第十二話 大蓮池の鉄骨とモグラ(中編 その2)
同時に始まった二チームによる戦闘。もう片一方のシラヌイ、シリア、コルム、ミレイナの四人では―――?
〜☆〜
「さて、始めようか………」
ドリュウズは自身の爪を構えて静かに呟いた。
「(実質、相手が不利だな。勝てるかどうかの見込みは分からないな………)」
シラヌイは現時点での状況を見て考えた。
相手は鋼・地面タイプのポケモン、ドリュウズである。ノーマルタイプのミレイナが友好的な技が他に無く、シリアの草タイプの技も微妙な所でもあり、かといってコルムの地面タイプの技だけに頼るのも正直難が感じられる。
彼の戦闘スタイルを見るからに前衛よりも後衛に向いている事が不思議のダンジョンの時で分かった。
それ以前に、まず自分にとっても不利な相手だ。地面タイプのポケモンは電気タイプの技が効かないので手の出しようがない。
「行くぞ!!」
ドリュウズはそう告げて四人に向かって走り出した。
「き、来たよ!」
「分かってるわ!マジカルリーフ!!」
コルムが三人に警戒させる中、シリアはドリュウズに向けて無数の葉っぱを飛ばす。マジカルリーフは攻撃が必ず命中する技であり、避けるのは至難の技だ。
「避けられないなら、叩き切る!!」
ドリュウズは四人との距離が中腹部分の位置に留まり、爪を構えて硬化させた。
「メタルクロー!!」
ドリュウズは襲い掛かってくる葉っぱを全て爪で真っ二つに切り落とす。
荒業だな、とシラヌイはそれを見て呟いた。
ドリュウズは全ての葉っぱを切り落とすと爪を硬化させたまま走り、シラヌイに向けてメタルクローを突き出した。
「せやあっ!!」
「よっ!」
シラヌイはそれを軽々と避ける。
「スピードスター!!」
コルムは星型の光を発射するが、先程のマジカルリーフと同じようにメタルクローで掻き消される。
「無駄な事だ!」
ドリュウズは標的をシラヌイからコルムに変更してメタルクローを彼に向けて襲い掛かった。
「わわっ!丸くなる!!」
コルムは自分が狙われた事に急いで体を丸めて防御の態勢に入った。
ドリュウズの硬化した爪は、丸くなるを寸前にしたコルムの体に弾かれる。
「ちっ、姑息なまねを………」
「余所見していていいのかしら?」
「!!」
舌打ちしたドリュウズの上から不意に声がして彼は頭上を見上げると、シリアが技を構えていた。
「グラスミキサー!!」
「くっ!」
シリアの放った緑色の竜巻はドリュウズを包み込み中に混じっている鋭い葉っぱが切り刻んだ。
「こんなもの………!」
ドリュウズは横っ飛びに回避して、グラスミキサーを全て食らわずに済んだが
「シャドーボール!!」
ミレイナが放ってきた黒い塊を食らったが、それに怯む事なく技を使った。
「爪研ぎ!!」
ドリュウズはその場で自身の爪を研ぎ始めた。
「能力アップの技ね、だったらその間に攻撃よ。リーフブレード!!」
シリアは緑色に光る尻尾を使ってドリュウズに攻撃を仕掛けた。命中してドリュウズの体を切りつけるもあまり効果があるように見えなかった。
「やっぱり鋼タイプが入っているから、草タイプじゃ無理があるよ〜!」
「そんなの百も承知よ!」
タイプ相性では無茶がある、と言うようなコルムにシリアはそそくさとドリュウズから距離を取る。
シリアが後ろの二人と同じ位置に戻った瞬間に、ドリュウズは三人が思っていなかった行動をした。
「地ならし!!」
ドリュウズは地面を踏み鳴らして攻撃を仕掛けた。
「うわっ!?」
「ひゃあっ!?」
「きゃあっ!?」
突然の行動に三人は対処しきれずに、揺れによるダメージを受ける。
「出てこないか………」
ドリュウズは地面を見ながらそう呟いていると態勢を立て直した三人が技を仕掛けた。
「シャドーボール!!」
「マジカルリーフ!!」
「スピードスター!!」
ドリュウズはそんな三人に見向きもせず、技を避けると両手を顔を当ててドリルの様な形になり地面を掘った。
「穴を掘る!!」
三人はドリュウズの姿が見えなくなると辺りを警戒し始めた。静寂が訪れ、緊張感が三人の中で走る。
自分達の肌で、耳で、目で警戒心を最大限に引き出す。静寂が訪れて数秒後、
「うわあっ!!」
突然、三人の目の前に地面の中に潜っていたシラヌイが派手に出てきて地面に落ちた。
「シラヌイ!!」
ミレイナはシラヌイの下に駆け出そうとしたら、彼が出てきた穴からドリュウズが飛び出てきてミレイナの行く手を阻んだ。
「グラスミキサーで攪乱し、穴を掘るの奇襲を狙う為に時間稼ぎをしたつもりだろうが………」
「シャドーボール!!」
ミレイナはドリュウズに向けて黒い塊を放つが、彼は爪を硬化させてそれをひと薙ぎするとシャドーボールは真っ二つに切断されて消えていった。
「地面の中は………」
ドリュウズはミレイナへと接近して距離を縮めて爪で切り裂いた。
「俺にとっての箱庭だ!切り裂く!!」
「あぐっ!!」
ミレイナは避ける暇もなく、ドリュウズの切り裂くを食らい、飛ばされた。
「ミレイナ!!」
コルムは吹き飛ばされたミレイナの下に駆け寄って、彼女の応急措置を行った。
「フン、さて………」
ドリュウズはうつ伏せに倒れているシラヌイに歩み寄ると、左手の爪と爪の間に彼を挟んだ。
「形勢逆転というべきか、友好的な技を持っていなかったからとはいえ、穴を掘るを使ったのは判断ミスだな」
「………」
「あれほどのダメージを与えたえれば、さすがに喋る口もないか………」
ドリュウズはシラヌイの首に、右手の爪を当てる。
「終わりだ………」
「………フッ」
ドリュウズがその一言を言った途端、突然シラヌイが鼻で笑った。
「フッ………フフフフフ」
「………何がおかしい」
瞼(まぶた)を閉じて、目の色で様子を伺えないシラヌイを見て、ドリュウズは不可解に思い訊ねた。
「いや、何もおかしくないよ………」
シラヌイは数秒間の間を開けると、目を開けてこう告げた。
「ただ、勝利へとたどり着くには、早すぎだなと思っただけさ………」
「………どういう事だ」
「こういう事だ!!」
ドリュウズが訊ねた瞬間、シラヌイは右手を振り回した。
すると、彼の掌(てのひら)から五つの種が出てきてドリュウズの目の前までくると爆発を起こした。
「ッ!!ぐあああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!目っ、目がああっ!!」
ドリュウズは悲痛な声を上げる中で、シラヌイは開放されてすぐにその場を離れると大声で言った。
「今だ!!ぶち噛ませええええぇぇぇぇぇッ!!」
「ウィップカッター!!」
「マグニチュード5!!」
「シャドーカタール!!」
その声と共にシリア、コルム、ミレイナ達三人の技がドリュウズに向かって一直線に放たれた。
「ぐあああぁぁぁぁっ!!」
防御の態勢を取る事もできなかったドリュウズは、三人の技を食らった。
「がっ………あぁ………」
ドリュウズは諸に技を食らってしまい、片膝を付いた。
「油断したな、ドリュウズ」
「くっ………」
「戦いっていうのは、最後まで油断したら負けなんだぜ」
シラヌイはドリュウズにそう言うと、右手を構えた。
「さっきの言葉そのまま言い返してやるよ」
シラヌイはドリュウズに向けて指を指すと、同じ言葉を彼に言った。
「終わりだ………」
しかし、ドリュウズは付いていた片膝を上げて立ち上がった。
「まだだ………」
「あきらめの悪い奴だな、そんなボロボロの状態で、何ができるんだ?」
ドリュウズはそんなシラヌイから投げ掛けられた言葉を無視して、まだ戦えるという行動を表した。
「まだ………終わらない!!」
ドリュウズは自分の爪に爪を当てた。それを見てシラヌイは、爪研ぎなんかしてどうする気だ………?と心の中で疑問を持ったが、それと違う言葉を発した。
「爪研ぎ・二式!!」
ドリュウズはさっきと同じように爪を研ぎ始めた。
「な、何!?」
四人が驚く中で、ドリュウズは爪研ぎを終えると四人の方を向いた。
四人はさっきの変わった技を見てドリュウズの体に変化がないかと見てみるが、特に変化は無かった。あるとしたら、さっきよりも爪の輝きが増しただけだ。
「何だ。何も変わってないじゃん」
「やれやれ、ただの見せ掛けのようね」
コルムとシリアは安心しているが、シラヌイは少し警戒した。
「(いや、見せ掛けとは思えない。それに、さっきの二式っていったい………)」
シラヌイが考えを深くしていると、ドリュウズはこちらに向けて走り出した。
「こっちに来たよ!」
「それだったら、これでとどめ!!」
シリアは走ってくるドリュウズに対して、マジカルリーフを放った。するとドリュウズは立ち止まって片腕を振り上げた。
「切り払うつもりか!」
「でも、今のあいつの体力じゃあ持たないはずだよ!」
そう、この攻撃が決まれば、戦いに勝っていたはずだった。
―――ドリュウズが力を発揮しなければ―――
「せやあっ!!」
ドリュウズが腕を薙ぎ払った瞬間、それと共に突風が舞って彼の前方に発生し、葉っぱを粉々にした。
「なっ!?」
「うそでしょ!?」
「そんなぁ!?」
「バカな!?」
その勢いで突風は、四人を襲った。思わぬ事態に彼らは避ける暇もなく突風の餌食になった。
「くっ!!」
「ひゃあっ!!」
「うわあっ!!」
「きゃあっ!!」
四人は顔を両手で覆って、身動きが取れずにいた。そんな中でシラヌイだけはこの風から違和感を感じた。
「(なんだ、この風………)」
違和感を感じたシラヌイは、反射的に自分の頬を手で触ってその手を見ると、何故か血が付いている事に気付いた。
「(血………?どういう事だ、俺は穴を掘るで受けたダメージを食らったが、目立った傷は付いていなかったはずだ………)」
「うっ………ううっ………」
深く考えているシラヌイの横から、小さな呻き声が聞こえたので彼はそちらの方を向くとシリアが苦しそうな顔をしていた。
「(なんだ………?どうしてシリアは苦しんでいるんだ………?)」
彼は再び考えようとしていたが、その疑問はすぐに解決する事となった。彼女の体には、さっきまで無かったはずの切り傷ができていた。
「(傷………?けどあいつは地ならしのダメージだけで………)」
そう思った時だった。シリアの腕に自然と大きな切り傷ができたのだ。あまりにも不自然な光景を見たシラヌイは目を見張ると同時に、どういう原理なのかが解けた。
「そこのピカチュウは気付いたようだな!!」
四人が声に反応して、どうにか前を向くと突風の中で平然と走ってくるドリュウズの姿を捉えた。
「この風は、視覚で捉えるには不可能な刃が無数に飛んでいる。回避する事などできるはずもない!!」
「くそっ!!瓦割り!!」
風はほとんど納まったが、ドリュウズとの距離はすでに目前へと迫っていたものの、シラヌイは攻撃を仕掛けた。
ドリュウズは応戦するかと思いきや、シラヌイの瓦割りを頭部の鋼鉄部分で受け止めた。
「………それだけか?」
「なっ………!」
シラヌイが唯一隠しておいた効果のある技を噛ましたはずだったが、まったく効いていない事に驚愕した。
「まずい!!」
「逃がすか!デザートスパイク!!」
シラヌイを狙った砂に包まれた鋭い爪は彼の体二つ分ほど離れていた為、当たらなかった。しかし、ドリュウズの爪を包んでいた砂は、突如として爪を根として長い三つ棘となり飛び退いたシラヌイの体を突き刺した。
「ハアァッ!!」
ドリュウズは棘に刺さったシラヌイを振り払うと、彼は身を投げ出されて地面に転がった。
「がはっ!!」
「シラヌイッ!!」
ミレイナは考え無しにシラヌイの下へ駆け出した。
「隙だらけだ」
「!!しまっ――」
「メタルクロー!!」
「あぐっ!!」
走っていたミレイナは、後ろから接近していたドリュウズに気付かずに硬化した爪を食らって飛ばされた。
「ミレイナ!!」
「このっ!マグニチュード4!!」
「ウィップカッター!!」
シリアとコルムはドリュウズの気を引く為に攻撃を仕掛けるが、ドリュウズにはまったく効いていなさそうだった。
「無駄だ。サンドウェーブ!!」
ドリュウズは地を鳴らすと彼の前方から砂の波が出てきて段々と大きくなり、二人を飲み込んだ。
「うわあぁっ!!」
「きゃあぁっ!!」
二人は悲痛な叫びを上げた。
波が消えた頃には、二人は倒れていた。
「(さっきの突風のダメージも蓄積している事もある。そう簡単には起きないだろう………)」
ドリュウズは四人を見ながら、そんな事を心の中で思っていると背後から気配を感じて振り返ると、そこには仲間の姿があった。
「………終わったようだな。ドテッコツ」