第三章 光と闇
第二十一話 一時を得た者達
突拍子もなくシラヌイの前に現れた彼そっくりのピカチュウ。それは、彼のもう一人の人格と呼ばれる者であった。
意外な真実を知った彼、その一方で―――










 (side:ミレイナ)




痛くない。
なんでだろう、さっきまでの激痛が嘘みたいになくなってる。わたし死んじゃったのかな、寒さすら感じなくなってるし。
もしかして、ここは天国っていう場所なのかな。










そんな事を思っていたわたしは、現実の方に意識を引っ張られる感覚がしたから、重い瞼(まぶた)を上げた。

「…………う、ん………」

目を開けたわたしの視界に最初に入ってきたのは、

「(…………あれ?)」

わたしの目の前で向かい合っているシラヌイの寝顔があった。
ぼうっとした頭で、今の状況を飲み込むのに数秒ほど掛かってようやく理解したわたしは、

「(…………ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?)」

顔を真っ赤にしながら反射的に起き上がって頭の中をフル回転させた。

「(え!?え!?え!?何で!?何で!?何でシラヌイがわたしの隣で寝てるの!?しかも何であんなに近くで寝てるの!?)」

普通じゃありえない事に、わたしは自分の知っている限りの知識で考えた。

「(シラヌイの嫌がらせ?でも、シラヌイに限ってそんな事をするような感じじゃないし。それじゃあ、ドッキリ?でも、シラヌイはそんな事あんまり考えそうにないし………)」

ありとあらゆる考えを思い浮かべてみるけど、どれも彼にあてはまらない。けれど、その考えをしているわたしに、一つの疑問が思い浮かんだ。

「(あれ………わたし、何でこんなに慌ててるんだろ………)」

そう。訳もわからないまま、何故かわたしはドギマギしてしまった。
その事に思い当たる事を自分の中で捜そうと思った時だ。

「っ、〜………」

「!!」

誰かが起きたようなのでわたしはその方を向いてみると、シラヌイが半身を起こして首を左右に二、三回ほど振っていた。

「ん。起きてたのかミレイナ、傷の方は大丈夫なのか………?」

シラヌイはわたしの存在に気付いて訊ねてきた。それに対してわたしは「う、うん。大丈夫………///」と小さな声で返答した。彼はわたしの様子を見かねて、もう一度訊ねてきた。

「顔赤いけど、どうしたんだ?」

「あ、これは、その、なんでもない、から………////」

「?」

顔を隠しながら答えるわたしに、シラヌイは疑問符を浮かべるしかなかった。本人がその原因をわかっていない以上、そんな事恥ずかしくて言えなかった。

「(うう、どうしよ。シラヌイと顔合わせづらい………///)」

顔を隠すわたしはチラリとシラヌイの方を見やると、彼は余所を見ていた。でも視線に気付いた彼は、わたしの方を向いてきて、慌ててわたしは顔を引っ込めた。
自分だけで勝手に葛藤続けていると、また誰かが起きた声がしてきてその方を見ると、クルスとシリアが起き上がっていた。

「う〜ん………あれ、ミレイナ傷は………?」

シリアが最初に気付いて、クルスはそれに続いて「え!?ホントだ!?」と声を上げて驚いていた。シラヌイと同じように聞いてきた二人に、わたしはさっきと同じ対応をみせると二人もその異変に気付いた。

「どうしたのミレイナ。顔赤いよ?」

クルスはそう言うけど、やっぱりわたしは答える訳にはいかず「ううん。なんでもないよ………///」と答える。

「熱がある訳ではないわね」

シリアは黙りこくるわたしを見兼ね、正面に立つと片一方の手をわたしの額に当て、もう片一方の手を自分の額に当ててきた。

「だ、大丈夫だって!ホントに、なんでもないから………」

三人がしつこく聞いてくる事がないことを知っているわたしは、ちゃんと言い切って場を凌いだ。

その後、何故か大きな傷を負ったボーマンダを見つけギルドに転送した後、わたし達もすぐにギルドへ帰還した。その途中でも、わたしはあの時の光景が頭から離れられずにいた。










 〜☆〜




「なるほど。だからあなた達は、夜間に戻ってきた訳ね」

翌日の昼下がり、『エクストリーム』の四人はラミナスの部屋で昨日の出来事を話していた。
先日、四人が『ディザスター』に帰還した頃には、すでに日は沈み時刻は夜間帯となっていた。帰ってきてすぐラミナスに事情を説明しようしたが、今はゆっくり休むようにと言われて四人は言葉に甘えさせてもらったのだ。
そして今、彼らはラミナスと向き合って事情の説明を行っている所だった。

「悪いなラミナス、調査を頼まれたってのにお尋ね者ぐらいしか捕まえられなかった」

シラヌイは申し訳なさそうに、ラミナスに言葉を送る。三人も若干しゅんとしてしまっている。

「そんな事ないわよ。寧ろ、おお手柄だったんだから」

ラミナスの発言に、三人は疑問を持った。依頼されたのはアルード跡地の行方不明者の捜索のはず、なのに調査に貢献となる結果だというのは不自然なのだ。
その疑問は、これからラミナスが説明してくれることで解消された。

「あなた達が捕まえたお尋ね者、ボーマンダは










   ―――星五のお尋ね者ランクの持ち主だったのよ」

「「「「…………」」」」

数秒間の沈黙、そして四人は発言意味をようやく理解し

「「「「な、なんだってえぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!!?」」」」

揃って大声を上げた。

「星五のお尋ね者、あのボーマンダが………」

四人は戦っていた時の記憶を思い浮かべていた。確かに相当な実力者だったがそれほどとは思ってもみなかった。

「ベテランの探検隊を何度も打ち倒し、唯一奴から逃げ切ったポケモンの話を元に付けられたのが『翼撃のケルゥム』。ここ半年間、あまり動きを見せていなかったけどまさかアルード跡地に身を潜めていたとはね」

その話を聞いていたシラヌイは、ケルゥムの最強技の事思い出しながら確かにその二つ名通りだな、と思った。

「あの後、ジバコイル保安官から連絡があって聞いてみたんだけど、ケルゥムは跡地にやって来た探検隊達を黙らせて跡地から少し離れたダンジョンの奥地に隠して乗り切ってたらしいわ。事情聴衆の時にあらいざらい全て吐き出したそうね」

あんまり何も言いそうになさそうだけどなぁ、とクルスはケルゥムの性格を考えてそんな事を思っていた。

「あと、少し変わった所があったって言ってたわ」

「変わった所?悪さを考えているのにそんな事があるの?」

シリアはケルゥムの性格や言葉使いの事を思うと、それはありえないというようにラミナスに言い切る。しかし言い切った言葉は、次の彼女の説明によって現実にあり得るという事を知った。

「何か話によると、事情聴衆をしている時に起きたらしくてね。理由はわからないけど、牢屋が暗くなると突然「あぁ。あいつが、あいつが来る!あの黒い奴が!俺を殺しに来る!!」って言いながら怯えていたらしいの。あなた達何か知らない?」

思わず耳を疑いたくなる話だが、ジバコイル保安官や彼女が嘘つくとは思えない。自分の中で鮮明に覚えているものの一つに、思い出すのは二度と御免だと思いたくなるものがある。そういうのは世間体で言うトラウマというものだ。
だが四人と戦っている最中、彼がそんな怯えた動作を見せる様子は一つもなかった。四人共にそんな事はなかったと口を揃えて言った。

「そう。まぁ何はともあれ、あなた達はこれで探検隊ランクが上がる事になるわ。バッジを貸してくれる?」

シラヌイは返事をしながら胸元に付けてあるバッジを渡した。ラミナスは四人に背を向けて十秒間ほどの作業を終えて受け取ったバッジを差し出した。

「おめでとう!あなた達は晴れて、ゴールドランクに昇格よ!」

四人が受け取ったバッジは、中心部の色が輝く金色となっていた。手に取っていたクルスは、バッジを両手で持って感嘆の声を漏らしていた。

「さあ、これから先はもっともっと難度の高い依頼が待っているけど、挫けずに頑張ってね!」

「ああ!」

「うん!」

「ええ!」

「おー!」

ラミナスは四人に後押しするように応援をし、洗礼を受けた四人は元気よく返事をした。










 〜☆〜




部屋に戻った四人は一息ついていたが、唯一一息をつかず考え事をしている者がいた。

「…………」

「どうしたのシラヌイ。何か難しい顔してるけど」

ベッドに寝転がり天上を見つめているシラヌイに、クルスは覗き込んだ。

「いや、なんでもない」

「もしかして、ケルゥムが言っていた事を気にしてるの?」

「………まぁ、そんなとこだな」

「黒い奴の事?でも私達が色々見てきた限り、あいつにトラウマを植え付けるようなポケモンなんてそうそういないと思うわよ。第一、気にしても仕方ないし」

「………ああ」

「何かシラヌイらしくないなあ。特に意味もない事に興味を持つなんて、まぁいいや」

クルスはシラヌイのベッドから降りて、「僕ちょっと出掛けてくるね〜」と告げて部屋を出ていった。

「〜、ハァ〜」

シラヌイは、ここにいる二人に聞こえない程度のため息をはいた。すると、耳に内側から響き渡る声が聞こえてきた。

『何だお前、急にため息なんか出してよ』

「(ため息の一つどころか、二つでも三つでも出したいくらいだ。お前、あのボーマンダにトラウマ植え付けていいのかよ………)」

そう、シラヌイはラミナスの前でケルゥムのトラウマの原因については知らないふりをしたが、本当は知っていた。
とは言うものの、実際どんな事をしたかは知らない為、ただ知っているだけだった。

『安心しろ。例えそいつの証言を元に黒いピカチュウなんて探しても、無駄なんだからよ』

「(まぁ、そうだけどな………)」

シラヌイぐらい、そこまでは理解している。だが、彼はそんな事にため息をはいている訳ではなかった。










 〜☆〜




先日、四人が外の世界で目を覚ましていない頃、シラヌイとアシドのいる精神世界において

「ッ〜〜〜〜〜〜!!」

コートを脱いで中の黒い服だけの状態のシラヌイは、体全体に力を入れて周りに纏っている電気を継続させていた。
彼の様子を見守っているアシドは、足で一定のリズムを取りながら見ていた。すると、足で取っていたリズムを止めて、彼に声を掛けた。

「うしっ、お仕舞いだ!」

彼の声を聞いたシラヌイは、周りに纏っていた電気が消えていくと後ろに倒れて大の字になった。

「ハァ〜、ハァ〜、ハァ………ハァ………」

汗水垂らしながら荒い呼吸を取るシラヌイに、アシドはゆっくりと近付いて彼のコートを渡した。

「うい。お疲れさん」

「ハァ………ハァ………お前、何で………こんな事を………」

半身起き上がったシラヌイは、息を整えつつ彼に訊ねた。

「何で。そうだな…………お前をおちょくりたかっただけ、と言ったら?」

「てめえ………」

「アッハハ!冗談冗談、クックックックッ」

「(お前の今の心情そのままの発言に聞こえてくるのは気のせいか………?)」

内心、ぶちギレ掛けるシラヌイだが、アシドは彼の様子を悟ったのか、訳をすぐに話した。
何でもここで行った行為は、外の自分の肉体にも反映されるから、そっちの方がこちら側としても助かるとの事なのだ。
しかし上記の説明の後に、彼の談話ペースにシラヌイは振り回される始末となった。

「まぁあれだ。お前があんな奴らごときに、一々力を貸してらんねぇからよ。お前自身が力を入れた方が効率的にもいいからよ」

「そうかそうか。要するにお前は、少しでもいいから楽したいってわけだな」

「おいおい、早とちりもいいところだぜ。お前は俺の手助け無しで戦うばかりじゃなくて、お前一人の力を充分に発揮できる施しをしているってことさ」

「こんな短時間でか?」

「安心しろ。暇があればすぐにでも始められる」

アシドは親指を立ててそう言うが「どこをどう安心したらいいんだ」という明らかに保証の無いような発言に突っ込みを入れると「うるせぇ、細けえこたぁ気にすんな」と返されてしまった。

「そろそろお前をあっち側に戻すか、お前の仲間達も目覚めてくる頃合いだろうしな」

アシドは頭上を見ながら彼に告げた。それに関しては特に何かを訊ねる事もなく彼は、そうかと答えて立ち上がった。

「まぁ、滅多な事もなければお前に話すこともねぇからな。おっと、もう一ついい忘れてた事があったな」

恐らく二度目の説明不足だろうと読んでいたシラヌイは、今度はなんだと彼に訊ねた。

「俺の存在は、外の世界で話さないでもらいたい」

「は?別にいいじゃないか、話した方がミレイナ達も今までの件の現象についても納得がいくだろ?」

「黙れ、ダメなものはダメだ。他言無用だ」

言い張るアシドに、お前は恥ずかしがり屋かと思ったが、あえて口には出さなかった。すると、シラヌイの体は不思議な光に包まれた。

「あ、そういや言い掛けたけどよ」

「何だよ。こんな時に」

タイミングの悪さに、若干眉をひきつるシラヌイは最後の最後でアシドの嫌がらせを思い知らされた。

「俺がお前をおちょくっているって言った事なんだけどよ………










   あれ、半分本気だったんだ(笑)」

「てめこのやろ―――!!!!」

今の一言で、流石に怒りを隠さずにはいられなかったシラヌイはアシドに飛び掛かったが、距離にして後十メートルの所で彼はこの場から消えてしまった。
アシドは彼の怒りを露にした表情を思い浮かべて、イタズラが成功した事を喉の奥で笑って示した。










 〜☆〜




「(俺があの場から消える時間を予測して言いやがったな………)」

『その通り、クックックックッ。傑作だろ?』

ここまで巧妙な手口を利用してまで自分を苛立たせた彼に対して、シラヌイは怒りを通り越して呆れの気持ちの方が大きかった。

『ま、別の機会にまた声を掛けとくからよ。その時まで、じゃなら〜』

その一言切りに聞こえなくなった彼の声。

「(正直あんなひねくれ者とうまくやっていけそうにない………)」

シラヌイは深いため息をついた後、コートを脱いでフックに引っ掛けるとベッドに戻り熟睡に入っていった。










 〜☆〜




シラヌイがアシドの嫌がらせに呆れている一方。
波が引いては戻りを繰り返す海岸、ここに一人のポケモンが訪れていた。その者は、進めていた歩を止めて真下を見た。

「(………僕は、無力なのかな)」

訪れていた者、クルスは、部屋を出る数分前、生きていたミレイナ、シリア、そしてシラヌイの顔を思い浮かべながら思った。
確かに自分は生きていた。仲間達も生きていた。だが探検隊になってから、自分は仲間達の為に何かできた事があっただろうか、そんな考えが自分の頭をよぎる。

「(シラヌイ、シリア、ミレイナ、僕は、君達の力になってあげたいのに………)」

クルスはまた、闇の底に囚われるような感覚に襲われた。

「(どうして何もできないんだ。どうして何かしてあげられないんだ。どうして自分は無力なんだ。)」

自分を追い込んでいくクルスは、徐々に囚われる感覚がさらに強くなっていく。そんな時、アルード跡地で聞こえた声が頭をよぎった。

 ―――自分の信念を曲げるな―――

その言葉を思い出した彼は、意識が現実に引き戻された。そして彼は、空を見上げてさっきの言葉を自分の中で復唱した。

「(自分の信念を曲げるな………)」

それと同時に彼は、拳を握りしめていつかの自分の誓った言葉を思い出し正面を向いた。

「(………そうだ。僕はあの時誓ったんだ)」

クルスは自分の両手を広げて力を込めて、意識を集中し始めた。

「(ミレイナを守る。あの時僕はそう言った、あの時の自分じゃどうしようもない事はわかってる。でも………!)」

青いオーラが纏った両手を掲げると、オーラは一点集中し槍が形成された。

「(シラヌイに教えてもらったこれで、少しだけでもでもいい。僕は、ミレイナを………)」

クルスは投合の姿勢に入り、自分よりも二倍はある岩に向けて槍を投げた。

「守るッ!!」

槍は一直線に進み岩に直撃しそのまま貫通した。クルスは投合した姿勢から元に戻り振り返って、ここから見えるフローゼルの頭部を模した建物視界に入れた。
そして、改めた幼馴染みへの誓いを糧に、クルスは『ディザスター』に歩を進めた。


■筆者メッセージ
今回で第三章は終わりです。次の章は番外編を加えさせていただきます
Nazelu ( 2014/07/20(日) 16:43 )