アクロアイトの鳥籠










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6章
破損記憶Y

 昔々のお話です。
 あるところにいた『お嬢様』は、あるときあることに気づきました。
 それは、『お嬢様』が最も望んでいなかったことでした。
 けれどそれはどうあがいても現実で、『お嬢様』は自分がどんなに駄々をこねてもその事実が覆らないことを知っていました。

「さて、どうしようかしら」

 少しだけ首を傾げて、溜息をついて。『お嬢様』は全く困っていないように呟きます。
 そうしてすこうしだけ考えて、『お嬢様』は使用人を呼びつけました。これからのことを、決めて行かねばならなかったからです。
 自分が死んだ、その後のことを。

 『お嬢様』は呼びつけた使用人にいくつか頼みごとをして、今度は『子供』を呼びました。
 そうして『お嬢様』は『子供』に笑いかけます。いつもと同じように。今日は何して遊びましょう? と。

 何も知らない『子供』に笑いながら、『お嬢様』は自分の大切な『妹』を守ってやらねばならないと思ったのでした。

   *

 昔々のお話です。
 あるところにいた『従者』は、あるときあることに気づきました。
 それは、『従者』が最も願っていなかったことでした。
 けれどそれはどうあがいても夢ではなくて、『従者』は自分がどんなに泣き叫ぼうとその事実が覆らないことを知っていました。

「どうして」

 目を見開いて、か細く息を吐くように。『従者』はこの世の終わりのように呻きます。
 そうしてすぐに決断し、『従者』は部屋の戸を閉じました。これからのことを、決めなければならなかったからです。
 生き残るための、その手段を。

 『従者』は周囲に付き人がいないことを確認して、『子供』に駆け寄りました。
 そうして『従者』は『子供』に懇願します。必死に必死に。絶対にそれを誰にも言ってはいけないですよ、と。

 何も知らない『子供』に縋りついて、『従者』は自分の大切な『弟』を守ってやらねばならないと誓ったのでした。


森羅 ( 2016/01/18(月) 21:29 )