第1章
凸凹コンビ
「悪ぃ。また壊しちまった。」
「悪ぃって.........お前なんで週一のペースでサンドバック壊すんだよ!?直すのめんどくさいんだぞ!?」
「まー壊しちまったものはしょうがないだろ?」
「...お前のその性格が羨ましいよ...」
「お、そうか?」
この全く悪びれてない話ぶりと、反省の色が少しも感じられない表情をしているこのポケモンが、ソラの長年のパートナーのゴウカザルだ。ゴウカザル、いや正確にはヒコザルとの出会いこそが、ソラの旅の始まりでもあった。どんなときでも一緒だったソラとゴウカザルは、お互いを知り尽くしてる。その長い付き合いでいつまでもだらだらと長く怒っても無駄だと分かっているソラは、話を切って遠くに飛ばされた物を拾いにいった。そのなかには、光輝く盾と、ソラを含めて「7人」で撮った写真があった。
「おっと、悪いな...お前の思い出まで吹っ飛ばしちまって。」
「『俺とお前とあいつらの』だろ?」
その思い出を手に取ってみると、盾にはソラとゴウカザルを含めた「7人」の名前が刻み込まれ、写真の中には曇りのない満面の笑みを浮かべた幼い少年と、それを囲んで笑っている6匹のポケモンがいた。裏には「2009年6月1日シンオウ地方せいは!」と本人ですらギリギリ読めるくらいの汚い字が書いてあった。
「そういや、もう5年も前のことなんだな、俺らが旅してたの。」ゴウカザルは遠い昔を思い出すようにつぶやいた。
「ハハ...やっぱりいつ見ても懐かしいな......」
今の自分と昔の自分の絶対に越えられない壁を感じて、思わずソラは苦笑いした。
この盾と写真は5年前にシンオウ地方の頂点、つまりシンオウポケモンリーグのチャンピオンになったときの記念品だった。



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『何言ってるの!?いくらポケモンを持つことが許されるからって、まだ旅に出るには早すぎるでしょ!』
『僕はもう子供なんかじゃない!それにこの子だって旅をしたがってるもん!ねえヒコザル?』
『ママさん、僕たちを旅に行かせてください!』
『ヒコザルもこう言ってるし...お願い!』
『......分かったわ。そのかわり、やるからにはちゃんと夢を叶えなさいよ?』
『え...!本当に!!やったねヒコザル!!』
『うん!』
俺は10歳になったと同時にヒコザルを博士から貰い、親に無理を言ってまで旅に出た。
その旅の中で出会い、切磋琢磨し合ったライバル。
初めて目にするポケモンの数々。
ジムリーダーとの対決。
ギンガ団との決戦。
時空を司る神との遭遇。
そして、かけがえのない仲間と過ごす毎日。
その頃はなんでもないはずの日常が本当に楽しくて仕方なかった。
バトルの腕もどんどん上達して、ついにシンオウ地方のチャンピオンにまで登りつめた。相当すごいことだったのだろう、当時はテレビでもこのことが話題になり、「史上最年少のチャンピオン」ということで有名になった。勿論その時は俺も素直に嬉しかった。
これからも楽しい日々は続くものだと思っていた。



...それなのに、夢を叶えた俺を待っていたのは弱い挑戦者とのバトルの連続。だんだんと毎日が無意味なものに変わっていってしまった。俺は何かを得るどころか、いつの間にか大切なものを失ってしまっていた。あんなに好きだったはずのポケモンバトルに飽きてしまい、リーグ制覇から3年もしないうちにチャンピオンを引退した。仲間たちはゴウカザル以外全員博士の研究所に預け、ここカロス地方のアサメタウンに俺は2年前に引っ越してきた。
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「......なぁ。」
不意にゴウカザルが口を開いた。
「そろそろ本当の気持ちをさらけ出したらどうなんだ?」
「本当の気持ち?どうしたんだ急に?」
「お前はポケモンバトルは熱が冷めたって言ってたよな?」
ゴウカザルは面と向かってソラに話続ける。その目は本気だった。
「...ああ。」
ソラもある程度の覚悟を決めて、そう答えた。
「じゃあよ、なんでいつもテレビでバトルを見てるんだ?」
「いや、何となく見てるだけ。悪いか?」
「それを見てるときのお前の目はさ、5年前のお前みたいに熱く燃えてるんだよ。」
「...」
「お前もさ、そろそろ自分に正直になったらどうだ?俺はお前がポケモンバトルを捨てたようには見えないんだよ...」
「しつこいな...」
「何?」
「止めたものは止めた!冷めたものは冷めた!これで終わりだ!言われなくても自分に正直だ!!」
ゴウカザルは意外そうな反応をした後、少し悲しそうな表情を浮かべた。
「...そうか.........まぁ、お前の気持ちが強いことはよく分かったよ。急に変な話ししちまってゴメンな。」
「あ、いや...こっちこそなんかゴメンな...」
ゴウカザルは無言でリビングに行った。

「自分の気持ちに正直に、か...」
ソラの心の中に、ゴウカザルの言葉が重く響いた。


skyline ( 2014/11/15(土) 00:21 )