第四話 任務前の準備
シラヌイは三匹の勧誘でギルドを案内され、チーム『エクストリーム』を結成した。そして―――?
〜『ディザスター』地下三階 親方部屋〜
「で、俺達どうすれば良いんだ?」
シラヌイが三匹のチームに入った日の翌日、彼は目の前にいるラミナスに質問をした。
シラヌイは粗方三匹からこの世界について色々聞いていた。
特に注目された部分が『不思議のダンジョン』であり、これの場所は入る度に地形が変わってしまい、そこでポケモンの攻撃や飢えで倒れてしまうと持っていたお金(ポケ)や道具がなくなってしまうという不思議な所である(ギルドの探検隊が受ける依頼の場所は全て不思議のダンジョンとなっている)。
「そうね………まずはあなたの力量を試させてもらおうかしら」
「力量?」
「ええ、これから四匹には『ツノ山』の頂上まで行ってもらうわ。そこの頂上に着いたら、この信号弾を上空に打ち上げてほしいの」
ラミナスはそう言いながら、小型の打ち上げ台と青い玉をシラヌイに渡した。
「この青い玉って、何だ?」
「それは光り玉って言って、不思議玉の一種で使うと光りを放つ玉よ」
シラヌイは物珍しそうに、ほ〜と光り玉を見て言った。
「じゃあ三匹共、がんばってね〜」
ラミナスは笑顔で手を振りながら四匹を見送った。
〜ライトタウン〜
四匹は『ディザスター』の近くにあるライトタウンにいた。
このライトタウンには銀行や商店、倉庫に食堂等々沢山の施設が建ち並んでおり、他にもポケモン達が住んでいる住居が多数あった。
「初陣が山登りとは、全くもってキツいな……」
「まあまあ、ラミナスはシラヌイの力量を試したいって言ってたから仕方ないよ」
小さい愚痴をこぼすシラヌイをミレイナが宥める。
「そういえば、探検隊って言うもんだから何か道具の準備とかするのか?」
シラヌイは自分の中で一番気になった部分をクルスに訊ねた。
「うん。不思議のダンジョンって色々な危険が待っていたりするから、それなりに道具を揃えておかないと後から苦労するからね」
「説明を聞いて理解するのは良いけど、そろそろ道具の準備をしないといけないからよそ見しないでよ」
シラヌイはクルスから説明を受けていると、シリアに軽く注意されて前を向いた。
目の前にはガルーラというポケモンの形を模した建物があり、大きなカウンターのそばに建物のモデルとなった一匹のガルーラがいた。
「あら〜ミレイナちゃんにクルス君それにシリアちゃんまで。どうしたの、そのかっこよそうな白い服を着たピカチュウ君は」
カウンターのガルーラはとても噂好きのおばちゃんといった喋り方でミレイナに聞いた。
「ああガルーラおばちゃん、このピカチュウはシラヌイって名前なんだけど、昨日ギルドに勧誘したらわたし達の探検隊のリーダーになってくれたの」
ミレイナがシラヌイを紹介するとガルーラは彼の方を向いたので、シラヌイは礼儀正しく会釈した。
「まあリーダーに?それは大変ね〜」
「大丈夫ですよ、俺よりおばちゃんの方が大変そうじゃないですか」
シラヌイは自分の事を心配してくれたガルーラの方が大変だと思った。
ここに来る途中、シラヌイはこの倉庫について聞いていた。ガルーラ倉庫のおばちゃんは二十四時間、ポケモン達の私物を誰にも盗まれないようにしていると聞いたので体力的にも精神的にも随分と参るのではないかと思われる。
「あらあら、おばちゃんの心配をしてくれるの?大丈夫よ。こう見えておばちゃん、体力は結構ある方だから」
ガルーラはシラヌイの考えを察したのか、笑顔で答える。
それを聞いたシラヌイはよくよく考えてみると確かにそうだと思った。何せお腹の袋に子どもが入っているので、様子を見ながら倉庫の管理をしないといけないので、体力的には大丈夫か
と思った。
「そういえば、今日は何か御用?」
シラヌイが話を別の方向に進めていたので、三匹はすっかりここに来た目的を忘れていた。
「あ、そうだった。今日は倉庫から―――」
三匹が用事を済ませようとしていると、真後ろから声が聞こえてきた。
「なあ、お前」
「ん?」
シラヌイが振り向くとそこには一匹のヒトカゲと、そのヒトカゲの頭の上に一匹のチルットいた。
ただチルットだけは、シラヌイでも分かる程子供であった。
「(子連れ……?いや違うな……)君らは?もしかして『ディザスター』の探検隊か?」
「ああ、そうだ!俺はヒトカゲのアビス=グランド、チーム『ブレイヴ』のリーダーだ!そんでもって俺の隣にいるのが……」
「アチャモのメイル=ソルテで〜す♪よろしくね♪」
ヒトカゲもとい、アビスは手短に自分とその仲間のアチャモ――メイルを紹介した。
「それで、お前は誰なんだ?ミレイナ達と一緒にいるって事は………もしかしてラミナスが言っていた新入りか!?」
アビスは少し考え込んだ後、閃いたようにシラヌイを指した。
「ああ。チーム『エクストリーム』のリーダー、シラヌイだ。種族はピカチュウ」
「あれ『ブレイヴ』の二匹じゃん、どうしたの?」
ミレイナ達はガルーラの方で用が済んだのか、三匹はシラヌイ達の会話に気付いてクルスだけが入ってきた。
「お、クルスじゃねぇか。いやぁ『サハラ』のコルムがまた依頼を手伝ってほしいって事で倉庫に立ち寄ったら、お前達がいたんだよ」
シラヌイはまた聞き慣れないチームの名前を聞いたので隣のシリアに、『ディザスター』の探検隊か?と聞いたらシリアは首を縦に振った。
「忙しいんだね」
「まあ逆から考えれば人気者は辛いってことさ、じゃあな!」
アビスは話ながらガルーラから道具をもらっていくと、足早に去っていった。
「じゃあ、俺達も『ツノ山』に行きますか」
「うん」
「そうね」
「行こー!」
四匹は『ブレイヴ』の二匹を見送るとシラヌイが三匹に訊ねると、三匹は返事を出した。
〜『ディザスター』地下二階 掲示板前〜
「悪ぃ〜、遅れちまった〜!」
『ディザスター』の地下二階にある掲示板前の一角で、アビスは息を荒くしながら目の前にいる二匹のポケモン、サンドとクチートに謝った。
「別にそれほど待っていないけど、どうかしたの?」
サンドは息を整えるアビスに訊ねた。
「いやぁ倉庫の方でミレイナ達のチームに入った新入りに出会ったんでな、少し会話をしていて遅れちまったんだ」
「新入り……?もしかしてラミナスの言っていたポケモンの事!?どんなポケモンだったの!?」
サンドが目を輝かせてアビスに訊ねると、隣のクチートは溜め息をはいた。
「ピカチュウだったぜ、それに白かったな」
「白かった!?もしかして色違い!?」
コルムは先程よりさらに興奮して、訊ねた。
「いや、白い服みたいなやつを着てただけで色違いじゃあなかったぜ」
「な〜んだ。色違いじゃなかったんだ……」
コルムはそれを聞くと輝いていた目を元に戻って肩を落とした。
「やれやれ、十三歳だっていうのにこんな事で妙な期待を抱くなんて子供っぽいよねぇコルム」
「それ言い過ぎてない!?フィスナ!」
サンドもとい、コルムの仕草にクチート――フィスナは呆れたように毒舌を吐くと、コルムは涙目で反論してきた。
アビスは二匹の様子を見ながら、シラヌイの姿を思い出していた。
「(真っ白、か………)」
アビスは大分前の記憶を探って思い出し、そっと呟いた。
「似てるな、あの時と……」
「アビスお兄ちゃん……?」
「え、ああいや。何でもないぜ」
アビスは昔の記憶をそっと思い出してすぐに、頭の奥底に仕舞い込んだ。