただ――
 あの崩落に巻き込まれたのは、サファイア達だけではない。
 あのキングラーも、恐らく下の空間にいる。
 もしサファイア達が助かっていても、キングラーに接触して倒されてしまわないか……それが気掛かりだった。

〜★〜

 分かれ道のない暗い通路を、サファイアとミラは慎重に進んで行き、やがて通路の左側に部屋の入口があるのを見つけた。
 通路は部屋の入口を通り過ぎると行き止まりになるようで、つまり通路を抜けたいのならこの部屋に入るという選択肢しかないらしい。

「この空間には、通路か何かあるかな?」

 前を歩いていたサファイアは、入口の壁からそっと顔を出して……部屋の中にいるものに気付き、慌てて首を引っ込める。

「何かあった?」

「いや、それが……」

 サファイアの様子がおかしいことに気付いたミラは、そっと部屋の中を覗く。
 その部屋の中にいたのは……


 身体全体に傷を持ち、不機嫌そうに部屋の奥に居座るキングラーだった。

「どうしよう? ここまで階段らしきものもなかったし、ここを通らないと先に行けないみたいだよ?」

「……かもね」

 サファイアはキングラーに気付かれないよう、小声でミラに話し掛けた。
 まだキングラーはサファイア達を発見していないが、もし見付かったら厄介なことになりそうだ。

「あいつ、かなり体力を消耗しているね……寝るのを待ってから行動するとか?」

「機嫌悪いようだし、そんなにすんなりはいかないと思う。それに待つにせよ、わたし達の食料も持つか分からない」

「じゃ、しばらく待って様子をみよう。今突っ込むのは危険かも」

「了解」

 サファイアとミラは交代でキングラーの様子をこっそり見張りながら、じっとキングラーが眠るまで待ち始めた。
 だがキングラーの受けた傷は深いのか、部屋の様子を警戒することに必死なのか……いずれにせよゆっくり眠れるような気分ではないらしい。


「ダメだね。全然眠らない。なら、こちらからキングラーに攻撃を仕掛けた方が手っ取り早いかも」

 サファイアはいよいよ戦いを決意したのか、ミラに告げた。
 ミラも薄々それを感じていたのか、立ち上がってキングラーの様子をそっと覗いた。
 相変わらずキングラーは不機嫌そうに、しかし動くと傷が痛むのか居座る位置は変わっていない。

「サファイア。技は何が使える?」

「技? えっと、今は"電光石火"と"守る"だけ。昨日"噛み付く"を一回だけ使ったみたいだけど、どう繰り出すかは覚えてないんだよね。その前に私、戦闘初心者だし」

「……そう」

 ミラはサファイアの技を聞き出すと、作戦を立てているのかしばらく無言になった。
 とは言え、今までの通路内で特に何かについて盛り上がった訳ではなかったし、もともと落ち着いていて口数が少ない性格なのだろう。


 やがてミラはバッグから種を二つ取り出すと、サファイアの前足に乗せた。
 一つは毒々しい青色をした怪しい種、もう一つは見るからに辛そうな赤色に染まった種だ。

「サファイアは電光石火で近付いて、まずはある程度キングラーを撹乱してから、赤い種を投げて。それでキングラーが怯んだら、青い種を口に放り込む。そこまで出来たら、後はわたしが片付ける」

 ミラはキングラーの様子を伺いながら、サファイアに言い切った。
 サファイアからしてみれば、あのおっかなそうなキングラーと直接タイマンを張らなくても良い訳で有り難いと言えば有り難い。
 しかしミラの実力がよく分からない以上、不安を感じないといえば嘘になる。

「ミラはそれで大丈夫なの?」

「攻撃を受けなければ何とかなる。わたしが戦い始めたら、サファイアは危ないから離れてて」

 キングラーは相変わらずこちらの様子には気付いていない。
 が、もうあまりこんなところでじっと待っている訳にも行かない。


「じゃあ、行ってくる! 種を投げればいいんだね!?」

 サファイアは近くにあった小石を部屋の中に向かって蹴り飛ばし、同時に電光石火を使ってキングラーに向かって行った。


すずらん ( 2012/07/12(木) 23:58 )