出張『エクストリーム』 その2
翌日の朝、早目に起きたシラヌイは眠い目を擦りながらトレジャーバッグに必要ものを詰め込んでいた。
普段の朝礼よりも早起きしなければいけなかった所為か、まだうとうと気味だった。それもそのはず、三人はまだ起きていないのである。
「(起こさないとな〜………)」
頭を左右に振って、なんとか眠気を妨げつつシラヌイは作業を終えると三人を起こしに掛かりにいったが―――
「随分と派手な格好ね………」
彼女頬を引きつりながらそう言った。目の前にいる四人のうち、シラヌイ以外の三人は何故か所々焦げていた。
理由に当たると、三人を起こそうとしたシラヌイは半分寝ている状態だったので足取りがおぼつかない中、つまづいてこけてしまいその反動で電気ショック(範囲広目)を放ったらしい。
結果、被害を被った三人は悲鳴を上げて飛び起きたような。
「偶然ってこういう所で起こるから、嫌味よねぇ………」
彼女はその奇跡の元凶をじと目で見ると、シラヌイは苦笑いで後ろ頭を掻きながら「わ、悪い………」と言いながら謝罪を上げるが、被害者三名からのじと目も刺さるのでこれ以上の事は無駄だと判断し言葉を送った。
「それじゃあラミナス、マリルリギルドに行ってくる」
「ええ、気をつけていってらっしゃい」
学校へと向かう我が子の身を案ずるように笑顔でシラヌイ達を見送った。彼らもまた、ラミナスが見えなくなるまで手を振った。
〜☆〜
シラヌイ達が『ディザスター』を出発した頃―――
「………遅いな」
『マリルリギルド』の食堂でトリトンは相棒のアテナが来るのを待っていたが、かれこれ一時間以上待っていた。
「(何かあったのか、あいつ………)」
「トリトンごめ〜ん!」
待つ事にそろそろ飽き飽きしてきたトリトンの下に、アテナが走ってやって来た。
「あのなアテナ、いくら待たせるって言っても―――」
「ねぇねぇトリトン、私、凄い事聞いちゃったよ!」
「(人の話ぐらい最後まで聞いてくれ………)」
流石に文句の一つぐらいでも言ってやろうと思ったトリトンだが、アテナの話でそれはできなくなったため、仕方なく彼は彼女の話を聞いた。
「はぁ。で、何だその凄い事ってのは………」
トリトンはため息混じりに、アテナの話を聞いた。
「実はね、この『マリルリギルド』に探険隊が滞在活動をしに来るんだって!」
「滞在活動………?」
聞き覚えのない単語に、トリトンは首を傾げる。
「うん。アポロから聞いた話なんだけど―――」
〜☆〜
『滞在活動………?』
トリトンと合流する数分前、彼女はアポロから 差し出されたマリルリ直筆の手紙を見ながら話 掛けられていた。
『ああ。マリルリさんの話によると、他のギル ドから一つの探険隊が派遣されて一緒に職務を こなしましょう、って感じなんだ』
『ふ〜ん。でも、何で?』
主な理由の一つも発言されていなかった為、ア テナはそれを聞き出そうと彼に訊ねると「さあ な」と首を傾げた。
『一度しか言わねぇけど、そのギルドから派遣 される探険隊がな―――』
〜☆〜
「『ディザスター』の『エクストリーム』 ………!」
その名前を聞いた時には、トリトンの目は見開 かれていた。その目には、驚きと同時に喜びに 道溢れていた。
「二日後だけど、『マリルリギルド』に来たら 一緒に探検ができるかもしれないって、マリル リさんが言ってたよ!」
「そうなのか………!」
「楽しみだね!」
「………ああ!」
「それじゃあ今日も、依頼をがんばろう!」
アテナはそう声を出すと、鼻唄を歌いながらス キップして依頼が貼られている掲示板に向かっ た。 アテナの嬉しそうな姿を見ながら、トリトンは 『エクストリーム』のピカチュウの事を思い出 していた。
「(『エクストリーム』に会えるって事は、あい つにも会えるのか………)」
トリトンは微笑して、静かに呟いた。
「もしかしたら、あいつの事を聞けるかもな………」
〜☆〜
「へっくしゅんっ!!!!」
ちょうどその頃、シラヌイ達は港町へと続く道をのんびり歩いていた。
「どうしたのシラヌイ、風邪?」
「さぁな、誰かが俺の噂でもしているんだろうな………」
クルスに聞かれたシラヌイは、鼻を手で擦りながら言いつつ「まさかアシドじゃないだろうな………」と心の中で呟いていたら「アホか、俺じゃねえよ」とその本人に突っ込まれた。
「確か港町の船に乗ったら、一日は船の上で過ごす事になるのよね………?」
「?そうらしいけど、何かあるのか………?」
「………いや、なんでもないわ」
珍しく無関係な質問してくるシリアを不思議に思ったシラヌイは、何故か彼女が悩ましい顔でため息をついていた所を見た。まさかと思い、シラヌイはミレイナに耳打ちして訊ねた。
「ミレイナ、シリアってまさかとは思うが乗り物が苦手なのか………?」
シラヌイが訊ねてきた事に気付いたミレイナは、彼の方を向いて言った。
「え………?どうなんだろう、あんまりそういう所は見た事が無いから、そうなんじゃないかな………」
「(なるほど、てことは乗り物酔いしやすいのかもな………)」
以外な弱点を知ったシラヌイは、その欠点を持った彼女をチラッと見て思った。
「(ポケモンも人間らしい部分があるんだよな)」
少しばかり勉強になったシラヌイ。
と―――
「ちょっと待ちな!!」
四人は急に声を掛けられて立ち止まった。すると、草むらから多数のポケモンが飛び出してきた。その正体はボールのように丸い形で上半分は赤、下半分は白という色合いをしたポケモン、ビリリダマであった。
その他は、ビリリダマよりも大きめでその色合いが逆になっているポケモン、マルマインだった。
ビリリダマが六匹とマルマインが六匹の合計十二匹に四人は囲まれた。
「なんだお前ら?」
シラヌイが彼らに訊ねると、彼の目の前にいるマルマインが答えた。
「俺達やぁ、盗賊団『パラライズボム』。お前らは探検隊だな」
「………ああ」
シラヌイがそう言うと、マルマインが四人に言った。
「警告するぜ!命が惜しけりゃ、持ってるもん全部よこせ!」
マルマインが言う事に、シラヌイは後ろ頭を掻きながらため息をつくと、彼に言った。
「盗賊団ねぇ………。いきなり出てきて持ってるもんよこせと言われて、素直にはいわかりましたなんていう馬鹿がいるわけないだろ、アホか」
シラヌイが挑発的に言うと「シ、シラヌイ。あんまり挑発はよさないと………!」とクルスが宥めるように言うが、すでに手遅れだった。
「ほう威勢がいいな。こんな事態に顔色一つ変える事なく平然でいられるとはな、怖いもの知らずの馬鹿か?」
余裕の表情を崩さないシラヌイに、マルマインもまた挑発するような言い方をした。だが
「フッ、勘違いされては困るな。
―――たった四人ごときに、大勢で挑んでくる奴らが目の前にいるから余裕なんだよ、馬鹿か」
挑発を更なる挑発で返した挙げ句馬鹿にしたシラヌイに対し、マルマインは額に青筋を浮かべざる得なかった。
「てめえ………
頭に乗ってんじゃねぇぞ!!」
それを聞いたシラヌイ達は、すぐに戦闘態勢に入った。三百六十度、マルマインとビリリダマに囲まれたこの状況は実際不利と言えた。
「(これじゃ多勢に無勢だな………それに加えて全員電気タイプって事もあるから有効打がない。向こうの素早さを考えると先手を打たれる可能性が大。どうするか………)」
八方塞がりのこの状況に、お互い睨み合いが続く。その中で、先に静寂を破ったのはマルマイン達の方だった。
「へっ。この状況を見ると、多勢に無勢って誰だって考えるだろうな」
「………そうだな。数で勝てるという甘い考えをお前らは持っていると考えた方がいいだろうな」
シラヌイは挑発のつもりでマルマイン達に言ったが、まったく動揺の色を見せなかった。すると、マルマインがニヤリと口角を上げて四人に言った。
「じゃあ、お前らに問おう。俺たちの得意技といったら何だ………?」
マルマインから出された問に、シラヌイは黙って答えなかった。これが自分達を惑わす罠だという考えを持っていたからだ。
「正解は………これだ!!」
そう言った次の瞬間、マルマインとビリリダマ達が急に輝き始めた。
「(この光………まさか!?)」
シラヌイは今の事態を悟ったのか、振り向いてすぐ三人に向けて両手を構えた。三人はどうしたらいいのか分からずその場を動けないでいた。
「(間に合ってくれッ!!)」
シラヌイがそう願って技を使った瞬間―――
『大爆発!!』
周囲から纏まって聞こえてきた声と共に、激しい轟音と閃光に包まれた。
〜☆〜
一時閃光に包まれた道は、その姿を現した。そして、爆発の被害に合わず、無事だった三人のポケモン達が気を失っていた。
「…………う………ん…………」
その中の一人、ミレイナは起き上がると周りの状況を確認した。
「な………何、これ………」
ミレイナは自分の視界に映る光景に気を取られていた。
周りの木々は薙ぎ倒され、地面はクレーターのようなものが出来上がっていた。数秒間呆気に取られていたが二人の事に気付いて起こそうとした。
「クルス!シリア!」
ミレイナは二人を揺すると、重い瞼を開けるように目を覚ました。
「…………っ………う〜ん…………」
「…………一体何が起きたの………?」
目を覚ましたシリアは、早々にミレイナに状況を聞いた。
「それが………」
ミレイナが振り向いた方向を二人も見ると、やはり呆気に取られた。むしろ、誰だってこんな光景を目を覚ました途端見せられたら無理矢理にでも驚かされるだろう。
「う、うそ………」
「もしかして、さっきの奴らが………?」
クルスは未だに目を見開いていたが、シリアはミレイナにその原因について聞いてみる。周りに目を回して倒れているマルマイン達がいる事を先に目視で確認した彼女は「多分………」と言って再び二人を見た。
「やられたわ。マルマインとビリリダマの十八番と言えば、自爆や大爆発だったわね。状況が状況だったから、冷静な対処ができなかったわ………」
シリアは腕を組んで考える状態に入った。クルスは周りに倒れているマルマインやビリリダマを木の棒で小突いたり、トレジャーバッグの中身が無事な事を確認していた。
ミレイナはというと、何やら辺り一体を回って何かを探しているようだった。彼女の様子に気付いたクルスは、声を掛けた。
「ミレイナ、どうかしたの………?」
クルスの声にミレイナは振り返った。
これから発する言葉に、クルス、そして考え事をしているシリアですら耳を疑う内容を聞いた。
「………シラヌイがいない………!」
〜☆〜
ここはライトタウンから離れた場所にある港町。
規模はライトタウン程ではないが、それなりに広い街でもある。宿があったり、別の大陸から仕入れた物が売ってあったり、物々交換で貴重な物を手に入れたり等様々な店舗のレパートリーが建っていたりする所であった。
こちらの大陸では、ライトタウンの収穫祭で仕入れた物品の五分の一を別の大陸に輸出したりする事があるので、その支援にこの町の町長からライトタウンの町長であるラミナスに支援金を送ったりしているのである。
そして今、港の方には数隻の船が止まっておりその内一方の船の近くには人間の世界で言うコンテナに当たる大きな木製の箱があった。
「急げ急げー!早く荷を詰め込まないと、予定出港時間を過ぎちまうぞ〜!」
ここの物品チェックをしているポケモンのドーブルが、運搬している荷物を木製箱に入れているポケモン達に言った。
そして、最後の荷物を木製箱に入れたポケモンが離れるとチェックリストに入れて、まだ荷物が来ないか確認した。「よし、扉を閉めてもらうか」と彼が思い始めた瞬間だった。
ドンッ!!
衝撃音が聞こえてきて、ドーブルはとっさに振り返った。案の定何もなかったので「なんだ気のせいか」と思いつつ木製箱の扉をカイリキー達に閉めてもらい、そのまま運ばれていった。
全ての木製箱が船に運ばれると、汽笛を鳴らした船は夕日に照らされながら目的地へと出港していった。
〜☆〜
その頃、マリルリギルドの会議室ではギルドマスターのマリルリを中心に第一から第五番隊までの探検隊隊長と、救護隊隊長や護衛隊隊長まで集まっていた。
「全員揃ったわね」
マリルリが周りを見渡すと、二番隊隊長のヘルメス、三番隊隊長のアポロ、四番隊隊長のプラスルマイナン、五番隊隊長のバッカス、そして救護隊隊長のカモミール、護衛隊隊長のグレイ、そしてマリルリの左後ろに参謀長のアッサムが揃っていた。
「まあ集まってもらったのは、早急に報告しておくべき事があったからなの」
「もしかして、奴らが動き出したのですか!?」
身を乗り出してマリルリに質問をしてきたアポロを彼女が「安心して、そういう事じゃないから」と言って宥めた。
それを聞いたアポロは「そうですか………」と言って安心して元の位置に戻った。
「やれやれ、仮に動き出したならここに副隊長達も呼び出しているだろう、理解出来てる………?」
ヘルメスがアポロに対して、人差し指を使って自分の頭を指した。
「んだとこのやろうぉッ!!俺だってそれくらい理解できるっての!」
「ああ、ごめんごめん。つい口が滑っちゃったよ」
「お前、いちいち同じ事言ってんじゃねぇよ………」
「そんな事はないよ。ただ君の聞き方が悪いだけさ」
小馬鹿にしてばかりのヘルメスにアポロは歯軋りしながら「こいつ………!」と唸っていたが、二人の口喧嘩を止めるようにカモミールが間に入った。
「はいはいそこまでにして、でないとマリルリさんが困っちゃうから、ね?」
カモミールは二人を宥めると、ヘルメスは普通 に「はい、すいませんでした」と謝った。同じ くアポロも「す、すいませんでした………」と謝った。アポロは向き直りながらヘルメスに 「後で覚えてろよ………」と静かに呟いたが彼は無視をした。
「もういいわね?じゃあ本題に入りましょう。 明日の朝、ここのトレジャータウンに貨物船が停泊するんだけど、その貨物船からこの町の物資を受け取る予定なの」
「物資、ですか………?」
バッカスはそれを聞いて首を傾げる。
「ええ。その貨物船は半年に一度、その大陸で仕入れた品物を別の大陸に輸出する事があって ね」
「それがこの街の港に来るって事ですか?」
アポロがマリルリにそう聞くと、彼女は「ええ」と返事を返した。
「で、その物資の運搬をこのギルドが手伝う事になっているから、各自この会議が終わり次第部隊員に伝えておくように」
マリルリがそれぞれの顔を見ながら言うと、隊長達は頷いた。
「それと私はしばらくここを空けるから、現場の指示はアッサムに任せるわ、よろしくね。それでは解散!」
マリルリの一言で、それぞれの隊長達は会議室を出ていった。
各部隊長がいなくなりアッサムも部屋を立ち去ろうとした彼は、その場に止まって背後の振り向いた。
「マリルリさん、どうかしましたか………?」
彼の視線の先には、長机の一番奥で移動しよう としないマリルリがいた。
「いや、何でもないわ」
「そうですか、先に出ますよ」
アッサムがそう言うと彼女は、ええと返事をし た。誰もいなくなった部屋の中でマリルリは呟 いた。
「彼の事を聞けなくなったのは、残念ね」
少々残念気味に言葉を呟いたマリルリは、静か に会議室を出ていった。
〜☆〜
マリルリギルドでの会議をした日の夜にて―――
「さあ!今日も作戦の成功を祝して、カンパーーーーイ!!」
「「「「おおおおぉぉぉぉーーーー!!」」」」
異常なまで広い空間に、一人のポケモンが乾杯の言葉を告げると周りにいた大勢のポケモン達が一斉に掛け声を上げ、手に持っている木製のジョッキを打ち鳴らして飲み物を口の中に注ぎ込んだ。
「っは〜!!やっぱ一仕事終えた後の酒は旨いぜぇ!」
「全くだよなァ!」
「いやぁ。つくづくここに入ってよかった、って思えるのはこのおかげだな〜!」
「ああ!大勢の仲間や、飯や、酒にありつける介があるってもんよ!」
「おい、一気飲み勝負しようぜ!」
「いいぜ、俺の豪快な飲みっぷりを見せてやるよ!」
「レディ、ゴー!!」
「っしゃー、いけいけぇ!!」
「負けんじゃねぇぞォ!!」
「んっ………んっ………んっ………しょおおおおおおおおりいぃッ!!」
「………ブクブク」
「ったく、何売られた喧嘩を買ってやがんだよォ」
「そーそー、あいつに一気飲みを挑もうなんて十年早いんだからなァ」
それぞれポケモン達は、テーブルの上に並べられた食べ物にありついたり、酒を飲んで世間話をしたり、はたまた食べ物の取り合いをしたりと様々であった。
ドンチャン騒ぎを起こす広い空間の奥に、三人のポケモンがその様子を見物していた。
「やれやれ、今日も今日とて騒がしいことだな」
その内の一人は、片翼に持っているジョッキに入っている蒸留酒をちびちびと飲みながら見ていた。全体的に半分の羽毛が紺色と赤色に別れておりトサカが白と赤で彩られ、尾羽もまた赤、黄色、青の三色の色合いに別れていた。
ゆうもうポケモンのウォーグルである。
「何をおっしゃっているのかしら?ここが騒がしいのは当たり前の事ですのよ、クロア」
ウォーグルの名を呼んだポケモンは、彼の向かい側にいた。
おしとやかな女性のような声のしたポケモンは、長い耳が特徴的で両手にはふわふわした黄色い毛で包まれており、耳の先端や足の先にも黄色毛があった。
うさぎポケモンのミミロップであった。
「おいロンド。前から言ってるが、俺の名前はクロマティで呼べって言ってるだろ?」
ウォーグルは自分の名の正式名称をミミロップ―――ロンドにそう言うよう言い聞かせるが
「いいじゃないですの。この愛称の方が呼びやすいのですから、それに………」
「それに………?」
「ボスだってこのあだ名を気に入っているようなのですから。ね、ボス」
ロンドは背後を振り向きながら、ボスと呼ばれるポケモンに声を掛けた。そのポケモンは、クロアやロンドよりも二倍の大きさがあるポケモンだった。
全体的に水色を基調とした色合いになっており、頭頂部には赤いトサカが生えて強靭な爪や牙を持ち合わせている他、より異色を放っているのはその大きな顎にあった。おおあごポケモンのオーダイルであった。
「あぁ。まぁ、そこまでのこだわりがあるなら強制はしておかないがな」
オーダイルは右手に持つジョッキを傾けて中にあるオレンの果実酒を飲み、左側の自分専用のテーブルに置いてある大きなリンゴを掴み、自分の口にほおばった。
「ほらクロア、ボスもお困りになられてるでしょう。少しは気遣いというものが必要ではないですか?」
「待てロンド、俺はあくまで強制はしないと言ったまでだ。そう呼ばれたいならそうしておいても構わないぞ」
顔色一つ変えない二人の顔を見やったクロアは、椅子に座り直し蒸留酒を二口飲み言った。
「………いや、クロアのままでいいっす。折角ボスが気にいっておられるんで」
そう言うクロアに対してオーダイルは、そうかとだけ返事をしジョッキを傾けるが中身がからになっている事に気付き、近くにいたカイリキーに果実酒のお代わりを求めた。
そうすると彼は、ジョッキを地に置き果実酒の入った容器を持ってきたカイリキーに組ませてもらい再びジョッキを傾けた所、だったが―――
「ボスゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーッ!!!!」
大広間の出入口から聞こえてきた大声と共に猛スピードでその場を突っ切ってきた何かは、真っ直ぐオーダイルの顎に直撃した。
「ぶっ!!」
オーダイルは飲み掛けていた果実酒を口から吹き、激突した者は地面に墜落した。
ぶつかったそれはほとんどの羽毛が灰色で胸部にハートマークの羽毛があり、一部が黒い羽毛の生えたポケモンであった。
こばとポケモンのマメパトは、頭に手を抑えて上を見上げた。
「ボス!今すぐお伝えしたいことが………」
何かを言い掛けたマメパトは、視線の先にあるものを見て制止してそれをやめた。彼の様子を見兼ねたクロアは頭を抱えて左右に振り、ロンドは口を抑えてクスクスと笑っていた。
オーダイルの顔は、果実酒のせいでずぶ濡れになってしまったのだ。先程の衝突が原因である事がわかった彼は土下座をして謝罪の言葉を申し上げた。
「す、すいませんでしたボス!わざとではないんです!ただ、焦りに焦ってどうしてもお伝えしたいことが―――」
「いや、いい。続けてくれ」
オーダイルはそう彼に告げて近くにいたニドクインに、布製のタオルを持ってこさせ水滴のついた所を拭いた。
実際彼は気にしていない様に見えるが、彼の額には青筋が一つ浮かんでいるので機嫌が悪く なっていることを告げていた。その事を気に掛 けながらも、マメパトは恐れ多くオーダイルの 耳元に近付き用件を明かした。
「……………ほう」
オーダイルは先程とはうってかわり、顎に自分の手を当て話の内容を興味深そうに聞いてい た。マメパトは続けて耳打ちをすると、彼は 「そうか…………」と呟いた。 大体五分ほどこの状況が続くと、マメパトは オーダイルの下を離れた。考え事をしているようで、その後の反応に変化がない事に異変を感じたマメパトは、彼に話し掛けようとした時だ。
「………フ」
突如、彼の口から笑みがこぼれた。次第にその 笑みは小さな笑い声へと変わっていった。
「フッフッフッフッフッフッ」
「ボ、ボス………?」
オーダイルは話し掛けるマメパトにお構い無し に笑い続ける。 しかし、その声を止めると突然立ち上がり大声 を上げた。
「野郎共っ!よぉく聞けえぇっ!!」
楽しく騒いでいた広場はオーダイルの声と同時 に収まると、みな彼に視線を向けた。
「聞いて驚け!!明日の一仕事、ついに俺達は 夢を叶える事が出来るぞ!!」
オーダイルの告げたその発言の意味を知ったの か、彼らは次々に立ち上がり歓声を上げた。ま さに青春まっただ中の青年ようなはしゃぎあい をしていくが、オーダイルが新たにする事によ りそれは修まった。
「よく聞け!俺は自分の夢を叶えるために、あ りとあらゆるものを集めてきた!俺は、いや、 俺達は、明日の夢を叶えるためにありとあらゆ るもの全て解き放つ!!」
その言葉と共に、ポケモン達は先程よりも大き な歓声を上げた。
「宴会は今すぐ中止だ!!明日の一仕事のため にさっさと準備をしろ!!」
「「「「おおおおおおお おーーーーーーーッ!!!!」」」」
各自、広場のものを回収し散り散りに散らばっ た。
明日、ついに自分達の悲願が達成する。 それはここにいる誰もが待ち望んだ言葉であっ た。それを聞いた者達の目はこれまでにない輝 きを放っていた。
その様子を見ていたオーダイルは、腕を組み口 角をつり上げて小さく呟いた。
「(リーダーがいない事を悔やみ、俺達の礎となるがいい
―――マリルリギルドよ)」
夢が目前と迫るオーダイルは、さらに口角をつ り上げ日が早々に日が過ぎていくのを待ちに待っていくのだった。