Episode 10
(茜視点)
「!」
目の前にある扉がゆっくりと開く。
私は思わず身構える。思えば少し落ち着きすぎたのかもしれない。私の心が静まったとしても、鎖のようなもので繋がれて身動きがとれない今とても危険な状態だということには変わらない。もちろんこの鎖のようなものも誰かが繋いだわけで、その誰かがいつこの部屋に入ってくるか分からなかったのだ。
多分その誰かが、今この部屋に入ってこようとしているんだろうな……。
落ち着き過ぎたこの心を再び慌てさせるような時間は、残念ながら無いに等しかった。
「お、起きたか。」
完全に扉が開けられ、そこには一人の大人がいた。その人は私を見るなり、少しだけ笑みを浮かべこちらに歩みよってくる。逃げたいけど、今は逃げられない。
逃げられないなりに、今できることをしよう。
私はその人を睨むように見つめる。えーと……、先生が学校行事とかで着ているようなスーツ姿で、背は高め(といっても私が座っているから高く見えるだけかもしれない)、頭には眼鏡とハンチング帽……だったっけ? 探偵さんみたいな帽子を被っている。……というような見た目だ。顔も……覚えた。
「あー、すまないね、埃っぽかっただろう? 掃除するヒマがなかったからな。」
部屋を見渡しながらその人は喋る。目を逸らしている間も私はその人を睨み続けていた。その人は私の視線も気にしていないようで、カーテンがかかっている窓の方へと移動する。
カーテンを開ける。気付けば外は完全に夕焼けに染まっていた。下校の時間から、一体何時間経っただろうか。お母さん、心配してるだろうなあ。
「……そんなに睨まれると、ちょっと怖いな。」
どうやら視線に気がついたようだ。その人は困ったような顔を見せるが構わず睨み続ける。防御力が3段階くらい下がったんじゃないだろうか。なんにせよ効果は抜群、のようだ。
……だけど、防御力が下がっても私から攻撃しないと意味が無い。攻撃しようにも縛られているんじゃあ攻撃どころか行動さえもできないし、そもそも人間に防御力とかは、ない。
「んー……、なんかものすごく警戒されてるようだし、もったいぶった話はよして本題に入るとするか。」
もったいぶった話をして少しでも気を紛らわせようと思ったらしい。だけど私が頑なに睨み続けてリラックスしないと考えたのだろうか。あたりまえだ。リラックスなんてできるもんか。
その人は、一回咳払いをしてから話しはじめた。
「……まずは、このような真似、許して欲しい。君を安全に保護するには、こうするのが一番の得策だった。」
安全に保護? どこからどう見たって安全に保護されてるとは思えない、どちらかと言わなくても充分危険な感じです。
「親御さんには本当に迷惑をかけていることは重々承知だ。……だが、だとしてもこの状況で君を野晒しにすることを、俺はできなかった。故にこのような形ではあるが君を悪の手から救うため、保護という措置をとらせてもらった。」
???
難しい言葉がならんでて、あまりよくわからなかった。えーと、つまり……どういうこと?
そんな気持ちを読み取ったのか、その人はハッとした顔を見せる
「あ、あぁスマンスマン。ちょっと難しかったかな……?」
その後その人はうーんうーんと何かを考えだした。何を考えているのかは、なんとなーく予想はできた。
「えーっと、つまりだな。……よし、じゃあ順番を変えよう。」
そう言うが早いか、その人はスーツの中をごそごそと探り、黒っぽい「なにか」を取り出した。何だろう、……手帳?
その人は、私のほうにその「なにか」を突き出し、ぴらっと開いて見せた。
「挨拶が遅れたな、改めて。俺は国際警察の大石辰巳だ。よろしく。」
To Be Continued...