アクロアイトの鳥籠










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1章
破損記憶T

 昔々のお話です。
 あるところにそれはそれは綺麗な『お嬢様』がいらっしゃいました。
 大切に大切に育てられた『お嬢様』がいらっしゃいました。

 あまりに大切に育てられたので、その『お嬢様』は結構な怖いもの知らずでした。“世界は自分を中心に回っている”と考えていたと言っても過言ではありません。それはもう『お嬢様』の行動に、使用人たちが常に肝を冷やしていたほどでした。
 ある日あるときのお話です。『お嬢様』の元に一人の『子供』が現れました。少しばかり身分の卑しい『子供』でしたが、『お嬢様』の遊び相手にはちょうどいいだろうと言うことで選ばれたのです。『お嬢様』はその『子供』を見るなり、大輪の花のような笑みを浮かべました。とてもきれいに笑いました。少し目を開いて、微かに驚きを示す『子供』に駆け寄り、その手を取って、視線を合わせて。

「あなた、とてもきれいなのね。ああ、すてきだわ。とてもすてき」

 『お嬢様』は一目でその『子供』が気に入ったようでした。

   *

 昔々のお話です。
 あるところに『子供』の遊び相手に選ばれた『従者』がいました。
 その『子供』が何であるのか知っている『従者』がいました。

 『子供』の付き人たちは本来『子供』に『従者』を与える予定はありませんでした。しかし付き人たちも『子供』の相手をしてばかりはいられませんので、渋々遊び相手に『従者』を選んだのです。『従者』は『子供』の付き人たちに色々な約束をさせられて、その全てに頷いて見せました。付き人たちはそれでもやはり若干の不安を覚えましたが、とうとう『従者』を『子供』に与えました。約束を破れば、引き剥がせばいいと、そう付き人たちは考えたからです。

「はじめまして?」

 『従者』の問いかけに、『子供』は笑いました。とても綺麗に笑いました。
 『子供』はとても大切に育てられていて、それ故に少々……いえ、大分我儘でしたが、『従者』は『子供』の我儘に応え続け、じっと『子供』を見守っていました。






森羅 ( 2014/11/01(土) 02:15 )