第八話 探検報告と最近の噂
シラヌイはプテラに苦戦を強いられたが、謎の力を使い圧倒的な勝利を納めたが―――?
シラヌイはプテラを倒すと振り返り、三匹の下へ歩き出した。
「(すごい……何て力なの)」
「(考えられないや……シラヌイが波動弾を使えるなんて……)」
「(圧倒的な力で、プテラを倒しちゃった……)」
ミレイナ、クルス、シリアの順に心の中で呟くと同時に唖然としていた。
『へっ、やったじゃねぇか』
そんな事を余所にシラヌイは自分の中に響く声を聞いていた。
「なぁ、お前――」
『こんな雑魚相手に手間取るとはざまぁねぇけど、よくやった方だな』
「おい、お前――」
『いや、そんなに手こずる程の奴でもねぇから実質これぐらいの力を――』
「話聞けよ………」
シラヌイはさっきから誉めているのか貶しているのか分からない者に愚痴をこぼした。
『あ?なんだよお前』
「こっちの台詞だ。お前こそ何者なんだよ」
『何者?そうだな………簡単に言ってみれば、
―――お前の存在を知って………いや、やめておこう」
「は………おい、今何て?」
『何も言ってねぇよ、何反応してんだ』
シラヌイは明らかに聞き違いではないと思いその者に訊ねる。
「ちょっと待て、確かに今「お前の存在を」とか言ったじゃねぇか!俺の事を何か知っているんじゃ………!」
『言った覚えはねぇよ!悪いがこれで終わりにさせてもらうからよ。じゃあな』
シラヌイは暫く耳を澄ましたが自分の中に響いた声はそれ以降聞こえなくなった。
「(何だったんだ。今のは………急に力が溢れて体の痛みも消えていって、それで」
シラヌイは自分の右手を見て思った。
「何より、懐かしい感じで………」
そんな事を思い更けていると後ろから仲間の声が聞こえてきた。
「シラヌイ〜!」
「三匹共、ケガはないか?」
「え……?あ、うん。わたし達はなんとも……」
シラヌイはミレイナから返答を聞くと安心した。
実際は三匹共大ダメージを食らってそこまで大丈夫ではないが、歩けるぐらいまで回復した。
「ミレイナ、まだ回復していないのか?」
シラヌイはミレイナの傷を見てそう言った。他の二匹と違ってミレイナだけ目立った傷が多数見受けられた。
「う、うん大丈夫。わたしはいいからシラヌイの手当てをするね」
最後まで言葉を言いながら持っている小型トレジャーバッグに手を伸ばしてオレンの実などを取り出そうしていた。
シラヌイは彼女の行動を見ていると―――
―――追加だ。ありがたく受け取れよ。―――
先程の声が聞こえてきた瞬間、一つのイメージが浮かんだ。
「(これは………そうか)」
シラヌイはイメージの内容を理解すると道具を取り出しているミレイナに声を掛けた。
「ミレイナ」
「?」
彼女はシラヌイに呼び止められて彼の方を向くと、いきなり右前足を握った。
「!?シ、シラヌイ!い、いきなり何を!?」
「静かに、目を閉じて、体の力を抜いて」
突然の行動にミレイナは慌てるがシラヌイの言われた通りに目を閉じた。
シラヌイはイメージ通りに技を発動した。
「癒しの波動!!」
シラヌイから発せられた波動が彼女の体に触れると目に見えていた傷が段々と塞がっていった。
「もう、痛くない……」
ミレイナは体のあちこちを見るが、一つの傷も見当たらない。
「あまり我慢することないぞ、相手を思う気持ちは分かるけど自分が動ける状態でいないとな」
「あ……ありがとう////」
シラヌイには見えていないが、ミレイナは顔を赤らめてお礼を言った。
「さて、問題が一つある
――――どうやって打ち上げる?」
「「「あ」」」
三匹の声が重なった。
今回の目的はツノ山の頂上に着いたら貰った打ち上げ台から光り玉を射出して合図を送る事が目的だった。
しかし、肝心の打ち上げ台がウソッキーの岩雪崩の下敷きになってしまい残り物の光り玉しか残っていなかった。
「まあ、誰だって諦めて帰るんだろうけど……俺には策がある」
「「「え?」」」
再び三匹の声が重なると、クルスがシラヌイに食い付いてきた。
「それ本当なの!?なに!?どんな策!?」
「フッ、簡単な事だ」
シラヌイは軽く笑うとシリアに向き合う
「少し頼みがあるんだが、いいか?」
「どんな?」
この後の彼の発言に、三匹は驚く事になる
「俺を打ち上げてくれ」
〜『ディザスター』入口〜
「遅いですねぇ……」
ライトタウンの一角にある『ディザスター』の入口で二匹のポケモンが双眼鏡を使いツノ山の頂上を見ていた。
先程声を発したのは『ディザスター』の親方代理、ムクホークのティラ=ヴルツェルだ。その隣には『ディザスター』の親方のフローゼル、ラミナス=フランがいた。
二匹はツノ山に向かった『エクストリーム』からの合図を待っていたが、中々頂上から上がって来ないのだ。とっくに空はオレンジ色に染まり夕日が沈みかけていた。
「もしかして、何かあったのでは……」
「大丈夫よティラ。彼らを信じて待ちましょう」
ティラは四匹を心配そうに思って呟くが、ラミナスは笑顔でそう言った数秒間暫く頂上を観察していると
「!親方様……!」
ティラが双眼鏡を片手で持ち、ツノ山の頂上を翼で指すとラミナスは笑って
「フフッ、成功したようね」
双眼鏡を下ろしながらツノ山の上空で光る物を見ながら言った。
――ツノ山 頂上――
ラミナス達が頂上の光りを確認した一方、シラヌイは空から真っ逆さまに落ちていた。
「シリア!頼む!」
シラヌイが真下にいるシリアに掛け声を上げると彼女はそれに合わせて技を使った。
「まかせて!グラスミキサー!!」
シリアがグラスミキサーを放つとシラヌイはそれに対して
「守る!!」
緑色のシールドを360度全面に張って技を防ぐと同時に落下速度が落ちていき見事に着地した。
「サンキューな、シリア」
「お礼はいいよ。さっきの発想力には驚かされたし、こういう使い方もあることを知れたから」
シリアは手で彼からの礼を制すると微笑んだ。
「それにしてもすごいよシラヌイは!技を使い方を少し変えただけで、こんなにも奇想天外な事を思い付くなんて!」
クルスはシラヌイを見ながら目を輝かせていた。
今から数十分程前、シリアは頂上の中心にいて彼女から少し離れた場所にシラヌイがスタートダッシュの構えをしていた。
「シリア!準備はいいか!?」
「いつでもいけるわ!」
シリアは彼に手を振って合図を送った。その直ぐ近くにはクルスとミレイナが座ってその様子を見ていた。
「3……2……1!」
シラヌイは三つ数を数えるとその場から猛ダッシュすると、シリアとの距離が五メートル程になるとシリアの真上に向かって飛んだ。
「今だシリア!」
「ええ!グラスミキサー!!」
シリアは緑の竜巻を発生させて自分の真上にいるシラヌイに向けて放つと
「守る!!」
彼は緑色のシールドを展開させて上空に飛んで行く。
グラスミキサーの効力が縮まって消えるとシラヌイはシールドを解除して手に持っている光り玉を思いっきり投げた。
「いっけええええぇぇぇぇぇーーーーーーー!!」
すると光り玉は遥か空まで飛んで行き、光りを放った。
「まああれだ。シリアのグラスミキサーって、要は竜巻だからその風圧を利用して空高く舞い上がれば光り玉を打ち上げみたいな感じにできるからよ」
シラヌイの提案は最初、成功できるか三匹は半信半疑でやってみたがこんなにも簡単にうまくいくとは誰もが予想打にしていなかった。
しかも技を戦闘だけで使える訳ではなく、ちょっと頭を捻ればおもしろい案が浮かぶことを三匹は知ることが出来たため、別の意味では嬉しい限りだった。
「さて、合図は送った事だし帰るか!」
「そうね」
「うん!」
「おー!」
シラヌイは探検隊バッジを天にかざすと四匹は光りに包まれてライトタウンへと向かった。
〜『ディザスター』地下三階 親方部屋〜
「四匹共お疲れさま、ちゃんとこの目で確認したわ」
ラミナスは目の前の四匹を笑顔で出迎えてくれたが、シラヌイは彼女に用件があった。
「ラミナス、実は少し耳にしてほしい事があるんだ」
「何?それって」
「ツノ山の頂上の奴らから聞いたんだけど、なんか――」
シラヌイはツノ山で起こった出来事をはっきり伝えた。
頂上で襲撃された事、山の主に出会って自分達が仲間を拐った輩と勘違いされた事、そして全てを伝えるとラミナスは急に溜め息をはいた。
「はぁ、またその件なの……」
「また?」
シラヌイは呆れているラミナスに首を傾げた。後ろの三匹も顔を見合わせて首を傾げている。
「ここ最近なって起こり始めたんだけど、実は半年前からポケモン達が行方不明になる事件が多発しているのよ」
「「「「行方不明?」」」」
四匹が揃って首を傾げながらその言葉を復唱した。
「ええ、保安官達も全力でポケモン達の調査に当たっているけど犯人の行方は一つも掴めていないらしいの。あなた達の事も合わせるとこれで十件目かしらね……」
「じゅっ、十件目!?」
クルスはラミナスが出された以外な数字に目を見張る。他の二匹も驚いているが、シラヌイは詳しく聞いてみた。
「証拠とかは残っていないのか?」
「それが犯人は巧妙な手口で隠滅してるから、とてもじゃないけど調査は難しいんですって」
「(隠滅ねぇ……)」
「まあ世間話は良しとして、食堂で晩ご飯を終えたら今夜は明日に備えてゆっくり休んでいってね」
ラミナスは部屋を出ていく四匹に笑顔で手を振って見送った。
食堂に向かった後、クルスは好物の『ナナシのくし形炒めにモモンソース和え』を三つ程頼んだ後、シラヌイに進めて食べさせたら外れを引いて食堂を真っ先に出ていったらしい。
――???――
所変わって、ここはとある場所。
正確には場所というより空間と言った方が正しいだろう、360度全てが灰色の空間で何もなかった。
「ったくだらしねぇ野郎だな、あんな雑魚に苦戦するとはよぉ」
その灰色の空間に一匹のピカチュウがその場に座り込んでいた。
しかもそのピカチュウはシラヌイとは正反対の色合いをした同じコートを着ていた。
「まあいい、今は俺の存在を思い出してくれやぁ構わねぇからな」
黒いコートを着たピカチュウは真後ろを見て
「お前の存在も、な」
そのピカチュウはフッ、と軽く笑うと立ち上がり奥の方へと歩き出した。
「さて、お前はいつ俺を思い出してくれるんだ
―――シラヌイ」
彼はその名を告げると光の渦の中に消えていった。