ブラック・クラウド
やあやあ、そこのボクとは違って真っ白なヤミカラスくん! そんなにキョロキョロと辺りを見て一体どうしたと言うんだい? ヤミカラスらしく、きらきらとした光り物でも探しているのかな?
しかし残念、ここにはお天道様やお月様の恵を受けて輝くものはあっても、ヤミカラスが好きそうなものはないんだな、これが。当てが外れてがっかりした? 帰る? え、そうじゃないの? だったら先に言ってくれないと! てっきりこんな場所に光り物を求める珍しいヤミカラスだと思っちゃったじゃないか!
それで、ヤミカラスくんは一体何の目的でここに来たと言うんだい? え、ボクもヤミカラスだからややこしくないかって? ここにはボクとヤミカラスくん以外にヤミカラスはいないから間違えようがないでしょ? 自分で言っていて頭の中が変にならないのかって? なっていないから続けているから問題なし!
改めて、ヤミカラスくんはどうしてここに? ……え、「ブラック・クラウド」を訪ねに来た? はいはいもちろん知っていますよ、あの「黒雲」率いる世間で一番注目を集めている組織でしょう! へ、リーダーは誰かわかっていないから、単にブラック・クラウドという名前しか知らない? ……ああ、そうなんだ。
どうして落ち込んでいるのかって? それは落ち込むだろう! うちの「黒雲」の活躍に反して名前、いや正確にはあだ名かな、を知られていないんだから。あ、でも知られていたらそれはそれでまずいのか。だったら仕方がないね。うん。
せっかくだからヤミカラスくん、うちの「黒雲」の話聞いていくかい? わざわざ「ブラック・クラウド」を訪ねに来たんだから相応の覚悟はできていると思うし、できていなくてもボクが勝手にべらべらと話すからね。
「黒雲」の種族はチルットなんだ。ヤミカラスくんも知っているでしょ? あの空を飛んでいたら間違いなく景色と同化しそうなポケモンのこと。……待った待った、そう慌てて質問をしない。ヤミカラスくんが言いたいことはわかるよ? チルットはどう見ても黒くないからね〜。
ところがどっこい、「黒雲」は色違いなんて呼ばれる存在と似たような感じで体や羽の色が黒くなったチルットでね。遠目で見るとまさに黒雲という感じなんだ。真昼の空を飛ぶと目立って仕方がないけれど、夜の空なら敵がいない。少なくとも人間の目は誤魔化せるって計算だ。
しかしながら、普段からそれだとすぐに見つかってしまう。そこでボクの出番というわけだ。ボクが仕事の時以外は「黒雲」の姿を普通のチルットに見せているから、彼は彼らしく活動することができる。ボクのこと、もっと褒めてもいいんだよ? ……褒めてくれないの、それは残念。
さて、今までの話でヤミカラスくんも薄々気がついているとは思うけれど、ボクは見ての通りヤミカラス……というわけじゃない。今は見張りのため闇夜に溶け込みやすいヤミカラスになっているけど、本当の種族はゾロアークなんだ。
えっ、どうしたのヤミカラスくん。なになに、「ブラック・クラウド」を訪ねに来たのはボクに会うためでもあった? ある森で色違いのゾロアークから、義賊の真似をしているゾロアークがいたらこれを渡してくれって?
一体どうやってその情報だけでここに辿り着いたの? え、そのゾロアークが組織の名前やアジトの場所も教えてくれた? ふうん、そう。親父がね〜。親父なら知っていても不思議じゃない……のかな? わからないけど。まあ、ありがと、後でじっくり中身を見てみるよ。
それは一旦横に置いておくとして。「黒雲」がリーダーになってからはあっという間に組織の存在を知られるようになった。詳しいことはもちろん知られていないけど、名前だけでも知られるようになったのは大きいよ。
どうしてって? ボクがリーダーだった頃は、名前すら知られていなかったからだよ。きっとボクの大きさに対してリーダーの器ってやつが小さすぎたんだね。うん。そうに違いない。
絶対に知らないと思うけど、一応ボクがリーダーだった頃の組織の名前を聞く? 「ファントム・フォックス」って言ったんだけど。……一度も聞いたことがない、ね。わかった。そんな哀れみを込めた目でボクを見ないでくれるかな。
ところで、目的を果たしたヤミカラスくんはこれからどうするつもりかな? ここまで話を聞いちゃったことだし、どうせだからボク達の仲間になってみる? 断ると言っても受け付けないけど。もう一つの目的が組織に入ることだったから、それなら願ったり叶ったりだ? だったらよかった。
ヤミカラスくんは色こそ違うけど「黒雲」と似たような存在だからね、結構すぐに仲良くなれると思うよ。色が色だからボクの力を使っても「黒雲」達と一緒に活動するのは難しいかもしれないけど、それ以外にもちゃんと大切な活動はあるからね。落ち込まなくても大丈夫!
……え、組織があると思う要素すら言っていないのに、勝手に組織について話すボクが見張りをしていて大丈夫なのかって? ああ、それは。うん。ついさっきも言ったように聞いたポケモンは等しく仲間にしているから。余裕で大丈夫。
この組織はまだまだメンバーが少ないから、数が十や二十増えたところで変わりはないって! ……そろそろ勧誘を止めないと相応の罰を与えるぞって「黒雲」に言われているから、ヤミカラスくんを最後に話すのは控えようかな。
控えるんじゃなくて、話すのをきっぱりと止めた方がいいって? ボクもそうは思っているんだけどね。ボクって話すのが何よりも好きだから、世間話ついでに言ってしまうことも少なくないんだよ。
仲間達はどうしてボクが組織にいられるのか、とても不思議に思っているみたいだ。ボクもそう思うのだから間違いない。組織にいるゾロアークがボクだけだから、仕方なく置いているのかな? だとしたら少し、いやかなりヤバいね。冗談抜きで追い出されないようにしないと。
ああ、ずっと立って話しているのもなんだし、中に入っちゃう? ここからだと入口は見えないけど、ちゃんとあるから安心して。ボクが幻影で入口をしっかり隠しているから、人間はここにアジトがあるとは思わないんだ。
それじゃあ、「ブラック・クラウド」へようこそ。ヤミカラスくん。共に悪から光を取り戻そうじゃないか。
「ブラック・クラウド」 終わり