風の探検隊
トレジャータウンから少し離れたところにある、崖下の小さな空間。見た目がサメハダーに似ていることから「サメハダ岩」と呼ばれている。一体誰が崖を横から見てそう呼んだのかはわからない。きっと、どこかの飛行タイプのポケモンが呼んだのだろう。
そのサメハダ岩には、素早く迷いのない行動から「風」の二つ名を持つ探検隊が住んでいた。彼女達はこの星に訪れた大きな危機を救った英雄でもあるが、それをむやみやたらに自慢することはない。
今日も彼女達は宝や助けが必要な人のためにダンジョンに潜る……はずなのだが、この日はどこか様子が違った。
「うう。チコリータ、ごめんね……」
藁のベッドに横たわり、耳をペタリと下げて申し訳なさそうな目をするのはイーブイ。頬は紅潮し、どこか息遣いも荒い。どうやら風邪をひいてしまったらしい。チコリータはそんなイーブイにツルで絞ったタオルを乗せ、静かに首を横に振った。
「ううん。イーブイがこうなったのは、ワタシをかばって技を受けたのが原因だから。何も気にしなくていいんだよ?」
「まさか、四回連続モンスターハウスに入っちゃうなんて〜」
当時の光景を思い出したのか、悔しそうに天井を見つめるイーブイ。実は、彼女達は昨日行ったダンジョンの序盤からモンスターハウスに入り続け、水技に氷技など風邪をひくには十分な技を受けまくっていたのだ。
……イーブイがグミや技マシン目がけて突進していかなければいいのだが、イーブイはそれに気が付かないしチコリータも言うつもりはない。イーブイの行動があったからこそなんやかんや実力がつき、「風」とまで呼ばれるようになったからだ。
「今日はゆっくり休んで、体調がよくなったらまたダンジョンに行こう?」
「うん、そうする……」
おでこに乗せられたタオルの効果もあってか、気持ちよさそうに目を閉じるイーブイ。チコリータはそんなイーブイを眺めながら、次はなるべく寒くないダンジョンの依頼を受けようと考えていた。
いくら「風」の二つ名を持っていても「風邪」には勝てない。健康第一の仕事で体調を崩しては元も子もない。探検やポケ助けも大事だが、自分達の体調管理も大切なのだとイーブイは身をもって知った。
今日もどこかに手紙を届けるため、上空をペリッパー達が飛び交う。トレジャータウンも様々なポケモンで賑わっていく。そんな中、サメハダ岩ではいつもとは少し違う時間が流れていくのだった。
「風邪の探検隊」 終わり