第十一話 大蓮池の鉄骨とモグラ(中編 その1)
睡蓮峠の奥地へやって来たシラヌイ達は突然現れたドリュウズとドテッコツに始末される事になり応戦するが―――?
〜『ディザスター』地下三階 親方部屋〜
「あと少し……!」
『ディザスター』の親方、ラミナス=フランは自分の部屋で気合いを入れ直すようにテーブルに乗っている約五十枚程の書類を見ながら言った。
シラヌイ達が睡蓮峠に向かった後、彼女は貯まっていた書類の処分に励んでいた。調査報告書、食糧物品交換書、ライトタウンの建造物設計書、ライトタウン新開拓地設計書などとにかく処分しなければならない書類が沢山あるので疲れる事この上なかった。
処分作業を続けていると部屋のドアからノック音がした後から「親方様、入りますよ」と声が聞こえてきてドアが開いた。
「今度は何かしら、ティラ……」
ラミナスは目の前にいる親方代理のムクホーク、ティラを若干呆れた目で見ながら言った。
何が原因かというと、ラミナスが書類の処分があと少しで終わる所で追加の書類を持ってくるので流石に若干ながら嫌味を覚えていた。
「親方様、そんな目で私を見ないでください……」
「はいはい悪かったわ。それで、用件は何かしら?」
「はい。実は先程入った情報なんですが、『エクストリーム』と『ブレイヴ』、そして『サハラ』の3チームが向かった睡蓮峠には最近ギャラドスを中心とした凶暴な群れが居座っているとの情報なんです」
ティラは懐から一枚の紙を取り出しながら用件を彼女に話した。
「群れ、ね。そのギャラドスと一緒にいるポケモンは?」
「情報が確かなら、恐らくサメハダかと……」
ラミナスはそれを聞いて一通り考えた後、判断を下した。
「ティラ、『ティタルニア』の二人はいる?」
――睡蓮峠 奥地――
ラミナスがティラとのやり取りをしている一方、同時に始まった戦闘にてドテッコツと対峙しているクルス、アビス、メイル、フィスナの四人は応戦していた。
「メイル!いつものやるからバックアップ頼むぜ!」
「分かったよ!手助け!!」
アビスが構えに入ると同時に、メイルは三人の後ろに下がって手助けを使い三人を少し強化する。
「いくぜクルス!火炎放射!!」
「分かったよ!波動弾!!」
アビスとクルスが中距離から技を同時に放つ。
「こんなもの………ふんっ!」
ドテッコツはその場に留まり持っている鉄骨を振り回すと風圧で火炎放射が掻き消され、そちら側の方に避けたが
「甘いわよ、アイアンヘッド!!」
「ぐっ………!」
掻き消した火炎放射の後方からフィスナが現れて硬化した頭を思いっきりぶつけた。
ドテッコツが態勢を整える前にフィスナはすぐ距離を取って三人のいる位置へ戻った。
「やってくれるな、岩落とし!!」
態勢を整えたドテッコツは四人目掛けて岩落としを使った。
「フィスナ!!」
「分かっているわ!鉄壁!!」
アビスの掛け声と共にフィスナが鉄壁を使い岩を弾き
「クルス!!頼んだぜ!!」
「任せて!波動連弾!!」
弾いた岩をクルスが波動弾を連続発射して砕いた。
「すかさず終わったら火炎放射!!」
岩がすべて落ちたらアビスはフィスナより一歩前に出てドテッコツに向けて同じ技を放った。
「同じ手は食わん!」
ドテッコツはさっきと同じように鉄骨を振り回し炎は風圧により消えた。
「っ!!これは……!」
しかしそこにはよ中から多数の小型波動弾が出てきてドテッコツを襲った。
威力はそこまで無かったので爆煙が舞ったもののすぐに鉄骨で払った。
しかし、そこに四人の姿は無く周りに岩落としで砕いた石ころが転がっていただけだった。
「ちっ、出てきやがれ!姿隠して意味あんのかよ!所詮はただのガキだったって事なのかよ、臆病風に吹かれて逃げたかぁ!?」
ドテッコツは挑発してみたが周りは何一つ変化がなかった。
が――
ピシッ!!
ひび割れる音がして、地面から一つの影が出てきた。
影の正体――フィスナは着地するとドテッコツ目掛けて走り出して技を繰り出した。
「アイアンヘッド!!」
「フン、効かんわ!!」
繰り出した技を見てドテッコツは鼻で笑い鉄骨を前に出して盾代わりにした。
フィスナは硬い頭を勢いよく鉄骨にぶつけるとドテッコツは思いっきり仰け反った。
「何っ!?」
ドテッコツは自分が思ったよりも威力があったので対応が出来なかった。
「挟む!!」
「うぐっ!?」
ドテッコツの後ろに回り込んだフィスナは後頭部にある大きなアゴを開いて、ドテッコツを挟んだ。
「くっ、こんなもの………!」
「無駄よ」
「がっ……!」
ドテッコツは自力で拘束を解こうとしたが、フィスナは挟む力を強くした。
アゴにある牙がドテッコツの体に食い込み、軋んだ。
「二人共今よ!」
フィスナの掛け声を合図に地面に二つのヒビが入り二つの影が出てきた。
二つの影の正体であるアビスとクルスはフィスナのアゴに挟まっているドテッコツ目掛けて技を放った。
「終わりだぜ!火炎放射!!」
「僕達の勝ちだ!波動弾!!」
先程放ったものとは比べ物にならない火炎放射と波動弾がドテッコツを襲う。
「くっ……クソッタレえええぇぇぇぇぇぇぇーーーーー!!
―――何て思ったか?」
「「「!?」」」
「ビルドアップ!!」
ドテッコツは自分を能力上げする技を使った。
「ふん!!」
「うそおっ!?」
「なっ!?」
そしてドテッコツは自らを拘束しているフィスナの大きなアゴを無理やり解いてすぐその場から離れた。
「フィスナ!」
「くっ!」
フィスナは急いでその場から離れて波動弾と火炎放射の脅威から免れた。
「だぁ〜!くっそ〜!」
「フィスナ、大丈夫?」
「大丈夫だけど……そこ、悔しがる暇何かないでしょ」
クルスが心配するのに対して、アビスは悔しがって地団駄を踏んでいた所をフィスナに軽く突っ込まれたがやめそうに無かった。
「(それより、さっきのは何なの………)」
フィスナはアビスを放っておいてさっきの事を考えた。
「(あの時、ドテッコツはビルドアップで能力を上げた。そして自分を挟んでいるアゴを無理やり解いた………)」
フィスナはあの時感じた馬鹿力の事を思った。
フィスナ達クチートという種族は、身体自体に力は無いが後頭部に付いているアゴに総統の力を加えれば大抵の物以前に鉄ですら噛み砕く事が出来る。
「(でも、ビルドアップは能力アップの技のはず………なのに身体に影響する力なんて持っていたかしら………?)」
フィスナは明らかに何かがおかしく思い考えるが
「フィスナ、何ボーッとしてんだよ余裕なのか?」
「!余裕な訳無いでしょ………」
アビスに声を掛けられて我に返ったフィスナは考えを振り払って目の前の敵に集中した。
すると、ドテッコツが三人に何か喋り始めた。
「考えている暇があるとは、随分と余裕なんだな。そこのクチートは」
フィスナはアビスと同じ事を敵に言われて若干不快に思い「何で二度も言われなきゃいけないのよ」と心の中で少々愚痴っていた。
「まぁ、そんな事はどうでもいい。俺は今お前達と戦って判断した」
「判断だとぉ?」
「ああ、ちょっと手抜きを無しにするか、という判断さ」
思わぬ答え方にアビスは「意味不明」というような惚けた顔をした。
ドテッコツは構えを直すと技を使った。
「ビルドアップ・セカンド!!」
ドテッコツの言葉と同時に彼の周りに渦が出来ていった。
「い、いったい何が起きてるの!?」
「お、おい!あいつ様子がおかしいぞ!?」
動揺するクルスにアビスはドテッコツを指差した。
ほんの十数秒ほどではあったがドテッコツの体の一部分に青筋が浮かび上がっては消えていきと繰り返された。
三人はいきなりドテッコツに睨み付けられて慌てて構えに入った。
「さぁ、ここからがお楽しみの始まりだ。」
ドテッコツは不気味な笑みを浮かべると三人に向かって走り出した。
「な、何が起きたの?」
クルスは向かってくるドテッコツを見て呟いた。特に姿や形が変わった様子も無いので何処と無くおかしいとは思っていたが見た目の変化はない。
「へっ、ただの見せかけなら別に怖くはないぜ。火炎放射!!」
アビスは特に恐れる事も無くドテッコツに向けて火炎放射を放った。
一瞬にしてドテッコツは炎に包まれてしまい、炎が消えた頃には跡形も残っていなかった。
「やったぜ!」
アビスがガッツポーズを仕掛けた瞬間、
「と思っていたのか?」
いきなりアビスの目の前に彼の火炎放射で火炙りされたはずのドテッコツが現れた。
「なっ!?」
「アビス避けて!!」
「爆裂パンチ!!」
ドテッコツの繰り出した渾身のパンチがアビスの腹に直撃した。
「がはっ!!」
もろに食らったアビスの口からは多量の血が吐き出された。そのまま殴り付けた勢いでアビスはふっ飛び地面に転がった。
「アビス!!」
「余所見してんじゃねぇ!アームハンマー!!」
「ぐふっ!!」
ドテッコツの振るった拳がクルスの脇腹に直撃しアビス同様ふっ飛んだ。
「クルス!この、アイアンヘッド!!」
ふっ飛んだクルスに気をとられている隙にフィスナは背後からアイアンヘッドを決めようとしたが
「気付かないとでも思ったか?」
背後を取っていたと思っていたフィスナの後ろにいつの間にか目の前にいたドテッコツがいた。
「!!しまった!!」
「遅いわ!アームハンマー!!」
「がっ!!」
完全に不意を突かれたフィスナはアームハンマーをまともに食らってしまい、二人と同じようにふっ飛んだ。
「フン、つまらん奴らだ」
ドテッコツは言葉を吐き捨てるように言って、この後どうするかを考えた。
「(さぁてどうするか。ここであいつの戦いが終わるのを待つか、それともあいつの所に行って加勢するか、でもそうなると戦いがすぐ終わっちまうからつまんねぇしな………)」
ドテッコツはこの後どうすべきかと深く考えている頃―――
近くの茂みでトレジャーバッグの中身を漁って、切羽詰まった勢いで作業している者がいた。
「(速く終わらせないと!アビスお兄ちゃん達が………!)」
とにかくあれやこれやとやっている中で仲間の事を思いながら自分に言い聞かせていた。