06葛藤
春の陽気に誘われて森ではナマケモノの親子が寄り添って休み、池のほとりにはポッチャマの子ども達が水あそびをしている。
誰もが微笑んでしまうような光景とは裏腹にアスラは焦っていた。
『まったく、イオのやつあせりおって。』
カロメア地方で年々増加するポケモン犯罪に対抗するために、警察は新たに『ポケモン犯罪課』を2年前に設立した。
これは警察の組織のなかの一つに過ぎないものであるが、その仕事量の多さや人員をたくさん有していること、また社会に対する恩恵の大きさから、国民、警察内部、政府まで一般の警察とは独立した組織だと位置付けている。
その社会的な地位の高さや収入の高さなどからカロメアでは今最も人気の高い職業となっている。
このアイエンタウンにも『ポケモン犯罪課』のみの警察署が立っておりその『署長』であるアスラはアイエンタウンの民皆の尊敬をかっていた。
まわりからはだれからも羨まれる彼にも一つの悩みがあった。10才の息子のイオである。
アスラ自身としては彼にも『ポケモン犯罪課』へ就職してほしいと考えている。イオもそれを望んでいる。ただ、近年の就職難に加えて『ポケモン犯罪課』の人気の高さから非常に狭き門となっている。
就職にくるものの多くは『カロメアリーグ制覇』の資格、すなわちカロメア地方の8枚のバッチを有している。現にアスラもカロメア、ホウエン、シンオウの資格を持っている。
『イオも確かにトレーナーとして抜けんでた才能はある。ただ…』
アスラはイオの争いを好まない、おっとりとした性格ではとてもではないが資格を取ることは不可能ではと考えていた。『カロメアリーグ制覇』というのはトレーナー500人に1人といわれる超難関資格であり、カロメアのトレーナーであれば誰もが羨むものである。
また、『ポケモン犯罪課』の業務は並みの能力ではこなすことも出来ないものである。人とは体力が違い、言葉も通じないポケモンを捕まえるというのは、常に死と隣り合わせである。現に今まで何人もの人やポケモンが殉職している。
そんな危険な仕事では相応の覚悟が必要だが今のイオには到底備わっているとは思えず、今後もないだろうと思ってしまう。また、かわいい息子にはそのような危険な仕事にはついてほしくないという親心もある。
『お〜い、お父さん〜!♪』
輝く太陽のもとで悩んでいた父の元に、気が抜ける声で駆け寄ってきたのはイオである。
『おいイオ!!今日は私とふたりでお前の2匹目のポケモンを捕まえると約束したではないか!!』
『ゴメンね〜。でも、もう捕まえて来ちゃった♪』
息子に向かって怒鳴るアスラだったが、捕またという声に意外な気分になる。
(まさか1人で捕まえるとはな…、まあ渡したボールがボールだから当然なんだが…)
『そうか、じゃあ見して見なさい』
『うん!!』
そういって投げ出されたボールから出てきたポケモンは毛並みが整っておらず、肌の艶もない、死んだ目をしたグラエナだった。