その少年、所長
・・・・・はい?
少年の急な申し出にあっけにとられ、ナナセは返事もできなかった。
というか、言っている意味もわからなかった。
ポカンとしたナナセをよそに、少年は「今持ってたっけ・・・。」と何やらガサガサとポケットをあちこち探っている。
しばらくすると、「あった、あった。」と何かカードを取り出し、ナナセに差し出す。
とりあえず、差し出されたそれを見てみる。
一見すると、ただのトレーナーカードだ。
ポケモントレーナーであることを証明する免許のようなもの。
トレーナーカードには名前、ID他、住所や生年月日に出身地、職業なども書かれている。
職業というと、例をあげれば、ポケモンブリーダー、ポケモンレンジャー、教師、学生、ジャグラー、釣り人、海パンやろう、などである。(後半は職業といえるかどうか怪しいが・・・)
そのカードを見て、ナナセはようやく少年の名前が『リンドウ レイジ』ということを知った。年齢は、やはり自分と同じ。
出身はシンオウのハクタイシティ。どうやらこの地方の出身ではないらしい。
順に見ていき、職業の書かれているところに視線がついた。
「PTPO?所長?」
書かれている内容が理解できず、思わず読み上げてしまった。
「そうだ。俺の名はレイジ。PTPOの所長だ。ちなみにPTPOというのは、ただの略称だ。正しくは『ポケモントレーナープロデュース事務所』。略してPTPOだ!」
堂々とした様子で説明する少年、いやレイジ。
「いやいや、あんたって、私と同じ年・・・つまり15歳でしょ。
その年で所長はないでしょ!」
「確かに俺は15歳だが、15歳だから所長をやってはいけないというルールはない。」
「そもそもポケモントレーナープロデュースって何?!」
「文字通りだ。俺直々にポケモントレーナーの成長を手伝ってやろう、ということだ!」
う、胡散臭い・・・。
というか、その年で独り立ちしているということ?
そもそも、そんなんで経営できるの?
いろいろ思ったが、口には出さないことにするナナセだった。
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「ここがPTPOだ。」
「おお!意外に事務所っぽい!」
「意外とはなんだ!」
シラナミシティより、徒歩15分。
シラナミシティと他の町を結ぶ道路、そこの開けたある場所。そこにPTPOはあった。
一般的な研究所より、少し小さめだが、そこそこ大きい建物だ。
結局、なし崩し的にレイジの案内のもと、PTPOに来てしまったナナセである。
「ここから、さらにしばらく歩くと、シーハの森って場所がある。
多様なポケモンが生息している。修行にはうってつけだ。」
「あの・・・やっぱり、私、修行するの?」
「当たり前だ。今のままで勝てると思うのか?」
「思わないよ。けど!あんたが勝手に私の再戦を決めたんでしょ!」
「まあ、そうだが。だから俺が責任を持ってお前を勝たせてやろうと言ってるんじゃないか。」
「何で上から目線?!しかも私、了承してないし!」
「俺が勝手に話を進めたのは事実だが、あの不良も承諾してしまった以上、お前に選択肢はないぞ。」
「・・・はあ・・・。」
いろいろと諦めたナナセだった。
まあ、あの不良を許せないのも事実だし、自分のポケモンを自分で取り返したいという気持ちもある。
「・・・うん。わかった。それじゃあ、ご教授お願いします。」
「おお。素直でよろしい。」
「うーん。でもあんたがもしも、本当に、あんたが言っている通りの強いトレーナーだったとしても、私は本当に素人だよ?
たった一週間で、強くなれるとは思わないけど・・・。」
しかも、バチュルでサイドンに勝たなくてはならない。
はっきり言って、無理ゲーにしか思えない。
「まあそうだな。あまり、ポケモンの力量(レベル)を数字で表したくはないが・・・
相手のサイドンは最低、レベル42。対して、お前のバチュルは進化していないところを見ても、最大でレベル35といったところだろう。
しかもこれは、一番都合がいいパターンだ。実際はもっとレベル差があるだろうな。」
「ううっ、本当に一週間でその差を埋められるの?!」
「無理だな。」
はっきり断言した。
ナナセは思わずすべりそうになるのをこらえ、そのままレイジにつかみかからんとする勢いで詰め寄る。
「ちょっと!無理とは何よ!さっきの自信たっぷりな申し出は何?!」
「ゲームじゃないんだ。現実にはどれほど集中して修行に取り組んだとしても、一週間そこらでは、まあせいぜい1、2レベル上がれば大成功といったところだな。」
「話が違うじゃない!」
「いや、違わないな。」
「ほえ?」
「最初から言っているだろう?俺が『お前』をプロデュースしてやろうと。」