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ただいま。
おかえり。なーんて言葉は返ってこないけれど、私のポケモンが迎えてくれる。デリバードのストロベリーちゃん。私の持っている唯一のポケモン。小さい頃から友達で、小さい頃からずっとお世話をして、ずっと一緒だけど、神様は私とストロベリーを同じ速さで成長させてはくれなかった。やっぱりというべきなのかどうかは知らないけれど、ストロベリーの方が寿命が短くて、今ではもう満足に空を飛ぶ事すら出来ない。今はまだ元気に暮らしているが、それが確実にいつの日か叶わなくなるという現実は私には中々受け入れられない。私の言葉なんて分からないはずなのに、じゃあ、今日も散歩に行こっか。と声をかけると嬉しそうに頷いて、早速準備を始めだした。準備とはいっても、準備体操とも言えないような羽をはばたかせたり、いつもより少し速く歩いているだけなんだけど。
栄養バランスを考えた食事、適度な運動、それからコミュニケーションの方法。ストロベリーとずっと一緒にいる為の勉強をしていたら、いつのまにかブリーダーになっていた。
街に出ると嬉しそうにストロベリーが駆け出す。駆け出すと言ってもその速さは私と歩くのと同じくらいで、それでも本人は元気いっぱい走っているつもりだからすぐに疲れて私に抱えてくれとせがむ。私は少しだけ嫌がるそぶりを見せるけど、そっとストロベリーを抱えてあげる。これではどっちかというと私の運動なんだけど、それで良いのだ。ストロベリーが運動嫌いになったら嫌だから。
街はもうすっかり秋景色で少し肌寒いくらいなのだけど、ストロベリーはこの位の季節の方が過ごしやすく、私もどういうわけか過ごしやすくなった気がする。いつの間にか私の生活はストロベリーを中心にまわっている事に気がついて、いつのまにか笑っていた。ストロベリーもそれにつらたのか一緒に笑っている。ふふ、かわいい。いつまでもこんな風に過ごせたら良いのにな。
公園の広場の中心で子供達が集まっているのが見えて、今日も紙芝居をやることに気付く。最近よくこの辺りで紙芝居をやっているのを良く見かける。私は別に興味がないんだけど、ストロベリーはこの紙芝居が大好きみたいで私もいつも一緒に見ている。紙芝居をやっている男性はまだ若くて、なんだか子供と遊ぶよりも年頃の女性と遊ぶ方が好きなように見える。遠くから見ているのは良いけど、あまり人としてお近づきにはなりたくないな。でも紙芝居の内容はそんな男性のイメージからはほど遠く、サンタクロースがやってくるだとか、おこりんぼのサンタクロースとか、どれもクリスマスを題材にした物ばかり。まだ冬にすらなっていないのにどうしてだろう。それからこれは紙芝居だから仕方ないのかもしれないのだけど、紙芝居の物語はどれも似たようなお話で、それでどれも最後はみんなが幸せになって、それでおしまい。めでたしめでたし。そんな物語のどこに魅了されて、どこに感動して、どこが面白く感じてしまうんだろう。あーあ。わたし、こんなことを考えてしまう辺りもう子供じゃないんだな。だけどストロベリーはおじいちゃんなのにその紙芝居をじいっと見つめて、物語の最後には子供達と同じように拍手している。私も子供達と同じくらいの年だったら一緒に喜べたのかなあ。でも、もし一緒に喜べたとしても紙芝居の後にもらえる飴玉は一緒に食べられないか。ちょっと残念。でも、わたしサンタクロースはちっちゃい頃にいないって知ってしまったからな。ま、どっちにしても紙芝居を一緒に喜ぶことは出来ないか。
いつの間にか紙芝居は終わっていて、子供達は紙芝居をしていた男性のもとに集まって飴玉をもらっている。紙芝居をちゃんと最後まで見たご褒美なのか、それとも自らの紙芝居を見てくれたお礼なのか分からない。でも、少なくても子供達は紙芝居よりも飴玉の方が大事そうに見えるし、この飴玉があるから紙芝居が成立しているんだろうなって思う。なんだかそれって、ちょっと寂しい。だって道化師みたいじゃない。興味の無い人に紙芝居を見せているなんて。私だったら、本当に興味のある人に見て欲しいけどな。なんて考えていたら、紙芝居をしていた男性に、飴玉を一つどうですか。なんて聞かれた。どうやら子供達に飴を配り終えたらしい。私は大丈夫です。と答えたけど、ストロベリーが物欲しそうにしているのを見たのか、男性はポケモン専用の飴玉を一つストロベリーに渡して、また来てね。と声をかけた。もう、そんな事をすると、またストロベリーがまた来たがるのに。それも今度は紙芝居の為ではなく、飴玉を貰う為に来る事になってしまうじゃない。だからこういう事をやめてもらうよう言おうと思い、あの、と言葉の先だけ出たけど、それより先に男性からこのデリバードとは長いの? と聞かれてしまってその先は出なかった。私はその聞かれ方に面食らってしまい、はい。と思わず本当の事を答えてしまった。子供といつも接しているからそんなに馴れ馴れしく接する事が出来るのだろうか。私の答えを聞いて、紙芝居の男性は続ける。それじゃあデリバードと会話したいと思った事はない? 確かに長年ずっと一緒にストロベリーと過ごしていて、会話してみたいと思った事はあるけど、今度はなにも答えなかった。だってそんなこと答えたってただ私が女性として食い物にされるだけだと思ったから。質問に無視してストロベリーの様子を伺う私の姿を見て肯定と受け取ったのか、彼は言葉を続けた。最初は耳を貸すつもりすらなかったんだけど、彼の次の言葉に私は小さく声をあげてしまった。
おれ、デリバードと会話出来るんだ。