とある少年の不満
今は八月の午後七時。この時期の定番番組といえば、やはりポケモンリーグ、夏大会だろう。
ポケモントレーナーを夢見る少女、少年の夢はここから始まるといっても過言ではない。
いや、老若男女関係なく、誰もが手に汗握り、テレビに繰り広げられる激闘に釘付けになる。
そして、ここにもそんな数多の少年の一人がテレビに釘付けに、
「つまらん!じつにつまらん!」
・・・前言撤回。どうやら文句を言っているようだ。
年は八歳。まだポケモントレーナーではない。
テレビの前におかれたふかふかのソファに座り、足をブラブラさせているその姿は、まだあどけない。
何故かテレビをにらみつけながらぶすっとした表情をしている。
「あらあら、何がそんなに不満なの?」
声をかけたのはその少年の姉である少女。
こちらは十二歳。ポケモントレーナーになって二年。そこそこは経験を積んだといえる。
「だってさあ、姉貴。さっきから同じポケモンしか出てないんだよお。」
そう少年が指摘するテレビに映っているのは、ガブリアスにメタグロス。強いポケモンの代表格だ。
「他にも、スターミーとかあ・・・ナットレイとかあ・・・と・に・か・く!
さっきから!同じ!ポケモン!ばかり!!なんだよ!!」
不満を爆発させ、大声をあげる少年。
「あらあら・・・。でも仕方ないでしょ。トレーナーだって勝ちたいもの。
そのためにはなるべく強いポケモンを使うでしょ。悲しいけど、全てのポケモンが強いってわけじゃないし。」
そう、ポケモンには『種族値』というものが存在する。
極端な例をいえば、どんなにマダツボミが頑張ったところで、絶対にカイリキーよりムキムキのマッチョになれる訳がない。
どんなにキャタピーが頑張ったところで、サンダースと100メートル走をして勝てる訳がない。
まあ、そういうことだ。
「でも!それじゃ、つまんねえ!だってどんなにカイリキーがムキムキでも、ツルなんて出せないだろ?
どんなにサンダースが速くても、糸なんて出せないだろ?
おれは・・・そう。ポケモンの強さじゃなくて、個性をいかしたバトルが見たいんだ。
コラッタがカイリューに勝っちゃうようなバトルが見たいんだ!」
少年はそう言い、立ち上がって拳を握る。
その表情は幼いながらも、真剣だ。
姉は弟をじっと見つめ、そしてフッと表情を和らげた。
「じゃあ、そういうトレーナーになりなよ。コラッタでカイリューに勝っちゃうようなトレーナーに、さ。」
「ああ!もちろんだ!」
力強く答える少年。その眼は熱意と一つの夢を映し出していた。
それから二年後、少年はトレーナーとなり、各地を旅してまわった。
この物語は、そこからさらに五年後に始まる。