第七話 頂上で待つのは山の主達(後編)
頂上に着いた『エクストリーム』を待っていたのは山の主であるプテラ達だった。シリア、そしてクルスとミレイナが死闘を繰り広げる中でシラヌイは―――?
「十万ボルト!!」
岩に乗っているシラヌイは飛び回るプテラに対して十万ボルトを放つ。
「フン、そんなもの!」
プテラは技を避けるとシラヌイに頭を前につき出して飛んできた。
「アイアンヘッド!!」
「おっと!」
シラヌイはその場から飛び退くと、さっきまで自分がいた岩がプテラの強固な頭で粉々に砕け散った。
「(恐ろしい威力だな………)」
シラヌイは岩の破片を見ながら技の威力を痛感した。
あんなものに当たってしまったら人溜まり(ポケ溜まり)もないと思えた。
「(だが、それは原始の力のお陰でもあるか………)」
シラヌイはここまでプテラが使ってきた技を色々見てきた。
炎の牙、氷の牙、突進、噛み付く、アイアンヘッド、翼で打つ、原始の力など様々なタイプの技を使ってきた。
しかも原始の力という技は自分の全ての能力を十分の一の確立で上げる事ができる追加効果を持っていた。
そうこう考えている内に、プテラが牙に炎を纏わせて接近してきた。
「(持っている特殊技は原始の力だけ、か………よし!試してみるか)」
シラヌイはプテラの繰り出した炎の牙を避けると、急いである程度の距離を離した。
「逃げても無駄だ!原始の力!!」
プテラは逃げたシラヌイに向けて無数の岩を浮かせると彼に放った。
「待ってたぜこの時を!」
シラヌイは今がチャンスだと言わんばかりに今まで溜めていた電気を解放した。
「放電!!」
広範囲に渡る電気がシラヌイを中心に放たれると、彼を襲う無数の岩は粉々に砕け散ると同時に
「神速!!」
一瞬にしてその場から消えた。
「な……!ど、どこにいきやがった!?」
プテラは消えたシラヌイを探そうと左右前後を見ようとした途端
「どこを見ている、ここだ!」
「!!」
自分の同時に頭の上から声がして視線をそこに向けるとシラヌイが自分の角らしき部分に掴まっていた。
「い、いつの間に!この野郎!」
プテラは高速で辺りを飛び回りシラヌイを振り落とそうとしたが、シラヌイは腕の力を抜くことなく掴まっていた。
「これで終わりにする!」
シラヌイは片方の手を角から離すと掌に雷球を形成した。
「さあ、食らいな!雷塊<らいこん>!!」
シラヌイは形成した雷球を思いっきりプテラの頭に叩き付けた。
「ぐおっ!!」
プテラは体が痺れてくるのを感じながら地面に落ちていくが、シラヌイは角を掴んでいた方の手を離した。
「よっと!」
「ぐほっ!!」
シラヌイは見事に着地したが、プテラは地面に落ちた衝撃に叩き付けられた。
「さあたっぷり食らいな!十万ボルト!!」
シラヌイは振り返ってプテラの頭に向けて技を放つ、彼の狙いはプテラの頭に残っている雷球だった。
雷球に十万ボルトが当たった瞬間
「ぎぃやああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!」
雷塊が弾けて電撃がプテラの身体中に広がり悲痛な叫び声を上げた。
シラヌイの作り出した雷塊は相手にぶつける攻撃にもなるが、一定時間相手の体に付着し残り続ける。そして電撃を加えると雷塊は中に溜まっている電気を一気に解放して大ダメージを与える。
ただ雷球が形成されている時間は二十秒と短く、直ぐに衝撃を与えなければ消えてしまうのが難点だった。
「終わったか……」
シラヌイはプテラの様子を数秒間じっと見ていたが、動きそうにないので放っておいた。
三匹の手助けに行こうかな、と思った時だった
ドォオオオオオン!!
大きい爆発音が響いた。
シラヌイは爆発した方向を見て誰がいたか思い当たった。
「確かあっちは……ミレイナとクルスか!」
まさか、と最悪の状況を思い浮かべた次の瞬間
「噛み砕く!!」
「ぐはあっ!?」
後ろから完全な不意打ちを食らったシラヌイは何の抵抗もなく攻撃された。
痛みを堪えながら振り返ると、視線の先には倒したはずのプテラが平然と翼を羽ばたいていた。
「ば、馬鹿な……!!」
「へっへっへっ、残念だったな。奥の手は最後まで取って置くべきだぜ」
シラヌイがプテラの真下に視線を移すとそこには食べ終わった後のオボンの実が転がっていた。
悔しがるシラヌイは横目に映ったものが気になり視線を移すとミレイナとクルスはボロボロの状態で、シリアは苦しそうに立ち上がろうとしていた。
「ミレイナ!クルス!シリア!」
「よそ見していると、足元掬われるぜぇ」
「!!」
仲間の名前を呼び掛けるシラヌイの背後に近付いたプテラは技を出した。
「突進!!」
「がっ……!」
吹っ飛ばされたシラヌイは岩に叩き付けられて止まった。
「まずはそこのイーブイからだ!!」
プテラは鋭い牙をミレイナに向けると噛み砕くを繰り出そうとしていた。
「っ……!くっ……!ミレイナ……!」
シラヌイは立ち上がろうとするも体が軋んで言うことを聞こうとしなかったが、叱咤をかけて動かそうとした。
「(くそ!動け!動けよ!俺の体!)」
そうこう葛藤している間にプテラとミレイナとの距離は段々縮まっていく。
「(頼む動いてくれ!仲間が、大切な仲間が目の前でやられそうになっているんだ!)」
強く、強く念じるがそれでもピクリともしない。
「(俺にとっても、あの二匹にとっても、あの町に暮らすポケモン達にとっても、大切な仲間なんだ!だから、動いてくれよ!!)」
再び強く念じた時だ。
―――――お前は―――――
「(えっ……?)」
自分の耳に響いた声に反応したシラヌイは周りを見るが、自分達とプテラ以外いなかった。が
「!!これは!」
周りにいるポケモン達の動きがとてもゆっくりに見えた。
いったい何なんだ、と思った時にまた声が聞こえてきた。
―――――お前は力が欲しいか?―――――
「(なんだと……?)」
―――――力が欲しいかって聞いてんだよ―――――
「(………ああ、俺は仲間を、みんなを守る力が欲しい)」
シラヌイは声の主に対して言うと、軽く笑って
――――フッ、いいぜ。枷を一つ外してやる―――――
声の主がそう言った瞬間、体の軋みが消えていきとても懐かしい感覚に覆われると同時に頭の中に技のイメージが沢山浮かんできた。
「ミレイナーーーッ!!!!」
クルスの叫び声を聞いて前を向くと、プテラとミレイナの距離は眼前に迫っていた。
「やらせはしない!!」
シラヌイは姿勢を低くすると地面を思いっきり蹴ってミレイナ目掛けて走った。
「噛み砕く!!」
「っ!」
ミレイナは、もうダメだと思い
目を瞑って顔を伏せた。
ガキンッ!!
歯と歯の噛み合う音がした。
ミレイナは一向に来ない痛みに気付いて目を開けると
「大丈夫か、ミレイナ」
シラヌイが自分の目と鼻の先にいた。数秒間、ボーッとしていて今の状況に気付かなかったが暫くしてから気付いた。
「シ……シラヌイ……あの……その……」
「?」
「お……降ろして////」
「え?……あぁ、悪い」
シラヌイは自分がミレイナをお姫様抱っこしていることに気付いて彼女を地面にそっと降ろした。
「ミレイナ、二匹と安全な場所に移動していてくれ。あいつらは俺が戦う」
「う……うん」
シラヌイはミレイナが二匹の下に向かった事を確認すると、プテラ達に向き直った。
「お前一匹で相手をする気か?フッ、俺達も舐められたものだな」
飛んでいるプテラの両サイドには部下のウソッキー二匹とフォレトス二匹が寄ってきた。
「お前ら、アイツを煮るなり焼くなり好きにしていいぞ。やっちまいな!!」
「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーー!!!!」」」」
リーダーの声と共に部下達が掛け声を上げての周りを囲み、シラヌイに襲い掛かった。
「悪いが……」
シラヌイはゆっくりと右手の拳を上げて
「焼かれるのは
―――――お前らだ」
鮮やかな真紅の瞳と黒曜石のような艶のある瞳で言いながら拳を地面に叩き付けた。
「灼熱烈波<フレイムインパクト>!!」
バゴン、という音と共に地面から熱風が溢れ出すとそれが真っ赤な炎に変わりシラヌイを中心に広がった。
「なにいっ!?」
「だすううう!?」
ウソッキーとフォレトスは思わぬ攻撃技に対処しきれず、炎に飲み込まれてしまい倒れた。
「な、なんだと!?ピカチュウが炎技を使うなど!?」
プテラは自分の目の前で非現実的な事が起こって動揺していた。
「後はお前だけだ!!」
「!!くっ!」
プテラは今、絶望的な状況に陥っていた。部下は全員やられてしまいしかもここは逃げ場がなくそれに加えて穴抜けの玉ですらないので逃げようにも逃げられない。
「(こ……こうなったら!!)」
プテラは強行手段に入った。
隠し持っていた俊足の種を口にしてシラヌイに襲い掛かった。
「血迷ったか……」
彼は技を出そうとせず、掌を前に出して受け止めようとした。が
「おらぁ!!」
「っ!!」
プテラはシラヌイとぶつかるほんの数センチ手前で急ブレーキを掛けて風を起こし砂煙で彼を覆った。
そしてプテラは未だ完全回復していない二匹とミレイナに視線を移す。
「!!」
ミレイナ達は視線に気付いたが、完全回復していない彼女達に俊足の種を食べたプテラの動きを見切る事など不可能だった。
「(アイツを潰す前に、その仲間を人質にすりゃあ!!)」
プテラは猛スピードでミレイナ達にしていった。
二匹はミレイナの肩を借りて逃げようとするが、圧倒的に遅すぎる。
プテラの牙がミレイナの尻尾に噛みつこうとした
ドンッ!!
「かはっ!!」
が、プテラは背中に痛みが走るのを感じて地面に落ちた。
「な……何が」
プテラは顔を上げると視線の先には先程の砂煙で撒いたはずのシラヌイが立っていた。
「くっ!」
プテラは起き上がり噛み砕くを繰り出したが
「無駄だ」
「っ!」
シラヌイの電磁波によって動きを止められてしまった。彼はミレイナ達を横目で見て無事な事を確認すると再びプテラに向き合う。
「終わりにする」
シラヌイは右手に力を真横溜め込むと、青いエネルギー球が形成された。
「お前……!その技……!」
プテラはまたもや、自分の目の前でありえない事を目にした。
シラヌイは形成した青い球体に電撃を纏わせてそれを強く握り潰すと、雷を纏った青いオーラが彼の右手を包み込んだ。
「終わりだプテラ!!」
シラヌイは平手を思いっきりプテラの腹にめり込ませて技を放った。
「波動雷掌!!」
「ぐはっ!!」
プテラに技が当たると思いっきりぶっ飛んでいき、最終的には壁に叩き付けられて止まり、ガクンと首を項垂れた。
彼の戦いっぷりに三匹は唖然としているしかなかった。