ポケモン不思議のダンジョン―エクストリーム―希望へ誘う意志の力 - 第三章 光と闇
第十九話 黒き羽舞う月下で
シラヌイの命を賭けた作戦により、ボーマンダを倒す事に成功した三人。しかし、復活の種で再生したボーマンダの攻撃で三人は力尽きた。そして―――





 〜☆〜





「フン、他愛もない」

ボーマンダは吐き捨てるように呟いた。確かに自分をてこずらせる程の者達ではあったものの、進化も満たしていない子供四人が集まった探検隊という事だ。

ボーマンダは懐からピーピーマックスを取り出し蓋を取って飲み干すと、建物の残骸に投げ捨てた。

「さて、他の探検隊共が近いうちに来る前にさっさとこいつら隠しておくか」

ボーマンダは、自らの存在を後からまた来る探検隊に気付かれない為にと思い、倒れている四人を隠そうと動き出した―――










「ここに居てそろそろ飽きてきたんじゃないか?」

否、ボーマンダは不意に声を掛けられて反射的に振り返った。
注意深く周囲を警戒するが、何もなく気のせいだと思い元の向きに戻り、

   ―――数秒間、固まった。

何故なのか、それは彼の視線の先に答えがあった。

数十歩先の位置に、今にもこの暗闇に紛れてしまいそうなぶかぶかの黒いコートを着ており、中には真っ白の服を着用した者が建物の残骸の上にいた。

そして何より、ボーマンダは驚きを隠せなかった。視線の先にいる者は、頬に電気袋を備えて、ギサギザの尻尾が立っているのが特徴のポケモン。
そう、ボーマンダが先程倒したはずのピカチュウがそこに座っていたのだ。

「な………そんな、バカな………!お前はさっき、俺のドラゴンハイドで………!!」

動揺を露にするボーマンダに、ピカチュウは喉の奥で笑った。

「クックックックッ、当然の反応だな。まぁ、一度やられた奴がいきなり目の前に現れる反応なんて、どいつも同じようなもんか」

ピカチュウは残骸の上から降りて悪知恵を思い浮かべたような笑みで話す。すると、話を聞いていた彼はピカチュウの異変に気付いた。

確かに、今ボーマンダの目の前にいるピカチュウは色は違ってもコートと服を着用しており容姿も同じだ。一瞬彼は姿形に騙されたが、口調と声が別人であったので一つだけ確定した事があった。

「貴様、さっきのピカチュウではないな………?」

ボーマンダは、半信半疑の気持ちでピカチュウに訊ねると、彼は左手の人指し指を立ててボーマンダに向け「御名答」と言った。

「あのピカチュウと似ているが、血縁の関係か何かか………?」

ボーマンダは彼に返答を求めると、少しの間を開けて答えた。

「………さあな、そういうのは自分で考えてみな」

「フッ、それもそうだな。だが、そんな事はどうでもいい」

ボーマンダはそう言うと、口から青いエネルギーを溜め始めた。

「俺の姿を見られたんだ。お前も生きては帰さん!!」

ボーマンダはピカチュウに向けて竜の息吹きを放った。しかし、ピカチュウは全く微動だにすることなくその場でじっと立っていた。
目前に迫った青いエネルギーを前にして、ピカチュウは両腕をクロスして守りの姿勢になった。それに三秒遅れて竜の息吹きはピカチュウに直撃した。

爆煙が舞い上がり外から見たボーマンダからは様子を見る事はできなかったが、すぐに煙は収まってピカチュウの現状を見せた。ほぼ無傷、そう言っていいほどピカチュウは傷付いていなかった。
防御態勢を解除したピカチュウは、右手の平を二、三回ほど開いたり閉じたりしていると

「なるほど、な………」

そう呟き、ボーマンダに左手を向けて誘うように動かし

「ほら、もっと撃ってこい」

余裕の笑みを表して自分から技を撃つように指示した。

「何だと………?」

「どうした、技を撃ってこいよ。それとも怖じ気づいたか?」

舐めたような態度を取るピカチュウだが、ボーマンダはそれに構わず攻撃をした。

「………いいだろう、そこまで望むならいたぶり尽くしてやる!竜の波動!!」

ボーマンダは再び口を大きく開け、ピカチュウに向けて巨大な衝撃波を放った。すると、先程と同じようにピカチュウは腕をクロスして防御態勢に入った。
衝撃波をまとも食らったピカチュウは、数秒間の間その場で踏ん張っていたが耐えきれずに瓦礫へふき飛ばされ、叩き付けられた。

「(少しは応えるんじゃないか………?)」

山積みになった瓦礫を見ながら、ボーマンダはさっきの余裕が苦痛に変わっている事への期待をしていた。

  と―――

瓦礫が揺れ始めた。
流石に生きているか、とボーマンダは想定しているように呟いた。あのピカチュウがただ者ではない事は理解しているので、これくらいではやられる事はまずないとは思っていた。
どんな顔して出てくるのやら、とそう思い始めた瞬間―――










 バゴオォンッ!!

そういう音と共に瓦礫の欠片がボーマンダの頬を掠めた。
派手な音を立てて山積みになっていた瓦礫がふっ飛び、大小と大きさが様々な瓦礫が辺りに散乱した。
そして、山積みになっていた瓦礫があった場所から平然とした顔でふっ飛ばした本人が出てきた。

「こいつ、耐えたのか………!」

ボーマンダは目を見張った。
高威力を誇る竜の波動を何事もなかったかのように耐えて見せたのだ。
ピカチュウはボーマンダに向かって歩き出し、二〜三メートルぐらい離れた位置に立ち止まって同じ動作をした。

「(ッ、こいつ。なんのつもりだ………?)」

技を繰り返し受けているピカチュウを見て、ボーマンダは歯軋りをした。
しかしその反面、これはある意味好機だという考えもあった。今ピカチュウは、此方からの攻撃を撃たせてくれている事もあり、ダメージを重ねて着実に体力を奪われているのだ。
つまり、このまま好き放題に攻撃すればこのピカチュウは何の抵抗もする事なく退場という事になる。苛立ちから一気に勝機に変わり、ボーマンダは口角をつり上げた。

「(完全になめきっているようだが、その行動が自分を後悔させる事なんて微塵もないようだな―――)」

「何か嬉しい事でもあったのか………?」

突然声を掛けられたボーマンダは我に帰ると、ピカチュウに訊ねられた事に気付いた。

「………俺に訊ねるぐらいの余裕を噛ましているようだが、まあいい。お前の言葉に、甘えさせてもらうッ!」

ボーマンダは一気に間合いを詰めて、力の込められた爪をピカチュウに振りかざした。

「ドラゴンクロー!!」

やはり、ピカチュウはそれに応戦する事もなく防御の姿勢を取り、技を受けきる。
本来なら一発で済むはずだが、ボーマンダは彼を休ませる事もなく二発、三発、四発と確実にドラゴンクローを当てていった。

「オラオラオラァッ!!守ってばかりしてねぇで、反撃してみろよォッ!!」

彼は攻撃をしていく中でピカチュウに檄を飛ばした。
確かに、彼は今の状況から反撃できない事もない。攻撃パターンさえ見切れば反撃のチャンスはあるが、ピカチュウは反撃をする所か、反撃をしようとしないのだ。

休む間もなくピカチュウに襲いかかるボーマンダの爪は右から左、左から右、上から下、下から上というようにあらゆる方向から彼を切り裂きダメージを与えていった。

「これで、フィニッシュだ!!」

そう言いながら突き出したドラゴンクローは、ピカチュウをふっ飛ばした。二、三回バウンドして地面の上を転がっていくとその先に待っていた建物の残骸の中に飛ばされた。

「(これなら簡単に、立てる事はできまい………)」

ドラゴンクローの連続ラッシュが堪えているのか、ボーマンダは息を切らしながら地に足を付き、穴の奥に視線を向けて十秒間ほど、じっと目を凝らして様子を観察していた。
すると、中で動くものが見えた途端

   ―――顔色一つ変える事なく穴の中からピカチュウが出てきた。

「ば、バカな………!?」

ボーマンダは動揺せざるえなかった。
低ダメージではあるが、ピカチュウはさっき食らった竜の息吹きと竜の波動もガードしたとはいえ直撃し、ドラゴンクローの連続波状攻撃が全て当たりかなりのダメージを受けた事になる。
だというのにこのピカチュウは、重傷の傷を負っているにも関わらずまったくと言っていいほどダメージを負った様子を見せないのだ。やせ我慢ではない事ぐらい、ピカチュウの身ぶりを見てボーマンダなら理解できる。

「(ただ者ではない事は頭でわかっている。だが、こいつは何かが違う………!)」

今でこそこのピカチュウは大人しく攻撃を受けてはいるが、いつ反撃してくるかわからない、そんな恐怖がボーマンダの中からこみ上げていた。
そして、彼の中で一つの結論が見出だされた。

   早期決着

この四文字以外考えられなかった。それほど目の前にいるこの小さな生き物が恐ろしくて仕方ないのだ。

「ドラゴエナジー!!」

ボーマンダは自分の中で浮かび上がった文字通りの行動をおこした。口に青いエネルギーの塊を形成しそれを飲み込むと、体の全体が青いオーラに包まれた。
得意の接近戦で確実にダメージを与える為、ボーマンダは爪にエネルギーを纏わせピカチュウに急接近した。

「ドラゴンクロー!!」

ボーマンダのドラゴンクローが当たろうとした瞬間、ピカチュウは体を後ろに反らした。
強力な威力を誇る爪は、ピカチュウに対して降り下ろされ

   ―――そのまま空を切った。

「(な………!?)」

ほんの一瞬の出来事に、ボーマンダは驚きながらもすぐにピカチュウとの距離を離した。

「(何だ、今の感触………)」

ボーマンダは自分の目と感覚を疑った。さっきのドラゴンクローは、確かに当たるはずだった。間合い、技のリーチ、距離感といい正確な位置に捉えて、彼の左肩から斜め下に掛けて切り裂きダメージを与えるつもりでいた。
それが、外れた。
しかも紙一重で避けられた。

「(あいつが俺に、何かしたのか………?いや、そんなはずはない。ただのまぐれだ。)」

僅かな違和感を感じながら自分に言い聞かせたボーマンダは、技を放った。

「竜の息吹き!!」

放たれたエネルギーの塊は、一直線にピカチュウへと向かっていく。攻撃の標的となっている彼は動く気配がなかったが、目前に迫った竜の息吹きを前にしてようやく行動をおこした。

「(何のつもりだ………?)」

ボーマンダは、彼のおこした行動に目を見張った。
それは、左側に一歩動く。
ただそれだけだった。そして、竜の息吹きは間近になり

   ピカチュウの左側を通過し地面に当たった。

「何だと………!?」

またも起こった不自然な出来事に、ボーマンダは声を上げて驚いた。
ただ目の前の敵だけを見据え、狙いを定め、直撃コースに合わせて発射した。にも関わらず外れた、たった一歩動いただけで。
遠距離技を放てば、多少の誤作動で射線がずれ、命中箇所はちがってもくるが、これほどの誤作動には違和感がつき纏った。

「(何だ。この感覚………)」

先の見えない恐怖が、自分を飲み込もうとしている。
しかしボーマンダは、そんな不安を持っても仕方ないと思った。冷静に、今は自分自身の事と相手側の素性を知るべきだと思った。

「(先程から奴は、視野に入った俺の攻撃を避けている事があった。なら………)」

ボーマンダは、再びドラゴンクローを構えてピカチュウに向かった。向かってくるそれを見たピカチュウは目立つ動きを見せる事なく只々彼を見据えていた。
ほんの数メートルまで距離は狭まり、ボーマンダは右手の爪を突き出そうとした瞬間

「竜の息吹きッ!!」

「!!」

ボーマンダは真正面から竜の息吹きを二、三発放ったと同時に、バックジャンプの要領で後方に飛んだ。
舞った土煙に彼は思わず、手を出して目を背いた。ピカチュウから大体五メートル辺り距離を離すと、背後に回った。

「(死角からの一撃はどうだ………!)」

口内に高エネルギーを溜め始めるボーマンダ。
先程舞い上がった土煙はほとんどが収まり、ピカチュウの視野は回復しつつあった。

「竜の波動ッ!!」

放たれたエネルギーは、衝撃波となって土煙の中にいるピカチュウを攻撃した。技によって更に舞い上がった土煙で、視界は最悪となった。

「(さて、あいつがどう動くか、だ………)」

向こうがどう動くか、煙を只々見守るボーマンダ。相手はこちらの出方を窺っているので、実力の程は未知数な部分が多すぎる事もあり大胆な動きをせずに行動を見ていた。

「(進歩はないかもしれないが、最善策としては有効性がある。だが―――)」










「着々と勝利に近付いている。このまま継続させる方が優先的だろうな、てか………?」

「!?」

自分が思っていた言葉が突然背後から聞こえてきたので動揺の色を隠すことなく振り向くと、先程までいなかったピカチュウが腕組足組をして段差の部分に堂々と座っていた。

「貴様、いつの間に背後を………!」

「竜の息吹きを放ってから俺の背後を取った時から、さ」

ボーマンダは自らの視線を煙が立っていた場へ移すと、すでに晴れていた。しかし目立つものは一つとなく、あるのは竜の波動が直撃した地面のみである。

「(穴を掘るをした形跡は見当たらない。なら、奴が行った方法は何だ………)」

その事について驚いてはいた彼は、再び視線をピカチュウに戻し彼を見据えた。摩訶不思議な印象を抱かせる黒き衣、その内側に潜める白き衣、先程のピカチュウとは異なる性格の持ち主、そして

「クックックックッ。未知なる敵を迎え撃つ事に、そう強張る事はないだろう?」

「………」

何より黒いコートを着ている事もあるが、喉の奥で笑い声を上げるその姿はさながら悪魔のような笑みを浮かべ恐怖を掻き立てさせる。

「(先読みの難しい顔をしやがるぜ、こいつ………)」

幾度か聞いた不気味な笑い声に、ボーマンダは頬をひきつらせるとそれを見たピカチュウは、フゥと息をついた。

「しょうがない。技の実践も兼ねて、俺も少しは動かねぇと、なっ………」

ピカチュウはその場で立ち上がり地面に降りるとボーマンダを視界に入れて目を閉じ、大きく息を吸って技の名前を告げると同時に目をカッと開いた。

「戦迅・雷装!!」

その瞬間、ピカチュウの体の隅々まで電気が行き渡った。

「!!」

雷を纏うピカチュウを見て、ボーマンダはすぐに身構えた。その時であった―――




ピカチュウは地面を蹴る勢いで走り出し、一瞬にしてボーマンダの目の前まで間合いを詰めていた。明らかに気を取られていた彼は目前に迫っていたピカチュウに対して、反撃の暇もなく一撃を噛まされた。

「おらよッ!!」

「がはっ!!」

一回転したピカチュウは、アイアンテールをボーマンダの脳天に叩き付けた。技の勢いで地面に急降下するボーマンダは、重力の流れには逆らえず地面に叩き付けられた。

「げほっ、げほっ、やってくれる………!」

咳をしながらも立ち上がるボーマンダは、上空から異様なものを感じ上を見上げた。視線の先には、激しい電気を帯びたピカチュウが降下しつつ迫っていた。

「たっぷりくらいな!雷ッ!!」

放たれた強力な電撃は、さながら自然に見る落雷の如くボーマンダに向かっていく。ドラゴンタイプとはいえ、飛行タイプも加わっている自分に雷は危険なものだった。
すぐに立ち上がったボーマンダは、その場から飛び雷を回避した。今さっきいた場所に雷が落ちるととてつもない音と共に技の衝撃が地面に響いた。

「余所見していると足元掬われるぞ!!」

「!!」

またも一瞬で飛び上がったピカチュウは、ボーマンダに雷パンチを繰り出した。

「おせぇよっ!!」

「ぐっ!!」

反射的に繰り出したドラゴンクローで対向し、技を食い止める。

「クソがッ!!」

ボーマンダは何もしていない左手で、ピカチュウにドラゴンクローを繰り出した。

「あめぇんだよッ!!」

「何ッ!?」

しかし、そう容易くピカチュウは攻撃を当てさせなかった。左手でボーマンダの繰り出した腕を掴み、彼の伸ばした腕を回転バーのように使って一回転し彼の顔面の前に来た。

「メガトンパンチ!!」

「ぐふっ!!」

思いっきり打ち込んだ拳は、ボーマンダの顔にめり込みそのままふっ飛ばした。

「ええいッ!」

さっきのように叩き付けられた訳ではなく空中で態勢を立て直したボーマンダは、降下していくピカチュウに向かって技を放った。

「竜の息吹きッ!!」

放たれた竜の息吹きは、降下コースを予測して発射した。しかし

「十万ボルト!!」

大人しく当たる訳にはいかなかったピカチュウは、電撃を放って牽制した。それを見たボーマンダは、舌打ちをしながら彼に急接近をした。
無事に着地したピカチュウは、ボーマンダの接近に気付かない所で技を放たれた。

「竜の波動ッ!!」

放たれたエネルギー波は、ピカチュウに迫り地面に直撃し煙を舞い上げた。先程よりも大きな土煙の中から、ピカチュウはバックジャンプの態勢で出てきた。勢いを付けすぎたのか、地面に足が付くと後方に砂を立たせながら下がっていく、左手も地面に付けてブレーキを掛けるとようやく止まった。
顔を上げて周囲の警戒をした時、背後から異様な殺気を感じとって振り向いた。
その先には―――










「散れえぇいッ!!」

翼を振り下ろそうとするボーマンダの姿があった。ピカチュウは横っ飛びに回避を取ろうとした時だ。
動こうとしたピカチュウに向けてボーマンダは翼を振り下ろすと

   ―――ボーマンダが霧散して消え

「終わりだァッ!!」

ピカチュウの背後に瞬間的に、瞬間的に現れ翼を振るった。逃げ切るのが一歩遅かった彼は背部を翼に切り裂かれ

   ―――冷気を纏った霧になり、ボーマンダに纏わり付き氷付けにした。

「何いッ!!?」

唯一頭部のみ氷付けにされなかった彼は驚嘆し、そのまま地面にゴトンと落ちたボーマンダは、顔を打ち付けた。

「(ぐ………これは、どういう事だ!?今のは何なんだ!?俺の技は、確かに直撃したはずだ!こんな事、ありえない………!)」

氷付けになった彼は今の状況を掴めず、頭の中でパニックを起こしていた。
と―――

「クックックックッ。同じ技を二度も味わう気分はどんなもんだ?」

喉の奥で笑いながら自分に訊ねてくる声が聞こえてきた彼はその方を見やると、コートのポケットに両手を入れてこちらに歩いてくるピカチュウの姿を捉えた。

「貴様、どうやって俺の技を………!?」

「知りたいか………?クックックックッ。いいだろうそこまで知りたいなら教えてやるよ、どうせお前は終わるんだ。最後にネタを明かしてやるよ」

ピカチュウは右手を地面に振り払った。すると冷気が放たれて一点に集まって徐々に形作り、今そこにいるピカチュウと同じ姿を作り出した。
目を見張らずにはいられないボーマンダは、造形されたピカチュウと造形したピカチュウを見比べた。

「凍りつく冷気を身代わりを作る要領を利用した技、お前はこれにまんまと騙された訳だ」

「だが、どうやって作り出しやがったんだ!あの状況下でそれをやる暇はなかっただろうが………!どうやりやがったんだ!?」

「さあな。それこそ自分で考えてみな、俺はこれ以上お前に教える義務はないからな」

彼は吐き捨てるように言うと、造形したものを電撃で破壊しボーマンダに向き直った。

「さて、足止めはできた。そろそろ始めようじゃないか………」

ピカチュウは口角をつり上げて、ニヤリと笑いながら言った。

「は、始める、だと………!?」

ボーマンダは震える声で彼を訊ねると、ピカチュウは目付きを変えて彼にその言葉の意味を告げた。

「そう、全ては俺が決める………








 ―――お前の処刑を」

ピカチュウはその言葉を口にすると、コートから黒い光が溢れ彼はその光に全てを包みこまれた。ほんの数秒間、光はその場に止まっていると空に舞い上がった。

そして、それは波のように空に広がると正体を表した。闇夜の空を照らす月は、それ自体をも照らした。


「お………お前は………一体、何なんだ………!?」

漆黒の空き片翼を広げる彼にボーマンダは問うた。

「言わなかったか。お前に教える義務はない、と」

彼はその一言を告げ、翼をはためかせてボーマンダに接近する。

「クソッ………!」

嫌な予感をよぎったボーマンダは、いち早く氷から逃れようと抗い竜の息吹きを放つがそれはかなわなかった。
目線のすぐに先には、片翼のピカチュウが猛スピードで迫っていた。

「や、やめろ………」

「お前は………」

「やめてくれ………」

「お前は、俺にやってはならない事を犯した………」

「く、来るな………!」

「お前は、“こいつ”の仲間を傷つけた。それは………










   ―――俺への敵対行動に値する!」

今までにない怒りの声色と目で告げた言葉と同時に、ピカチュウは技を解き放った。

「罪を償えッ!ブラストウイングッ!!」

黒き片翼は一直線にボーマンダの肩から尾まで切り裂き、勢いを付けていたピカチュウはやがて止まり、右手を横に広げ

「爆ぜろ」

そう告げた瞬間






 ドオオオオオオォォォォォォォォン!!!!






「がああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

とてつもない爆発と共に途方もない悲鳴が、廃墟に広がった。










 〜☆〜





 (side:シリア)




未だに痛む体を伴いながら、私はうっすらと目を開けた。

「(今の音は、一体………)」

意識がはっきりしなかったせいで微かにしか聞こえなかったけど、とても派手な音だった気がする。
けど、今の私はそんな事を気にしてる場合ではなかった。

「(ッ………シラヌイの所に、いかなきゃ…………)」

痛みを必死に堪えながら私はなんとか立ち上がり、急ぎ足にしては遅すぎる速度でシラヌイを探し始めた。
なんでシラヌイを探す必要があるのかって?
今言うのもなんだと思うけど簡易に説明するわ。これはリーダーの扱う探検隊バッジにしかない機能なんだけど、音声を録音できる機能が搭載されているの。録音秒数は限られるけど、バッジの機能を使ってこちら側の現状を録音してそれをギルドに送れば、向こうはこっちを支援をしてくれるっていう事。
それが使えるからこそ、私は少しでも『ディザスター』に伝える事を送るの。

「(確か、そんな遠くで倒れてはいなかったから、すぐに………ッ!)」

ボーマンダがいるかもしれない中、私は足を引きずりながらも歩みを進めていた。でも、急に痛みだした体についていけず倒れかけたが

「(………?)」

あまり前を見ていなかったせいか、壁のようなものに当たったと思ったけど違った。温かみを感じたから誰かに抱き止められたとわかった時には、何かを額に当てられて急に眠気が襲った。
霞んでいく意識の中で私の視界には、片一方ずつたけど黄色い手足を捉えた。

「(シラ、ヌ………イ…………?)」

私達のチームのリーダーを頭の中で連想させたその時には、私の意識は闇の中へと沈んでいった。










 (side:クルス)




目を覚ました僕は、さっきまでに起きた出来事に苛立ちを覚えていた。
ボーマンダに打ち上げられたシラヌイは、なすすべなく空中であいつの最強技を叩きつけられて出血多量の重傷を負った。そんなシラヌイを見たあいつは、言いたい放題馬鹿にし笑った。
そんなボーマンダに堪忍袋の尾が切れた僕は、怒りまかせに何度も攻撃をした………

だけど、それはすぐに遮られた。
感情を剥き出しに闘った事で、冷静さを失った僕は敵の手の中で踊らされる結果となってしまった。

「(僕は………やっぱり、無力なのかな………)」

その二文字が浮かんだ時には、僕の意識が段々と沈んでいくような感覚に襲われた。
アルードタウンでの一件以来、僕はミレイナを守ると約束したのに。ボーマンダに引き裂かれた彼女を見た時、僕は内心罪悪感に囚われていた。約束したのに、僕は何一つ守れやしない。
いっそのことこのまま逝った方がいいかもしれない。ミレイナと向こう側に行けばまたお父さん達に会える。もう僕の意識も段々と水の中に消え失せていく。

「(もう、いいかな………)」

お父さん、お母さん、ミレイナ、シラヌイ、シリア、『ディザスター』のみんな、ごめんなさい。
不思議と恐怖を感じない僕は、目の前が真っ黒になると同時に今の意識に自分を委ねた。
その時だった―――










 ―――自分の信念を曲げるな―――











「!!」

突然、誰かの声に意識を引き戻されたと思うと、額に何かを当てられ再び意識を失っていった。










 (side:ミレイナ)




突然、意識を取り戻したわたしはうっすらと目を開けると、自分の耳から静かに、ゆっくりと脈を打つ心臓の鼓動が聞こえてきた。

「(あれ、わたし………どうしたんだっけ…………)」

何が起きたのかわからないわたしは、意識を失う前の時の事を思い出そうとしていた。

「(たしか、倒したはずのボーマンダが突然目覚めた途端青い光に包まれるとわたし達を襲ってきて、それで………)」

その瞬間、わたしは鮮明に覚えていた一瞬の出来事と共に、無意識に右手を腹部に当てた。そこから感じたものは自分の体毛と、布の感触。
そして、その布から感じたじめっとした感触だった。わたしは右手のひらをゆっくりと動かし、その実態を見た。
視線の先には、手のひらの五分の一が赤く染められていた。

「(これって、わたしの血………?)」

今まで気付かなかったわたしの視界の端から映る地面は、普段見る薄い茶色とは裏腹に赤黒く染まった地面があった。それを見てわかった事は、あの時ボーマンダから食らった一撃でできた傷のせいで、多量の血を流した影響により体温が低くなっている事だった。

今さっき気付いたけど、何故か寒さを感じずにはいられなかった。それと同時に、妙な眠気に襲われた。どうあがいても逆らえないのでわたしは身を委ね掛けたけど、それは止められた。

地面から感じる感触がなくなったと思うと、浮遊感を感じたけど違った。うっすらと見える視界の中には、口らしき部分と黒い何かを纏ったような誰かがわたしを抱き上げていた。

「(誰だろう………でも、見覚えがあるような………)」

そうやって考えている内に額に何かを当てられた途端、わたしは意識を手離した。










 (side:out)




シリアとミレイナの視界にうっすらと映っていた青年のピカチュウは、両手でイーブイの少女―――ミレイナを両手で抱えて歩いていた。一、二分程歩いていたピカチュウは、足を止めてミレイナをゆっくりと地面に降ろした。

「よし、これで全員だな」

ピカチュウは目線をミレイナの横に移すと、そこにはオスのリオルとメスのツタージャが仰向けに眠っていた。
無論この二人は、クルスとシリアである。ミレイナをここまで運ぶ少し前に、彼はこの二人をここに運んできたのである。それは、あることをする為であった。

「さてと、こっからが本番だな」

ピカチュウは右手に握り拳を作って、左手でそれを握りポキポキと音を鳴らし、左手にも同じような事をするとツタージャの下に来た。

「こっちの二人はあまり問題なさそうだな」

彼はそう呟きながらシリアとクルスの間に来ると、二人の手を繋がせて片膝を付き二人の手を彼が握り、そしてピカチュウは目を閉じて意識を集中し始めた。
するとあろうことか、ピカチュウの体が白く輝き出した。通常ではありえない現象が起こる中、さらに非常識な現象が起こった。

二人の傷がみるみる回復していくではないか。最初は小さな傷がすぐに癒えると次に大きな傷があっという間に痕を残さなくなった。傷が完治すると、ピカチュウは閉じていた目を開いて立ち上がった。

「ふ〜。まあ楽に終わったが、こっちはそう簡単に終わりそうにねぇな」

ピカチュウはミレイナの傷を見つつ彼女に近付きながら言った。あのボーマンダの食らわせた一撃は、彼女の腹部の四分の一程の傷の深さが残っていた。
ここに来る前に多少の応急処置を施してはいたが、それでも傷は治す兆しはなかった。

「まあ、やれるだけの事はやってみるか………」

ピカチュウはそう言いながらミレイナの横に来て片膝を付き、彼女の左手を握り目を閉じて意識を集中した。
再び彼の体が輝き出しミレイナの傷が傷口の本から徐々にふさがり始めた。ゆっくり、ゆっくりと傷は痕を残さず癒えていき、十分程の時間を掛けて完治した。

「ふ〜、やれやれだぜ」

一息ついたピカチュウは、立ち上がって顔色が良くなったミレイナの寝顔を見ながら呟く。

「手間を掛けさせてくれるけど、苦労し甲斐があるってもんだな―――」

とそう言った途端、ピカチュウの視界が揺らいだ。「ぐ………」と呻き声を上げながら何とか踏ん張るが段々と暗転していく。

「っ………時間切れ、か………」

彼がそう呟いた時には、目の前が真っ暗になった。


■筆者メッセージ
前の更新から遅くなりました。
言い訳としては、これからの夏休み中に受ける資格の手続きや三年生の先輩方の部活の引退事やその他等の色々な行程がありましてこの様です(蹴
私事ですが、今月の八日に十七回目の誕生日を迎えました。
Nazelu ( 2014/06/30(月) 07:49 )