第十六話 跡地で出会した災難
シラヌイはクルスとミレイナの過去を打ち明けられて、シラヌイは二人を思いやる気持ちが大きくなった。そして四人は、アルード跡地へ向かっていった―――
〜☆〜
「着きましたよ『エクストリーム』の方々」
そう言ったのは『ディザスター』所属の探検隊『アルヴリート』のリーダー、レベリオ=ルダレルであった。体を屈めたレベリオの背中から降りたポケモンは『エクストリーム』の四人だった。
「あれか……」
シラヌイは目の前の景色を見て改めて痛感した。シラヌイの視線の先には焼け焦げた地面と崩れた建物が幾つもある所だ。
そう、『エクストリーム』の四人はアルード跡地へとたどり着いたのだ。
「シラヌイさん、こちらをお受け取りください」
レベリオに呼ばれたシラヌイは、彼から折り畳まれた一枚の紙を渡された。
「そちらはこのアルード跡地の地図になります。現時点で自分達の位置をお分かりになりたい時はそれを頼りに調査を進めてください」
シラヌイは彼の説明を聞きながら地図を開いた。不思議な地図ぐらいの紙の大きさを持っており、大まかな施設跡の位置と北、東、南、西、中央とそれぞれの地区の位置が書かれていた。
「ありがとうレベリオ。」
シラヌイは御辞儀をするレベリオに礼を言うと彼は『ディザスター』に向かって飛んで行った。
「よし、行くぞ」
シラヌイは三人に声で合図をしてアルード跡地の中へ入っていった。
――アルード跡地 北地区跡――
四人が最初に調査を開始したのはミレイナとクルスが住んでいた北地区からなのだが――
ガッシャン!!
「おっと!やれやれ、ここもか……」
シラヌイは呆れ気味に崩れてしまった建物の残骸を眺めていた。
調査と言っても何をすれば良いか分からず、適当にその辺にある屋根を退けて残骸を確認したりちょっと残っている建物内を見たりするが、どれもこれも焼け焦げてくすんでいるためどういう物か分からない。
残っている残骸を調べてみるが、すぐに崩れるので調べようもなかった。
――二時間後――
「クルスいくぞ」
「うん」
「せーのっ!」
シラヌイとクルスは力いっぱい込めて屋根らしき残骸をどかした。
「二人共どうなの〜!!」
少し離れた所からシリアがクルスに訊ねた。
「ダメ〜何もないよ〜!!」
クルスは大きな声でシリアに返事をしてシラヌイと共に二人の下へ走り、合流した。
四人は広場らしき場所にあった石段に腰を掛けて休憩した。調査から二時間以上は経っている筈なのだが何も見つからずにいて、すでに北地区、西地区、東地区、南地区と回ったが手掛かりは無い。そして彼らは今、中央地区での調査中に一休みしていた。
調査の方も進まない他、もうひとつの目的―――
「本当に行方不明のポケモンなんているの〜?」
クルスは寝転がって大の字になり、思わず愚痴をこぼす。
当たり前だ。中央地区どころか、他の地区ですら行方不明のポケモンらしき者を見かけていなかった。
「わたしも疲れたよ〜」
ミレイナは大の字にはなれないので、地面にペッタリと体を付けた。
「仕方ないよ、二時間以上休む間もなく探し続けたからね」
シリアも大の字にはならないが、近くの木にもたれて座った。シラヌイも近くで座っていたが、耳をピクリと動かすと急に立ち上がり準備運動を始めた。
「シラヌイ………?」
シラヌイの一番近くにいたミレイナが声を掛けるが、呼び掛けに反応せずいきなり電気を溜め始めて
「いつまで隠れているつもりだ!十万ボルト!!」
崩れている建物の残骸に向かって放った。技が当たると中から何かが飛び出してきた。
四人は飛び出した何かを目で追うとそこには赤と青のドラゴンポケモン、ボーマンダが地面に降りてきた。
「探検隊か………」
ボーマンダは四人に聞こえない程度にそう呟いたが、シラヌイは聞き逃さなかった。何か都合の悪そうに呟いていたようだった。
「まさかとは思ったが、お尋ね者で合っているかな………?」
シラヌイがボーマンダに訊ねるように聞いてみると、いきなり竜の息吹きを四人に放った。
「よっ………!」
「おっと!」
「「うわあっ!?」」
シラヌイとシリアは軽々と避ける脇にが、ミレイナとクルスは反応が一歩遅れて脇に避けた。
「フッ………大当たりだ、そう俺はお尋ね者だ。俺の姿を見られたからには
―――生きては返さんッ!!」
ボーマンダはシラヌイに竜の息吹きを放った。
「よっと、十万ボルト!!」
シラヌイはまた軽々と避けて十万ボルトを放つが、ボーマンダはそれを避ける。
「波動弾!!」
クルスはボーマンダが避けた所を狙って、波動弾を放った。
「ドラゴンクロー!!」
しかしボーマンダはドラゴンクローで応戦して、波動弾を打ち消した。
「三人共今だ!!」
「グラスミキサー!!」
「シャドーボール!!」
「波動弾!!」
「十万ボルト!!」
シラヌイはボーマンダが技を使った後の隙を見逃さず、全員で攻撃した。
「フン!」
しかしボーマンダは翼を羽ばたかせて急上昇し、四方向からの技を簡単に避けた。
「空にいる俺にしたら、地上からの攻撃など避けるのも容易いわ」
シラヌイはそれを聞いて、小さく舌打ちすると辺りを見て何か良いものはないかと探した。
「余所見していると足元を掬われるぞ、竜の息吹き!!」
シラヌイは放たれた竜の息吹きを回避した。しかしボーマンダは、立て続けに竜の息吹きをシラヌイ目掛けて放つが、彼はそれをも回避する。
「ええい、ちょこまかと!」
嫌味を覚えるボーマンダを無視して、シラヌイは襲ってくるブレスを回避し続けているとちょうどいい足場になる建物の残骸を見つけた。
「よっと、電光石火!!」
シラヌイは建物の残骸を足場代わりに付くと、電光石火のスピードを応用してボーマンダに向かって跳び跳ねた。
「なるほど足場を利用したジャンプか………」
ボーマンダは動揺の色を見せる事なくすぐに対応した。
「だが、空中では身動きがとれまい!」
ボーマンダは近付いてくるシラヌイに竜の息吹きを放ったが
「波動弾!!」
「シャドーカタール!!」
クルスの放った波動弾が竜の息吹きを相殺し爆煙が巻き起こる。ミレイナは四つのシャドーボールを形成して剣やブーメランといったものにするとそれを爆煙に向けて放った。
爆煙から出てきたシャドーカタールが幾つか彼に当たる。
「くっ、小癪(こしゃく)な………!」
そして、遅れて爆煙から出てきたシラヌイは電撃が纏った右手をボーマンダに向けて思いきり振りかぶった。
「雷パンチ!!」
「ちっ!」
ボーマンダは辛くも雷パンチを避けるが、右翼に掠った。しかし、彼は落下し始めたシラヌイに追撃を浴びせようと攻撃した。
「背後が隙だらけだ!竜の息吹き!!」
ボーマンダはシラヌイに向けて竜の息吹きを放つが、彼は十万ボルトで応戦して打ち消し、地面に着地するとそのまま足を止めた。
「棒立ちとはいい度胸だ!」
ボーマンダはシラヌイに三度目の竜の息吹きを放とうとした時、後ろから引っ張られる感覚して振り向くと、そこにはシリアが蔓のムチで彼の両足を絡ませて踏ん張っていた。
「そんなもの、俺には無駄だ!」
ボーマンダは蔓を振り払おうとするが、いち早く彼女達が行動した。
「二人共今よ!」
シリアが声を張り上げると、ミレイナとクルスが物陰から現れてシリアの蔓を土台にしてボーマンダに向かって飛んだ。
「はっけい!!」
「噛み付く!!」
「くっ………!」
ミレイナとクルスの同時攻撃の内、ボーマンダは噛み付くの追加効果によって怯んだ。
「待ってたぜ、この時を!!」
「!!」
今まで棒立ちしていたシラヌイは、この時を狙っていたと言わんばかりに走って勢い付けるとジャンプして攻撃をした。
「新技食らいな!ピッカリ玉!!」
「っく!?」
ボーマンダの正面に来たシラヌイが激しい閃光を放つ玉を放ってきた。
「くそっ……!目が!」
視界を真っ白に染められたボーマンダは周りが見えなくなって、辺りを徘徊した。
「!!」
ボーマンダはようやく視力が回復して、状況を確認するとシラヌイ、ミレイナ、クルス、シリアの四匹が力を溜めて攻撃を放とうとしている所だった。
「エレキボール!!」
「波動連弾!!」
「ウィップカッター!!」
「シャドーマシンガン!!」
シラヌイは雷球を、クルスは連続の波動弾を、シリアは蔓の鞭から生み出した草の刃を、ミレイナは幾つもの黒いブーメランや剣を放った。
「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
小規模の爆発が起きてすぐ、ボーマンダは地面へと落ちていった。
「やった………かな?」
クルスは不安そうに言うと、シラヌイはうつ伏せに倒れているボーマンダにそーっと近付いて、様子を見るが動きそうな気配はない。
「そうみたいね……」
シリアもボーマンダの様子を見て、構えを解くと他の二人も構えを解いて胸を撫で下ろした。
「それにしても、シラヌイ凄いよ!あのときミレイナが連続手助けをできるくらいの時間を稼ぐって言ったからどんな方法なんだろうと思ったけど、何あの技!?」
クルスは始めてみる技に対して興奮しながらシラヌイに訊ねた。さっきの技はミレイナもシリアも見たことが無い技だった。
「ん?ピッカリ玉の事か?簡単だよ、フラッシュを応用してシャドーボールや波動弾みたいに球体形にした技、いわゆる不思議玉の光り玉をさらに眩しくした攻撃技ってことさ」
シラヌイは説明の後に威力は低いけどな、と付け加えた。
「以外と便利な技だけど、ネーミングが少し残念ね」
シラヌイは自分が苦労して考えた技への悪態を突かれて、うっと唸って溜め息を付いた。
「まあいいや、こいつの事シバコイル保安官に引き渡して調査の続きを始めるぞ」
シラヌイはそう三人に告げた瞬間、後ろから物音が聞こえて反射的に振り返った先には―――
「ぺっ………やってくれるじゃねぇか、ガキの癖に」
身体中に無数の傷が付いたボーマンダが血を吐き捨てて、四人を睨んでいた。
「な………!なん、だと………!!」
「そんな………!」
シラヌイ達は唖然とした。あれだけの攻撃を浴びせておきながら、平然としているなんて有り得ないからだ。
「ドラゴエナジー!!」
ボーマンダはそう言うと、口から青い炎のような塊が形成されて彼はそれを飲み込んだ。すると、ボーマンダの体中が青く光り始めた。
「生きて帰れると思うなよ………!!」
ボーマンダがそう言うと、翼を大きく広げて四人に向かって突撃してきた。
「十万ボルト!!」
「グラスミキサー!!」
シラヌイとシリアは、ボーマンダに同時攻撃して応戦するがあっさりと避けられた。
「波動弾!!」
「シャドーカタール!!」
しかし避けた方向に向けて、ミレイナとクルスが攻撃をした。しかし、これも易々と避けられた。
「まだ!終わってない!!」
ミレイナは再びシャドーカタールを放つが、やはり避けられる。しかし、回転している幾つかの黒いブーメランと剣は輪を描くとボーマンダの後ろから襲ってきた。
「甘い!!」
だが、ボーマンダは当たる直前に翼を羽ばたかせて急上昇して避けた。
「くそっ!」
「っ!」
「うわあっ!」
「ひゃあっ!」
四人はシャドーカタールを避けて、それぞれ別の方向に待避した。待避したシラヌイは、急上昇したボーマンダを見ようと空を見上げたがそこにボーマンダはいなかった。
「(いない………?)」
彼は周りを急いで見つけようとするとボーマンダをすぐに視界に捉える事ができた。しかし、それは自分の仲間を背後から攻撃しようとする所だった。いち早く気付いたシラヌイは、その仲間の下に走り出して声を張り上げた。
「ミレイナ後ろ!!」
「え………」
ミレイナは一歩遅れて振り返った時―――
「終わりだ!ドラゴンハイド!!」
ボーマンダが翼を降り下ろした瞬間、乾いた地面と茶色い毛並みが赤く染められた。