深い森の奥で
私の姿を隠していた布は、あの日の事故で跡形もなく燃え尽きてしまった。すぐ代わりを用意できればよかったのだが、その布を持っていた私の主人は私を見た途端にパタリと倒れてしまってね。人に害を与えるポケモンとして、私はこの森に追放されてしまったのだよ。
だが、この森にきても結果は変わらなかった。どのポケモンも私を見る度に糸が切れたようにパタリパタリと倒れていく。これではいけない、と大きな葉っぱで体を隠そうとはしたものの、裁縫が苦手な私は材料をことごとく無駄にしてしまった。材料をそのまま使っても、風で簡単に飛ばされてしまうのだから意味がない。
そんな私は姿を見られては相手に倒れられ、何もできずにその場から逃げては奥に行き、また姿を見られては相手に倒れられ……。そんなことを繰り返しているうちにこんな森の奥まで来てしまった。
元々暗い場所が好みである私は、ここなら例え一匹でも楽しく暮らせると喜んだよ。それが上辺だけの言葉と知りつつもね。本当はとても寂しくて、心を暗闇に押しつぶされそうで仕方がなかったんだ。
だが、その寂しさは君が来てくれてからなくなった。君だけだよ。私の姿を見てもこちらに来てくれたのは。君を襲ったという不幸は私よりも酷いものだったが、君にはその代わりになるものがちゃんとある。
こんな寂しい場所でも、私は君と暮らせるのをとても嬉しく思うよ。なあ、君もそう思うだろう?
……え? 自分の波導は未熟で全然目の代わりになんかならないし、他のポケモンとも話したい? 確かにリオルである君の波導は、進化形であるルカリオと比べたらまだまだだろう。私の案内がなければ、ずっとこの森を彷徨い続けていただろうしね。
そして、君が他のポケモンとも話したいことを知っているよ。君は最初からそう言い続けていたし、私がこうして話しかけている間もどこかつまらなそうな顔をして明後日の方向を見ているから、言われなくてもわかる。
だったら何で、だって? それは先ほどの話で既に言っただろう。私は寂しがりなんだ。いくら暗い場所が好きだと言っても、こんな物好き以外誰も来ないようなところで暮らし続けていたら気が狂ってしまう。君は私にとっての精神安定剤なんだよ。
もう嫌だ、誰でもいいから自分の目を治してくれ。そしてここから逃げる手段をくれ、だって? もし奇跡が起こって君の目が治ったとしても、逃げられるはずがないよ。君も私の話から大体予想できているだろうが、私の種族はミミッキュだ。誰もが知っているあの被り物はしていないがね。
そして、その中を見た者はどうなってしまうのか。これまでの話から予想はついているだろう? 君はどちらにしても逃げられないんだ。恨むならこの出会った「奇跡」を恨むことだね。
さあ、そろそろご飯を食べようか。今日は君が好きなモモンのスープだよ。……残さず食べて、くれるよね?
「深い森の奥で、君とずっと」 終わり