第三話 ギルド入隊
シラヌイは三人の導きでギルド『ディザスター』にやって来たのだが―――?
『ディザスター』の出入口前に来たシラヌイと三人。三人は普通にその中へと入ろうとするが、
「どうしたの、入らないの?」
クルスが声を掛けた先には入り口前に呆然と立ち尽くしたシラヌイが顔を若干顰めていた。
「いや、入るけどな………」
何故顔を顰めているのか、答えは彼の視線の先にあった。
目の前にある建物は、フローゼルというポケモンの顔の形をしたものがあり口の部分が建物の出入口の役目を果たしていた。
「(これは、悪趣味というか、なんというか………)」
渋々といった様子で、シラヌイは三人と共に建物の中へ入ろうしたが
「ちょっと君、見かけない顔だけどどこの誰なんだい?」
出入口の左側に突っ立っていたポケモンが、シラヌイに声を掛けた。
そのポケモンは、背部の葉っぱがマントのようなものが付いており、頭頂部には白い大きな花が髪形を連想させる形になっていた。両手には、手の代わりに三つの花が咲き右手は赤色で左手は青い花がなっていた。
ブーケポケモンのロズレイドである。
「(どこの誰って言われてもなぁ………)」
追求された言葉に、シラヌイは口をつぐんだ。無論、記憶喪失の彼に、自分の出身地など聞かれても分かるはずなどない。
「言えないのかい?それだったら、ここを通す訳にはいかないね」
彼(口調からして恐らくオス)は、シラヌイの前に立ちはだかり通路を塞いだがそれはすぐに解除する事になった。
「待ってルーク、彼は私達が勧誘してきたの。通してあげて」
「ん。つまりミレイナ達のお客さんっていうことなのかい?」
ルークと呼ばれたロズレイドは、彼の通行止めを説得してきたシリアにそう聞くと「うん」と答えた。
「わかった。許可するよ」
ルークは、言われた通りシラヌイの前から退いて元の位置に戻った。
「(こういうシステム的なものはいるのか………?)」
明らかに不要じゃないかと思われる作りに対する疑問視をしていると、中に入ったクルスに呼ばれて彼も入っていった。
〜『ディザスター』地下一階 広場〜
「何だあれ………?」
「ピカチュウ………よね?」
「なんか白いな………」
「もしかして新種だったり………?」
「まさか、縁起でもない」
「あの白い何か、着るものっぽいな」
「何かって、何?」
「私に聞かれても知らないわよ」
「けど、カッコよくね………?」
と、地下一階でとても騒いでいた。
「(そりゃそうだよな、白いコートを着ているポケモンなんて普通はいないからな……)」
シラヌイは心の中でそんな事を呟きながら三匹と共に地下一階を後にした。
〜『ディザスター』地下三階 親方部屋〜
そして今、シラヌイは見知らぬ場所で三匹と共にいる。目の前にはオレンジ色をしたイタチのようなポケモンとその隣には茶色をした鷹のような鳥ポケモンがいた。
「あなたがシラヌイね」
「あぁ」
「私はフローゼルのラミナス=フラン、このギルドの親方よ。で、私の隣にいるのが………」
「親方代理のティラ=ヴルツェルだ。種族はムクホーク、よろしく」
シラヌイは心の中で、想像とは程遠いギャップだな……と呟いていた。大抵シラヌイみたいな一般人、いや一般ポケモンならとても悪そうなポケモンを頭の中に思い浮かべるだろう。
「それであなたが………」
「水無月 不知火(ミナヅキシラヌイ)だ。」
彼が自己紹介をすると、二人は物珍しそうな顔をした。
「ミナヅキシラヌイ………。珍しい名前ね、どこの大陸の出身かしら?」
ルークと同じような事を聞かれたシラヌイは、またしても言葉が詰まった。
「ラミナス。実は、彼には訳があるの」
しかし、さっきのようなシチュエーションとまではいかず、シリアが助け船を出してくれた。
「いいわ。事情を聞かせて」
話を要求してきたラミナスに、三人はさっきまでの事を詳しく話した。
海岸の岬で彼が倒れていた事、彼が記憶喪失で元人間である事、行く宛がないからここに勧誘させた事、全てを聞かせた。
それを聞くと、彼女は少し考え始めて隣にいるティラに聞いてみるがティラは首を横に振った。どうやら、二人もまったく知らないらしい。
「………まいったな」
シラヌイはその場で頭を抱え込んだ。こうなってしまうと後がなくなる。
「ねぇ、シラヌイ」
「?」
「行く宛が無いんだったらギルドに弟子入りしてみない?」
「ギルドに………?」
シラヌイは何故?というように首を傾げた。
「元々ギルドっていうのはそこで探検隊を結成して未知なる場所に行ったり、困っているポケモンを助けたりする所なの。それにここで探検隊をやっていたら、そのうち自分の事も分かるんじゃないかなって」
「ミレイナの意見に賛成!」
「同感ね」
ミレイナの後ろにいるリオルは元気よく手を挙げてそう言い、隣のツタージャは笑みを浮かべながらそう言った。
「(そうだな………確かに、行く先宛ては無いし………)」
シラヌイの考えはまとまった。
「わかった、探検隊に入ろう」
「決まりね、じゃあチーム登録はミレイナ達のチームと言うことで」
「え、何で?」
思わぬ答えに声が出てしまったシラヌイ、ラミナスは彼の疑問を分かっているように言った。
「何でってほら、その三匹ならあなたの事情も詳しく知っているからこその配慮なのよ」
ラミナスの理由にシラヌイは納得した。
「ラミナス、チーム名とリーダーの変更をしたいんだけど」
「ちょ!何でさシリア!」
「ネーミングセンスと理由の問題」
クルスはシリアの言った事に対して反論したが、シリアがきっぱりそれだけ言うとクルスは、うっと声を上げてへこんでしまった。
「チーム名の変更ね、どういう名前にする?」
ラミナスが話を進めると(クルスを除いた)三人が考え始めた。
「(チーム名ねぇ………)」
シラヌイも二人と共にそのチーム名を考え込んでいた。
「(………っ………なん、だ………)」
突然の頭痛に襲われて、少しグラついてしまうが何とか足で踏ん張っていると―――
『なあ、この一番上のEX(イーエックス)ってなんだ?』
『一番上の?ああ、そのイーエックスってのはエクストリームの略称であいつらがそこに打ち込んだんだよ』
『エクストリーム、極限か………』
「………『エクストリーム』ってのはどうだ?」
「「「『エクストリーム』?」」」
「ああ、極限って意味でな。どんなに高い壁にぶつかっても、極限の勇気や希望を持って立ち向かおうっていう意味を込めてな」
「………わたしは、賛成かな」
とミレイナ
「私も賛成よ。第一、意味がしっかりしてるからね」
「う、うん。僕も…………」
シリアとクルスも賛成したが、この時クルスが心の中で悔しがっていたのはここだけの話である。
「チーム名は決まりね、リーダーは誰に変更する?」
「シラヌイで」
「は!?」
彼女の即答で言った事にシラヌイは思わず目を見張り声を上げる。シリアはそれを見てシラヌイを手で招く、彼はシリアの近くに寄ると小声で話し掛けてきた。
「(ここまでの現リーダーは私なんだけど、私を合わせた三匹はリーダーシップ制が無いから統率力に欠けているのよ。仲間を率いるっていうのは、重圧って言うか何て言うか………)」
「(だからって、何で俺?)」
シラヌイも小声で話す。
「(女のカンって奴かな?)」
シリアの答えに、シラヌイは呆れて溜め息が出る。
「(まあいいや、俺で良ければリーダーをやるよ)」
「(ありがとう)」
二匹は話を終えてラミナスに向き直る。
「決まった?」
「はい、シラヌイでお願いします」
「じゃあ登録するわね。チーム名は、エクストリームで………リーダーは、よし!チーム『エクストリーム』!改めて頑張りなさい!」
「ああ!」
「うん!」
「ええ!」
「おー!」
ラミナスからの激励に四匹は元気よく返事をした。
こうしてシラヌイはミレイナ、クルス、シリアの三匹に出会いチーム『エクストリーム』を結成した。
そしてこれは、四匹の長く辛く、時にぶつかり合い悲しみ合う物語の幕開け。
しかし、そんなことがこれから起こる事になるなんて今の彼らには思いもしなかった。
―――そう―――
―――彼らはまだ―――
―――何も知らない―――